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ネタ系腹パン配信者、爆誕

「うおっ、久しぶりだなこの感覚」


 ダンジョンに入った途端に一気に体が軽くなり、心臓付近に脈打つナニカの気配を感じ取る。

 これぞダンジョンに初入場した際の《《特典》》というもので、簡単な身体能力の向上と、一つだけ《スキル》と呼ばれる特殊な能力を獲得することができる。

 心臓付近のナニカは《《魔素器官》》なる心が躍るネーミングの物体であり、ダンジョンに満ちる魔素を吸収してスキルや魔法を使用するための内臓だ。

 ダンジョンに入っただけで体が大きく変化するというのは空恐ろしいものがあるが、まあ、良いことしか無いので納得するしかない。


「普通はこの特典があればゴブリンごときの攻撃なんぞ効かないんだけどな……」

 

 ダンジョン配信を観てる者の多くは、ダンジョンに詳しくない一般人だらけである。

 そもそもダンジョンに潜る冒険者の数はそんなに多くない。わざわざ危険を冒してまでモンスターと戦う必要は無いからな。


 今やダンジョンから入手できる資源で成り立っている現代でも、それこそ上位の冒険者がいれば十分に資源の供給は事足りる。

 だからこそ冒険者が育たないと問題視されているのだが。


 当初男性配信者が現れた際は、ダンジョンブームの火付け役になるのでは、と期待されたが……この有様だ。終わってる。


「さてと、スキルは何が貰えるかね〜」


 転移前の世界では《即撃》という、相手の攻撃を避けた時に自動で反撃できる割と強いスキルを持っていた。

 使い勝手が良いし今回も同じだと助かるんだけども。


「ステータス」


 自身の能力を閲覧する魔法を唱えると、目の前に半透明のウィンドウ画面がフォンっと浮かび上がった。


「──は?」


 そして目の前のステータスが余りにも非現実的で愕然とした。


───

夢咲氷織 Lv.1


HP 34/34

MP 10/10


【固有スキル】

《即撃Ⅵ》《神速Ⅰ》

【通常スキル】

《剣術Ⅶ》《水魔法Ⅲ》《身体強化Ⅷ》

《状態異常耐性Ⅰ》《思考加速Ⅲ》《危機感知Ⅹ》《回避Ⅹ》

───


「はえ? え、待て待て待て……!」


 レベルは普通のレベル1だ。

 HPもMPも特に不可思議な部分は見当たらない。

 おかしいのはスキルだ。

 

 ──転移前に取得していたスキルが全て揃っている。


 バグか何かとしか思えない。

 これをラッキーと思えるほど楽観的な性格をしていれば、俺の頬は引きつっていないだろう。


「……固有スキルは一個しか持ち得ねぇから固有なんだよ……何で二個あるんだ……」

   

 スキルにはレベルがある。

 使い続けてスキルへの理解を深めることでスキルレベルが上昇し、効果もレベルが上がれば強くなる。

 転移前と同じスキルレベルである。……苦労して上げたから嬉しいと言えば嬉しいけどさ……素直に喜べねぇよ……。


「こんなんチーターじゃねぇか……まあ、MP足りないからほとんどのスキルは使えねぇけど……今は」


 しかし、剣への理解が深まる《剣術》や、MP消費ゼロかつパッシブで発動する《即撃》なんかはレベル1でも発動できてしまう。

 これはチートだ。さすがにチートですわ。


「いや……どんな手を使ってでも成り上がるって決めたんだし四の五の言ってる場合じゃねぇか」


 思いっきり手のひらくるくるしよう。

 よし、ラッキー! ラッキーと思おう!

 多分スキルは魂に付随した能力だし、転移したとて染み付いていたのだろう。

 尚更レベルが1なことに疑問が残るが。


「一旦配信前に肩慣らしするか」


 俺はスキルの試用運転のためにダンジョンを進む。

 一階層に出現するのは、主にスライムとゴブリンの二種類。


 正直敵にならないが、今どれほどの力を持っているのか確かめるには丁度よい。

 転移前の初ダンジョンでは《即撃》が二回発動して倒せたはずだから、今度は一回目の《即撃》でどうなるかだな。


 と、そんなことを考えていると、目の前の通路にゴブリンらしき緑色の肌を持つ小人のような存在が歩いてきた。

 小人と評しはしたが、実際は二足歩行の小さい獣である。知性などありはしない。


「ギャギャギャッ!」


 そして人間と見るやいなや即効で襲いかかってくる。

 低層のゴブリンは武器を扱う知性もないので、拳を振り上げながらヤツは走ってくる。

 ダンジョンの入場特典で高まった身体能力と動体視力なら欠伸をしていても躱せるほどの遅さ。

 

 俺は真っ直ぐ突っ込んできたゴブリンの拳を右に少し移動して躱した瞬間──、


「──《即撃》」


 ──グシャッ。

 体が自動で動きゴブリンのお腹に腹パンが入る。

 

「ファ!?」


 ゴブリンはお腹だけに留まらず、体全体が爆散した。

 俺は想定外の威力と、ゴブリン《《だった》》モノの血を大量に浴びたことで飛び跳ねるようにして驚いた。

 ……一旦血はモンスターの特性上すぐ消えるから良いとして……なんだあの威力ゥ!!

 いや、確かに《即撃》はスキルレベルが6だし、スキルレベルに比例して威力が上昇することも知ってるけど……あくまで攻撃力の何倍か高めるだけだったはずだが……。


 いや、転移前の世界だとわざわざゴブリンになんかスキル試さなかったしな……。


「とりあえず《即撃》は身の危険があるまで使用禁止……コイツパッシブスキルだから自動発動なんだよなァ……!」


 おのれ、縛りプレイすら許さないとはなんたる世界だちくしょうめ。……これも世に蔓延るクソみたいな男性配信者のせいだな!!


「配信前にこのことを知れて良かったかもしれんけど」


 危うく初っ端からスプラッター配信になるところだった。

 ふぅ、まあモンスターと戦う時は正面から剣術で戦えばええやろ。


 

 そう判断して、俺はいよいよ配信をスタートすることにした。

 記念すべき初めての配信。こう言っては何だが俺が男である以上、人が集まるのは必然だが、キャーキャー言う奴は相手にしない。

 実力で惚れさせてやる。

 スプラッター配信ではなく華麗な剣術によってな!!


 というわけで配信ポチッ!!


 【男冒険者によるソロ探索】


 こんな無骨なタイトルにも関わらず、10秒と経たずに400人もの人が集まった。どれだけ男に飢えてるんだよ、マジで。


「どうもー、はじめまして、夢咲氷織です。気軽に夢咲って読んでください」

 

コメント

・男性配信者のソロ!?

・危ないよ〜〜!

・歩み寄る気ゼロの名字呼ばせ。気軽とは

・カッコイイね〜

・男性配信者のソロって初では?


 下心丸出しで心配するヤツ、ノリよく挨拶に反応してくれるヤツ、ソロという事実に困惑を覚えるヤツの大体三種類の反応だった。

 とりあえずのスタンスとして、世の男性配信者にするノリでコメントしてきたヤツはフル無視することに決めた。

 いちいち反応してもきりが無いし……先に忠告しておこう。


「俺は世の男性配信者が嫌いだ。女性冒険者に守られてるばかりで何もしねぇ上に、たかが二階層の敵に怯えてる始末。冒険者ってそうだったか? ダンジョン配信ってそういうもんだったか?」


コメント

・ユキヤきゅんたちのことをバカにするな!

・何だコイツ男装した女性冒険者か? 僻みおつwww

・同意できるけど男を見る手段がそれしかないんだよなぁ……

・最近の風潮ってやつだよな

・まあ、男ってそういうもんだしw


「別に俺は個人的に嫌いってだけで、見るのはどうぞご自由に、ってスタンスなんだよ。否定する気はない。クソ嫌いだけど」


コメント

・めっちゃ言うやんw

・正直ユキヤファンの民度ゴミだしそろそろ冒険が見たいとは思ってたw

・ユキヤきゅんとか他の男性配信者をバカにするな!!

・で、何が言いたいんだ?


 気がつけば一万人を超えた同接の中で、俺は胸を張って堂々と語りかける。


「──だからこそ宣言する。俺は実力でダンジョンを攻略しに行く。勿論仲間なんざいらねぇ。ソロだ。……男性配信者に飽きたヤツ、男性配信者の在り方に疑問を持つヤツ、何でも良いから俺を応援してくれるヤツ。

 俺に着いてくれば、一昔前の血湧き肉躍る冒険を見せてやる」


 変わらずコメントが大量に動くが、俺は雰囲気がいくばくか変わったという印象を受ける。

 相変わらずユキヤきゅん云々言ってるコメントは複数あるものの、驚くことに俺の発言に関心を抱いてくれる人が大勢いたのだ。

 あとは男なら何でも良いとか身も蓋も無いヤツもいたけど。


コメント

・なんか、面白そうだな

・少なくともワンパターンでゴブリン倒す配信よりかはおもろそう

・ユキヤきゅんも変わらず見るけど男だし見てやらんこともない

・本当にそれができる実力があったらだけどなwww

・結局はゴブリンに怖がるんじゃね?w



「俺の実力を疑うのはまあ仕方ないけど、剣には自信があるんだ。ま。この先幾らでも華麗な剣術を見せてやるさ」


 こんなに俺は気障な性格ではねぇけど、配信という場においてはある程度のキャラ付けが必要である。

 今の俺は世の男性配信者のヘイトを買う発言をしまくってるわけで、逆に堂々といたほうが注目されるだろう。


 あとは今のうちにスプラッター配信にならない布石を打たねば……。


コメント

・剣術か。そんなに自信あるなら楽しみかもw

・久しぶりにマジなダンジョン攻略見れるのか

・上位勢はもう配信しねぇもんな……

・ユキヤきゅんのことを悪く言うお前を絶対にBANしてやる!

・ん? 後ろからなんか来てね?

・ちょゴブリン走ってきてるやんけwww

・気づいてないの不味くねーか

・うしろうしろ!


 さて、この後どうしようかと考えていてコメントを見ていなかった時、ふと頭の奥でジリリリ! というベルの音が鳴り響く。

 これは俺が最も鍛えたスキルである《危機感知》の音……こういう時は一先ず回避行動を────あ、ちょマズイ──


「──《即撃》──あああァァァ!!」

「ア゛ッ゛」


 自動だから──止まらねぇぇんだよおおぉぉお!!

 俺は後ろから走ってきたゴブリンの拳を避けた瞬間────自動で動いた手がゴブリンの首根っこを掴み! ……そのまま思いっきり腹パンをかましていたのである……。


 ──グシャッ!!!


 飛び散る肉片。溢れる緑の血。


コメント

・ファーッwwwwww

・剣使わねーのかよwww

・拳じゃねーかw

・華麗な剣術……ドコ……

・なんかのスキル? 威力やばすぎだろwww

・怯 え る ど こ ろ か 腹 パ ン

・自動でスロー再生機能入るくらい今の動き速かったのかw

・実力あるのは分かったけど腹パンはねぇだろwww


「血湧き肉躍ってますネェ!!!!」


 こうして俺は世間的にコメディネタダンジョン配信者になってしまったのである。




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― 新着の感想 ―
面白いし先が気になるんだけれども即撃のスキルが自動発動なのに剣術スキルとかどうやって取ったんだろう?だって敵が主人公に近寄ってきたら自動発動なんでしょ?一回即撃を発動したらその後は任意発動になるとかか…
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