戦闘スタイル
ようやく見せることができる。魅せることができる。
ニヤけることを止めれない。命の危機だって言うのに、俺の心は震えるどころか沸き立っていく。
前世に置いてきた情熱が──再燃していく。
「玩具を壊すのが得意な夢咲氷織、19歳。頑丈な玩具が目の前に現れてくれて嬉しいです」
コメント
・玩具(攻撃手段アリ)
・混沌のゴーレムくんがんばれ♡
・破壊神みたいなこと言わんといて
・ニヤニヤするな
「GYAAAAA!!!!!」
「いっつ……!」
鼓膜が破れそうなほどの産声を目の前の紫色のゴーレム──混沌のゴーレムがあげた。名前ダサない?
……というかゴーレムに発声器官無かったはずだけど、エクストラボスだけあって何か通常のゴーレムとは一線を画す存在感を感じる。
……紛れもなく強い。
正直見た目の変化は、体が大きくなって……ストーンゴーレムの石のゴツゴツした部分が紫色に変わっただけだが、感じる圧は前と比にならない。
いやいや、粋な演出をしてくれるじゃないか、ダンジョンも。ずっと期待を裏切られてきた分、いざ応えてくれるとそのギャップで何倍も嬉しく感じる。
「さてさて。良いよ来いよ」
わざと挑発するように手をクイッと動かす。
ゴーレムに感情があるかは分からないが、俺の意図はどうやら伝わったようで────ッ
──危険を察知。
刹那──目の前にはすでに紫色の拳が視界に映されていた。
明らかに見てから反応は不可能。しかし、俺の《回避Ⅹ》によって間一髪不可思議な挙動で躱すことができた。
コメント
・その躱し方何ぃ!?
・めっちゃ腰痛くなりそう
・ギュルンギュルン体回ってたな。逆に効率悪くね?
・回避方法が人体の構造を舐め腐ってる
・率直に言うと気色悪くて草
そして、回避が成功したということは、次に放たれるのは俺の拳。
《即撃》の仕様は確定カウンター。相手がどれほど速くても、必ずカウンターをすることができる。
言い換えれば、俺がカウンターをするまで相手は行動することができない。ターン制バトルの強制とはそういうことである。
「《即撃》じゃぁぁあ!!!」
恐らく腹部を腹パンが強襲する。
──カーンッ!!
甲高い音が鳴り響く。
俺の拳は一切効かずに、硬いゴーレムの防御力に阻まれた。
コメント
・腹パンが効かない!?
・ジャパニーズ腹パンニンジャNO!?!?
・マジでッ!?
・コレ、相手の動き速すぎて腹パン後に行動できないんじゃ……
──《《予想通り》》。
仮にも俺は最深層付近まで潜っていた探索者。
自分の武器が通じない想定なんていつでもしているし、そもそも俺の前世での戦闘スタイルは《《即撃が効かない前提》》での行動である。
────
《即撃》……逆張り精神に満ち溢れる者に贈られるスキル
・相手の攻撃を回避することに成功した場合、《《確定》》で反撃することができ、反撃モーション中は如何なる制限を受けない。
・攻撃力の114.51倍の威力を反撃によって叩き出すことができるが、他のスキルとの併用は不可能。
・反撃により対象に十分なダメージを与えることができなかった場合、対象に《《確定ノックバック》》を与える。(スキルレベルⅤで解放)
・???(スキルレベルⅦで解放)
・???(スキルレベルⅩで解放)
────
俺の《即撃》は他のスキルと併用ができない。
とどのつまり、他者のバフも自己のバフも《即撃》の威力には作用しない。
割とデフォルトで発動している《身体強化Ⅷ》のスキルも、《即撃》の発動中には自動で切れている。
強化率的に《身体強化》でそのまま殴った方が強くね? と俺は思った。でも、何故か腹パンのほうが威力は高かった。多分表示されてねぇ仕様があるんじゃねぇかと俺は睨んでるが。
しかし、問題はココじゃない。
《即撃》が効かない相手には《《確定ノックバックが付与》》される。
ノックバックは謂わばデバフみたいなものであり、これが付与された対象者は──《《0.01秒間動くことができない》》。
少ない? いや十分だな。この技なら。
「──《抜剣》」
《即撃》が命中し、効かないことを《思考加速Ⅲ》のスキルによって即座に確認した俺は、ゴーレムのノックバック中を狙い──神速の斬撃をゴーレムに撃ち込み、剣を鞘に納める。
「GYUAAAA!!!!」
「お前にも一応痛覚が備わってんのな」
叫び声をあげるゴーレムの体には、縦一線の傷が付いていた。
コメント
・!?!?
・何が起きた!?
・動きが速すぎて分からん……
・スロー機能でも腹パンが効いてないことくらいしか分からんかった……
・え、剣?でも剣納めてるしな
《剣術》がスキルレベル5になった際に解放された技能──《抜剣》。
技能とは、剣術や体術など基礎的スキルでしか獲得できない特殊効果のことで、スキルに付随する奥義のようなものだ。
《抜剣》はその中でも非常に使い勝手の良いスキルで、俺が愛剣を手に入れるまで非常にお世話になっていた。
そもそも剣を手に持ったまま《即撃》するとその剣を落として腹パンチする害悪仕様があるからな。
鞘に戻すまでが《抜剣》の仕様であり、上手いこと害悪仕様を躱すことが可能になっている。
そしてこの技は兎に角一撃までの初速がアホみたいに速くて、0.01秒のノックバックに対応できる技能が基本的に《抜剣》と、あともう一つくらいしかない。
そして、威力は《剣術》のスキルレベルが上がると同時に上がっていき、それプラス《身体強化Ⅷ》が乗った一撃ならば当然魔物に傷をつけることが可能なのである。
「とはいえ……レベル38ならこの程度か」
だが傷を付けることができるなら十分だ。
ん? 無限に回避して《抜剣》だけしておけばお得に勝てるって? ハメ技はうんちじゃね、って?
馬鹿野郎!! 世の中には0.01秒のノックバックを自力で解除する変態みたいな魔物とか、そもそも攻撃行動が多すぎて(※当時は)回避失敗の4%を突破して大ダメージを与えてくるヤツとかいるんだよ!!!
そして、恐らくゴーレム後者の方。
リスナーの諸君には一回だけ腹パンしたように見えただろう。
だが残念──ゴーレムの攻撃は六回行動だった。
普通は順に攻撃するなら一撃一撃に回避判定が出るのだが、恐らくゴーレムのスキルで六回攻撃が同時攻撃として処理されていた。
だからその分俺の腹パンも六回同時攻撃となり、パパパパパパンッ!!! 的なやかましい腹パンチを披露することになった。
……このままだとジリ貧ではある。
単純に俺のレベルが足りていないこともあるが、このままだと99%を運ゲーで乗り切れるかor乗り切れないか(死)みたいなクソゲー勝負になる。
決着は早めに着けないとキツイ、か……多分一撃か二撃くらいなら《身体強化Ⅷ》もあって、攻撃を耐えることは可能だと思う。
けど基本的に紙装甲の俺にとって、その一撃を被弾するのはかなり痛い(物理的に)。
はい、ここまでの思考は0.3秒以内に行ってます。
《思考加速Ⅲ》感謝感謝。はっぴーすまいる。
「一端運ゲーするか……」
ちなみに《抜剣》はパッシブスキルではなくアクティブスキルなので、タイミングをミスれば当然のごとく逆に俺がカウンターを食らうリスクがある。
まあ、血の滲むような修練と経験を積んだしミスらないけど。
「……ッ、チッ、危ないなァ! 人が考え事してる最中でしょうがッ!! 《即撃》──からの《抜剣》ッ!」
「GYUU……!」
再び縦一線に傷が走る。
唸るゴーレムだが、流石に痛みに慣れたのか大きな動揺をしたようには感じなかった。
それでこそエクストラボス。
生きるか死ぬかの生存競争。
俺が望んでいたロマンには必要不可欠なスパイス。
コメント
・よく分からないけどすげぇことは分かる
・夢咲流石にちょっとだけカッケェわ
・スーパースローの切り抜き待つか
・楽しそうだなコイツw
・私もめっちゃハラハラしてる
楽しんでくれてるか? リスナー。
これが俺にとってのロマンで、追い求めていたことだ。
死を受け入れない逆張りの先にこそ、勝利という輝きが存在する。
これを俗に異常思考と呼ぶし、俺もこれがデフォとは思ってない。逆に言えば、この異常思考を理解できない者は上に登ることができない。
前世のSランク探索者は、必ずどこかネジがぶっ飛んでいた。
憧れた結果こうなったと言うべきか、憧れる前から割とおかしかったのかは知らん。前者と信じたい。
「《即撃》からの《抜剣》ッ! 運ゲーハメ技じゃボケ!」
傷は浅いが着実にダメージは増えている。
倒すのにあと何千何万の斬撃が必要だとしても、俺に諦めるという選択肢は存在しない。
絶対に確実に100%勝てない敵に遭遇しない限り。──おっと、及び腰と言うなよ。勝てる見込みのないヤツに特攻するのはロマンじゃなくて自殺というんだ。
コメント
・全部回避して攻撃差し込んでんならハメ技やな
・問題は回避を突破されたらやべぇってことだな
・ああっ、言ってたら!!
「ゴフッ──!!」
5発は回避できたが、最後の一撃が99%を突破してきた。
痛い──が、こんな痛み慣れたもんだッ!!
ごめん、やっぱめっちゃ痛い。
血反吐を吐きながらもんどりを打った俺は、心の中でそんな弱音を吐いた。
コメント
・ゆ、夢咲ィィ!!
・負けるのか……?マジで?
・ルーザーズ腹パンニンジャ?
・まあ、こんな強い敵が来たら逃げるよな
・《アイリス》普通のフロアボスと違って、エクストラボスとの戦闘は逃げれない……
・《ユキヤ》クソっ!夢咲様じゃなくてボクに攻撃しろ!
・ユキヤきゅんは被ダメ負いたいだけじゃん。自重しろ変態
チラリとコメントを見ると、心配する声とは他所に大喜利が繰り広げられていた。……俺のピンチの真っ最中にクソみたいな大喜利しないでもらっていいですかね?
あとなぜかアイリスもコメントにおるし。カオスやん。
「ペッ! 紙装甲でもギリ耐えられた……なっ! ──《即撃》&《抜剣》!!」
今回は無事に回避が発動した。
当たり前だが痛がっている隙を見逃してくれるほどバカじゃない。……容赦なく放たれた拳を間一髪で躱し、俺は再び《抜剣》で傷をつける。
クッ……明らかに与えるダメージと食らうダメージの割が合ってない……!!
ポーションも残念ながらユキヤに使ってしまったため、戦闘中の回復手段というものが乏しい。
まあ、そもそも戦闘中に回復させてくれる強敵はいないんですけどね。
回復魔法は追尾型の魔法の判定らしくて、万が一躱したらヒーラーに腹パンする可能性があるから結局パーティー組めないんすけど。
「いてぇ……」
心の中には余裕があるが、実際のところめちゃくちゃ痛いし骨は多分折れてるし、泣き言を言いたくなるほどにピンチであることには変わりない。
だからと言って、《《勝てるかもしれない》》勝負をミスミス逃がして尻尾を巻いて逃げることは、俺の主義主張に反する。
バカ野郎って言えよ。そうだよ俺は筋金入りのバカ野郎だ。
んでもって、そのバカさで前世を乗り切ってきたんだよ、こちとら。
そう呟いた瞬間、脳内に謎の思考が湧いてきた。
《──もっと速く。もっと強く撃ち放て。
神のごとき速度を。
──その身に体現せよ》
「なんか変な電波が流れてきたな……」
考えていないことがふと頭に浮かんできた。
厨二病乙wと、全力で草を生やされても文句の言えない文言で脳内電波が伝播してきた(激寒ギャグ)。
コメント
・なんか体光ってね?
・腹パン属性と発光属性も身に着けるとは器用なヤツめ
・体光ってるし……ちょ、光すぎ!
・眩し!!
・目がァァァァァァ!!!!
「え、何が──うおっ! 目がァァァ!!!」
視界が真っ白に覆われた。
ム◯カもビックリなバ◯スである。
──条件を一部満たしました。固有スキル《神速》が発動しました。
「お前もッ……パッシブスキルかよおおおおお!!!!!」
状況を好転できるかもしれない喜びよりも先に、パッシブスキルに嫌な思い出しかない俺は全力で批判の咆哮を送った。
ふざけるなァァァ!!!!