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初めてのお泊りinダンジョン

 普通……普通? 腹パンの類ってイジメとかストレス発散手段として用いられることが多いんじゃないか、という偏見を持ってるんだけどよ。

 俺の場合は腹パンをすればするほどストレスが溜まっていくシステムなのよ。

 そんな俺がアンガーマネジメントとかできるわけねぇだろアホか。


「ヨシ! お前らが如何に俺をバカにしているか分かった。──ここにな? 魔法のボタンがあんねん」


コメント

・ゲッ!

・まさかそれは……

・やめろバカお前


 俺は配信を管理しているスマホの画面を見せる。

 そこには──暴力的なコンテンツのモザイク化、という機能をオンにできるボタンが表示されていた。


 ダンジョンという暴力の権化みたいな場所で配信をしているため、滅多に使われることのない機能だが──簡潔に言えば暴力シーンをAIが自動で判別してモザイクをかけてくれるという機能である。


「ぽちっとな」


 押した瞬間、配信画面が徐々に変わって行き──


コメント

・うわぁぁぁああ!!!

・夢咲が……夢咲の体が……《《全身モザイクに》》……ッ!!




「──なんでや!!!!!!」



 ちょっと卑猥なヤツみたいじゃねーか。



☆☆☆


 リスナーを懲らしめようと試みた作戦は失敗に終わり、俺はダンジョンの壁と一体化するように溶けて不貞腐れていた。


「どうせ俺は暴力的なんだ……」


コメント 

・暴力的じゃなくて卑猥なんじゃない?


「そっちのほうがもっと嫌だわ!!」


コメント

・ワロタ 

・配信サイトにもおちょくられてるの草なんよ

・全体的に舐められてるw

・不貞腐れるなw


 ……くそぅ、何もかにもが目論見通りにいかぬ……。

 俺は腹パンを見せないことでリスナーに反省を促そうと思っただけなのに……!

 俺個人じゃなくて腹パンというコンテンツを見たいコイツらには何よりの効果手段だったのに、全身がモザイクになったら、それはそれでただのギャグである。


「絶対切り抜かれるヤツや……ッ」


コメント

・はい、正解です

・こんな面白いシーン、見逃すわけないんですよね

・【朗報】夢咲氷織、玩具にされる【全身モザイク】


「シンプルに地獄に落ちてくれ」


 どうしてこうなった! って俺は結構色々言ってるんだけども、大抵自分から行動してるんだよな……裏目に出すぎというか。

 くぅ……こうもバカにされて怒りも湧いてるのに、悔しいことにリスナーが喜ぶこと自体は嬉しさを覚える俺もいる……!

 こういうマインドだから永遠に舐められるんよな……。


「はい。そのまま不貞寝しようと思います」


コメント 

・不貞寝は草

・ダンジョン内で寝泊まりするの初めてやね

・魔除けのテントも買ったんか。あれ高ぇのに

・魔除けのテント買う前に装備買えw


 魔除けのテントとは、寝ている最中《《のみ》》魔物が近寄らなくなるという超絶高価アイテムのことで、お値段なんと5000万円。

 だがしかし、上位探索者にとっては必須アイテムなので、大金をはたいてでも買っている人が多い。


 ──が、当然俺にそんな金は無いので買っていない。


「魔除けのテントも買ってないし装備も買ってない俺をあまり舐めるなよ」


コメント 

・ファッ!? 

・魔除けのテント無しの野営は自殺行為だよ!?

・バカか?コイツアホやったわ

・せめて装備は買え定期


 コメント欄は批判で殺到。つい先日のユキヤの動画を思い出しますね。

 まあ、こう言われても仕方ない話ではある。

 だが俺が何も考えていないわけではない。


「まずな? 20階層の魔物はどっちかというと、力で攻撃するよりは搦手で来る。ダストフォックスなんかは、幻影を作り出してヒットアンドアウェイをするほどに攻撃力が少ない。一撃当たっても今の俺のレベルだと割と痛い程度で済む」


 20階層の魔物は、幻影を作り出す狐型の魔物……ダストフォックスと、幻を見せて罠に陥れる蝶型の魔物……ミラージュバタフライで構成されている。

 どちらも倒すことは面倒だけど、攻撃力が無いという意味では楽だし──自動反撃スキルの《即撃》があれば幻影も幻惑も意味を成さない。


コメント

・だとしても寝てる間に襲われれば死ぬやん

・……え?そゆこと?

・お前のスキルって……


「俺の腹パンは──寝てる間も機能する。昔検証したことあるからコレはマジ」


 そう、俺の腹パンは睡眠中にも機能する。

 そして、合わせるのは《回避Ⅹ》+《反撃の心得》による99%回避スキル。

 つまりは1%を引かない限り、俺はダンジョン内で安眠することが可能なのである。


コメント 

・ズルすぎて草

・クズ運引いたら終わるけどな!

・金が無いだけだろ


「よく分かったな! 俺も金があればテントを買うんだよ、普通に。こんなアホみたいな手法取るのは金が無いからです、ハイ」


 配信の収益が入るのは、あと一週間後。

 それまで金が無い俺は、こんなリスナー受けしそうな企画を立てるほどに追い込まれているのである。不本意だからな?

 どのみちさっさと二十階層のフロアボスは倒したかったし──じゃないと変態(ユキヤ)と出くわす可能性が高いので。

 

コメント 

・アホみたいな自覚はあったんかw

・お前寝てる間めっちゃハラハラするじゃんw

・ちょっと面白そうなの悔しい

・寝てる間にどうやって腹パンするんだろう…… 


「というわけで、寝ます。俺の慈悲で配信は付けっぱなしにします。おやすみ」


コメント

・いい夢(腹パン)見ろよ!

・いい世来いよ

・あざます!!

・ジャパニーズスイミン腹パンニンジャ!Fooo!


 どんどん長くなってんな、このエセ海外ネキ……。

 俺はコメントから視界を外し、夢の世界に旅立つためにゴロンと寝っ転がった。

 幸い二十階層は森林階層だし、温度も環境も睡眠をする上でバッチリである。


 ダンジョン内で素のまま寝るバカはいねぇけどな……。



☆☆☆   


 ──パンッ!!


コメント

・ホンマに寝たまま腹パンしとる……

・もうコレ、グロ動画だろw

・幻影を貫通してるのヤバいw


 ──パンッ!!


コメント

・幻惑効果も寝てりゃ意味ないよね……

・こんな方法で討伐されるミラージュバタフライ先輩が可哀想でならない

・ミラバタ先輩「あの……幻は……」

・夢咲「その幻想を──」

・それ以上はマズイ





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