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宝箱チャレンジ

コメント

・そういや夢咲の装備って見た感じ軽装だけど、特殊な素材でも使ってんの?

  

 そんなコメントが視界に入った。

 確かに俺の今の姿は、黒のズボンに無地のTシャツ。その上から軽い胸甲を着けているという非常に軽装に見えるだろう。

 一般的に軽装であっても、魔物からドロップするアイテムで造られた装備などは、特殊な効果を発揮することが多い。


 たとえば守護のハンカチ、という装備がある。

 それは、ポケットに入れているだけで防御力が上昇するという優れものである。

 もしも外で出歩くような普通の服装でも、守護のハンカチをポケットに入れるだけであら不思議! なんと上位探索者もビックリな防御力を手に入れるじゃありませんか! となる。


 だから、俺の軽装を見てその類だと思ったのだろう。


 残念ながら全然違うがな!!


「あぁ、装備のこと? これはマジで普通の軽装だぞ。マジックバッグで貯金のほとんど消え去ったから装備買う金がねーんだ」


 少なくとも一ヶ月経たないと配信の収益入らないんよ。

 だから仕方ないね、という雰囲気を醸し出したのだが、コメントでは批判殺到だった。なんでや。


コメント

・え、バカ?w

・普通は全部準備できてからダンジョンに潜るんよw

・やけに軽装だなと思ったらマジで軽装だった件

・その辺の服屋で適当に揃えたようなコーデはマジでその辺の服屋で適当に揃えたのか……

・マジックバッグ高ぇからなぁ……


 誰がその辺の服屋で適当に揃えたようなコーデだ!!

 ……否定はしないでおこう!


 話題を変えたい。話題を変えたいぞ!!

 ──そんな時に丁度良く目の前にドデカイネズミが出現した。


「ヨシ! 魔物出た! やるぞ!」


コメント

・必死で草

・話題変えたいんやな


 うるせぇ。

 心の中で罵倒しつつ、俺は《反撃の心得》によって動けない体でネズミ……バッドラットを見つめる。

 中層ではあんまり複雑な攻撃手段は取ってこない魔物がほとんどだ。バッドラットも例に漏れず、単純な突進や噛みつき攻撃が主な攻撃手段だったはず。


「キシャァァァ!!」


 俺の予測通り、バッドラットは巨躯を活かした突進攻撃をしてきた。


 ……ん? そういえば動物型の魔物の腹ってどこ?

 前世じゃ人型の魔物とばっか戦ってたし、記憶に無い……。


 そう思考するも、突進を避けたら後は自動で体が動くのみ。

 横に飛び跳ね突進を躱すと、俺の体は地面をスライディングしながらバッドラットの懐に無理やりねじ込まれた。


コメント

・ファッ!?

・お腹に固執しすぎだろ!w

・お前もうギャグだってwww

・スゥーッて地面滑ってたなw

・摩擦係数どないなってん


 意外ともふもふしてる毛皮に囲まれながら──いや臭っ! 下水道の匂いがする!! くっせぇ!!


「《即撃》ィ!」


 俺は鼻を摘みながら腹パンをした。

 当然下から腹パンされたバッドラットの体は上に跳ね上げられ、洞窟の天井に勢い良くぶつかると……消滅した。


 そうだそうだ。無理やりお腹にねじ込まれて腹パンするんだったな。

 しかも確定でノックバックする作用があるから、もしも腹パンが効かない相手でも距離が取れるという意外と理に適った手段なんだよな。


コメント 

・草しか生えん

・スライディングBPM!Foooooo!!!!!

・なんかお腹の間に潜り込む時、明らかに物理法則超越してたよな……w


「腹パンに物理法則無し」


 もとよりダンジョンが現れてから物理法則なんて常に更新されてるようなもんだしな。

 てかスライディングBPMってなんだよ。お前海外ネキの皮を被った日本人だろ。分かるぞ。


 腹パンでコメント欄が盛り上がるのを尻目に、俺は先に進む。……うーん、洞窟タイプのダンジョンって今一盛り上がりに欠けるよなぁ……地味なんすよね。

 とか、普通に失礼なことを考えていると、一直線だったはずの道に分かれ道が出現していて、その先には装飾が施された箱のようなものがあった。


「まさかあれは……」


 俺は慌てて近寄る。

 心にワクワクと冒険心が満ちていくのを感じる。

 

「宝箱来たぁぁぁぁぁあ!!!」


コメント

・おおおお!!

・久しぶりに宝箱とか配信で見たわ

・五年前くらいに宝箱からエリクサー出たよな

・エリクサー出たら千億くらいで売れるぞ!!


 エリクサーとは万病を治すポーションのことで、ダンジョン内の傷や病だけでなく、外の世界でも普通に効力が発揮することで有名な超絶希少アイテム。

 エリクサーは宝箱からしか出現せず、金持ちたちがこぞって求めているそう……。


 それはともかく宝箱だぞ、宝箱。

 夢と希望とロマン溢れる宝箱だ! これぞ冒険。これぞまさしくダンジョン配信の醍醐味!

 紛れもなく今の俺はキラキラ輝いていた。


コメント

・めっちゃ楽しそうで草

・腹パンしてる時とは大違いで草

・こういうのがやりたかったんやろうな……

・これでミミックとかだったらおもろい


「おい誰だミミックとか水を差したヤツ。こんなに普段の行いの良い俺がここでハズレを引くわけなかろうて」


コメント

・普段の行い(腹パン)

・魔物も腹パンでは死にたくなかったと思うゾ

・海外でスタマックキラーとか呼ばれてるお前がな……


 何だそのあだ名初耳だぞ。

 俺が腹痛を引き起こす原因みたいな扱いされとるがな。


 ちなみにミミックとは主に宝箱に擬態する魔物のことで、生物学的に「擬態」を意味するミミックという呼ばれ方をしている。

 宝箱を開けようとすると、牙を剥き出しに大口を開けて探索者を食おうとする魔物でもあり、俺的調べのダンジョンでガッカリする出来事ランキング3位に位置している。


 まあ、この魔物実は普通に強くて探索者の死亡率も高いからあんまり笑えないんすけど。

 

「宝箱を開けようとする意思を出さない限り、決して正体を看破できないのがまたイヤらしいんだよなぁ」


 宝箱の罠があるか無いかの判断は《罠感知》と《真偽判定》というスキルで確かめることができるが、生憎と俺はそのスキル群に恵まれなかった。

 《危機感知》のスキルは、擬態が解ける前のミミックには効果を及ぼさないため使い物になりません。


 普通はな? 普通は感知スキルを持っていなかったら宝箱は開けない。これ常識。

 ミミックだった場合のリスクが高すぎるし、大抵宝箱に入ってるのは使い物にならないガラクタばかり。


 命あっての配信。命大事にが基本。


 でもさ、時には配信に命を賭けなければならないと俺は思っている。あくまで俺が思っているだけで、人に強制したりなんかは絶対にしない。

 勝手な俺のバカでアホな精神性が、宝箱を見たからには命を賭けろよ、と囁いているのだ。



「感知スキル無し! 夢咲氷織、19歳。宝箱を開けたいと思います」


 ──そして、蚊帳の外で見ているリスナーたちは、誰よりもスリルを求めている。


コメント

・開 け ろ !

・Fooooooo!!!!

・宝箱開封配信キタコレ

・ミミック来いッ!

・感知スキル無しで宝箱開けるのバカすぎるwww

・それでこそお前だよ


 盛り上がりは腹パンをした時並だ。

 それでこそ配信者ってな。


 やると決めたらやる。俺のモットーだ。

 

「うおおおおおおおおお!!!!!」


 俺はいざ、と宝箱の縁に手を掛ける。

 今から──俺のダンジョン人生が始まるんだァァァ!!


 


 ──にゅるん、と牙が生えた。


「…………」


 ──サッ、と手を引っ込めた。


 回避判定が出ましたね。



「F◯ck!!!!! 《即撃》ィィ!!!!」


 ミミックは俺の怒りを込めた拳により、見事に爆発四散した。


コメント

・草

・お察しw

・ここで10%を引くのが夢咲なんだよね

・めっちゃシュールに牙生えたんやがwww


「もうおうちかえる!!!!」


 配信をぶつ切りにした俺は、意気揚々と翻して転移ゲートまで戻ると、即座に十階層に帰還した。



 ──配信が切れていないことに気づくまであと二時間。




☆☆☆



「夢咲氷織ィ……ぶち殺してやるぅ……!」


 絶対やめておいた方が良いバカと相対するまであと二時間。

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