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やめとけマジでやめとけ

Side ???


「ふざけるなァァ!!! なんだコイツは!?」


 ボクは手に持ったスマホを地面に叩き付けた。

 怒りに打ち震えるしかない。屈辱だ。あまりにも屈辱だ。

 

 ボクは頑張ってきた。とにかく頑張った。


 痛いのは嫌だ。それなのにダンジョンに潜った。

 女は嫌いだ。それなのに必死で媚を売った。

 魔物は嫌いだ。それなのに剣を振った。

 配信は嫌いだ。それなのに笑顔を振り撒いた。


「こ、こんなふざけたヤツに登録者が抜かれるなんて……!」


 夢咲(ゆめさき)氷織ひおり

 彗星のごとく現れた新人男性配信者。

 最初は気にも留めなかった。また清濁併せ呑んだ同類()が現れたか、と話題になった時は思ったほどだ。


 なのに、たった三回だ。

 たった三回の配信で登録者数11451481人を記録した。


 今までに類を見ない登録者1000万を、たった三回の配信で成し遂げたのだ。


「あり得ない……あり得ない……! なんだ腹パンって! 最近はボクの配信に『君を腹パンしたい』ってコメントがやけに現れるなって思ったらアイツのせいかよ!!」


 まだ夢咲とやらが、ボクたちと同じ方法でスターダムにのし上がったのなら、嫉妬はしたかもしれないけど許せたと思う。

 でも、アイツはボクたちの配信を否定した上で──たった一つの実力で人気を掴み取ったんだ。


 ……悔しいことにあの腹パンの威力はとんでもないし、ボクは初配信しか見てないけれど、ダンジョン内での動き方が途轍もなくスムーズで無駄がない。

 

「本当はボクだって……」


 剣が憧れだった。

 本当はダンジョンに初めて行った時は期待してたんだ。


 強い固有スキルを手に入れて、魔物をバッタバッタと斬り伏せるようになるんじゃないかって。

 女性探索者に媚を売らなくてもソロでやっていけるんじゃないかって。


 ──男は強くなれない。


 呪いのように言われている文言。

 一般的に男は強い固有スキルを手に入れることができないと言われている。


 固有スキルは完全運ゲー。

 それでも強いスキルを得ているのはいつだって女性ばかりだ。


「嫉妬だってことは分かってるんだ。それでもボクは……アイツを否定しなければならない。不意打ちでも何でも……アイツをぶち殺してやる」


 チャンネル登録者数500万人の人気男性配信者、白金(しろがね)ユキヤは怨嗟を迸らせた。


☆☆☆


「やめとけマジで。いや本当にやめておけ。命が勿体ない」


コメント

・草

・これほど会いたくないって思った男は初めて

・キュン死(物理)しちゃうからね

・命 が 勿 体 な い w


 コメントで俺に会ってみたいというリスナーがいたので、俺は懇切丁寧にお断りをさせていただいた。

 前世でも、人気の配信者はファンミーティング的なヤツで、リスナーと一緒にダンジョンを攻略しよう! みたいな会をひらいている人はいた。


 でも俺がそれをやると『リスナーを血祭りにあげよう!』の会になっちまう。


 俺に関しては遠いところで応援するのが一番だぞ、うん。

 ダンジョン内での俺は制御が効かない兵器だと思ってくれ。


 おまけに、ダンジョン内での不本意なスキル発動による傷害は罪に問われない。……ダンジョン協会に自身のスキルを申請していればの話だけど、恐らく俺は腹パンで人の内臓を破裂させても罪に問われないのだ。


 それが一番怖いんだわ!

 罪に問われないかもしれないけれど、少なくとも俺は人の内臓を破裂させておいてヘラヘラできるほど性根が腐ってはいない。


「はい、というわけで今日も中層を攻略していこうと思う。転移ゲートも解放されたしな」


 俺は後ろ手に控える青く光る門のようなものを指差す。

 転移ゲートとは、十五階層から解放されるシステムのことで、これまで攻略した層をスキップすることのできる有り難い存在なのだ。

  

 ただ相変わらず優しくない点が、十階層からしかスキップできないのだ。

 つまりは毎回結局十階層まで行かなければならないし、帰りも十階層から頑張って帰らなくてはならない。


コメント

・今日は十五階層か

・攻略スピードが異次元すぎる……

・配信四日目で十五階層ってマ?

・中層って一日一層ペースかと思ってたわ


 まあ、普通はそうだろうな、普通は。

 生憎と俺は普通ではないのでサクサクと進んでいる。


───

夢咲氷織 Lv.31


HP 311/311

MP 120/120

【固有スキル】

《即撃Ⅵ》《神速Ⅰ》

【エクストラスキル】

《反撃の心得》

【通常スキル】

《剣術Ⅶ》《水魔法Ⅲ》《身体強化Ⅷ》

《状態異常耐性Ⅰ》《思考加速Ⅲ》《危機感知Ⅹ》《回避Ⅹ》

《体術Ⅱ》

───


 これが俺の今のステータスである。


 ──はい、体術のスキルが生えてきました。間違いなく腹パンのせいですね。死ねィ!


 恐らくスキル無しでトラップルームを拳で切り抜けたことが原因だと思うが、まさかあんな簡単にスキルが生えてくるとは思ってなかった……。


「十五階層は──洞窟タイプか」


 視界に広がるのは薄暗くてジメジメとした洞窟。

 こうしてみると浅層に若干似てる気がしないでもないが、こっちのほうが不衛生っぽい。臭いです。


 出現する魔物はこれまた不衛生というか、コウモリ型のビッグバットという魔物と、体長がバカでかいネズミ型のバッドラットという魔物が出現する。名前が紛らわしいんだよな。


「今まで何だかんだゴブリンばっか腹パンしてきたから、違うヤツを腹パンできて俺は嬉しいよ」

 

コメント

・一体何枚のゴブリンの遺影を製造してきたんだ……

・夢咲のゴブリン遭遇率異常なんだよなぁ

・毎回愛たっぷり(殺意)で歓迎されるもんね


「不本意なんだよなぁ」


 ゴブリンに愛されている気がしないでもない。

 だけども、十五階層ではゴブリンが出現するという情報は聞かないので安心して攻略できるというもの。


 少し浮足立ちながら、俺は意気揚々と進み始めた。

 ダンジョン内は薄暗いが、視界が利かないほどではない。


 ダンジョンの特性として、必ず視界が保証される。

 見る限り光源が無くても、空中に漂う魔力が視界を確保してくれるため、松明やライトなどはいらないのだ。


 実に素晴らしいシステムですね。

 もしもダンジョンが真っ暗で光源が必要だった場合、ヘルメット型のライトだとか……もしくは原始的な松明だとかを用意しなくてはならない。

 しかし、光源があるお陰で両手が空いてスムーズな攻略を可能にしている点には感謝しかないな。

 

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