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貞操逆転世界のダンジョン配信

『きゃ〜! モンスターが〜!』

『ふっ……! ハッ! よし、もう大丈夫だよ。怖かっただろう?』

『ううん。守ってくれたから平気!』


コメント

・ユキヤきゅん可愛すぎw

・ゴブリンに怯えるユキヤきゅんペロペロ 

・《¥10,000》良いもの見た


「なんこれ。キッツいわ……」

 

 何でゴブリンごときで怯えてんの? 男が。

 腰に差した立派な剣はどした? 飾りですか? 

 あー、ダメだ。やっぱり《《何度見ても》》おもんない。クソ配信と言っても過言ではない。コレの面白さがマジで1ミリも理解できない。

 

 《《ダンジョン配信》》ってやつはさァ!

 生きるか死ぬか分からない瀬戸際での戦いと、ロマン溢れる冒険や宝箱の中身で一喜一憂するもんだろ!?

 

 それがなんだこのザマは!!


 今やダンジョン配信を腐らせている存在。それが男だ。

 そこそこ強い女性冒険者とパーティを組み、立派な装備に身を包んでるくせに何もしない。

 モンスターが現れると、クソみたいな悲鳴をあげて、それを女性冒険者に助けられる。


 すると視聴者は男性の悲鳴や怖がる姿勢に喜んで、じゃんじゃんと投げ銭をする。あー、嘆かわしい。


 確かにな?

 この世界は男女比1:100と歪で、若い男性が珍しく貴重なものだという認識は分かる。おまけに貞操観念も、基本的に肉食女子ばかりで、何をするからにも女性から、というのが染み付いているのも分かる。


 以上の点から、男性配信者が客寄せパンダとして非常に人気なのは分かる。


 だけどせめて冒険しろやッッ!!

 なんで2階層で永遠に同じことしてんねん!!

 おもろないわ。普通に考えて。


 誰が見んの? いや、悲しいことに女性の多くが釘付けなんだわ。男性がいるってだけでな。


「なんでこんなクソみたいな世界に転移しちまったんだ……」


 俺の名前は夢咲(ゆめさき)氷織(ひおり)。19歳。

 所謂貞操逆転世界に転移してしまった被害者である。



☆☆☆


 俺の世界でもダンジョンと、それを配信する文化はあった。

 血湧き肉躍るダンジョン攻略と、仲間同士の熱い絆や何気ない会話。またはダンジョン攻略しつつコメディに全振りしてたやつもいたっけか。

 どれもこれも共通しているのは、配信者の多くが本気で配信活動をしていることだ。


 エロで売りたいなら別にダンジョン絡めなくても良い話だし、ダンジョンという危険な世界に飛び込む以上、それを配信する活動者は全霊を尽くしていたのだ。


 だからこそ、貞操逆転世界に転移した俺は愕然とした。

 男女比とか貞操観念はどうでもいい。


 ──ダンジョン配信という文化が腐りかけてる。


 どいつもこいつも男目的でしか視聴しない上に、まともに攻略している女性冒険者には見向きもしなかった。

 ……いや、ダンジョン配信黎明期から活動しているであろう人たちは、固定ファンが付いているためにまだ見られていたものの、男性配信者が流れてきてから同接は見る見る間に減ってしまったのだ。


「おまけに中層以降で活躍できない女性冒険者が男性配信者に寄生してるもんだからどうしようもできねぇ」


 なんこれ。マジで。くそおもんないよ、コレ。

 満足してる人が多いんだから良いじゃんって意見には渋々首を縦に振らざるを得ないものの、だとしても個人的には許せる問題ではなかった。


「俺だってダンジョン配信者だった。人気商売だけじゃない……強さもしっかりと評価されるあの環境が最高だったんだ」


 沸々と湧き出てくる怒りの感情。

 それとともに、俺は拳を握り締めて覚悟を決める。


「こんな腐った文化にさせてたまるかァ! 俺もダンジョン配信者になって革命を起こしてやるわ!!」 


 そうと決まれば善は急げィ!!

 ありがたいことに転移しても生活自体はほとんど変わっていない。

 家も転移前と一緒だし、戸籍だったり生きる上で必要なものは変化してないのだ。


 変わったのは、この世界での俺はダンジョンに潜ったことが無い点と配信用機材が無いこと。

 あとは異様に通帳に金が入ってることくらいである。


「これが噂の男性補助金ってやつか……。まあ、先行投資と思ってありがたく使わせてもらおうか」


 ということで、早速ダンジョンに行くぞ!!!



☆☆☆


「ほ、本当にあなた一人で潜るのですか……? 男性はパーティを組む際の費用は無料ですし、女性冒険者の斡旋もこちら側で承っていますが……」

「いえ、大丈夫です。少し様子を見てくるだけですので」

「あ、そ、そうですか。では、お気をつけて」

「ありがとうございます」

 

 俺がペコリとお礼をすると、なぜか受付嬢は熱い視線でこちらを見てきた。

 礼儀正しい男がそんなに珍しいのだろうか。

 にしても、いやに引き留められたな。さすがに男性一人でダンジョンに潜ろうとするヤツはいねぇみたいだ。


「ここのダンジョンは……確か120階層まで攻略されてたか」


 俺の家から一番近いこの渋谷ダンジョンは、比較的低層では難易度が低いため初心者向けと言われている。

 浅い層ではゴブリンやスライムなど雑魚しか出現せず、道もそこまで複雑ではない。

 おまけに石畳と松明の掛けられた石の壁で構成されたオーソドックスなタイプのダンジョンであるため、歩きやすいというのも利点だ。


 俺はダンジョンに入る前に自分の体を見返す。

 

 ──丈夫な胸甲とシンプルな造りのズボン。

 そして、剣帯に差したショートソード。


 大金があると言っても限度があるので、まあ普通に初心者っぽいが堅実な装備構成である。

 剣のグレードは敢えて普通レベルにしている。

 今の俺は転移前と違ってレベル1。

 使いこなせない武器ほど後になって牙を剥いてくるのだ。

 危険な冒険やギリギリの戦いと言うのは、あくまで万全な準備と堅実な装備があるから成り立つ。じゃねぇとすぐ死ぬからな。


「そして一番高かったコイツもセット完了、と。チャンネルも作ったしあとは配信するだけだな」


 配信機材。コイツが一番高かった。

 小さな卵みたいな形をしたドローンであり、どんなに素早い動きでもブレなく捉えることができる上に超絶丈夫。しかも自動追尾機能がデフォルトである。

 充電は、ダンジョン内に満ちている魔素と呼ばれるエネルギーを自動吸収するため尽きることは絶対に無い。


「便利な世の中だな、まったく」


 さて、受付のお姉さんにはみてくるだけと言ったが……今日は何階層まで潜ろうか。


 青く輝くダンジョンのゲートを潜る俺。

 その口元はオモチャを与えられた子どものように満面の笑みだった。 

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