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第1話 陛下、なぜ甘える?

 鉄の鎖が牢屋の扉にぶつかる音が耳をつんざくように響き、隅に縮こまっていた小林朔也こばやし さやくは目を覚まし、地牢の入口を不安げに見つめた。


 半年前、小林はまだ知識系ユーチューバーとして名が知られ、経済自由と言えるほどではなかったが、少なくとも食べることや着ることに困らない生活を送っていた。街中の小さなアパートに住み、猫と犬を飼っていた。


 しかし、あの日の夜、下の階でカップルが喧嘩をして、ガスを点火してしまった。


 良いニュースは、爆発の威力が強くなかったため、ビル全体が崩れることはなかったことだ。悪いニュースは、漏れたガスが爆燃し、火事を引き起こしたことだ。


 爆発で目を覚ました小林は、パンツも履かずに慌てて飛び出した。しかし、下の階から上がる火の光を見て、小林は迷わず火の中に戻り、家のにゃんことわんこを助けようと決意した。


 結果、にゃんことわんこは助けられず、自分だけが命を落とした。


 再び目を覚ましたとき、小林は異世界、しかも中世ヨーロッパのような異国の地にいた。


「これが転生ってやつか?」と、小林は思った。


 当初は知識系ユーチューバーとしての底力を生かして、鉄を鍛えたり、ガラスを作ったりして、少なくとも食うに困らない生活をしようと考えていたが、現実は厳しかった。


 身分を証明できなかったため、彼は逃亡奴隷と誤解されて、領主に捕まえられた。


 数ヶ月後、彼は帝国の北の国境で奴隷として売られた。


 そして、他の奴隷たちと同じように、雪の中で命を落とすのだろうと思っていたその時、一人の魔族の強者が小林の働いていた現場を襲った。


 雪の中に倒れた小林朔也は、すでに抵抗をあきらめていた。だが、その時、フードをかぶった魔族が銀色の大狼に乗って目の前に現れた。


 フードの中から現れた魔族は、小林朔也をじっと見つめた。おそらく、この東方の顔立ちと白く細い肌の少年が「おいしそうだ」と思ったのだろう、すぐに彼は縛られ、ひとたび強く打たれて気絶させられ、巨大な狼の背に投げられた。


 その後の記憶はほとんどない。彼が覚えているのはただ、北に向かって進んでいるということだけ。その小柄な魔族の殴り方が激しく、小林はほとんど意識を保てなかった。


 地牢に投げ込まれた後、小林はようやく自分が目的地に到着したことを実感した。自分に待ち受ける未来について、彼は悲観的だった。


 人々が恐怖に駆られて氷のような雪の中で逃げ惑う様子を小林は目の当たりにしていた。魔族と呼ばれる存在なら、十里八里で子供の泣き声さえ止める力を持っているだろう。


「魔王陛下があなたに会いたいと言っています。」


 その清澄な声が、まるで氷河が溶けるときの水の流れる音のように、小林の耳に届いた。思わず彼は一瞬驚いた。魔族の声がこんなに美しいとは、まさか魅魔か?


 しかし、小林は反抗しなかった。彼は、この小柄な魔族の前では何もできないと知っていた。逃げることはおろか、何もできないのだ。


 魔王の宮殿は暗く、恐ろしい雰囲気を漂わせていた。広大な建物群には一切の灯りも人影もなく、暗闇の中で獲物を待つ獰猛な獣のようだった。


 足元の石板の隙間からも、冷気が漂っていた。


 ただ、彼を連れて行った魔族の手から発せられる微弱な光だけが、彼を少しだけ安心させた。


「ギギギギ……」


 重い扉がゆっくりと開き、薄暗い蝋燭の火がゆらめき、まるで血が流れるように扉の隙間から溢れ出してきた。


 小林は心の中で決意を固めた。これからどんな恐怖が待っていようとも、少なくとも誇りを持って死ぬつもりだ。


 しかし、宮殿に足を踏み入れた瞬間、彼の誇りは冷たい地面に叩きつけられた。


「大胆不敵な人間め! 陛下を直視するとは何事だ!」


 背後から巨大な力が押し寄せ、小林は地面に押さえつけられた。


 だが、その瞬間、王座に座った魔王の金色の長髪が目に入った。小林はその光景を一瞬で心に刻んだ。


 想像していた魔族の顔、つまり青い顔と鋭い牙のような姿とは違い、王座に座っていた魔王は一人の少女で、しかもとても美しい。


 ただし、人間とは異なり、魔王の頭には毛の生えた獣耳が生えていた。


 うわっ、この世界の魔族って獣耳娘? 魔界じゃなくて、むしろ天国じゃないか!小林は地面に押さえつけられながらも、内心は熱くなっていた。


 恐怖と緊張が半分ほど消え、彼は思考を取り戻し始めた。魔王がわざわざ自分を捕まえたのは、食べるためではないだろう?


「フフフ、愚かな人間よ、君主に会うのに礼を知らず、跪くことすらしないとは、罰せられて当然だ。」魔王の少女は王座から降り、階段を下りて、小林の元へ向かってきた。


 彼は地面に顔をつけていて、横を向けないため、魔王の細く滑らかな足と丸い足の指しか見えなかった。しかし、右足首に輝く小さな金色の銅製のタグを見て、小林の瞳は大きく見開かれた。


 それは間違いなく、自家製の金毛犬用に作った首輪の名札だった。刻印された文字は今でも鮮明に残っている。


「エリカ?」


 魔王少女は一瞬体を硬直させ、右足を引っ込め、慌てて言った。「エリカと言ったのか? それは男性の人間の名前には思えないが、嘘をついているのか?」


 演技があまりにも不自然だった。バカ犬。


 小林は心の中でため息をついた。女王になったとしても、演技の下手さは変わらない。


「座れ!」小林は突然、厳しい口調で命じた。


 まだ手を押さえていた小柄な魔族が手を振り上げる前に、魔王少女は無意識に地面に座り、膝の上に手を置いて、小林朔也を期待して見つめていた。


「陛…陛下…」


 この滑らかなコンボに、小林朔也の背後にいた小柄な魔族は思わず手を緩め、後ろに二歩下がった。何をすればいいのかわからなかった。


 宮殿はしばらく奇妙で気まずい沈黙に包まれた。


「エリカ、本当にお前なのか?」


 小林朔也は地面から立ち上がり、まっすぐ座った。金毛犬が異世界で金髪獣耳の少女になったことには驚きはないが、この状況は誰が見ても信じられないだろう。


 四目が交わった瞬間、エリカの涙がこぼれ落ち、「うわぁ!」と叫びながら胸に頭を突っ込んできた。まるでドリルのように動き出した。


「うわぁ! いつも私をいじめる!」


「僕がいついじめた?」小林朔也は苦しげな顔をしながら答えた。


「あなたはおいしいものを私に分けてくれない!」


「それはチョコレートケーキだよ!」


「それに、あなたは私をスリッパで叩いた!」


「一度だけ教訓を与えたんだよ!それも君が電源コードをかじったからだ!」


「私をいじめる!私をいじめる!」


「はいはい、もう泣かないで、頭を撫でてあげる、撫で撫で。」


 ……


 その時、大門の前に立っていた小柄な魔族は、目を見開き、動揺した。もし間違っていなければ、彼の君主である魔王最強者が、なんと……甘えていたのか!?

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