逃げていく卒業カレンダー
どれだけ歩いているのだろう?
奥に進むに連れどんどん辺りが暗くなっている。
こんなに道が長いわけがない、きっとこれは夢なんだ…ほら。
完全に暗闇に包まれ方向感覚を失ってしまう。
急に辺りが明るくなり、僕は教室の椅子に座っていた。
「悠利!悠利ってば!聞こえてる?」
夢とは思えないほど鮮明に聞こえる声の発生源は、僕の想い人
紫杏だった。
「もう〜これよろしくね?あんたが一番絵上手いんだからさ」
僕の前に置かれたのは、残り0日の卒業カレンダーだった。
その0という数字の中に自分が吸い込まれそうになる。
後ろの黒板を見てみると卒業カレンダーは、残り1日だった。
「明日までにあんたが描かなかったら誰が描くのよ?」
僕は、鉛筆をどこからか手に取り大きくなったり小さくなったりを繰り返す画用紙に桜の絵を描いてく。
鉛筆を画用紙に落とした瞬間に、桜が吹雪のように散る絵が完成した。
「やだよ、卒業なんて…もう君に会えないじゃないか、紫杏好きだ」
その言葉を口にした瞬間、桜の絵が碧い色に染められていく。
「私のせいで…ごめんなさい」
紫杏の声で、辺りがいっそう明るくなった。
目が痛い…少女の泣き声が聞こえる。
その発生源を探るべく、僕は目を開けた。
「紫杏?どうして君が?」
「え?起きたの!?良かった!悠利ったら急に倒れてどうなるかと思ったんだからね!」
僕を心配して泣いてくれたのか。
「ねえ、それよりさ?あの言葉どういう意味?」
「あの言葉?なんのことだ?」
僕が何か言ったか?それとも…寝言を聞かれたか。
まずい、卒業式終わったあとに告白するつもりだったのに。
「えーと、紫杏?もしかして僕の寝言聞いてた?」
「うん、ばっちり」
ということは、もう本当に言うしかないのか。
「紫杏…好きだ付き合ってくれ!」
「しー、ここどこか忘れたの?あんたの部屋よ?
親に聞かれたらどうするの?」
「すまない…」
そういえば、卒業カレンダーの0日を僕と紫杏で描くことになって
僕の家に招待したんだった。
「いいよ、謝らなくて…それにすごく嬉しいし」
「え?」
「だから、喜んで付き合ってあげるって言ってんの」
「そうか、ありがとう」
紫杏は僕に抱きついた。
「さあ、描こうか?」
「うん」
机に向かい、卒業カレンダーの最後を飾る桜を最初の共同作業として僕たちは描いた。
「できたね」
「きれい…」
僕たちが作り上げた、最高の1ページは終わりを示すものではなく。
始まりを示す0だった。