第六話
幾つかのオークキャンプを破壊していたアルフレッドらはグラッダの町へと入った。
ひとまず宿を取り酒場へ向かう。ワインと食事を終えて、アルフレッドは席を離れ掲示板を見に歩み寄った。
「何だこれは?」
アルフレッドはぼんやりと光をまとう文書を目にとめた。そして何かに魅せられるように文書を手に取った。アルフレッドは仲間たちの元へ戻った。
「おい、見てくれ。この掲示板の文書を手に入れたんだ。なんだか奇妙な仕事の話が書かれている」
「それは一体どんな内容なの?」
アンジェリアが問うた。ライオネルが文書に目を通す。
「何々……ボーントレド廃墟の迷宮に古の魔法の力が眠っているって書いてある。危険度は高いから並みの冒険者では近づけないようだ。興味深いな」
するとマーガレットが言った。
「でも、これって何かの罠かもしれませんよ。この文書からは何か魔法を感じます。セイセス=セイセスのこともありますし」
だがアルフレッドは言った。
「確かに、警戒は必要だけど、この情報は無視できないと思う。もし廃墟の迷宮に古の魔法が本当に眠っているなら、俺たちには力が必要だ。それに、グラッドストンの息がかかっているなら、なおのこと無視はできないよ」
アンジェリアは頷いた。
「アルフレッドの言う通りだわ。罠だとしても、何か邪悪な力が蠢いているとしたら、私たちにはそれを止める責任がある。敵が何かをたくらんでいるなら、私たちがその先手を打つ必要があるわ」
「そうだな、俺も賛成だ。セイセス=セイセスの策略に引っかかっても、俺たちは共に立ち向かえるはずさ」
ライオネルが言ってワイングラスをあおった。
「あなたたちの言う通りかも知れないけど……。私たちの勇気と知恵を信じるとしますか」
「よし、みんなが賛成なら、この冒険に挑戦しよう。セイセス=セイセスの罠にも、闇の魔法にも負けないぞ」
アルフレッドは言った。アンジェリアが頷く。
かくして、パーティは翌日、一路ボーントレド廃墟へと町を発つのであった。
廃墟に到着したアルフレッドたちは、その荒廃した集落の様子に息をのむような感覚を覚えた。一度は栄えていたであろう建物は今では崩れ落ち、草や蔦が這い回り、静寂が支配していた。その陰鬱な雰囲気は、まるで忘れ去られた魂が未だに佇んでいるかのようであった。
彼らが迷宮の入り口に近づくと、アンジェリアは不思議な魔法の力が廃墟の中に広がっていることを感じ取った。微かに漂う魔力の流れが彼らの肌をなぞり、心をざわめかせた。アンジェリアは魔法の光を灯した。
彼らは迷宮の暗闇へ足を踏み入れると、そこにはトラップや邪悪な魔物が待ち受けていた。地面の下には見えない罠が潜んでおり、一歩間違えば床が崩れ、彼らを深淵へと誘い込むだろう。壁には不気味な彫刻が刻まれており、彼らを襲う魔物たちの気配が近づいてくるのを感じさせた。すると、背後の通路が邪悪な魔法の霧で閉ざされてしまい、テレポートも使えなくなってしまった。
アルフレッドは仲間たちに警戒を促した。
「この迷宮は魔法の力によって作り出されたようだ。どうやら罠に引っかかってしまったかもだが……」
「今更怖気づくことなんてないわ。先へ進みましょう」
アンジェリアは言って恐れを振り払った。アンジェリアは杖を手に握りしめ、警戒しながら前に進む。彼女の目は瞳孔が広がり、闘志に満ちていた。彼女は自らを守るためだけでなく、仲間たちの安全を守る覚悟を持っていた。
アンジェリアは迷宮の壁に彫られた彫刻を見つめ、周囲の闇に包まれた魔物たちの気配を感じ取っていた。彼女は魔法の力を自在に操ることができる魔術師であり、その力を迷宮の奥深くに潜む脅威に向ける覚悟を胸に秘めていた。
マーガレットは祈りを捧げながら、小さな聖なるシンボルを手に握り締めた。彼女は信仰心篤い女性であり、神聖な力を借りて仲間たちを守る決意を抱いていた。彼女の心には希望と勇気が宿り、彼女自身が光となり仲間たちを導く覚悟を持っていた。
彼らは廃墟の迷宮の中を進んでいく。闇に包まれた通路を進む度に、不気味な声や恐ろしい気配が彼らを襲ってきた。しかし、アルフレッドの指揮の下、彼らは魔物の罠を回避しながら進んでいく。彼の剣が鋭く光り、アンジェリアの魔法が迫り来る敵を撃退した。
時折、迷宮の中から不思議な光が漏れ出し、壁に刻まれた古代のルーン文字が浮かび上がることがあった。これは迷宮が持つ魔法の力の表れであり、彼らに対して魅惑的な誘いを投げかけてくる。しかし、彼らは心を固く保ち、その誘いに惑わされることなく進んでいく。
次第に迷宮の中はさらなる厳しさを増していく。仲間たちは疲れと不安を抱えながらも、団結力と勇気を持ち続けていた。彼らは迷宮の罠に引っかかることなく、その奥深くに進んでいく。
艱難辛苦を乗り越えて迷宮の最深部にたどり着いた彼らは、廃墟の迷宮の中心にある広大な祭壇を目にする。その祭壇は古代の魔法の象徴であり、魔力が最も強く集まる場所であった。しかし、その前には魔女が待ち構えていた。
最高位の魔女アイシャ・ラズベルト自らが立ち現れ、冷たい笑みを浮かべた。「よく来たわ、アルフレッド。この迷宮への挑戦を乗り越えた者に、真の力を手に入れる機会を与えるとは、なんと魅力的な罠でしょう?」
アルフレッドは堂々と立ち上がり、アイシャに向けて言葉を返す。この魔女とアルフレッドたちは過去に交戦していた。「アイシャ、お前の策略は見破ることができた。この迷宮の力こそが真の魔法の力ではない。俺たちはお前の罠にはまることはなかった」
ライオネルも剣を構え、覚悟を決めて言い放つ。「アイシャ、俺たちはお前の魔法を恐れない。真の力は自らの意志で手に入れるもの。お前の魔法などには惑わされないぞ」
その言葉にアイシャの顔に不満の色が浮かぶが、やがて冷笑を浮かべて答える。「愚か者ども。私の魔法の力を軽んじるとは、生意気なものだ。しかし、この迷宮の中で生き残った者には、少なくとも一つだけ譲ってやるわ。真の力の一端を見せてあげましょう!」
アイシャの手元から漆黒の魔法の球が放たれ、祭壇の上に瞬時に広がる魔力の渦が現れた。その渦の中には幻惑的な風景や謎の古代の言葉が浮かび上がり、それに引き寄せられるようにアルフレッドらは近づいていく。
しかし、マーガレットはふと気付く。「待ってみんな! 目を覚まして!」彼女は味方のデバフをかき消した。
マーガレットの言葉にアルフレッドらは我に返り、その警告を受け、アルフレッドらは一瞬ためらった。彼らはアイシャの魔法の誘いに惑わされることなく、自らの力で進む決断を下す。
アンジェリアは魔法使いとしての知識を駆使し、魔力の渦に対抗するための結界を展開し始めた。彼女の手元で炎や風の精霊が舞い、魔力の渦に向かってエネルギーの盾を形成する。それによって彼らは魔力の誘いから逃れ、正体を隠したアイシャの罠を見破ることに成功した。
ライオネルは魔剣士としてその剣に魔法の力を宿し、アイシャが仕掛けた迷宮の闇に立ち向かう。彼の剣は光り輝き、魔力の渦をも切り裂くほどの力を持っていた。彼の剣技と魔法の融合は迷宮の中で圧倒的な戦闘力を発揮し、仲間たちの守りとなる。
アイシャは彼らの抵抗に驚愕し、憤りを露わにする。「くっ……まさか私の魔法がこんなにも簡単に打ち砕かれるとは。しかし、まだ終わりではないわ!」
アルフレッドはアイシャに対し自信を持って言い放つ。「アイシャ、お前の魔法でどれだけの迷宮を作り上げようとも、俺たちはお前の罠にはまることはない。真の力を手に入れるために、俺たちは立ち上がる!」
彼らはアイシャとの壮絶な戦いに身を投じることになる。アンジェリアの魔法が敵を翻弄し、ライオネルの剣が切り裂く。アルフレッドは魔力を集め、その手に秘めた力を解放し、アイシャに立ち向かう。彼らの連携と団結によって、アイシャは次第に追い詰められていく。
激しい戦いの末、アルフレッドの一撃がアイシャに命中し、魔女はよろけた。
「おのれ……! 許さんぞ、アルフレッド!」
アイシャは悔しさと怒りに満ちた瞳で、アルフレッドと仲間たちに向かって凶悪な魔法を繰り出してきた。彼女は手を広げ、魔力の渦を生み出すと、暗黒のエネルギーが彼女の周りに漂い始めた。
アイシャの唇からは呪文の言葉が流れ出し、その言葉に応じて魔法の力が実体化する。彼女の手元には闇の球体が生まれ、次第に大きくなりながらアルフレッドたちに向けて放たれる。
闇の球体は空中で爆発し、無数の鋭利な氷の破片や炎の舞い散る嵐となって彼らに迫りくる。アイシャの攻撃魔法は容赦なく彼らを追い詰め、冒険者たちの身体を傷つけようとする。
アンジェリアは魔法の結界を展開し、仲間たちを守ろうとした。彼女の手元には風の力が集まり、強力な風の盾が形成された。炎や氷の攻撃が風によって逸れ、仲間たちは一時的に安堵した。
しかし、アイシャは諦めることなく新たな魔法を繰り出してくる。彼女の手元には雷の光が宿り、空中に稲妻が舞い踊る。そして、彼女は雷撃を放ち、アルフレッドに向けて疾走させた。
雷撃は瞬く間に迫り、地面を揺らしながら冒険者たち襲う。ライオネルは素早い身のこなしで避けつつ、魔剣を振りかざして雷を切り裂こうとした。彼の魔剣は電撃と激突し、その衝撃で光と音が弾けた。
アイシャの攻撃は続く。彼女は黒い闇の手を伸ばし、アルフレッドらを捕らえようとする。その闇の手は途方もない力を持ち、冒険者たちを縛りつける。彼らは闇に包まれ、力を奪われる恐怖に立ち向かった。
しかし、アンジェリアの魔法の力が再び発揮される。彼女は光の精霊を召喚し、闇の手に立ち向かう。光の精霊は輝く姿で舞い上がり、闇の手を破り、仲間たちを解放した。彼らは再び自由な身体を手にし、アイシャに立ち向かう覚悟を新たにする。
マーガレットは祈りを捧げ、光の聖なる矢を放った。彼女の矢は魔力に満ちており、的確にアイシャに向かって飛んでいく。矢は高速で進み、アイシャを貫くかのように見えたが、魔女は身の軽さと魔法の防御で矢をかわした。
アイシャは憤怒のまなざしで冒険者たち睨みつける。彼女はさらなる力を求め、迷宮の中心から悪意に満ちた魔力を引き出す。その魔力は迷宮全体を揺るがせ、狂気に満ちたエネルギーがアイシャを包み込んだ。
アルフレッドは仲間たちに目配せし、彼らと一体となって立ち向かう。彼は魔剣のパワーを最大限に引き出し、自身の体を煌めく光で包んだ。光の剣を手にしたアルフレッドは、アイシャに向かって飛び込んだ。
アイシャとアルフレッドの剣がぶつかり合い、その衝撃は迷宮中に響き渡った。彼らの力の応酬は激しさを増し、迷宮の壁が揺れ動く。アルフレッドは勇気と覚悟を胸に、アイシャの攻撃をかわしながら剣を振るった。
一方、仲間たちもそれぞれの力を駆使してアイシャとの戦いに挑む。アンジェリアは魔法の結界を張り巡らせ、仲間たちを守りながらアイシャの攻撃に対抗した。ライオネルは機敏な身のこなしと魔剣の技を駆使し、アイシャを翻弄した。
マーガレットは聖なる矢の連続攻撃でアイシャに圧力をかけ、彼女の動きを封じた。その矢はアイシャの身体に次々と命中し、彼女を傷つけた。アイシャは苦痛に歪んだ表情を浮かべながらも、悔しさと怒りで目を細めた。
しかし、アイシャは諦めることはなかった。彼女は最後の切り札として禁断の魔法を準備した。彼女の手元には闇の書物が浮かび上がり、その中に封じられた古代の呪文が解き放たれる。
アイシャは古代の呪文を口ずさみ、魔力の渦を生み出す。その渦は次第に大きくなり、アイシャを取り巻くように広がっていく。彼女の体が闇に包まれ、禍々しい姿へと変貌していく。
仲間たちはアイシャの禍々しい姿に戦慄を覚えつつも、固く決意を胸に秘める。彼らはアイシャの最後の魔法に立ち向かい、彼女の野望を打ち砕く覚悟を持っていた。
アイシャは闇のエネルギーを凝縮し、その力を一点に集中させた。彼女の手元には暗黒の光球が形成され、次第に巨大化していく。その光球は周囲の空気を歪ませ、強烈な魔力を放っていた。
アルフレッドは自らの力を結集し、魔剣、すなわち光の剣を高く掲げ、仲間たちに向かって勇気を与えた。彼らは一丸となって立ち上がり、アイシャの最後の攻撃に立ち向かう。
アイシャの手から放たれた暗黒の光球がアルフレッドらに迫る。しかし、彼らは絶対に押し負けることなく、力強く立ち向かった。アンジェリアは結界を張り、仲間たちを守った。ライオネルは剣を振るい、光の一閃を切り開いた。
マーガレットは魔法の矢を放つ。矢は暗黒の光球に突き刺さり、爆発とともに闇を破った。その爆発による閃光が迷宮の中に広がり、闇の光球は粉々に砕け散った。アイシャは崩れ落ち、その禍々しい姿も元に戻った。彼女は苦悶の表情を浮かべながら、倒れ込んだ。
アルフレッドらはアイシャの敗北を目の当たりにし、一瞬の間躊躇いを感じるが、すぐに彼らの心は固まった。彼らは互いに励ましあい、力を合わせて最後の一押しをする覚悟を決めていた。
アルフレッドはアイシャに近づき、手を差し伸べた。彼は憎しみや怨念ではなく、救いの手を差し伸べたのだ。アイシャは戸惑いの表情でアルフレッドを見つめたが、最後に彼の手に自身のそれを伸ばし、受け入れた。
アルフレッドはアイシャを優しく起こし上げた。彼の目には慈愛と理解が宿り、彼女の内なる闇に触れることなく、彼女を救おうとする強い意志が感じられた。
「アイシャ、もう闇に身を委ねることはない。仲間たちはお前を受け入れる。一緒に新たな道を歩まないか」とアルフレッドは穏やかな声で告げた。
アイシャはアルフレッドの言葉に心を揺さぶられながらも、その救いの手に抱かれる。彼女は涙を流し、自らの過ちと孤独を悔い改める決意を胸に秘めた。
仲間たちはアイシャの敗北を見届け、心に喜びと安堵を感じた。彼らは過去の闘いを越え、団結して未来に向かって進むことを誓ったのだ。
だがその時、暗黒の渦が空中に出現し、邪悪な声が迷宮に響き渡った。
「愚かな者ども。慈愛の精神か。そのような心、捻りつぶしてくれる」
暗黒の渦から閃光がほとばしり、アイシャを貫いた。
「アイシャ!」
アルフレッドは彼女に手を伸ばしたが手遅れだった。
「良いのよアルフレッド……一瞬でも人間の心を感じることが出来た……思い残すことはないわ……」
そうして、アイシャは息絶えた。
「貴様……グラッドストンか!」
アルフレッドは暗黒の渦に向かって叫んだ。だが。
「…………」
渦は沈黙を以て応え、やがて消失した。
アルフレッドらは、しばらく無言だった。
「救えたのに」
アルフレッドは呟いた。ライオネルが彼の肩に手を置いた。
「どうしようもなかったんだ。今のがグラッドストンにせよ何にせよ」
そこで、アンジェリアは祭壇に歩み寄ってそれを調べることにした。祭壇は巨大な石造りの構造物であり、古代の文字や彫刻が刻まれている。その周囲には強力な魔力の気がただよい、祭壇の中心には古代の魔法が封じられたとされる聖なる宝石が輝いていた。
アンジェリアが祭壇を詳しく調査し始める。彼女は魔法の知識と洞察力を駆使して、祭壇に刻まれた古代の文字を解読しようと試みる。他の冒険者たちも周囲を探索し、祭壇に関連する情報や手がかりを見つけようとした。
やがて、アンジェリアが古代の文字を解読し、祭壇の秘密が明らかになる。祭壇は魔力の中心とされ、古代の魔法使いたちがここで力を集め、神聖な儀式を執り行っていた場所だったのだ。そして、その中心にある聖なる宝石は、魔法の力を封じ込め、調和と平和をもたらす役割を果たしていたのだった。
すると、宝石が輝きを増し、閃光が爆発してアルフレッドらは光りに包まれた。
走馬灯を見ているようだった。アルフレッドらは古代の魔法使いたちの儀式の様子を見ていた。
次に光が消えた時、彼らはボーントレド廃墟の迷宮の入り口に転移していた。ただ迷宮の入り口は消え去っていた。
「……どうやら、あの場所は守られるべき場所だったんだな」
「そうですね……これでよかったのでしょう。あの力は私たち現代の人間の手に負えるものではありませんから」
アルフレッドのことにマーガレットが応じた。
「アイシャのことは残念だったわね……」
アンジェリアが言った。ライオネルは吐息した。
「グラッドストンは裏切りを許さない」
そうして、冒険達はボーントレド廃墟を後にする。アイシャ・ラズベルトに黙祷を捧げ、アルフレッドらは帰路に着くのだった。