49. 手裏剣とゾンビ
猫のサルサは大きくなったグリと一緒に追いかけっこをしている。グリは相変わらず活動的で、しつこく絡んでサルサに辟易されている。
その日、友人の映画撮影を手伝うという理由で日本に一時帰国していたタケオが戻ってきた。彼はまたジョーダンとともに私の家を訪れ日本土産だと忍者の手裏剣をくれた。
「日本ってマジで忍者いるの?」
素朴な疑問にタケオはニヤリと薄気味の悪い笑顔を浮かべた。
「俺はその末裔なんだ」
「マジ?」
「リオ、騙されちゃダメよ。タケオの言葉の8割は嘘よ」
ジョーダンが鋭い口調で忠告をする。
タケオは今何でも屋を営んでいるらしい。誰かの家の壊れたものの修理や庭仕事、掃除、送迎、ペットの世話などを仕事をししつつ、時々死体やゾンビの役などで映画やドラマに出演しているという。
「ゾンビの役は楽しいぞ、一度やってみるといい」
タケオはゾンビが食べている人間の腑にはソーセージが使われ、血液はバーベキューソースなのだとネタばらしをした。そのときたまたまホットドッグを食べていたジョーダンは顰め面でタケオを見た。
私はこの間チャドと電話した時のことをふと思い出した。
「そういえばチャドが今度はゾンビ映画作るって言ってたわ。舞台は火星だって」
「めちゃくちゃだな、おい」
タケオが突っ込む。
「だけど面白そうね! ゾンビの特殊メイクってやってて凄くワクワクするのよ!」
ジョーダンが目を輝かせた。
その数ヶ月後私はチャドのギャグ丸出しのゾンビ映画にタケオとともに出演した。火星に存在する、私演じる女所長が統括するゾンビ研究所でゾンビの遺伝子を操りハイブリッドゾンビを生み出すというシュールなこの映画は最初の興行収入こそイマイチだったが、マニアックすぎる映画としてテレビや雑誌などで取り上げられじわじわと人気を呼んでいった。
それから私が進んで受け続けたのはコメディ映画のオファーだった。5年後に主演した『マルゲリータ』というピザ屋を舞台にしたコメディ映画でオスカーを獲ることになることは、このときの私はまだ知らない。