9.ワクワク!素材ガチャ
「………よし」
扉にベッタリと張り付き、同じく片耳を扉にピタリと付けているのは薄紅色の短髪女児。
毛先が少し癖毛のようになっているからか、ふわふわと頬や首元に髪が当たるのが邪魔で手で払う。
その女児ことラビは、孤児院の女子部屋の扉に張り付いていたのだった。外からではない。部屋の内側からだ。
昨夜、具合が悪いと思われたラビは、次の日になってもまだ女子部屋で安静にすることを命じられたのである。
今までだって仕事らしい仕事は出来ていない。が、しかし周りが働く中自分だけ寝てるのは居心地が悪い………そう思っていた。
…………だけど、これは絶好のチャンス!
定期的に様子を見に来るマルレーネとシスター二人を警戒さえしていれば、昼間は皆仕事で出払っている。
警戒対象の三人だって、その内二人は常に忙しそうにしている。
実質マルレーネさえ警戒しておけば、今日一日自由だということだ。
扉から体を離し、敷き布団の上に座る。
危険を察知した瞬間、掛け布団を掴んで布団に隠れるイメトレもバッチリだ。死角が無さすぎる。
今ではすっかり点滅なんてしなくなってくれた左手の、紋章があった場所を軽く擦ると、ピィンという高い電子音と共に目の前に例のウィンドウが現れる。
擦ったからなのか、このウィンドウが現れたからなのかは知らないが、例の紋章が左手甲にくっきりと浮かび上がっている。
また、相変わらず最初の画面には私の情報が書かれていた。
名前:ラビ
性別:女
年齢:六歳
居住:テルス教 エクモル村支部 教会運営孤児院
スキル:神ガチャ ▽
STR:5
CON:8
POW:16
DEX:12
APP:11
INT:14
EDU:12
身長:98(cm)
体重:13(kg)
HP:8
MP:36(16+20)
SAN:80
IDE:70
LUC:80
状態:健康
使役:なし
持ち物:なし
こんな状態だ。半分以上何が書いてあるのかわからない。STRだけはどうにかわかる。strongの略語だろう。強さか筋肉か、どちらかの値を示してるに違いない。
他は英語力中学一年生の私にはサッパリだ。
そうして眺めている内にふと気が付いたのだが、よくよく見るとスキル欄に「▽」のマークが薄らと出ている。前は焦っていて気付かなかったのかもしれない。
軽くその三角形をタップすると、下にズラリと文字が並んだ。否、隠れていた部分が姿を現したのである。
▼固有スキル:神ガチャ
▷戦闘スキル:なし
▷身体スキル:Lv.7 色彩感覚/Lv.3 手当て
▷操縦スキル:なし
▷操作スキル:Lv.6 PC
▷製作スキル:Lv.4 調理/Lv.3 製菓/Lv.5 絵描き
▷交渉スキル:なし
▷知識スキル:なし
タップと同時に神ガチャの、ただスキルと書かれていた部分に「固有」の文字が追加される。
その下に並ぶスキルも、同じようにカテゴライズされているようだ。
というか。
「なんか、ぜんたいてきにザコくない……?」
ステータスも、スキルレベルもほぼ一桁。
HP欄に書かれた「8」の文字にはさすがに顔が引き攣るほどだ。あの崖から落ちてよく死ななかったものだ。本当に。
自分のステータスに少なからずショックを受けるが、本日のメインはこれではない。
今度は三角形ではなく「神ガチャ」の文字を軽くタップする。と、すぐにあの画面へと遷移した。
あれ?何か…。
最初に感じたのは違和感。画面内容が記憶と違う気がして、思わず前のめりになる。
画像だったり、画面構成だったりが各箇所少しずつ変わっているようだ。前より余程わかりやすい。
その中でも特に目を引かれるのが画面中央。
『ワクワク!素材ガチャ』
ガチャに名前付いとる!!!!!
前に開いた時はこんなの無かった。
ガチャ名が付くだけでぐんとわかりやすくなる。何のガチャなのかが一目でわかる名付け、最強。
早速《10回引く》と書かれたアイコンの方をタップする。
すると、すぐ近くに置いていた布の中が一瞬ほんのりと光る。頑張って集めたドングリを包んでいた布だ。
光が収まると同時に、ドングリによる布の膨らみも消えた。さらに目の前の画面が動き始め、あの時にも見た、装飾の施された玉が高速回転をするアニメーションが流れる。
黄金で施された花の意匠で包まれているのは、乳白色にピンク色を滲ませたような色合いの水晶……に、見える。
前はピンクっぽいような、何とも言えない不思議な色合いだと思ったのだが。
玉の回転が完全に止まると、十個の光る玉が中央の装飾玉から排出され、ひとつ目の光る玉がこちらに近付いてきた……が。
はいはい連打連打。
ダダダダダ、と画面を連打する。
出てきた光る玉の色合いは全て白。前回ガチャを回した時の色も白だった。つまり今回もほぼ確実にドブだと言うことである。結果なら最後の結果一覧画面で見ればいい。
そんな訳で全力連打を決め込み、最後のリザルト画面までの時間を短縮する。こんな時のためにスキップ機能が欲しい。
もしひとつでも別の色が混ざっていたなら、新規アイテムか?新規メンバーか??と、ワクワクしながらゆっくりと画面をタップしていただろう。
何せ、連打しすぎて飛ばしてしまった新メンバーが推しだったら……スクショ出来なかったことをその先数年は後悔するだろう。
被りの時にお迎えスクショは撮れるかもしれないが、「NEW!!」などの文字が着いたお迎えスクショは初回しかチャンスがないのだ。慎重にもなるというものである。アカウントは作り直したくないし。
……と、無駄な話が長くなってしまった。
今回のガチャ結果は以下の通りだ。
[N]《小石》
[N]《小石》
[N]《木の枝》
[N]《夜光キノコ》
[N]《木苺》
[N]《木の枝》
[N]《木の枝》
[N]《木の枝》
[N]《夜光キノコ》
[N]《小石》
ンだから《木の枝》が多いィ!!!
思わずダンッ!と両拳で床を殴る。台パンならぬ床パンである。
[N]の中でも《木の枝》は出やすいんだろうか。
しかし初めて見る物もある。《木の枝》三連コンボの前に燦然と輝く…ように見えてしまう《木苺》である。
他と同じく[N]ではあるが、新アイテムが出るだけでテンションがプチ上がるというものである。
早速ガチャ画面から『アイテム』画面へ移動し、新アイテムの確認をする。
《木苺》
森で採れる何の変哲もない普通の木苺。
甘酸っぱくておやつに最適。
ふむ、なるほど。今まで出たアイテムの中で一番嬉しいかもしれない。
ここには食べ物はあるけど甘いモノはないからね…。強いて言うなら人参が甘いなってくらいのもの。
さて、まず十連を回したわけだけども…。
チラリとペタンコになってしまった布の横を見る。
ドングリを包んだ布は全部で三つ。それぞれに五十個ずつ包んでいて、その内ひとつが今回の十連でスッカラカンになってしまった。
残るは二十連……何としても[N]以上を引き当てる!!!欲を言うならレア度高いアイテムを引き当てたい!!!
参拝風にすると音が鳴ってしまうため、両手のひらを合わせてスリスリとして神頼みする。
神の文字を冠するこのガチャだ。こうして直接頼めば多少は融通を効かせてくれる…かもしれない。
運命の二十連目。結果は以下の通りだ。
[N]《夜光キノコ》
[N]《小石》
[N]《小石》
[N]《小石》
[N]《小石》
[N]《夜光キノコ》
[N]《木の枝》
[N]《小石》
[N]《小石》
[N]《小石》
「ンほぼ小石ッッッ!!」
思わず口に出してしまってから、ハッとして耳を澄ます。少し待ってみたが、誰かが来る様子はない。
セーフ…と胸を撫で下ろす。
いや、いやいやいやおかしい。そんな同じのばっか出ることある?あるか。いやないよ。
確率バグってんじゃないの?今度は《小石》がお気に入りになったの?
だとしても《木の枝》より使い道わからんモノこんなに出てもどうすりゃいいのよ!?
頭を抱えつつ、最後の十連を引く。
もう神頼みはしない。しない方がマシな結果が出る気がする。
せめて上から下まで《木苺》であれ───そんな願いも虚しく、三十連目の結果は以下の通りである。
[N]《木の枝》
[N]《木の枝》
[N]《小石》
[N]《小石》
[N]《夜光キノコ》
[N]《小石》
[N]《木の枝》
[N]《木苺》
[N]《夜光キノコ》
[N]《小石》
お、終わった…………。
燃え尽きたように項垂れる。
完全なる爆死である。何だこれ、終わってる。確率も結果もチャンスも色々諸々終わってやがる。
こんな物のためにちまちまドングリ集めたわけじゃないんだよぉ………うっうっ………。
ドングリ締めて百五十個。このドングリを集めるために慣れない森歩きの中、周辺に目を光らせてエドによる植物講義を中断させて拾ったり、リニーに交渉して譲ってもらったり……とにかく苦労して手に入れたドングリが一瞬でパァである。
…………おかしい。どう考えてもおかしい……!
何がおかしいって、排出率がおかしい!!!
勢いよく顔を上げ、血眼になって画面内を舐めるように見回す。
どこかにあるはずだ。ここまで画面内がリニューアルされたってことはアレもどこかに──。
そうして上から下から右から左と隅々まで確認した結果、左下に小さくポツンと置いてある白い丸のアイコンを見つける。
お前か!?
バシッと強めに指で叩くと、求めていたウィンドウが出てきた。
その画面の一番上には「ガチャ詳細」の文字列。
さらにその下にはアイテム名とパーセンテージが…。
そう、探し求めていた「ガチャ排出率」が書かれたものである。
上から順に[N]、[HN]と続いている。
画面の内容はこの通りだ。
『ワクワク!素材ガチャ』
孤児院の裏の森で入手可能なアイテムが手に入る。
【排出率】
[N]《木苺》:88%〜
[N]《木の枝》:88%〜
[N]《小石》:88%〜
[N]《夜光キノコ》:88%〜
[HN]《糸草》:10%
[HN]《ソルの実》:10%
[HN]《鳥の羽》:10%
[HN]《魔物のフン》:10%
[R]《ファングスラビットの牙》:1%
[R] 《スライムジェル》:1%
[HR]《トレントの枝》:0.001%
[HR]《レッドフォレストベアの爪》:0.001%
[SR]《神泉の水》:0.000001%
[SSR]《森の主が守護する宝玉》:0.000...1%
───なんじゃこりゃ。
……えーっと……。
ツッコミどころ多すぎて頭パンクしそうなんだけど……。
まず[N]の「88%〜」って何。排出率に「〜」が付いてるのなんて見たことないよ。
そんでわざわざガチャ回してまで《魔物のフン》なんて欲しくないでしょ。小石以上に欲しくないでしょ。フンって糞だよね?う●こだよね?絶対いらん。
からの[SSR]の排出率何これ?0.000...1%ってこれ……ナニコレ?その「…」の中にはいくつの「0」が含まれているの?
もう絶対出ないじゃんそれは。出させる気ないじゃんそれは。いや《森の主が守護する宝玉》なんて大層な物貰っても困るけども。
これは……アレだ。このスキルを作った存在が完全にふざけて作ったやつだ。間違いない。絶対におちょくられてる。
な〜〜〜にが「神ガチャ」だ!!!せめて「神ガチャ(笑)」に改名してくれませんかねぇ!?
そしたらここまで期待せずに済んだのに!!「神」とか付いてるからすごいのだと思ったのに!!
これはアレですか?神様とかいう我々のことなんて道端のアリ同然に思っている存在が作ったから「神」って付いてるだけで別に仕様が神がかってるとかではないやつですね??
私の……期待を……返せよぉ……。
完全に意気消沈した私を嘲笑うように、ガチャ画面はいつまでもキラキラギラギラと目にうるさい。
ため息を吐きながらウィンドウを消していく。
もういい。このガチャは積極的には引かない。たまに目について拾ったドングリが百五十個を超えたら、その時に引こう。
このガチャのために労力を割くなんて馬鹿らしいことしたくない。
完全に期待を裏切られテンションだだ下がりの私は、早々に布団にくるまってふて寝を決め込むのであった。




