8.違和感
久々にサイト開いたら見た目リニューアルされまくってて一瞬別サイト開いたかと思った。
お久しぶりです。
お説教をくらった日から数日。
私は今、エドゥアルと共に森に来ている。
森と言っても、本当に入口から一分もかからない場所だ。孤児院からは数十メートルもないだろう。
「お、あったあった。ほれ」
ある低木の上に実っていた木の実をぷつりと収穫し、私の方に投げ渡してくるエドゥアル。それを慌ててキャッチする私。我ながら反射神経がいい方では?と思う。
「それがソルだ。そいつを乾燥させたら、孤児院で見せたみたいな固いもんになる」
「へぇ〜」
そう、私たちは今、ソルという実を採りに森に来ていた。
ソルというのは海塩の代用品として使われている塩の原材料だ。この実の殻を砕いて中の果肉を使うのだが、あの固い殻は乾燥させた後のものだったらしい。
今この手の中にあるソルの外皮は、手で剥けそうな柔らかさに感じる。
「そんでこれが薬になる草。根っこまで全部薬になるから、引っこ抜く時は──」
エドゥアルの、実物を見せながらの説明を必死に覚える。
森に連れて来てもらったのはソルを採るためでもあるが、こうして私に必要な知識を叩き込むためでもある。今回だけで覚えられる気がしない。
そして、私にはもうひとつ森に来た目的がある。
!、あった…!
視線の先にぽつぽつと地面に落ちているのは、艶々と輝く丸いドングリだ。
「エド!あれひろってもいい?」
「あー?なんだよ。…お、ドングリか。食いてぇのか?」
「ちがうよ、集めるの」
まずドングリって食べれるのか。
その疑問はさて置き、私は獲物をポシェットに詰め込む。リニーが、件の冒険事件の時に貸してくれたポシェットだ。
巻き込んだお詫びにと、しばらく貸してくれるらしい。一度断ったらとても悲しそうな顔をされたため、そのまま貸してもらっている。
ちなみにリニーはあれから三日後の朝、起きたら人型に戻っていた。
私がドングリを集める理由はひとつ。例の「神ガチャ」とかいうやつのためだ。
あれからも隙を見てはコソコソとひとりで確認しているが、少しずつアップデートされているらしい。
今ではどこのアイコンが何を指すのか文字でも示されているし、ガチャを回すのに必要なモノもわかりやすい表示になった。やはりUI設計は大切だ。
そうして初期より大分わかりやすくなった画面でわかったことは、初めて引いたガチャの名前は「材料アイテムガチャ」であり、一回ガチャを回すためには「ドングリ」が十個必要だということだ。
ドングリの種類は特に書かれていなかったため、ドングリなら何でもいいと判断した。
そういう訳で、ただいま絶賛収集中ということだ。
「お前もリニーみたいなことするんだな。似てるからあんなことしでかすのか?」
「そっそれは」
ニヤニヤと揶揄うことを楽しむ笑顔を視認した瞬間、恥ずかしいやら殴りたいやらでいっぱいになる。このクソガキ…と思ったが、命の恩人だったことを思い出す。
この数日、エドゥアルと二人になることがなくて、あの時のお礼や聞きたいことが聞けていなかったのだ。
「あのときは、助けてくれてありがとう」
「お?おお、何だよ急に」
「あと、あの光ってなんだったの?」
「え」
ピシリと固まるエドゥアルと、「あ、これ聞いたらアカンやつや」と気付いた時にはもう遅しな私。先に動き出したのはエドゥアルだ。
「覚えてんのか?あん時のこと?嘘だろ?」
「え?あ〜…いや?そういえば明るかったなって…?思って……?」
しどろもどろながら、どうにか誤魔化されてくれと思う。こんなことで気まずくなりたくない。
しかしエドゥアルはそれを許さない。
ガシッと痛くない程度にがっちり私の両肩を掴み、真っ直ぐに私を見据えて言う。
「正直に、言え」
「おぼえてます」
有無を言わさぬ雰囲気に、気付けば素直に答えていた。その瞬間、エドゥアルは大きな溜息をつきながらガックリと肩を落とした。
「ま、だよな」
諦めたように半笑いで顔ごと逸らすエドゥアルの様子からして、今すぐ私をどうこうする気は無いように見える。
きっとエドゥアルにとっての秘密だったろうに。私が怪我をしたばかりに、私にバレてしまったのだ。罪悪感で居心地が悪い。
「あのさ。あの時のこと、誰にも言わないでくんねぇ?」
真っ直ぐにこちらを見てそう言うエドゥアルは、半分諦めているような表情だった。
その諦めは何に対する諦めだろうか。
ここで私が素直に頷くことに対する諦めか、それとも私が頷かないせいで口止めに殺さなければならないことへの諦めか。
何にせよ、助けてもらった側の私に選択肢などない。
こくりと頷けば、エドゥアルはホッとしたように息を吐いた。
「ありがとな、チビ」
「チっ、…いや、こちらこそありがとう。でもチビじゃないっ」
感謝するべきことに感謝し、抗議するべきことに抗議する。これが人間のあるべき姿である。持論だが。
そして気になったことはなるべく知りたいと思ってしまうのも人間である。
「それで、あの光って何だったのか…聞いてもいいやつ?」
「ああ〜…う〜〜ん…あれはなぁ…何ていうか……」
「む、むりに話せとまでは言ってないからね?」
眉間に皺を寄せてあっちこっちに首を捻るエドゥアルに、そう付け加える。
言いたくないことを無理やり話せなんて言ってない。すごく気になるから出来れば教えてほしいなぁくらいのニュアンスで聞いたのだ。
それを聞いたエドゥアルは、まだ少し眉間に皺を寄せたまま、私の頭をわしゃわしゃと撫でくり回す。
「うわっ」
「ま、その内な。その内教えてやるよ」
一頻り人の頭をぐちゃぐちゃにすると、エドゥアルは「ほら行くぞ」と先へ進もうとする。
なんて奴だ。前がよく見えないレベルに髪をぐしゃぐしゃにしていきやがった。きっと傍から見たら鳥の巣状態に違いない。
その内、とはいつになるのだろうと思いながら、とにかく今は置いていかれないように、髪を整えながら彼の後を追うのだった。
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「あっ…お、おかえりなさい」
「おかえり」
孤児院に戻ると、ちょうど外にベルとモニカが出ているところだった。付き添いにはラルドが居る。
人見知りのように見えて、ちゃんと挨拶してくれるベルは相変わらずとんでもない美少女だ。さすがちびっ子組の中では最年長。白髪にも見える銀糸の髪と、透き通る空の色をした瞳が美しい組み合わせだ。
エドゥアルの銀髪とシーグリーンの瞳に似ているカラーリングだけど、エドゥアルが森の奥にある神秘的な泉っぽいイメージに対し、ベルは雪国に咲く氷の花って感じだ。いや何言ってんだ?
モニカは相変わらず無表情だが、少しウェーブがかった柔らかい色味の茶髪と、優しげな緑眼であるため、笑ったらとんでもなく癒し系の女の子になること間違いなしだ。勿論、今でも十分癒される可愛さはしているが。
「おー、遅かったな」
そう言って作業の手を止めるのはラルドだ。
前屈みになって垂れていた紺色の前髪をかき上げ、タレ目気味の金色の瞳がこちらを向く。その右頬には首まで続いて見える火傷跡があるが、本人はそんなことは一切感じさせない。人前に出ることへの躊躇を感じない為、こちらもあまり気にせずに接することができる。
「おー。こいつがずっとドングリ拾ってるから遅くなった」
「ずっとではないでしょ」
「あー、わかるぜ。ドングリって何となく拾いたくなっちまうんだよなぁ」
エドゥアルの説明に、ラルドが腕を組んでうんうんと頷いている。しかし一部語弊がある。作業の邪魔をするほどずっとドングリ拾いをしていたわけではない。合間合間に拾い集めていただけだ。
どちらかと言うと、エドゥアルが私に色々説明しながら森を歩いてくれてたのが直接的な原因だと思う。おかげで植物学に詳しくなった気がするのは確かだが。
「それよりもっ、何してたの?」
三人の近くにあるのは、先日見せてもらったソルを割るためのソル割り器ではない。それとは別の、何かしらの道具のような何かだ。
歴史資料館に展示されてそうな木製の道具であるのはわかるのだが、使用用途まではわからない。
「なわ、つくってた」
「なわ?」
モニカが一点に指を向けながらそう言い、隣でコクコクとベルが頷く。
その指が指し示す方向を見ると、太めの紐が纏めて台の上に置かれていた。
「そ、紐とか縄とか作ってたんだよ。これも孤児院の金になるんだぜ?」
「へー…?あさなわってこと?」
「こいつは麻じゃないけどな」
「おいも」
「そ、芋の蔓。近くの畑から貰ったり、安く買ったりして縄にしたもんを町で売るんだ。逆に、畑のおっちゃんから依頼受けてやることもあるけどな。その場合はおっちゃんに完成品渡したら金もらって終わり」
ラルドとモニカが交互にそう教えてくれる。ようは孤児院の収入源となる、内職というわけだろう。
「はー、色々やってるんだねぇ。もしかして他にも──」
「おい、話は後でしろ。先に戻り報告しに行くぞ」
「あっ、うん」
ついつい話し込みそうになるのを、エドゥアルの一声で制止される。
外から戻ったら毎回シスターか神父、つまり大人に報告することになっているそうだ。報告は外に出た人間全員揃ってになる為、私がここに居てはエドゥアルが何も出来なくなってしまう。
そう言えばラルドたちも作業中だったのを止めてしまったなと思い、また後でと言おうとしたところを「またね」に変え、エドゥアルの後に続く。
運良く孤児院内に入ってすぐにシスター・エレナに出会い、二人揃って報告を行ったことで私たちの外出はやっと終了した。
シスター・エレナは茶色い二つのお下げを揺らしながら、すぐにパタパタとどこかに去ってしまった。元気な人、いや忙しそうな人だ。
「じゃ、俺は他の手伝い行ってくるからお前は女子部屋戻れよ」
「私もなにかてつだ」
「いいから戻ってろって。ほら」
手伝いたい、と言いかけるのをエドゥアルに遮られる。確かに、役に立つよりも足でまといになる可能性の方が遥かに高いけど、そんな追い払うみたいにしなくていいじゃないか。
少し不満に思う中、エドゥアルが女子部屋の扉をノックする。すると短い返事の後、中からはマルレーネが出てきた。奥にはリニーも見える。
「あら、おかえりなさいエド」
「おー。チビのお守り、頼むぜ」
「任せてちょうだい。おかえりなさい、ラビ」
「ただいま…?」
「ふふ、どうして疑問形なのよ。こっちにいらっしゃい」
こうして私はエドゥアルからマルレーネへと引き渡され、リニーと共に遊ぶことになるのだった。
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晩ご飯後。皆で仲良く布団を敷く中、私は考えていた。
何を考えていたか?
それは勿論、どうやって一人になるか、だ。
孤児院では元々幼い子には必ず大きな子やシスターが付くようになっているが、リニーと共にやらかしてから監視の目が特に厳しいように感じる。
一人になれる時間が無いのだ。するとどうなるか。
そう、あの「神ガチャ」とかいうふざけたガチャを試す機会が全く無いのである!!!
それどころか、ウィンドウを開くことすらできない。何も出来ないから、詳しいことがわからない。
正直、あまりにも気になりすぎる。
あの時は必死で、とにかく何とかなれとしか考えていなかったが、冷静な今なら他にも色々わかるかもしれない。
それに何より、明らかにそういうやつじゃないか。特別感しかないじゃないか。
これが夢だとしても特別な力とか凄くワクワクしちゃうし───
そこでふと気付く。
そうだ、そういえばこれは夢だった。
夢なのに………全くその認識がなかった。
まるで現実かのように捉えていたのだ。自分でも気付かないまま、極自然に。
違和感をすとんと、どこかに丸ごと落としてきてしまったかのような。或いは誰かにごっそり抜かれてしまったかのような。
突然取り戻した違和感は、じわりと全身に広がり、やがて焦燥感や底無しの気持ち悪さへと変わる。
このまま目が覚めなかったら………。
そんな想像をして、背筋にゾクリと冷たいものが走る。嫌な汗がじっとりと全身から出始めた時だ。
「ラビ?」
「あ…」
服の裾を引っ張られる。ぎこちない動きでそちらに目を向けると、不思議そうな顔をしたモニカがいた。
「どうしたの」
「あ…いや…」
まだ落ち着かない頭で即座にいい返しをすることが出来ず、しどろもどろになってしまう。
そのやり取りに気付いたのか、マルレーネが近付いてきた。
「二人とも、どうかした?」
「え?え、その、べつに」
「!、まぁ!ラビったら酷い顔色じゃないの!」
私の顔を覗き込んだマルレーネは、驚いた表情で口元を覆う。
「熱は?…無いわね。けど、あぁ、なんてこと。指先がこんなに冷たいじゃないの…!」
おでこ同士をくっ付けたり、私の両手を握ったりしてマルレーネが容態を確かめていく。何か異変を感知する度に青くなっていくマルレーネの顔色を見ていると、何だか少し冷静になれた。
自分より焦っている人を見ると逆に落ち着く現象だ。
それに、何か…別にいいかなって思えてきた。
これが夢だろうと何だろうと、私がここにいて、ちゃんと生きているのには代わりないし。
皆いい子だし、大人は優しいし。
衣食住が保証されていて、酷い扱いなんて受けない。だったら別にいいんじゃないかな。
辛いどころか楽しいと感じることの方が多いしね。
ほら、今もこんなに心配してくれるお姉ちゃんがいる。
「薬草ってまだ残ってたかしら……エドに頼んで煎じてもらわないと……。とにかく今は寝なさい」
「───うん。ありがと、レーネ。みんなもおやすみ」
マルレーネに勧められるまま、私は布団に潜り込む。干した草が入った、そこそこ柔らかい布団だ。これもメイドイン孤児院だという。
「ラビぃ〜っ!ぐあいわるいの?だいじょぶっ!?」
「もうっ、やめなさいリニー!静かに寝かせてあげなさい!」
「よくない」
「と、突進はやめてあげようね…?」
「う…ごめんなさぁい…」
どうやら寝ている私に突進しようとするリ二ーを、マルレーネ中心に止めてくれたらしい。グッジョブすぎる。
そんな皆の静かとは言えないやり取りを聞いている筈なのに、目を瞑ると猛烈な眠気に襲われ、数秒もしない内に眠りについてしまった。




