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5.ぼうけんしよう!

特に物語に関係ありませんが深夜三時に分厚いパンケーキを貪りながら書きました。

「リニー!」


脱走犯の名前を呼びながら、私は教会近くの茂みをかき分けていた。教会の近くは自然豊かだ。周囲が木、茂み、木、木。ほぼ森に囲まれているようなものである。

リニーのあの様子ではもっと遠くに行ってしまったかもしれないが、あの子は「ラビがいればこわくないかも」と言ったのだ。つまりは一人だと怖いというわけで。

幼い頃の恐怖対象は、そう簡単に克服できるものではない。怖いものは怖い。勢いで行動しても、直前で恐ろしくなってやめてしまうものだ。それに賭けている。

勿論、遠くに行ってしまった可能性もないわけではない。が、何にせよまずは近場の探索だろう。


「リニー?どこ行っちゃったの?いたら返事を──」


ガササッ。


突然強く腕を引っ張られた。その勢いのままに、ロクに受け身もとれないまま地面に転がる。


「っ、いったぁ…」

「わあっ!?ごめんねっ!?」


若干涙目になりながら顔を上げると、そこには案の定リニーがいた。


「ごめんねっ、ごめんねっ!そんなころぶとおもわなくてっ…」


うるうると涙目のリニーを責める気にもなれず、ため息を吐いて「いいよ、べつに」と返す。

咄嗟の受け身が取れないほどの身体能力である私も私だ。


「そんなことより。あんなふうにとびだしたら、しんぱいするでしょ?」

「うっ…ごめんなさい…」

「ハァ…もうしないでね。」

「うん……」


しょぼしょぼと小さくなるリニーだったが、本当にもうしないでほしいと思うから慰めはしない。十分に反省していただきたい。


「よし、じゃあかえろう。」

「えっ!?」

「え?」

「かえるの!?」

「かえるよ。」

「ええーっ!?」


一際大きく不満そうな声を上げた彼女はすぐに、やだやだやだぁ!と駄々をこね始めてしまった。


「おねがいおねがい、いっしょうのおねがーいっ!」

「だめだって……」

「ちょっとだけだからぁ!」

「あぶないでしょ?」

「うっ…………こ、ここらへんだけにするから!ちかくだけにするからっ…!」


苦渋の決断、というレベルで悔しそうに妥協案を出してきた。そういう問題ではないのだが。

そう思っていたが、目尻にじわじわと浮かび上がるものが見えて、さすがに可哀想になってくる。


「……ほんっと〜に、近くだけだね?」

「!!うんっ、うんっ!やくそくするっ!」


途端に物凄く嬉しそうな表情に変化し、ぶんぶんと縦に首を振るリニー。本当に表情がコロコロとよく変わる子だ。


「あのねっ、こっちにイイモノあるの!きて!」


尻尾をぶんぶんと振る幻覚をリニーの後ろに見るが、すぐに気を取り直して付いていく。少しでも待たせようものなら、待ちきれずにまた走り去ってしまいそうな雰囲気だ。

あくまで森の境目が視認できる場所まで。そう決めて気を配りつつリニーに付いて歩いていると、ふと開けた場所に出た。その奥に、大きな穴が開いた岩がある。


「じゃーっん!ここがあたしの()()()()()だよっ!」


どやっ!と胸を張って紹介する姿は可愛らしい。が、秘密基地とはまさかその大穴のことだろうか。


「きてきて!はやくー!」


大穴に向かって駆けていく彼女を、同じように走って追いかける。速度はリニーの何分の一だ?というレベルだが。


「ようこそ、ラビ!ラビがあたしの、はじめてのおきゃくさんだよ!」


歓迎してくれるリニーの声が、大穴内に響く。周囲を観察してみると、少し奥まで続いているのが見えた。これはもしや洞窟というやつではなかろうか。いや、どこからの規模を洞窟と呼ぶのかは知らないが。

リニーのうきうきとした案内と共に奥へ足を進めると、色々な物が雑多に置かれている箇所があった。木の実に石に葉っぱに枝。そんな森で拾えるようなものから、木製のスコップのように見えるものまで様々だ。いずれも、幼い子がよく拾ってくるものや、砂場遊びの道具のように見える。


「これはすっごくきれいな石で~、こっちはみたことない木のみ!もしかしたら、すっごくめずらしいやつかも!?」

「うん、そうかもしれないね。」

「これはあたしのなんだけど、とくべつにラビに、かしてあげる!あとこれとこれと~……」


キャッキャと嬉しそうにコレクション紹介するリニーの相手をしつつ、本当にバレないのかなぁと不安になる。

しかしそんな私の不安をよそに、一通り紹介して満足したのか、リニーがすくっと立ち上がり声を上げる。


「よ~っし!じゃあ、ぼうけんいこっ!」

「えっ」


リニーは既にやる気満々だが、私としてはこの洞窟までがリニーの言う冒険だと思っていたのだ。これ以上は正直怖い。


「リニー、あの」

「ラビもほんとは、いきたかったんでしょー?だって、やだっていってないもん。」


リニーが指差す先。私──ではなく、私の膝の上にこんもりと乗せられたリニーコレクションズ。そう言えば楽しそうなので放置していたが、何かを説明する度にごちゃごちゃと盛られていたなと気付く。


「だいじょーぶっ!とおくいかないもん!」


えっへん!と胸を張ってそう言うリニー。近場ならまぁいいかと、私からも承諾する。危険が無いよう、私が見張っていればいい話だ。

リニーが貸してくれた肩掛けポシェットの中に、これまたリニーの貸してくれた物品を詰め込んで肩から掛ける。武器はリニーが木製スコップ、私がいい感じの木の棒だ。

まさにRPGの初期装備といった格好に、自分で笑ってしまってリニーに不思議がられたのだが、それは割愛しておく。


「しゅっぱーつ!」

「お~」


リニーと連れ立って森の中を散策する。リニーの案内付きなので、ガイドさん付きの森散策イベントのように感じる。

あれは食べれる、あれは食べれない。あれは叩くと面白い、この近くにはキノコが…と。何だか八割くらいサバイバル能力が向上しそうな案内だったが、意外にも楽しんでしまった。子供の遊びに付き合ってあげよう、くらいの気持ちだったのだが。

しかし、楽しみすぎてしまったのかもしれない。


「ねえ、リニー。あの木の実はなんて言うの?」

「どれ~?──っ!!!だめ!!!」

「えっ?」


リニーが振り返ると同時に、見たことない焦燥感溢れる表情に変化し、大きな声を上げる。

その様子に驚いて、思わず足を一歩後ろに後ずさってしまった。その時だ。


ズルッ


「へっ?」

「ラビ!!!」


ぬかるんだ泥で足を滑らせたような、そんな感覚。ああこれは転ぶなと思った。しかし体のどこにも衝撃は走らず、代わりに感じたのは不快な浮遊感。

こちらに手を伸ばすリニーの姿が見えた。妙に冷静な頭で、あれ?結構離れたところに居たのに。とか考えていた。

そうして私たちは、揃って落下していった。







寒い。手が、足が冷たい。

真冬に布団を全部剥いで寝てしまっている時のような嫌な感覚で目が覚める。右半身が冷たくて仕方ない。


「っ!う"う"~~っ…いったぁ……」


全身筋肉痛になった時みたいだ。打ち身かと思うほどの激痛。しかし、今は正しく打ち身なのだろう。


そうだ、落ちて………、……っ!!


「リニー!?っ、!」


焦って急に体を起こしたせいだろう。酷く体が痛む。しかし、そんなことよりも先にあの子を見つけなければ。

きょろきょろと首だけでリニーを探す。首を回すのも辛いが、歩いて探すよりはマシだろう。


私が今座り込んでいる場所は、湿った土と落ち葉の上。木の葉に遮られ、さっきよりも余程日当たりが悪い。この冷たい地面も、そのせいであろう。

視線を上げて落ちる前に居たであろう場所を確認すると、少し崖っぽくなった場所に落ち葉がこんもりと盛られていた。たまにはらりと盛られた葉が落ちてきている。

あれだけの量で隠されていれば、そりゃ気付けないはずだ。枯れ葉という色でもないのにあんな風に大量に落ちるなど、何かの病気じゃないかと思う。


迂闊だった…まさかこんなことになるなんて…。

早くあの子を探さなきゃ。


どうか無事であってほしい。そうでなければ、私はどう償えばいい?

いや、きっと償い切れないだろう。


「リニー!リニー!っ…お願い、いたら返事を…、…っ!!」


どれくらいそうして声を張り上げていただろう。もう何度目かわからないその呼び掛けで、ついに喉がおかしくなり始めてしまったらしい。大きな声を出そうとすると喉が酷く痛む。


「うぅー……リニー……」


こんなことになるなら、やっぱり戻っておくんだった。どんどん暗くなってきちゃった、し…?


そこでピタリと止まる。先程までは日が昇っていて、日当たりが悪いと言っても明るかった。だからだろうか、気付けなかったのは。

左の手の甲。間違いなく外に晒されていて何度も目にしていたはずのそこに、一度も見たことのない模様が描かれていた。

蛍光塗料というには光が強すぎる。まるで、この模様自体が発行しているようだ。

模様…いや、どちらかと言えばエンブレムだろうか。日本でも学生服であれば見かけそうだ。制服と言っても校章ではなく、ブレザータイプの胸部分についているワッペンとか、ボタンのデザインであるが。


何これ、気持ち悪い……。


明らかに異様なそれがどうにも気持ち悪くて、ゴシゴシと擦ってみた。蛍光塗料であれば多少薄くなりそうな気がしたからだ。

しかし、一切掠れることも薄くなることもなく、変わらぬ光を発している。

その動作が悪かったのだろうか。


ピィン


「――ッえ」


甲高いデジタル音を思わせる音が聞こえたかと思うと、未だ光り輝く間抜けな左手の甲の上空に半透明の板が現れる。

板と言うには余りにもデジタル感の強すぎるそれは、極限まで軽量化に成功したスマホですと言われた方がまだ信じられる。が、どう見たってゲームのウィンドウの様に見えてしまう。

それは、真っ暗な画面に、白色で図形のような、文字のような何かが横一列に表示されていた。


『●●●● ●●●●●●●●●』


謎解きか、知らない言語か。どちらにせよ解読はできない。ヒントもなければ言語に対する学もない。

解読は潔く諦めるとして、これは一体何なのか。

恐る恐る指先だけ触れてみると、図形の並びはパチンと弾けるように消え、次第に別の画面がフェードインで表示される。

今度の画面は淡いピンク、桜色を基調とした色合いで、その上日本語で書かれていた。しかし、そこに書かれた内容は理解し難いものだった。


「ステー…タス?」


そこには、私の個人情報が書かれていた。

個人情報と言っても、名前と性別、あと年齢。住んでいる場所のみだったが。どれも現在の状況下での情報であるようだ。


名前:ラビ

性別:女

年齢:六歳

居住:テルス教 エクモル村支部 教会運営孤児院


そこまではいいのだ。そうなんだなと思うだけだ。問題は、理解し難いのはその下。


スキル:神ガチャ


そこで訳がわからなくなる。その上、画面下部にはSTRから始まるアルファベットと数字の羅列があるのだ。その辺りの文字で理解出来たのは「状態:全身打撲、擦り傷、軽度出血、疲労」の部分だけだ。


何だこのふざけた名前。


まずそう思った。もう少し厨二臭い名称だったなら、物語序盤の主人公のような反応が出来たことだろう。安易且つ物凄く雑に付けられていそうな名前に涙を禁じ得ない。

それと、異常に主張してくるのだ。この文字列。


チッカチッカとこれでもかと言うほど「神ガチャ」の文字列が点滅している。目に優しくないにも程がある。ただでさえ暗い中なのに。

罠の可能性は全然ある。しかしその可能性を考慮して触れかけた手を引っ込めると、まるでそれに異議を申し立てるようにしてさらにビカビカと光り出すのだ。そろそろ視力の低下が本格的に心配である。


「あーもう、わかったってば…!」


少しイラッとしながらも、思い切ってギラギラと主張の激しすぎる文字に触れる。と、その瞬間画面は別のものへと切り替わる。

そこに表示されたものに、私は思わず目を疑った。


メインと言わんばかりにど真ん中にデカデカと描かれるキラキラとした何か。と、そこに被せるように表示された輝く「SSR」の文字。

そのサイドには同じようなものが文字だけ「SR」「HR」に変化して描かれている。周囲に散りばめられているのはハズレ枠だろうか。

画面下部中央。二つ並んだ「一回引く」と「十回引く」の表示。

背景がベタ塗りだったり装飾皆無のシンプルさだったりとクオリティは低いものの、それはどこからどう見てもゲームのガチャ画面だった。


………………なぜ?


ただ疑問が増えただけだった。

見た目からして素材が出るタイプのガチャに見えるが、ラインナップを確認できそうなものも見当たらない。

シンプルすぎるが故に本当に最低限必要な機能を残して他は全て消えてしまっている。

しかもガチャを引くためのアイテムが何なのか、よくわからない。見た目にはドングリのように見えなくもないが。

罠かもしれない、訳の分からないものを到底引く気にもなれず、画面を閉じようとして気付く。


あれ、これ、どうやって閉じんの?

それっぽいのが無いんだけど……、……まさかずっと開きっぱなし?

え、嘘、絶対嫌なんだけど。こんなの視界にチラチラチラチラ入ってくるのウザすぎる!


どうにか出来ないかと隅々まで探していると、ふいに画面内に新たなアイコンが生まれる。

右端に現れたそれには、メール通知のように赤い点がついていた。

これだと思いすぐにタップするが、元の画面に戻ったり画面が閉じることはなく、むしろ新たな画面が現れてしまった。


『チュートリアル!』

『ステータス画面の開閉には左手甲の紋章をこすること』

『確認したいものをタップすると詳細が出たり出なかったりするよ』

『前の画面に戻りたいときは右から左に大きくスライドすること』

『別ウィンドウを閉じたいときは上から下にスライドすること』

『わかったら、レッツチャレンジ!』


中身を一通り読み終えると、ウィンドウの真ん中に下向きの矢印が現れ、ピコピコと動き出す。最終行から察するに、閉じろということなのだろう。

すると、元のガチャ画面に戻る。怪しみながらも右から左に大きくスライドすると、確かに一番最初の画面に戻ることが出来た。

それならばと左の手の甲を擦れば、今度はフォンという電子音と共に画面が跡形もなく消えた。

しかし、未だ紋章とかいうのは光り輝いたままだ。

それにしても無駄に時間を消費してしまった。気にするんじゃなかった。この謎の紋章のことは後で考えるとして、今はあの子を早く探さなければ。


「リ――!ッゲホ、ゴホッ」


大声を出そうとすると咳き込んでしまうようだ。情けない。心なしか口内に血の味が広がる。落ちた時に噛み切ったか、もしかしたら声を張ったせいで喉が切れたのかもしれない。


ああ、どうしよう。


その時、左手の甲に光る紋章が一際強く輝いた。

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