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3.孤児院で暮らす者たち②

「そういえば、ラビってなんさいなの?」

「え?」


神経衰弱、じゃなくて柄合わせの三回戦が終わった時だった。

リニー……は最初から距離感ゼロだったから置いておくとして、他の子供たち、モニカとベルとも打ち解け始めた頃、モニカがそんなことを聞いてきた。

モニカはあまり表情が動かない、クールな子という印象だ。ウェーブのかかった茶髪に、少しだけ青っぽい緑眼。聡明そうな雰囲気の子だ。


「えーと、たぶん六さい…かな?」

「ふーん。じゃあベルとおなじとしだね。」

「えっあ…う、うれしい、な。同じとしの子、いなかったから…」


照れたように微笑む少女はベル。明るい空色の瞳を持つ、とんでもない美少女だ。あまりの美少女さに、直視を躊躇うほどだ。

人見知りなのか、最初の挨拶の時点では俯いていたので顔に隠れて顔が見えなかった。その髪も、初めは白髪かと思ったが、どうやら透明度の高い銀髪らしい。人形師が一生をかけて作り上げた至高の人形だと言われても驚かない程度には完成されている。


「二人は何さいなの?」

「ごさい!」

「よんさい。」

「四さい!?」


リニーの五歳は納得出来る。それっぽ過ぎるから。しかしモニカの四歳には思わず声を上げてしまった。こんなに落ち着いた、どこか大人びた子が、生まれてまだ五年も経っていないことに驚愕する。


「レーネおねえちゃんは、じゅうさんさいなんだよ!すっごくおねえさんなの!」


そう言って指をマルレーネに向けるリニー。それにも驚愕する。


あの子が十三歳!?あの見た目で!?雰囲気で!?

外国人…というかアジア人以外は見た目の成長が早いって聞くけど、ほんとにそうなんだなぁ……。


髪色だとか瞳の色だとか、そういうのは置いといて顔付きがアジア系でないことは確かだ。もしかしたら生まれも育ちも日本の可能性はあるが、十中八九、外国人だろう。

そこまで考えて、言葉も通じてるし第一これは夢だし、外国も何も無いことに気がつく。

ところで、この夢はいつ覚めるんだろう。


「レーネおねえちゃんはすごいんだよ!なんでもできるんだから!」


リニーが興奮気味にそう続ける。リニーはマルレーネのことが大好きなのだろう。その呼び方の通り、姉のように慕っているに違いない。


「あら、何でもは無理よ。皆それぞれ役目があるのだから。ミロは料理、ラルドとエドは力仕事、私は洗濯や裁縫という具合にね。」

「でもレーネおねえちゃんは、ごはんもつくれるじゃない。」

「ミロの方がずっと出来るってことよ。」


ミロというのは、先程厨房から出てきたピンク髪の男の子だったろうか。なるほど、料理担当だから厨房に出入りしていたのか。

話に出てきたラルドとエドというのは、まだ顔を合わせていない二人の子供のことだろうか。

そんなことを考えていると、コンコンと部屋の扉がノックされた。そのすぐ後に扉が開かれ、ひょこりと顔を覗かせたのは今しがた話題に上ったミロだ。


「昼食ができたよ。」

「ありがとう。あの二人は戻ってるの?」

「ちょっと前に帰ってきて、そのまま倉庫に向かったよ。多分もう食堂にいるんじゃない?」

「そう、よかった。じゃあ皆、行きましょうか。」


マルレーナを先頭に、私たちは揃って食堂に向かう。食堂には既に数人の人間がいた。

呼びに来たと思ったらすぐに戻ったミロ。シスター・ミーシャとはまた別の、恐らくこの人もシスターだろうなという女性。それから見知らぬ男の子が二人。


マルレーネは「座って待っていてね」というと、厨房の方へ行ってしまった。恐らく手伝いに行ったのだろう。ミロとシスターと思しき女性も、同じように食堂と厨房を行き来している。

残された私たちだったが、女児三人は慣れた様子でそれぞれの椅子に座っていく。机に合わせて大人用の高さの椅子ではあるが、前の部分が階段上になっており、一人で上り下り出来るようだ。少し不安定そうで、見ている側としてはかなりハラハラする。


「あっ……ラビのいす……」


最初にハッとしたように隣でそう発言したのはベルだ。続いて他の二人も気が付く。


「ほんとだ、ない。」

「ええっ!どうしよう!?」


辺りを見回すモニカ。あわあわとするリニー。

そんな様子で異変に気がついたのか、私としては見知らぬ男の子がリニーたちに話しかけてきた。


「おう、どうしたお前ら。」

「ラビのいすがない。」

「ラビぃ?何言って………誰だそのチビ?」


ちょうど椅子の死角になって見えていなかったらしい。顔を覗かせた私を視認し、いかにも「なんだコイツは」といった顔をする。

さらにその後ろからもう一人の男の子も出てくる。


「なんだ?チビって?」

「あたらしいかぞくだよ!」


リニーがドヤ顔で私を指さしながらそう紹介する。


「あの、ラビです。よろしくおねがいします。」


下げた頭を上げた時には、男の子二人は物珍しそうな顔をしていた。

二人の内、背の高い方が先に声をかけてくる。


「俺はエドゥアル。呼びにくいだろうからエドって呼んでくれ。」


エドゥアルと名乗った男の子は、銀色の長い髪を黒いリボンで後ろでひとつに束ね、耳にはピアスをしていた。エメラルドグリーンの瞳はつり目がちで鋭いが、かなり綺麗な顔をしている。美人という表現が似合う子だ。

特筆すべきはピアスの輝く耳。形が私が見慣れたものとは違い、上の部分が少し尖っていたのだ。


「オレはラルド!皆からはそんままラルドって呼ばれてるぜ!」


にかっ!と笑って自己紹介をするラルドは、藍色の前髪を目の下まで伸ばしていた。一応金色の瞳は見えているが、前が見づらそうである。

しかし、すぐに何となく察する。

ラルドから見て右頬に、大きな火傷痕があったのだ。目の下から口元にかけて、輪郭に沿うようにして赤くただれてしまった痕跡がある。

しかし、そんな痛々しい姿を感じさせないほど、彼は明るく、年相応の笑顔を浮かべていた。


「で、何だっけ?チビの椅子がないって?」

「チビじゃなくてラビ!」

「一文字しか変わんねーじゃねぇか。」

「なまえはちゃんとよばなきゃダメだもん!」


リニーとそんなやり取りをしているのはエドゥアルだ。エドゥアルは「はいはい」と言ってなだめている。


「椅子なら確か倉庫に余ってたろ。」

「でもアレ、確か大人用だぜ。ちっこい奴には使えねーかもよ?」

「あん?そうだったか?そうは言っても、今日は我慢するしかねぇだろ。」


エドゥアルとラルドが、ああだこうだと話し合いをしてくれている。その内エドゥアルがその場を離れ、少ししてから椅子を抱えて戻ってきた。

そのまま他の椅子の位置を調整し、机の一辺に割り込ませる形で私の分の椅子を設置してくれた。


「ほら、ラビ。」


エドゥアルは私の脇の下に手を添えると、持ち上げて椅子に座らせてくれた。最後に椅子の位置を机に寄せてくれるオマケ付きだ。

誰かにこんな持ち上げ方をされるなんて、子供の頃以来だ。持ち上げられて椅子に座らせられるまでは一瞬だったが、ここ最近で一番ワクワクした。


物理的に子供扱いされるのって楽しいもんなんだな。


そんなことを考えていると、エドゥアルが話し掛けてくる。


「それにしても何だよ、その土汚れ。泥遊びでもしてたのか?」

「あっ…これは、その…」


自分の口で不法侵入したとは言い辛い。口篭る私を、首を傾げながら怪訝そうに見つめるエドゥアル。


「………ま、言いにくいことなら別に言わなくてもいい。何にせよ、町でお前の着替えを買ってこなきゃな。昼飯の後にでも行ってきてやるよ。」

「あ……すみません、おねがいします。」

「おう。ド丁寧なチビだな。ここに来たばかりのベルを思い出すぜ。」

「えっ、わ、そんな……わたし、そんなだった…?」

「こんなだったよ。なぁ、ラルド。」

「ああ、確かにこんなんだった。」


そんなやり取りを見ている内に、マルレーネが今度はスープを各席に配膳し始める。

先程から食器を各席に配ったり、パンの入ったカゴを設置したりする時にもテキパキと動いていたが、油断するとこぼれてしまう物を運ぶのにも同じ速度で動いている。

体幹がしっかりしているというか、バランス感覚がかなりいい。途中から配膳に参加したミロと比べても、その差は一目瞭然だ。ミロがこぼさないように慎重に一皿運んでいる間に、マルレーネは二皿同時にを二往復やって見せる。

あっという間に人数分のスープが配られたところで、教会に繋がる扉から司祭とシスター・ミーシャがやって来た。同時に、厨房内からももう一人のシスターらしき女性が姿を現す。

その全員が席についたところで、司祭が声を上げる。


「では皆さん、女神様に感謝を……と言いたいところですが。今日から新しい家族が増えました。もう知っている人も居るかもしれませんね。ですが改めて、我々の新しい家族を歓迎しましょう。そこに座っている子が、我々の新しい家族。ラビです。皆さん、仲良くするように。」


司祭の締めの言葉で私が頭を下げるのと、私以外の全員が「はい、司祭様。」と言うのは同時だった。


「それでは、女神様に感謝を捧げましょう。」


そう司祭が促すと、皆手を組み黙祷の姿勢をとる。それを見て、慌てて真似をした。


「ラビはここでの食事前の感謝は初めてですね。僕の後に続いて、僕の言葉を繰り返してください。『我々が飢えぬよう見守ってくださる女神様』」

「「『我々が飢えぬよう見守ってくださる女神様』」」

「『本日も我々は食事にありつくことが出来ました』」

「「『本日も我々は食事にありつくことが出来ました』」」

「『心からの感謝を捧げます』」

「「『心からの感謝を捧げます』」」

「──では、いただきましょうか。」


最後の司祭の一言で、全員が一斉に好きな料理に手を出し始める。と言っても、パンとスープのみだが。

それにしても随分と長ったらしい「いただきます」だった。これを毎食ごとにやるのかと思うと、少々面倒だと思ってしまう。


さて、私もいただくとしよう。

最初に口にしたのは目の前にあるスープ。見た目はジャガイモと何かしらの葉物野菜が入った色の薄いスープだったが、実際口にしても味の薄いスープだった。味付けは僅かな塩で、後は素材の味……みたいな。

続いてパンを取りたかったのだが、何せ腕が短くカゴに手が届かなかった。しかしそこは、隣のラルドが取ってくれた。ありがたい。

よく見たら小さい子と、大きい子もしくは大人が交互になるような席配置になっている。こういう時のために考慮されているのだろうか。

取ってもらったパンは、手触りとしてはハード系のもので硬い。見た目は丸く黒っぽく、大きさは今の私の拳三つ分程でそこそこのサイズ感だ。

控えめに齧ってみた。が、歯で少し押し潰せるだけで、噛み切ることができない。ハードの中のハードパンだ。

続いて手で千切ってみようとすると、やはり持ったところを手で押しつぶすだけで千切ることなど出来ない。さすがに硬すぎやしないだろうか。

他の小さいメンバーはどうなんだと覗き見てみるが、何と全員が直接食いついていたり、千切ってスープに浸したりを自らの手でしていた。リニーはわかる。モニカもまぁわかる。しかしか弱そう代表ベルまでが千切ってスープに浸すことが出来るだなんて……。

ショックで固まっていると、その様子に気付いたラルドが話し掛けてきた。


「食わねーのか?」

「あの、パンがかたくてたべれないの。」

「は?」


驚いた表情で私が手にするパンをジロジロと見てくる。小さな歯型や、両端に押し潰した痕のある可哀想なパンである。


「お前、めちゃくちゃ弱いんだな。ほら、貸せよ。」


そう言うと、ラルドは簡単にパンを一口大にむしっていく。むしった物は私のスープの中へ。


「これでちょっとは食いやすいだろ。」

「あ、ありがとう。」

「いいよ。早く食っちまえ。あんまり遅くなるとレーネにうるさく言われるんだ。」


最後の言葉だけは潜めて、私の耳元で。

なるほど、確かにあまり遅くなっては迷惑だろう。私はスープを吸ったパンを掬い、口に運ぶ。

まだ硬かったが、確かに先程よりは柔らかい。少なくとも、どうにか飲み込めるくらいに咀嚼できる程度には柔らかい。しかし、顔の筋肉が鍛えられそうだ。


次々と皆が食べ終わる中、必死に咀嚼と嚥下を繰り返し、予想通りのビリで食事を終えた。

終えると同時に、声が掛かる。


「ちゃんと最後まで食べれてえらいわ、ラビ!」


ニコニコ笑顔でそう言うのは、ミーシャじゃない方の暫定シスター。


「あなたが食べ終わるまでは待とうと思ってたの。私はエレナ。シスター・エレナよ。好きに呼んでね?」


やはりシスターの一人だった。

大人っぽい雰囲気のミーシャとは違い、エレナはどことなく子供らしいあどけなさを残しているように感じる。顔の作りは大人だと思うが、その親しげな雰囲気でいい意味で子供らしいと感じるのだろう。


「うふふ、挨拶が出来てよかったわ。そうだ、もう椅子から下ろしてしまって大丈夫?」

「だいじょうぶです。」

「じゃあ、下ろすわね。よいしょっと……あら?」


すとんと簡単に下ろしてもらえたが、エレナは不思議そうな顔をしている。そして、こんなことを聞いてきた。


「ねえ、今日はお腹いっぱいかしら?」

「え?はい。おなかいっぱいです。」


何度も咀嚼した影響で、満腹中枢がこれでもかというほど刺激されている。だからお腹はいっぱいだ。


「それなら良かった!夜もきちんと食べるのよ?」

「はい。」

「いい子ね!それじゃあ、また夜に。」


エレナはそう言い残し、私の食器を持って厨房へ消えていった。

代わりに、大きな音を立てて厨房じゃない方の扉が勢いよく開く。


「ラビー!たべおわった!?」


食堂に入ってきたのはリニー、それから背後のシスター・ミーシャだ。

リニーは「こら、静かに開けないと壊れてしまうでしょう」と注意され、ハッとしたように謝っている。


「ねーねー、おそとあそびいこ!」

「そと?」

「そう!いこーよー!」

「えっと…」


チラ、と後ろのシスターの様子を伺う。それに気付いたシスターは、こくりと頷いた。


「遊ぶと言ってるけれど、ラルドの手伝いよ。外で木の実を割るの。」

「たのしいんだよ!」


なるほど、そういうことなら。と、リニーに一緒に行く旨を伝える。

するとパァァッと途端に嬉しそうな顔となり、ぴょんぴょんと跳ねる。この子の方が余程ウサギみたいだ。


「こっちこっち、はやくぅ!」


ぐいぐいと引っ張られて連れてかれるのは、男女部屋がある方だ。突き当たりまで行くと、これまた扉が存在した。

扉の先は、すぐ外に繋がっていた。庭のような、小さな広場のような場所だ。


「お?来たか。…あれ?ラビも一緒なのか?」


私たちに気付いた先客数人が顔を上げる。その内の一人、ラルドが声を掛けてきた。

ラルドの周りには、何やら見慣れない物が設置されていた。

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