第三話 エルフの里救出作戦
2時間くらいが経過し、ウルガ・ダスト兄弟と俺を乗せた馬車が目的地に止まる。
兄弟は俺のいる荷台の方に来てリュックをあさり始めた。
「兄貴、俺のサンドイッチが食われてる。誰だよこんなひどい事する奴!」
弟のダストは悔しがり、地団駄を踏む。
しまった、ここで犯人探しをされたら捕まってしまう……
これでは、俺が村を助けるどころか、俺が助けを求める羽目にーーー
「タヌキか熊が食ったんだろ。メソメソしてる暇があるなら手伝ってくれ」
「ぜってぇ人間の仕業だろ」
ダストはブツブツ文句を言うが、兄貴の手伝いをしに馬車を離れる。
「今だーーー」俺は馬車を飛び出し、茂みに隠れる。
そして、エルフの里の人たちに襲撃を教えるため、里の入口に向かうが既に兄弟達の仲間のハンターが監視している。
「突破は難しいか……」
俺はハンターたちが村を襲撃するまで、機会をうかがうことにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「しまった寝過ごした!!!」
夜の9時には活動限界を迎える体を睡魔に襲われてしまった。赤ちゃんの体とは何て不便で融通が利かないんだ。
俺は慌てて村の方に駆け寄るが、すでに火の手が上がってしまっている。
「間に合ってくれ」
崖から転げ落ちるように山を下り、気合で里の入口を通過する。
俺の期待とは裏腹に、ハンター達により里のエルフはほとんど捕まってしまったようだ。
残るは、里長と思われる白髪の年老いたエルフとその取り巻き4人。
「人間共め、この卑怯者」
エルフの里長は悔しそうに地面を叩く。
「卑怯も何も、力の差ってやつだよ。どうせ男供は売れないからこの場で処分する」
「おのれぇえーー死ねえーー」
里長の手から魔法陣が発動し、氷の矢がウルガの胸に命中するが貫通して地面に突き刺さる。
「やはりダメか。アルファイト……」
「そう、そのアルファイトが里全体を覆っている限り、ここでは魔法は使えない。魔法の使えないエルフなんて、耳が少し長いだけの人間と変わらないってな」
ウルガは嘲笑いながら手にもっている血の付いたナイフを舐める。
アルファイトだと……ウルガの話によれば魔法を無効化できるらしいが、あれのせいでエルフは魔法が使えないのか。作戦を練り直さないとだな……
だが、早く助けなければ、多くのエルフが殺されてしまう。
ガサガサーーー茂みの向こうから草の擦れる音がする。まさか、奴らの仲間が……
「ガヴェイン!!」驚いて思わず声を出してしまった。
「お前……人間の赤ん坊!」
「大変なんだ。里が、里がハンターに襲われて……」
「お前、赤ん坊なのに喋れるのか?」
しまったーーー自分が赤ちゃんだということを忘れていた。
ガヴェインはまだ現実を受け止めきれていないようだ。だが、今はこうしている場合じゃない。
「手を貸してくれガヴェイン。みんなを助けるんだ」
「お前戦えるのか? 俺一人で助ける。お前はここで……」
「アイツらは魔法を無効化できるんだ。だから、俺の考えを聞いてくれ」
俺の真剣な眼差しにガヴェインは渋々俺の作戦に同意する。
さあカードは全て揃った、これから勝負といこうかチンピラ兄弟。
ガヴェインと俺は作戦通りに行動する。まずはガヴェインによる単騎での正面突破。
「大変です。里の入口を見張っていたやつらが全員やられました」
「どうした? なにがあったんだ?」
「それがーーー」
手下がウルガに報告していると、ガヴェインがハンターの首根っこを掴んで現れる。
「やってくれたなぁーー!! エルフ」
「お前たち覚悟はできてんだろうな」
ガヴェインは魔法を使わず、剣での戦闘をおこなう。
パンーーー乾いた銃声音があたりに響き渡る。それと同時に一人のエルフが血を流しながら倒れる。
「なんてことを……」
「剣を捨てておとなしく投降してもらおうか? 次はこの嬢ちゃんに死んでもらう」
それはガヴェインとアンナの一人娘だ。
ガヴェインはおとなしく剣を捨て、投降する。
「それでいい。連行しろ」
ウルガは手下に命令してガヴェインを牢屋に入れようとする。
(あとは、頼んだぞ、赤ん坊……)
ガヴェインは俺との作戦内容を思い出す。
「作戦だと?」
「はい。ガヴェインさんには、できるだけハンターたちの人数を減らし、一か所にまとめて欲しいんです」
「敵陣に突入しろと……」
「はい、捕まってもかまいません。できるだけ時間を稼いでください」
「お前をどうやって信じろと? そもそもお前はこの作戦にどれだけの成功率を出している?」
「信じるも信じないもガヴェインさんの自由です。成功率は半分よりちょっと上くらいです」
「バカバカしい……悪いが俺はその作戦には乗らない」
「残念です。あなた一人で何ができるんですか?」
俺はあえて挑発してみる。この人の性格を考えればこれが一番効果的だ」
「俺一人で……」
この人も気づいただろう。俺と手を組むしか道はないことに。このままいけば、売れないエルフは処分され大勢の仲間が死ぬことになる。
「分かった」
ガヴェインは渋々同意する。俺もガヴェインも目的は一致している。
◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、俺もガヴェインが戦っている間に準備をすませてしまおう。
俺の役割はアルファイトと呼ばれる魔法を無効化する装置の破壊。
俺は里の裏にある、ハンターたちが守る赤い光を放つ装置の元に向かう。
「おじさん達初めまして」俺は白昼堂々、ハンター達の前に姿を現す。
「誰だ、お前? 赤ん坊…」
ハンター達は俺の姿を見て、さぞ驚いただろう。
「きっもぉー、赤ん坊が喋った!?」
そっちかよ……まあいい。俺は気を取り直して、馬車で世話になった兄貴に礼を言う。
「サンドイッチごちそうさまでした。美味しかったです」
「お前か俺の手作りサンドイッチ食ったのーーガキだからって調子乗んなよ」
ダストの手作りなのかよ…なんかばっちい気がする。衛生的に悪そう…
「お前、今鼻で笑ったな。とっ捕まえて泣かせてやる」
ダスト達ハンターは俺を捕まえるためにアルファイトの範囲外に出ようとする。
これを待っていた。俺を捕まえるために仲間を連れて範囲外に出ることを。
「ちょっと待て、お前ら」
ウルガは俺に向かってくる仲間を制止させる。
「何、ガキ一人にむきになってんだ」
「兄貴、アイツが俺のサンドイッチを……」
ウルガはダストの言葉を聞き流し、高笑いする。
「ははははーー面白いな、おチビ。お前魔法使えんのか。だから、そんなに強気なんだな」
(チッ)変な所で頭が切れるな…コイツ
だが、頭の切れるウルガなら急いで仲間を連れてこちらに戻って来てくれると思った。
これは陽動作戦なのだと感づいて。
俺は口元に小さく笑みを浮かべる。
ポケット中の女神のカードを強く握り締めて俺は言う。
「天よ愚か者どもを焼き尽くせーーージオ・メテオ」
「俺たちに魔法は効かないんだよ、おチビちゃ……しまった!!」
ウルガやダストは必死にアルファイトの装置を守ろうと駆け寄るが、もう遅い。
大きな火の玉はアルファイトの生成装置を粉々にし、里を覆っていた障壁は消えてしまう。
さあ、後はエルフのターンだ。俺は巻き添えを食らわない内に退散させてもらう。
ウルガが後ろを振り返るのと同時に、エルフ達により無数の魔法陣が展開される。
俺が離れて数分後には、山中に彼らの悲鳴が響き渡った。
アルファイトその正体は、生物に対する魔法を無効化する装置。
里長の魔法がウルガの心臓を貫通した後、地面にはしっかりと刺さっていた。
なんだかハンターたちが気の毒になってくるな……
まあ、悪いことをしていればいつかは自分に返ってくるのかもな。
結局、ハンターたちは都から来た衛兵に引き渡された。特にウルガとダスト兄弟は、ぼろ雑巾みたいになっている。
ガヴェインは俺のことも都に連れて行かせようとしたが、俺はしれっと揺り籠の中に戻ることに成功した。
のはいいんだが……またもや、顔中を赤ちゃんに舐め回されたのは、計画にはなかった。




