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第二話 転生は赤ん坊から

 



 目の前に広がる広大な大地、透き通った青い空。まさしくここは異世界だ。

 何度繰り返してもこの瞬間は緊張する。

 自分の体を気持ち悪いくらい撫でまわす。なぜかって?これは異世界転生における最重要事項だからだ。

 「人間……だ」俺は安堵のため息をつく。


 最悪のパターンは数多く経験した。奴隷や囚人など人間の中でも難易度の高いのもあるが、昆虫や動物、魚などの自然のものに転生するとかなり厄介なことになる。


 ひとまず安心した。だが、周りを見渡すがここには人口物など何一つない。


「とりあえず、この世界を歩き回ってみるか」俺はそう決心して重い腰を上げるが、前に倒れてしまう。

 おかしいな。

 今回は人間のはずなのに……

 もう一度、足に力をいれて立ち上がるが、生まれたばかりの小鹿のように足をプルプルさせ、また転んでしまう。


「なんでだよ……」

 まさか、足に何かしらの病が。だが、足を見るがなにも違和感はない。

だが、「おかしい」何かに気づいた。

 足が短すぎる。短足とかそういうレベルの話じゃない。


 俺は這いずって近くの水たまりに自分の姿を映す。

 これは……

 お腹はポッコリしていて、

 皮膚は柔らかく、

 手はW字で、足はМ字。

 首はグラグラし、まだすわっていない。

 おまけにおしめのダブルパンチ。誰かに見られると思うと恥ずかしい……「えっ?」


「俺……赤ちゃんに転生したのか!?」


 俺は自分に起きた出来事に唖然としていた。

 今までの転生では、小さくても小学生くらいの年齢からで、赤ちゃんの転生経験はゼロ。

 なんてこった。これじゃあ、まともに歩くこともできない。


「暇だ……」俺は草を引っこ抜いたり、自分の手相をみたり、落ち葉を千切ったりして誰かが通りかかるのを待つ。誰かって誰だ……。俺の親とか? 今頃心配して助けに来るとか。


 日が落ち、夜がくる。お腹も減ったし、体も冷えてくる。

 明るい星空と青い月を見て気を紛らわせる。が効果は15分も持たなかった。


 グウゥゥゥゥーーー

 お腹減った。俺、上裸だぞ。ハクションーー寒い。風邪引きそうだ。


 自分が赤ちゃんだと分かってしまったことで、本能が自分の意思とは反対に赤ちゃんの得意技を使ってしまう。

「えーーん えーーん えーんえんえんーーー」

 なんて醜態だ。前世の記憶がありながら赤ん坊をすると、こんな恥ずかしい気持ちになるのか。

 涙と鼻水を垂れ流し、俺は夜通しわめき散らかす。


「あなた、ここに赤ちゃんがいるわ」

「なんてことだ。よりによって人間の赤ん坊なんて」

「あなた、一日だけでも……」

「しかたない。今夜だけだぞ」

 声がする。誰かの声が。俺の泣き声に誰かが助けに来てくれたのだろうか?

 俺は女性に抱きかかえられる。温かい。


 その温かさが俺を眠りへといざなった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆


「うぅーーまぶしい」

 俺はまぶしい太陽の光で目を覚ました。

 木造の天井に、窓から光と風が入ってきてとても心地良い。

 さらに、俺の寝ている揺り籠のふかふかさと言ったら、たまんないな。


 しかし、ここにはもう1人の住人がいる。人、いやエルフの赤ちゃんか?

「あっぷ~~あぁーー」

 俺は顔を舐められ、ヨダレが目の中にまで入ってくる。なんてやつだ。おまけに喜んでやがる。

 だが、俺が「いそうろう」なのだから文句は言えない。


「目が覚めた?」

 部屋の中に女性が入って来る。おそらく俺を昨日拾ってくれた人、いやエルフだ。歳は20歳前後か?若いな……。 それよりデカい。何がとは言わないが。

「おはようのキスだよ」

 彼女は俺と隣の赤ちゃんのホッペにキスする。なんでこんなに顔を赤くしてんだ俺よ。勘弁してくれ……


「アンナ子供たちの様子は?」

 夫と思しきエルフが妻に話しかける。

「ええ、それで会議の様子は?」

「人間の子供だぞ、悪くはないが、良くもない。今は半々だ」

 話の内容から俺の事を話していることは見当がつくが……

 あまり良い結果でないことは確かだ。


「今日の昼、俺たち守護者が人間の都市に送り届ける。ここで住まわせてやってもいいが、人の子は人の手で育ててやるべきだと俺は思う」

「そうね……おいで」

 アンナは俺を抱きしめるが、苦しくて呼吸ができない。

「元気でね」彼女はそう言い、夫に俺を渡す。優しくて細い腕から、たくましくて太い腕に。俺が女の子だったら惚れてしまう筋肉をしている。


 人間の都市か……どんな所だろうか。できれば人の少ない所がいい。

「ハァーー」いつまで経っても人込みの中は息が詰まるからな……



 俺と守護者5人は馬車に乗る。なんとも狭いもんだ。わざわざ一台の馬車に全員で乗ることはないのではないか?


 そうして馬車に揺られること3時間。あたりは暗くなり馬車が止まる。


「ガヴェイン、あたりはもう暗い。今日はここで休もう」

「ああ、そうだな。夜通しの移動は危険だ。全員ここで夜を明かす。準備しろ」


 馬車に乗っていたエルフ達は焚き火の準備や、寝巻きの支度をし始める。

 夫の名前はガヴェインって言うのか。覚えておいて損はないだろ。


「遅くないかアイツら」

「もう30分も経つのに戻って来ないな」

 薪を拾いに行った2人のエルフが戻ってこないのだ。

「俺が見てこよう」

 そう言ってガヴェインも探しに行くが、1時間経っても帰ってこない。

 残った2人のエルフも探しに行ったきり帰ってこず、とうとう俺1人になってしまう。


 しかし、時刻はまもなく9時。赤ん坊の体には限界がきてしまう。

 俺は朝には帰ってくると考え、いったん寝ることにする。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 なんで帰って来ないんだよ……

 朝になり目を覚まし、周りを見渡すが誰も帰ってきている様子はない。

「探しに行くか」

 ハイハイで森を探すが、なんとも情けないなこの格好。



「おい、これ美味いな弟よ」

「美味いですね、兄貴」

 なんだコイツら?そんなことより朝から肉と酒って…なんて羨ましい。いや、けしからん。

 朝ごはん食べてないしな……腹減ったなぁ。

 アイツらに頼んだら肉分けてくれないかな?このキュートな見た目を使って肉を分けてもらうか?

 いや、無理があんだろ。俺、赤ちゃんだぞ。赤ん坊に肉あげる大人がどこにいる。

 ここはプランBでいく。

 俺はこの仲良し兄弟の馬車の中にあるリュックを見つける。

 さて、どんな食料を持ってるかな……


 ゴソゴソーーーおっと、美味そうなサンドイッチ発見!

 俺は口に押し込むようにして食べる。なにぶん歯が生えていないから、ほぼ丸飲み状態だ。

「美味い!」なんて美味いんだ。それにしても誰が作ったんだ、このサンドイッチ?

 奥さんの手作りサンドイッチとかか?


 ガラガラーーー車輪の回る音が聞こえてくる。食べるのに夢中になりすぎて、気づくと俺を乗せた馬車は動き出していた。

 まあ、このまま街にでも連れて行ってもらうかーーー


 そんな安易なことを考えていると、なにやら物騒な話が聞こえてくる。

「おい、首尾は万全なんだろうな?」

「はい、ウルガの兄貴。準備は完璧です。エルフの里の結界は全て破壊しておきました」

「さすがはダスト。優秀な弟をもって俺は嬉しいぞ」

「あとは今夜の11時にエルフを捕まえてーーー」

「高値で売ると。こんないい商売やめられないぜ」


 ア~ハハハハ~~~ウルガ・ダスト兄弟の楽しそうな笑い声が森中に響き渡る。

 俺は叫び声を必死に押し殺しながらエルフの村に向かう馬車に揺られる。


 これは俺に対するこの異世界最初のイベントなのであった。








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