第一話 100回目の転生
記憶が戻っていく、楽しい過去、辛い過去、悲しい過去、嬉しい過去。
「はあはぁはぁーーー」
俺は勢いよく起き上がる。軽い脳震盪をおこし、気持ち悪い。ここは……何度も来たことがある。あたり一面透き通った世界。思考の世界だったか。
「やぁ、ホーキンス。元気だったか」
悪魔のささやきが聞こえてくる。とうとう頭が完全にいかれたようだ。
「おい、聞いてんのか」
その一声で俺の頭が声の正体に気づく。
「よぉ、女神」
白くて長い髪、絵に描いたような女神が俺の目の前に現れる。コイツとは古い縁だ。
「あのさぁ、私を呼び捨てにしないでもらえる? これでも、誇り高き女神様なのよ。様をつけろ様を!」
俺は女神の戯言は無視して状況を整理する。頭を軽く叩き、頭を一度空っぽにする。
俺は女子高生を庇い死んだ。
そして、ここにいる。
地獄とは思えないなここ……
「記憶が完全に戻っていないのか、おまえ」
女神と思しき人物は、俺の頭をもっている杖で叩く。
何すんだコイツ、人の頭をいきなりどつくなんて。親になんて教育されてんだ……あれ?
視界がゆがみ俺の中に大量の記憶の波がおしよせる。
俺は完全に自分の記憶を取り戻したーー
俺の名はラムズ・ホーキンス。 異世界転生を職業にする者だ。
なんて記憶を取り戻すたびにそんなことを言っていたっけな。
俺はこれまで、99回死に、その数だけ異世界転生し、そのたびに世界を救ってきたと言っても過言はない。時に勇者、時に魔王、時に神様やったこともある。
だが、俺は記憶を取り戻すたびに思う。前世に戻りたいと。人間は生に執着する。ここにいる自分は死んだ人間で、もうお袋の死を見届けることもできない。親不孝だ俺は……
「後悔しているのか?私との契約を」
女神との契約それは、転生して世界を救うことだ。だがもし、俺が異世界で死ねば新しい人生は歩めない。それは、肉体の死ではなく、魂の死だから。
「いいや、後悔も未練もない」
また、俺は自分に嘘をついた。だが、これでいい。俺は初めて転生した時の気持ちを思い出す。初めての転生で、俺は勇者になった。ゲームの様だった。これはいい夢で俺が世界の主人公、そう思うことにしている。
自分の願望をかなえてくれる、楽しい夢。
「そうか、覚悟は決まったようだな」
「あぁ、今回も世界を救う」
女神は何か可笑しかったのか笑う。だが、俺もいつもの調子を取り戻し始める。
この仕事はそれぞれの世界に起きた問題を俺を転生させて、解決させる、女神は調律者とか言ってた職業だ。
他のやつは一回でギブするほどきついそうだが、俺は楽しい、もはや趣味の領域ってやつだ。
「髭を剃ったらどうだ?」
女神は俺の身だしなみが嫌いなようだが、気にしない。
「人生の半分以上は転生に捧げてるから、全然気にならない」
女神は呆れながらこちらを見るが、慣れれば恥ずかしくもなんともない。むしろこうでなければ俺らしくない。
「おい、ひげ男。準備できたぞ。」
はいはい。そんな軽い返事で扉の前に立つ。この扉をくぐればその向こうは異世界だ。
「毎回、同じこと言うのも飽きたけど、死んだら戻ってこれないからね」
女神の毎度お馴染みの忠告を頭の片隅に入れる。
このセリフも最初は恐怖そのものだったが、俺くらいの次元になると、このスリルもたまらなく面白いのだ。
「あのさ、いつものカードもらってないけど…」
「いるのカード? 毎回変な使い方するから、嫌なんだけど」
「あれも、異世界に行く楽しみの一つだから欠かせない」
こればかりは俺も譲れない。俺は女神から3枚のカードを受け取る。このカードはのちのち、異世界ライフを満喫するのに使用させてもらう。
「さっさと行ってこい!」
「おい、ちょっと急かすなよ」
「これ以上お前と喋っていると、変な要求されかねない」
そう言うと、女神は俺を笑顔で扉に突っ込んでしまう。なんかウザがられてる俺?
そうこうしているうちに、転生のまばゆい光が俺を包み込み始める。
「はいはい、今回もご協力いただきありがとうございます。少しは身の程をわきまえろ」
言い方に棘があるんだよ。棘がーー
目が覚めると俺は異世界にいた。




