絶対に追放したい王子と絶対に追放されたくない悪役令嬢が最後に幸せになる話
「悪役令嬢、君は追放だ。この国から、いやせめてこの城から出て行ってくれ」
ある日、わたくしの婚約者である王子が顔を顰めながら離婚を告げてきた。
「嫌ですわ。断固として出ていきません。理由もありませんし」
そう、私は別に悪いことはしていない。何もしていないのだ。だから離婚を宣言されるいわれはない。
「根拠はもちろんある。だから出て行ってくれ」
「出ていきませんわ。何もしていませんし」
「何もやってないからだよ! お前、俺と結婚してから働いたか!?」
「お前? 今わたくしのことをお前っておっしゃいました? 殿下、確かに殿下はこの国の王子ですが、言葉遣いはきちんとしませんと……」
まったく、殿下は言葉遣いが悪すぎる。これでは追放されるのは彼のほうではないか? わたくしは真っ白なのに、困ったお方だ。でも上手く流されてくれて助かった。こういう単純なところが大好きだ。
「こんな時だけしっかりするの止めてくれ! 悪役令嬢、お前はいつも俺のことを【ウチの旦那はさ~】って友人と話してるじゃないか!」
「誰ですの!? そのようなデマを流したのは!? 今すぐに連れてきなさい!」
もしかして正統派ヒロインさんがチクったのか? 心当たりあるのは彼女しかいない。だって一番仲のいい親友なのだから。
「お前の親友の正統派ヒロインちゃんだよ!」
「やはりあの下民が話したのね! 仲よくしてやったのによくも……覚えてなさい!」
「待て待て待て、もう流されないからな!? いいから出て行ってくれ! それと正統派ヒロインちゃんと仲良くしてもらってるのは悪役令嬢のほうだろう? 彼女しか友達がいないくせに、これ以上迷惑をかけて絶交をされたら誰も残らないじゃないか!」
「ちっ」
上手く流そうとしたらさすがに学習したらしい。この王子、戦いの中で成長している。
「今舌打ちした?」
「してませんわ」
何か手はないだろうか? 実家に帰されたりなんかしたら勘当されてしまう。そうなっては箱入り娘のすねかじりニートなんて娑婆で三日と生きていけないだろう。そうなっては不味い、何とかそれだけは防がないと。
「わかったなら出て行ってくれ。多少の金はやるからお願いだ」
「お義父様は毎朝五時に起きて日課のウォーキングを、お母義様は夜七時になると書斎で読書。義妹様は夜八時には手紙を書くために自室へ。貴方はいつも夜十時には就寝しますわね。警備の交代時間は朝の六時と……」
「まて、俺と俺の家族に何をするつもりだ? 手を出すなよ?」
「あら、何もしませんわよ?」
今はな。
「しばらく護衛を強化しておくか。じゃあ荷物の整理をしておけよ? 明日には出て行ってもらうからな」
ちっ、これでも駄目か。
「嫌ですわ! わたくしは絶対に出ていきません! 出ていきませんからね!」
「断る! もう我慢の限界だ!」
「嫌だいやだイヤだ! 嫌ですわ! 出て行くくらいなら死んでやる!」
そう伝えて窓から飛び降りようと足を掛ける。
「……」
何も言わない殿下。
「――よいしょっと」
諦めて窓際から離れるわたくし。ここまで冷たくされると泣きたくなってくるな。
「やだやだやだ! 出ていきたくありませんわ~!」
とうとう打つ手が無くなり、駄々をこねる。もう手はこれしか残されていないのだ。
「……」
無言の殿下。
「やだややだややだやああああああだああああああ……!」
チラリと殿下の方を見る。
「……」
なおも沈黙を貫く。もはや死んでるんじゃないかってくらい無表情で恐怖すら感じる。
「やだややだややだだ――うぇ、ごほ! ゲホッ! ゲボゥ!」
ヤバいむせた、苦しい!
「……はぁ、わかったよ。悪役令嬢は俺が居ないと駄目だからな」
とうとう心が折れたのか、優しい顔をしてわたくしの背中をさすってくれる彼。
計画通り。わたくしの勝ちね。
勝利を確信し、にやりとわたくしは口角を上げた。
「……将来の為に介護も覚えた方がいいからな。ちょうどいい」
殿下の怖い言葉はわたくしの耳には届いていなかった。
圧倒的ハッピーエンド!
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