data17.決意前日の夜明け
どうも、新年明けましておめでとうございます。
筆の進みが遅いどころではない私です。
あまりに忙しいと書いてる暇もなくなるのだと実感した一年になりました。
さて、グリーンフォールの物語としてはそろそろ終わりに近づいてまいりました。
流石に今年中には完結させますので、どうかお待ちください。
空は見えず、岩肌の天井だけが目に入る。体を起こして伸ばすと、ぱきりと骨が鳴る音がこだました。
ザラニック「おはようラッドくん、眠れたか?」
牢屋の外から漏れた松明の光が彼の顔を照らす。翡翠色の瞳は光を反射してこちらを見つめていた。
ラッド「おはようございます。ザラニックさん。」
そう応えて、意識が覚醒する。こうして俺は今、普段とは違う世界にいるのだと認識した。周囲は湿った岩肌ばかりで、出入り口であろう方には牢屋のように鉄格子が並ぶ。広さで言えばベットが縦に四つずつ、横に二つずつ程度。縦長というべきだろうか。
ラッド「...ネールさんは?」
ザラニック「まだ、寝ているよ。安心したからどっと疲れが出たんだろうね。」
そう言って彼は空洞の奥の方へと目をやる。複数名いるうち、かすかに一人の姿が見えた。
ザラニック「それじゃ、起きたところで悪いけど、ここでの1日を説明しようか。」
基本的に全ての時間が決められていると考えられる、その生活。ご飯は1日に朝昼晩にあたる3回が配給される。奇妙な事に、配給は人が行っているわけではなかった。地底湖から触手が伸びてきて、何処からかお盆とともにパンなどが人数分運ばれてくる。そしてお盆の上から物が無くなり次第、またまた触手がお盆を持っていき、何処へ向かう。その先を出た人はいないそうだ。
そうした中で、基本的には牢の中で待機するしかない。唯一外に出られるのは"労働"の際のみ。
篝火に照らされたなだらかな石の道を進む。天井から水が垂れ落ちて時々道の上で飛沫をあげる。少し遠くのほうに光るものが見えた。魔結石だろうか。
ラッド「労働、って?」
そうネールさんに聞くと、左頬に手を置いて話し始める。
ネール「うーん、何をさせられているのか、よく分からないのよね。先に向かえば様子は分かると思うけど...。」
ふと、彼女はあれと指を指し示す。
そこにあったのは大量の魔結石、というには少し小さくも感じるようなものがあった。
ラッド「......魔結石って、なぜこんなに?」
ネール「そうね、敢えて言うとしたら、育てているのかしら。」
「育てる?」と聞き返すと、彼女は話を続ける。どうやら魔力を込め、魔結石を大きくさせる。この作業をMPが0になるまで込めなくてはならないのだ。
それを不思議に思いながら、大量の足へと近づく。高密度の魔力がその周囲を満たしているのが感じられる。そっと、石を一つ手に取る。
ネール「とりあえず、やってみてね。」
はい、と一言ののち、手をかざす。
瞬間、魔力を送ると結晶が肥大化する。小さな結晶に継ぎ足されていくように、その結晶は形を変え、手のひら大の大きさへと変貌した。
ラッド「は────?」
そしてこれは、異常でもあった。魔結石は魔力を込めても大きくならない。長い年月を経て形を成すものが魔結石というものであり、少なくとも彼はこのようなものを知るはずがなかった。
ネール「ね?変なものよね、私もこんな石は初めてみたの。奇妙というか、生き物みたい。」
そんな感想を言う彼女に、一つ質問をした。
ラッド「...ところでこれをMPが0になるまで行うとは言いましたけど、それは誰が?」
それを聞いた彼女は「それを見て。」と近くの看板を指差す。
看板に書かれたことは次の三つ。
・この石に魔力を込めよ。
・石は右の箱に入れて運び、湖へと捧げよ。
・余力を残すことなかれ。
そこはかとなく腹が立つ。偉そうな文、当たり前かのような命令形の数々にうんざりした。決まりと言えど、上から目線は苦手だ。そしてふと疑問が浮かぶ。
ラッド「これを守らなかった人っていましたか?」
ネール「まぁ...いた...けど...。」
彼女の顔に影が差す。なんとなく良い結果ではないことは伺える。
ラッド「...あの、あまり無理にとは言わないんで。」
ネール「いえ、いいわ。話しましょうか。」
一人。名前も知らない一人の男が労働に勤しんでいた。ある日魔がさしたか、MPを使わずに手を抜いてしまったんだそう。その日のうちに彼はいなくなって、翌日の労働時間に少し話題になったらしい。
次の日、帰ってきた彼は衰弱していた。牢屋の前で亡霊のように立つ彼に気づいた一人の男は腰を抜かした。もう一人はその驚いた声で目を覚まし、彼に駆け寄った。
「大丈夫か!?何があった!?どうしたんだよ!?」
そんな声が聞こえていないのか、無視したのかは分からないけど、彼は牢屋から離れて洞窟の奥へと消えていった...。
ネール「...本当なのよ?信じられないけどね。」
語り合えた彼女は一息ついて、仕事を始めた。
ラッド「・・・。」
妙な話ではある。怪談めいた造り物のようにも感じられる。しかし、確かに犠牲者がいる。
メーレの姿と、彼の言葉を頭の中で反芻した。
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ここからとっとと逃げ出して、ジュリ達の元へ向かう。言うなら簡単なことではあるが、そうそう出来はしない。
今更ながら、どうやら持っていたはずの剣などは没収されていたようだ。その上魔力はすっからかんときた。いや、別に無いわけでは無いのか。おそらくだが、魔法は使えないだろう。使えば終わる。とことん魔力を使わせたこと然り、例の話などから考えれば、???は俺らのことを何らかの方法で捉えているとしか思えない。
今は仕事を終えて、余白の時間。牢獄に押しとどめられている状態で思考を続ける。
見ている... めちゃくちゃ遠く... 透明人間...?
どうやって...? どうして...。 誰が...。
ザラニック「────どうしたんだい?」
うんうん唸っているラッドを見かねたのか、ザラニックが話しかけてきた。
ラッド「あぁ、いぇ...今頃仲間が、俺のことを助けようとしてるのかなー、って。」
ザラニック「へぇ、一緒に...冒険者を?」
ラッド「はい、会ったのは...数十日前なんですけど、二人ともいい仲間です。」
その言葉を聞いたザラニックは昔を懐かしむように微笑んで、話始めた。
ザラニック「いいね。大事だよ、仲間はね。」
彼が湿った天井を見上げる。
ザラニック「僕の奥さん...ネールはもともと一緒の冒険者仲間でねぇ、世界各地を冒険していたんだ。いろんな物を見て、いろんな事をして...。ある時に立ち寄った街に、恋願う木っていう、その木の下で告白すると付き合える、結婚できる。なーんて噂があったんだ。ま、ここの事なんだけどさ。」
ラッド「ここ、ってあのでっかい木のことっすか?確か『大樹』なのは知ってましたけど。」
ザラニック「うん、まぁ呼び名はいろいろあるけどね。そこで僕がネールに告白して────。」
ネール「こうなった、てわけね。」
後ろからネールがザラニックの隣に座りこんだ。
ネール「まぁ、告白はたどたどしかったけどねぇ?カミカミ過ぎて笑っちゃったもの!」
ザラニック「何でそれ言っちゃうの!」
顔を赤くしてそう話すザラニックとそれを見て笑っているネール。微笑ましいという言葉がお似合いだろう。俺も将来こんな風に結婚して暮らしてみたい、なんて考えてしまう。
ザラニック「後は、そうだな。俺たちの────。」
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ルイス「こんにちは!」
リノハ「こんにちは!具合は大丈夫?」
僕らはまた病院へと来ていた。病院は昨日の忙しさからは脱却しているわけだが、されども忙しいのは変わらない。カイルが同行しているが、どうしても足に痛みが残っているらしい。どうやらカイルが言う「用意しているもの」は足つぼだったようで、彼はそれに弱いらしい。そのためあのような苦痛の声を上げていたのだろう。本当に凄かった。コラハの音を操る能力は聞くだけだとそんなに強くなさそうなのだが、その実、「空気を操る能力」でもある。なので音を押し固めて押し棒のようにしてぐりぐりとすると、遺体。ああ間違えた、痛い。
僕らの現状や事件の事、怪しい者の話が一通りが終わった後、再び町へと繰り出したわけである。
リノハ「こんにちは!ルイスくん。具合は大丈夫?」
ルイス「うん!元気になったよ!」
なら良かった、と笑いかけるリノハ。以前は痩せこけている様子だったルイスが子供らしい笑顔を出せることに安堵感を感じる。
そこにカイルが自己紹介をする。
カイル「どーも、初めましてだ。俺はカイル・レヴァント。よろしくなルイスくん。」
差し出された手に握手を交わすルイスくん。しっかりとしゃがんで目線を合わせている。
カイル「んじゃ、初めましてだが、単刀直入にだ。君が覚えている洞窟での様子を教えてくれ。辛いかもしんねぇが、いいか?」
ルイスはうなづいて話し始める。
樹理「...強いなぁ。」
リノハ「...強い、というのは?」
僕のつぶやきを聞いたリノハが質問をした。
樹理「...あんなにまだ小さい子がさ、怖い思いをしたんだ。悲しい思いをしたんだ。」
家族の楽しい時間は破壊された。
彼の純粋な思いは踏みにじられた。
彼らの笑顔は無くされた。
暗闇が目に沁みついた。
空腹感が底をついた。
孤独感を味わった。
消えない記憶を植え付けられた。
樹理「僕は、その事を許さない。そんな目に合う人がいることが悲しいんだ、見たくないんだ。」
一呼吸置いて。
樹理「──その上で、あの目をしているルイスくんは強い。寂しい、怖いという思いを今は押し殺して、まっすぐ前を向く彼は、強い。...僕には、出来ないだろうからさ。」
リノハをそれを聞いて、一度ルイスに目線を向ける。そして目を伏せて、小さく息を吐いた。
カイル「おう、お前ら、話は終わったぜ。これで救助者の位置は分かったな。ありがとよルイスくん!これでお母さんたちも助けに行けるぞ!」
ルイス「ほんと!やったぁ!」
リノハ「ルイスくんも、安心して待っててね!」
うん!と大きく返事をして喜ぶルイスくん、本当にいい子というかなんというか。
樹理「...何か、”蜘蛛の男”とかで新しいこととかは思い出していませんでしたか?」
カイル「”蜘蛛の男”については特に。面のこと以外、ルイスくんは覚えていないらしいぜ。」
樹理「...そうですか。」
僕はルイスくんの方向をちらりと向いた。ルイスくんは自慢げにも見える、いい笑顔を見せてくれた。
────本当に、いい子だ。
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時刻は夕暮れ時。僕らはギルドに戻り夕食を食す。
ギルドに避難してきた人々は自宅の方へ帰宅し、各々家の修復などなどを行っているらしい。ちなみに僕は再びご飯を作っているんだ。
カイル「何でメシ作ってんだ?」
知らねぇよ何で作ってんだよ知らねえよ。
たまたま手持ち無沙汰だったのと避難者が多数いたから作っただけだったのに普通に文明パワーでインフレした料理がギルド内を席巻してしまった。
メーレ「いやー、やっぱ美味しいわ。しかも忙しいからってわざわざパンを蒸してくれたし、ありがたいことこの上ないよねー。」
そんな事をギルド仲間とテーブルを囲んで話しているメーレ。どうやら仕事をこなしまくっているようで、若干疲労の色も見える。明日もあるのだから、早々に休んでもらいたい所だ。
ふと一人、食器を片付けに歩いてくる。
コラハ「ご馳走様でした。ジュリさん、明日の朝四時にギルド前で集会を行い、その後作戦決行となります。今日はひとまず身体を休める事を第一にしてくださいね?」
分かりましたと頷いて、仕事に戻っていくコラハさんを見送る。その言葉を反芻して、拳を強く握りしめた。
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ザラニック「ははー!やっぱ可愛いんだよ息子!!」
ラッド「いやぁ〜良いですよね!ほんと何しても可愛く感じちゃいますもんね!」
ルイスくん談話に1時間ぐらいかかった。楽しかったは楽しかったんだが、この人たちの話は衰えを知らないような気がする。
ネール「ねぇ、ラッドくん。」
はいと返事をして、話しかけてきたネールへ体を向き直す。
ネール「あなたには、一緒に旅をする仲間がいるんでしょう?これからどうしていきたいとか、考えた事はある?」
ふと、思考を巡らせる。確かに、コレからどうしていくか、なんて事は考えた事はある。でも、"どうしていきたい"と聞かれると、なんともふわりとした感触を覚えた。
ラッド「俺は...そうですね、あまり明確には考えた事がないっす。小さい頃から育ててもらって、歳をとって、今はこうして冒険者をしている。」
自分のこれまでを逡巡する。
ラッド「それまでいろんな思い出とか、色々ありました。楽しい事とか、悲しい事とか。ま、二人に比べたら、人生経験なんてまだ薄いんですけどね。」
少し自嘲気味な言葉に、二人は何を言うこともなく笑顔を向けてくれた。
ラッド「結構、それまで満たされた人生だったはずなんです。だけど、何か変...いや、変というか、奇妙と言うか。」
数日前のことを思い出す。
ラッド「今の仲間の、一人に会ったんです。ジュリ、って言うんですけど。ランク試験の時に一度見た時に、こう、心の中に、『長い付き合いになる』って確信が生まれたんです。」
今に考えても、それは奇妙なものだった。たまたま同じ試験を受けただけで、ただそこで出会っただけだった。『ライソンものがたり』みたいに、危機を助けてもらったとか、助けたとかではなかった。
普遍的、何ら変わらない、日常の一幕でしかないはずなのに。その日がやけに脳に焼きついているのだ。
ラッド「その日のうちに、もう一人の仲間とも会いました。その時にも感じました。」
そこに確かに感じた、未来が動き出す感覚。
ラッド「別にそこから長い日にち、二人といたわけでは無いんです。でも俺は、これからも旅をしていたいって、そう思っているんです。」
その言葉を聞いたネールは、ふふと微笑した。
ネール「いいわね...運命的というか。何だか羨ましく感じる。」
ザラニック「あぁ、そうだね。君は『良いめぐりあい』をしたんだよ。大事にしなさい。それが、いつまでも残り続ける思い出であるように。」
ラッド「はい...ありがとうございます!」
それは、とても力強い返事だったように思える。
そうして俺は再び眠りに落ちようとして、今一度、自分が何をすべきなのか、考えてみた。
今の俺に、何ができる?今の俺がやるべきことはなんだ。今俺が二人にできる事は、なんだ...!
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リノハにおやすみと言って、自らの部屋に戻り、眠ったのだが、何だか目が覚めてしまったようだった。
仕方なく、僕は夜のグリーンフォールを歩く事にした。
月の光が街を照らす。壊れた街並みを見渡すと、その悲惨さが思い出されるようで、少し頭が痛くなった。ここまでの甚大な被害が起こった事。否、ここまでの被害で収まった事が、何よりの奇跡だろう。コラハの頑張りは、確かにこの街を救ったのだ。
建物の損傷具合で言えば、半壊はあれど、全壊の建物は一つもなかった。人の死傷者数は、死者二十七名、重傷者四十七名、軽傷者百七十九名だったのだ。ランドルグ程の人口では無いにしろ、ここは活気のある街だ。酷い話ではあるが、これでも死傷者数は少ないだろう。
ふと、一つ壊れていない例の『エスカレーター』があった為、乗ってみた。
地球の程の速度では無いが、中々便利なもので、スイスイと進んでくれる。
どうやら風の魔法の魔結石が使われているようで、その効果で浮き上がっているようだ。
しかし、エスカレーターと言えども、形としては四角錐を逆さまにしたものを土台にして、柵をつけたようなものだ。しかも機械的、俗に言うスチームパンクな歯車で動いているのだ。どういう原理なのだろうか、これ。その上動く順路は固定されている。なんでそんなことが出来ているんだ。時代を先取りし過ぎたロストテクノロジーか?
滑らかに進むコレに揺られながら、夜の街を進む。やはりこの街は夜風が心地よい。頬に流れていく風が、少しずつ思考を穏やかにしていく。夜の景色に呆けていると、目的地に着いた。
大樹。様々な人がお勧めしていたが、なかなか立ち寄る機会がなかったわけで、せっかくなら一度は来てみたかったのだ。エスカレーターから降りて大樹のその根へと歩みを進める。町の北側にある大樹。その目の前は広場のように整備されていて、正面に噴水が見える。どうやら地震のせいで水は止まっているようだ。今更ながらに凄いと感じるのは、断水が起こらなかったことだろう。現代日本でも地震によってライフラインが停止するのは珍しいことではない。文化レベルで言えば、現代よりも劣っているであろうグリーンフォールで断水が起こらなかったのは、先人たちがそれほどまでに上下水道の整備に尽力したはずだ。街の中でも高台に位置しているこの場所では、街が一望できる。僕らが街を来た時にも見えていたのだが、街の東側には畑が広がっている。豊かな土地だ、美しい風景だと。
そんな街だと五感で感じられる。この街は、自然に愛されているのだ。
樹理「...ん?」
ふと木の根元に人が立っている。僕のような眠れずに夜の街をさまよう人か、それとも、何らかの敵か。少し警戒して近づいてみる。
──待って、これ自分のほうが不審者では?夜中に一人で徘徊してたまたま出会った人の背後にこっそり近づくとか不審者以外の何物でもないのでは?
そんなことを考えていると、その人影が振り向いた。顔は見えないが、なんかどこかで...。
???「あれ?ジュリくん、なんでここに?」
この声、なんとも偶然が過ぎる気もする。
樹理「メーレさん、こんばんは。お散歩ですか?」
メーレ「ああ、なんだか眠れなくなってしまってね。君も同じクチだろう?」
樹理「そうなんです、考え事をしていたら眠れなくなってしまって。」
メーレ「もー、明日早いんだから寝なくちゃだめだろう?」
樹理「メーレさんも寝るべきでしょう?」
それもそうだったねなんて言って、彼は笑う。
メーレ「まぁ、立ち話もなんだし、少し座ろうか。」
近くにあった石造りのベンチに座り込み、空を見上げる。東京の街中と違って星がよく見えるものだ。
樹理「メーレさんは、なぜここに?」
メーレ「願掛けのようなものさ、明日が大事な決戦日だ。これでこの事件にけりをつけられる。」
そういってメーレは目を伏せた。メーレにとってこの事件が終わることは何よりの望みだろう。半年以上にも及ぶ不安に終止符が打たれる。
樹理「...でも、まだ分からないことは多いですよね。地震がなぜ起こっているのか、”蜘蛛の男”はいったい誰なのか。もし触手を倒したとしても、終わらないような気がして。」
メーレ「それは...そうだね。でも、きっと大丈夫な気がするんだ。なんとかなると言っちゃうと、楽観的に感じるかもしれないけれどね。今は君たちがいるだろう?この事件は君たちのおかげでここまで解決に進んだ。コラハさんもいるし、カイルさんもいる。シナドモンさんたちも協力してくれる。これまでにないくらい戦力は揃っているんだ。」
メーレ「だから、この事件を終わらせる。ここで、すべて終わらせるんだ。」
力強い言葉だった。
樹理「──メーレさん。」
なんだい。と、彼はこちらを向く。メーレの目を見て、喉の奥から出てきてしまいそうな言葉を抑えて、僕は質問をした。
樹理「あなたは、この街が、好きですか?」
その一瞬だけ、彼が口をつぐんだように見えて、その実、大したこともないように、彼は答えた。
メーレ「──あぁ、好きになったとも。」
その言葉に、どんな思いが込められていたかなんて、僕には分からなかった。
メーレ「...それじゃ、戻ろうか...と、その前に、一仕事しなきゃいけないんだ。ついてきてくれるかい?」
樹理「もちろん、行かせてもらいます。」
そう言って、僕らは大樹のさらに奥、森の中へと入っていった。
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夜の森はうっそうとしていて、やはり不気味に思える。この世界に来てから、何回は野営はしているものの、きっと慣れることはないんだろう。
樹理「それで...やることっていうのはなんですか?」
先を行くメーレが振り返って答える。
メーレ「...大樹に近づく不届き者の撃退、あと、君の信用・信頼を勝ち取るためかな?」
樹理「...いや、メーレさんのことは信頼しているんですけど。」
なんかちょっとショック。そんな僕の言葉を聞いて彼は軽く笑う。
メーレ「ははっ、ごめんごめん。それは分かってるさ。なに、手の内を明かしておこうというお話だよ。」
その言葉の意味が分からずに首をかしげる。手の内と言えども何か隠していたことはあっただろうか、と考えて、二日前の事を思い出した。
腰に下げている何か、その正体をまだ知らない。
メーレ「ほら、おいでなさったよ。」
彼の視線の先に目を向けると、そこにいたのは蟻のようなモンスターだった。
メーレ「『ルーデント』だ!君はわかるだろう?」
樹理「はい!木を食い荒らす魔物ですね!」
体調が1mにもなる蟻である。おもに草食性だが、人やほかの魔物を外敵だと認識して襲ってくることも少なくはない。この世界からしたら普通なのだろうが、こちらからしたら大きい白アリである。シンプルにきもい。
メーレ「正解!それじゃあ、秘密兵器をお見せしようか!」
彼は腰に掛けているものへ手を伸ばし、おもむろに取り出したそれに、僕は驚きを隠せず、こもったような声を出した。
樹理「────銃...!?」
機械音が鳴る。シリンダーには3発の弾が込められ、銃へと勢いよく戻される。ハンマーが引かれ、眼前の敵に向けて光が放たれる。
そして、再装填を待つこともなく、モンスターは去っていった。
はっきりと見えたわけではない。しかし目の前に広がっていた光景と、その銃の状態から状況を考える。
樹理「...すごいですね。今、そこから三発が間髪入れずに放たれた。見えたところで、光、爆発、雷の魔法が使われたように見えました。魔法は苦手だったんじゃないんですか?」
メーレは自慢げに近づいてくる。
メーレ「ふふ、すごいだろう。魔法は正解。光の魔法、雷の魔法、爆発の魔法さ。それらがコレ。」
メーレの手にはガラス玉のような紫の球が一つ。
メーレ「お試しだ。火の魔法でも込めてみてくれ。」
言われるままに魔法を使うと、その球は赤く染まっていく。
樹理「凄い!これってもしかして──。」
メーレ「丁寧に磨がれた魔結石だよ。それでコレをこの筒に詰める。」
取り出したのは金属の筒。大きさで言えば調味料の瓶のようだ。その中に先程の球を入れ、さらに鉄の球を入れ、蓋をした。
そして、銃のシリンダーに弾を込めた。
メーレ「そうして、こうっ!」
地面に向かって打ち込むと炎が広がり、目の前は明るくなる。そして数秒も経たずに消えていった。
樹理「これが、秘密兵器。」
メーレ「そう、世界でたった一つ、魔法も剣も上手く使えない、俺だけの特注の武器だ。」
そう話す彼は何となく子供のように興奮している。
そりゃ、そうだろう。
樹理「凄くカッコイイですね!!」
メーレ「そうでしょ!!!!」
夜の森に響く男二人の声。良い歳した大人と独り立ちした子供が何をしているんだという状況だろう。
樹理「うわぁ...このロマン溢れる動き...精密に作られた機構...すごくすごい...。」
メーレ「わかる〜、凄くわかる〜。俺もこれ造ってもらった時、自分が力になれる事よりも武器の格好良さが勝っちゃったんだよね〜!」
大興奮極まれり。むしろ興奮しないやつは男じゃないだろう。まさかこんな世界でこんな物に出会えるとは思いもしなかったのだから。
樹理「んんん〜、歯車の感じといい、これってあの『風力エスカレーター』を造った人と一緒ですか?」
メーレ「そうなんだよぉ〜!俺が前にいたとこの先輩でね!発明の天才なもんですごいものをぽこじゃか造りまくっててさぁ、もう〜凄かった。」
樹理「はぁ〜!発明の天才!凄すぎですね!いやぁ〜一度はこの銃を造った人と会ってみたいなぁ〜!」
メーレ「ん?」
瞬間、空気が冷めた。
メーレ「今、なんて?」
樹理「え、いや、その発明の天才であるメーレさんの先輩の方に会ってみたいなぁ〜って。」
メーレ「いや、その中でもう少し詳しく。」
樹理「その中..えっと、一度はこの───。」
ま ず い 。
やっべそりゃそうじゃん。世界に一つだけの特注の武器だぞ?しかも異世界だぞ?『銃』なんて呼び名がついてる可能性の方が低いじゃないか。まずい不味いヤバい。何を聞かれるか分からん。まず...ん?
いや、そう言えば、別に焦る必要も隠す必要も、ないか。
樹理「──銃を造った人に会ってみたいな、と。」
メーレ「その『じゅう』っていうのは?」
樹理「その今の武器です。僕の故郷では、完全に同じではないですが、そのような物を『銃』と呼んでいました。」
メーレ「ふぅ〜ん。故郷って、どこ?」
樹理「『日本』っていいます。詳しく何処か、とかは言えないです。」
メーレ「...初めて聞いたな。詳しくは、言ってくれないんだ。へー、残念だなー。俺は君を信頼してコレを見せたんだけどナー。悲しいナー。」
手元の銃をフリフリしながら口を尖らせる。
樹理「す、すみませんっ!今回のことが落ち着いたら話しますので!」
メーレ「...なに、別に大丈夫だよ。冗談じょーだん。無理に話せとも言わないさ。...しかし、『じゅう』ねぇ。何か他に呼び方ないの?」
樹理「後は...『ガン』とか、その形状で言えば『リボルバー』とか──。」
メーレ「良いね、それ採用!今日からコイツの名前はリボルバーだな。」
とんとん拍子に決まった名前に驚きを隠せない。
樹理「そんな簡単で良いんですか!?」
メーレ「うん、まだ名前が決まってなかったものでね。悩みに悩んだ末に決まってなかったから、丁度良かった。いやー、見せて良かった!ありがとう!」
樹理「こ、こちらこそ見せてくれてありがとうございます!」
そう困惑したまま感謝の言葉を返した。
メーレ「これで、今日のやる事は終わった。さて、帰ろうか。」
こうして僕らはギルドへと戻る。明日への焦りと、期待を胸にして。
ふと、星が瞬く夜空を見上げて、僕は心に響く言葉を吐いた。
ふと、空も見えない洞窟の中で、俺は自分がすべき答えを見つけた。
「僕は、街を、ラッドを必ず助ける。」
「俺が、みんなの助けになるんだ。」




