date16.爪痕は深く
どうも、私です。
前回の投稿から大きく開きました。
4月は始まりの時期とは言いますが、本当にてんやわんやで小説を書いている暇がなかったんです!
以上で言い訳を終わります、誠に申し訳ない。
それでは本編へ、どうぞ!
昼下がり。晴れ空の中を雲が突き進んでいる。平然と進むその姿には、嫌でも時が進んでいることを解らされているような気がした。
ギルド内は緊急で集められた冒険者でごった返している。今の悲惨な状況を嘆く者。何が起ころうとしているのか戸惑う者。逆にワクワクしている者。十人十色の反応とはこう言うモノなのだろう。
メーレ「さて、皆んな!集まってくれてありがとう!早速話を始める!」
ざわざわとしていたギルド内、彼はその一声で静寂を作った。
メーレ「集めた理由は何を隠そう、今回起こった地震についてに関わることだ!どうか聞いてほしい。」
掲示板の前に立つメーレ。胸を張り、堂々とする姿にギルドマスターとしての一端を見せられているようだ。彼の左横にコラハ、右横にリノハ、僕と並んでいる。
メーレ「先日、この四名で行方不明事件及び大規模な地震について調査を行った。
結果!地下の大水脈、もといドモル達の住処ともなっていた場所に、何らかのモンスターがいる模様だ。触手のようなモンスターであり、それが行方不明事件の犯人だと考えられる!」
人々が口々に話し始める。それにも構わず彼は話を続ける。
メーレ「───さらにだ!そのモンスターに、『協力者』がいることが分かった!よって今回、討伐隊を結成する!」
<今回の討伐及び作戦について>
討伐隊は二組に分かれる。
一つの組は地下大洞穴へ向かい、モンスターの討伐と協力者の捕獲、または迎撃を目的とする。
もう一つは司令塔としてギルドで待機。もしもの際の第二陣としても割り振られる。情報の共有については、コラハの『ソ・アーラブニ』を使用して行うとのこと。
ちなみに本人に、もう大丈夫なのか聞いてみた。
コラハ「昨日よりは全然余裕ですよ。」
樹理「それだけ食べればそうでしょうけどね!」
コラハ「次も楽しみにしています。」
樹理「作るの確定かぁい!」
メーレ「───というわけだ!その上で、今回は僕らにも協力者がいる!紹介させてもらおう!」
奥の扉が開き、出てきたのはシナドモンだった。
無論、彼はモンスターの一種でしかない。冒険者達はざわめき、警戒する。
メーレ「はーい落ち着いてください!危害を加えることはありません!彼が、協力者のシナドモンさんです!」
その声を受けて、シナドモンは挨拶を始める。
シナドモン「皆様こんにちは。ご紹介に預かりました。シナドモンと申します。警戒するのも無理はありませんが、今回はメーレさんに協力させていただきます。どうか皆様よろしくお願いいたします。」
丁寧なものだと感心する。それを受けてか、冒険者らは警戒を緩めた。
メーレ「というわけでだ!今回はドモル達とも行動を共にする!場所への案内と、共に戦闘も行う!どうか警戒せず、協力してもらいたい!」
それでもやはり、不安感が拭えないのも確かであり、冒険者らは皆厳しい表情である。
メーレ「(...仕方ないか。こうなるのも予想できている。すぐに、とは無理な話だろう。)」
そしてまた話を続ける。
メーレ「なお、討伐隊に参加してくれた際の報酬は、25万Gを約束しよう!最後に質問はあるだろうか!」
1人の冒険者が手を挙げる。
「...すまないが、私は参加できない。あんなのがあった直後だ。先に家を建て直さなくてはならない。参加したいのはあるが、やはり...命を失う危険性があることは避けたい。」
その考えに、樹理は共感を覚える。冒険者と言っても、やはり一概に同じ目的でなる訳ではない。
「それにだ。こんな状況下で25万G。それを参加者全員にというのは、あまりにも無理がないか?」
その質問に、メーレはこう答える。
メーレ「そう思うのは無理もない。しかしそこははっきりと守る。そして、もう一つ。大事なことだ。」
一拍置いて、彼は話した。
メーレ「これはギルドマスター、及び国公騎士、そして王による勅令でもある。」
全体がざわつく。
それもそうだ、国によって担保された報酬。その上何らかの功労によるものがあってもおかしくない。
メーレ「もう一度。皆に無理強いはするつもりはない。参加しないと言うのもとても良い判断だと思う。その上で、自らの身を犠牲にしても参加する意志があるのならば、僕らはそれを讃えよう。と言うわけで、参加するものはこちらの契約書にサインして欲しい。無論、こちらも報酬の担保を含めた契約書を渡そう。」
うーん、話が上手い。流石というか。伊達にギルドマスターをしていない。やはり、彼には向いているんだと感じる。
その後、話に参加していた殆どが契約書にサインをした。2、3人参加しない人もいたが仕方がないことなのは確かだ。
それが終わると、メーレが話しかけてきた。
メーレ「僕とコラハはこれから色々あるんだが...2人は基本自由で良いさ。ゆっくり休むでも構わないよ。」
リノハは少し考えてから話した
リノハ「...いえ、私たちは街の人達のお手伝いをしてきます!樹理さんも構いませんか?」
樹理「うん、そうしようか!まだまだ建物の被害もあるからね。」
メーレ「了解!夕方頃には戻ってくれると助かるよ!あと、はいジュリ君、メモ。」
メモにはなんやかんやら書いてある。
樹理「...これ食材じゃないですか。また作るんですか?」
メーレ「えー、つくってくれないの?」
コラハ「つくってくれないみたいですね...。」
樹理「わかりました作りますから!」
メーレ「やったーイェーイ。」
コラハとハイタッチしている。何だこの方々。
リノハ「じゃ、じゃあ行ってきますね!」
こうして僕らは街へと繰り出した。
----------
随分と1日で街はひどい光景になった。もしあの時の魔法が無ければ、殆ど損壊していただろう。
街中を巡り、基本的にはお手伝いをさせてもらっていた。家の修復、大切な物の捜索。
樹理「...…。」
人の、捜索。
「ありがとうございます。これで、安心できます。」
女性は悲しげな表情で、どこか安心している表情だった。
リノハ「...いえ、助けになれたのなら光栄です。どうか気をつけてお過ごしください。」
樹理「頑張ってくださいね。」
「本当にありがとうございました!」
深々とお辞儀をし、僕らを見送る女性。表情は見えなかった。
あの人は、これから前を向けるのだろうか。身近な人が亡くなった悲しみを背負い続けられるのだろうか。
ふと思い出して、ぽつりと名前を呟く。
樹理「...実莉。」
彼女は今何をしているのだろうか。彼女は悲しんでいた。必死に叫んでいた。どうしようもならないのだろうか。どうしたら彼女が悲しまずに済んだのだろうか。今も彼女は泣いているのだろうか。
いまだに謎は残っている。それでもどうにか、元の世界へ向かう方法を探すしかないのだろう。
そして、何より。
樹理「(僕は今...生きているのか?)」
わからない。それすら、分からない。曖昧な存在、不確定で不安定なモノ。僕は、僕は?
リノハ「樹理さん?」
樹理「───あ、なに?」
リノハ「なにというか、先程から上の空なような気がして。」
樹理「あぁごめん。ちょっと考え事してたんだ。」
リノハ「考え事をしてただけだったんですね。良かった。」
そう言って彼女は安堵の表情を見せる。
樹理「良かった...って?」
リノハ「いえ!何でもないですよ。」
そう言って彼女は笑う。
────見透かされているのだろうか?
ふと右手側の半壊した家で作業を行う屈強な青年が見える。煉瓦造りの家の2階部分、壁の壊れた建物の瓦礫を運んでいる。1人で作業を行っているのだろうか。
樹理「リノハ、あの家にも手伝いに行こう。大変そうだ。」
リノハ「えぇ、行きましょうか!」
その家に近づいて声をかける。
樹理「すいませーん!お手伝いしましょうか!?」
「おう!誰が分からんがすまねぇ!人手が欲しい!頼むー!」
樹理「分かりました!今行きます!」
そうして玄関口の扉を開ける。目の前には廊下と階段。左右にそれぞれ扉がある事が確認できた。
リノハ「すいません!失礼します!」
そう言うと、左の開いた扉から誰が出てきた。
「おやぁ、どちら様ですかな?」
ご老体の男性が顔を覗かせた。
樹理「今、色んなところでお手伝いさせていただいてまして。もし良かったらこちらでもお手伝いさせていただいてもよろしいですか?」
「はぁ...ですがうちはもう手伝いしてくれてるのが一人いまして...。」
「あぁ!爺さん、いま俺が頼んだんだ。人手が欲しくてな。」
上から階段を降りてきたのは先ほどの男性。大柄で、橙色の髪をしていて...。
樹理「ん?」
リノハ「......あ。」
「なんじゃ、そうだったか!それならお願いできますかな?」
リノハ「はい、もちろんです!よろしくお願いしますね!」
人違いなら良いのだが、何だがどこかで聞いたような人な気がする。ついでに言うとどこかで聞いた声な気がする。一か八かで鎌をかけてみる。
樹理「...先にすいません。『コラハが用意してる』と。」
そんなことを聞いた彼の顔は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
「──っ──あ、か、え?ま、えー、ま 、ま、マジで、え?は ぅ、マジ?」
想像以上の反応すぎる。あんな青い顔は見たことない。ちょっと怖い。
彼は一度息を吸い込んで、しっかりと息を吐く。そして大きく項垂れた。
「えっあー...。と、とりあえず二階に上がる。ついてきてくれ。」
そうして僕らは二階への階段へ向かう。
横からリノハがこっそり話しかけてくる。
リノハ「い、今のって、もしかしてコラハさんと話してたのですか?」
樹理「うん。どうやら合ってたみたい。」
リノハ「顔は見た記憶もあります。あの人が"国公騎士"ですね。」
階段を上っていくと、そこには確かに部屋があったとされるものがあった。
「じいさんの息子さんが住んでたらしいんだ。数十年前に家を出て、それからじいさんは毎日掃除して何時帰ってきてもいいようにしてたんだと...ま、過保護な気もするが、それだけ大切だったんだろうけどよ。」
瓦礫をどかしながらそう話す彼の表情は悲しげな顔をしていた。
「っうー訳だが、ちょっとそこに座ってくれ。」
そう言って彼は床に座り込む。僕らも促されるように座った。
「えっとなぁ...まず、なんでコラハのことを───。」
僕と目が合った。すると彼の眼は見開き、すぐに僕の顔をじろじろと見始めた。
「───お前、タカノジュリか?」
樹理「へっ?」
そのことに気づいた彼はニコニコ笑いだす。
「いやぁ、お前あれだろ?サラムに推薦されてたろ!」
樹理「は、はい。」
「やっぱかー!あれは酷かったなぁ。本当にひどい。うんうん。」
急に上機嫌になりだした。いまいちテンションがつかみきれない。
しかしこの人の声は、どこかで聞いたことがある。
樹理「あの時助けてくれたのはあなたですよね!ありがとうございます。」
「はは!いいってことよ。ただ何、お前に興味があるんでな。話を聞きたかったのもあるがな。ま、それは後でいいんだ。そこの嬢ちゃんはの名前は?」
リノハ「私はリノハ・シーミツマです!よろしくお願いします。」
その名前を聞いた彼は顎に手を当てる。
「あー、なんかどっかで聞いたことあったような...。ま、よろしく、リノハ嬢ちゃん。」
二人で握手を交わす。
「...あの、そういえばあなたの名前って?」
「お、あぁ、そうだったな。まだ行ってないか。」
そうして一呼吸おいてから、名乗り始めた。
「俺の名前はカイル・レヴァンド。もちろん国公騎士だ。好きなので呼んでくれよ。」
橙色の髪をした大柄な男はそう話す。屈託のない笑顔で。
樹理「じゃあ、カイルさん。これ終わったら急いでギルドに行きましょう。誤れば許してくれるはずです。」
カイル「ハハ!無理無理!今まで許してくれたことなんざ一回もねぇからな!」
リノハ「(今までで何回しでかしてるんでしょう...?)」
----------
作業は瓦礫の片づけで十分だそうで、作業を終わらせた僕らはギルドに向かっていた。
リノハ「あれでよかったんですかね?」
リノハは悩みながらそう言う。
カイル「あのじいさんが大丈夫って言ってるんだ。俺たちはそれを受け入れるだけだ。」
遠くを見据えたまま話すカイル。そのまま首をこちらに向けた。
カイル「それでだ。何でお前らはコラハの事を知ってるんだ?」
樹理「それはぁ...かくかくしかじかでぇ。」
カイル「なるほどなるほど。つまり国王直々の依頼で来ていたと。」
そう言って彼はため息のような感嘆の声を漏らす。
樹理「な、何かありましたか?」
カイル「いや、スゲェなと思ってよ。サラムは半分冗談で言ったんだかと思ったが...。国王が依頼したってんなら、実力は確かなんだろ?そうなりゃあ、話は変わってくるよなぁ。」
そう言ってカイルは空を見上げる。国公騎士である彼のほうがよっぽどすごい気もするのだが。
カイル「あぁ、つーかお前のこと見たぞ。ギルドで。」
僕がきょとんとした表情をすると、彼は話を続ける。
カイル「ほら、『新しいスキルが見つかったのでー。』って奥に入ってったろ?」
驚く。見られていたのに何も気づけなかった。しっかり見ればわかりそうなのに。
樹理「(というか何の目的で来ていたんだこの人。)」
樹理「えぇ?リノハ分かった?」
リノハ「いえ、全然。さっぱり。」
カイル「ま、いわゆるお忍びってやつさ。バレちゃとんでもねぇ。王に怒られる。」
樹理「(ホントに何の目的で来ているんだこの人!!)」
カイル「もちろん、今もバレないようにしてんだ。」
な?というように手を広げる。確かにこんな大通りを歩いていて国公騎士だとバレない、なんてことはないはずだ。それに背中に背負った巨大な何かの主張も強い。長く使われているのか、味のある白い布で巻かれた彼の背丈にもなるもの。これで分からないのは、魔法によるものなのだろうか。
カイル「んで、話を戻すか。お前が実力者だっつー話だ。そこまで強いのか?」
樹理「全然だと思います。サラムさんに打ち合いに負けましたし、戦いの経験もほぼ無いので。」
カイル「ふぅん...リノハだったか。打ち合いは何分だ?」
リノハ「約5分で終わりました。その時のランクはHですね!」
カイル「十分にもほどがある。素質あるぜ。」
即答である。嘘でしょそこまで?
カイル「ま、だとしても王が選んだのは謎ではあるがな。サラムといえどそこまで信用できるか?」
リノハ「もしかして、王様もカイルさんみたいに見てたり、とか?」
カイル「まさか!俺みてぇなことしねぇだろ!」
そういって豪快に笑うカイル。そういうことしてるんですね。
----------
ランドルグ、城の執務室にて───。
リト「ナーバス様、お話があります。」
忙しそうに仕事をするナーバスの横にいたリトが口を開く。
ナーバス「改まって、どうした?」
手を止めたナーバスが横を見る。静寂が漂い、そこはかとない緊張感が場を覆う。
リト「魔族が出現した日、覚えてますね?」
ナーバス「ああ、勿論だが?」
さも当たり前と言うように話すナーバスを横目に話を続ける。
リト「あの日、私は用事があり、王のお側にはいませんでしたね?」
ナーバス「ああ、そうだな。」
リト「あの日、恥ずかしながら忘れ物がございまして。物を取りに戻ると、王はいませんでした。」
ナーバス「………。」
リト「最後に一つ聞きます。」
そう言って、彼女はナーバスを見つめる。
リト「私がいない間、どこに行った?」
ナーバス「君のような感のいい秘書は嫌いだよ。」
リト「そう、嫌い...ですか。」
ナーバス「今の無しだ。すまない、ごめんなさい。」
すっかり青ざめたナーバスは謝罪の意を込めて手を合わせる。
リト「よろしい。それで、王ともあろうお方が?公務をほったらかして何処へ?」
そう聞くと彼はバツの悪そうな顔をする
ナーバス「いやぁ...そのだな。ら、サラムの試験を見に行っててだなぁ。」
リト「は?いたんですか?あの場に?」
キョトンとした顔になったリト。
ナーバス「...サラムが試験者達と戦う所を、少し。」
リト「はぁぁぁあ!?先ほども言いましたが!一国の王ともあろうお方がぁ!何を!!してるんですか!!!」
だいぶ怒っている。いわゆるブチギレで、さらにナーバスは縮こまった。
少し間をおいて落ち着いたリトは再び話を続ける。
リト「一国の王がそれでは面目がつきません!反省してください。」
ナーバス「はい...。」
しょぼん顔になったところで、リトが質問した。
リト「それで、見たんですね?悪魔を。」
ナーバス「そうだ。あまり大っぴらには動けんので、少しサラムを手伝っておいた。無事撃退は出来たからな。それは良かった、うん。」
リト「ふーん、良かったですねー。勝手に城を抜け出して公務をサボって見てたおかげですねー。」
ナーバス「ゆるして。」
リト「ジュリ様を選ばれたのも、やはり見ていたからですね?」
ナーバス「そうだな。確かにサラムは手を抜いてはいた...スキルも使っていない。使った魔法は一回のみ...。それでも彼らの戦いには目を見張るものがあったのでな。信用できるはずだ、彼は。」
リト「そうですね。あなた様がそう言うのならば、私も信じましょう。」
穏やかな目をしてリトはそう返す。
こうして彼らは、再び自らの仕事を進めていくのであった。
リト「あ、後で仕事を追加しておきますからね。」
ナーバス「ひぇー!」
奇妙な叫び声が城に響き渡る。兵士達の間では「姿の見えない怪鳥」として恐れられるようになったとかならなかったとか。
----------
カイル「んでよー。コラハが本の角で頭を殴ってきてよー。」
樹理「見かけによらず中々にパワータイプな人だぁ。」
リノハ「話的には10:0でカイルさんのせいでは?」
カイル「それは言っちゃいけねぇお約束だ!」
そんな与太話をしながら、僕らは街道を進む。空を見ると、太陽に雲が掠めた。
樹理「...?」
違和感。何かがおかしい、視界に移るものには何もないはずだ。
カイル「...どうした、ジュリ。」
嫌な予感がする。不快感が体を覆う。何だ?これを僕は知っている。はい回るように、蠢く、なにか。
体が震えている。否、違う。
ジュリ「下だ!」
意外にも、予想は当たっていた。地面が揺れていた。先日のことで体がマヒしていたのか、それとも地震大国で生きていたからかは分からないが、すぐに気づくことが出来なかった。
前方、一寸先の地面が水面のように揺れる。そこから這い出るのは触手。確実にラッドを攫ったそれらと同一のものだった。
リノハ「構えて!討伐します!」
反応が早いのはリノハ。すぐに距離を詰め、中腹部と言えるあたりに一閃が放たれる。目にもとまらぬ一撃。しかし剣は、触手に刺さったまま抜けなくなってしまう。
リノハ「なっ...!?」
うろたえたのもつかの間。触手はその体を鞭のようにしならせ、リノハを近隣の住宅の壁へと投げつけた。砲弾のように飛ばされるリノハ、しかし何とかフュルトで勢いを殺し、体制を立て直した。
カイル「はっ、うねうねしてやがる。詳しく知らんが、あいつは敵だな!?」
樹理「はい!おそらく複数本あるかもしれません!」
カイル「大した問題じゃねぇな!」
彼はおもむろに「それ」に手をかける。背中から持ち上げられた物から布がはらりと落ちた。そこにあった物は────。
樹理「(────斧?)」
斧とも言えるか、いや、少し違う。斧の持ち手が剣と化した逸物。あまりにも精密かつ無骨なそれは、破壊を知ろしめす様にも思える。更に剣部分には幾つかの凹凸がある。西洋のソードブレイカーの様な役割を持っているのか。
そして何より、その巨体を持つ武器を右手のみで持つ彼に、驚きを隠せない。俺は口を開けたまま止まっていた。
カイル「────さぁ、切るぜ。」
彼の息が吐かれた。その瞬間、既に触手の眼前へと迫る。触手は反応していない。左腕を後方へ、右手から、横薙ぎの形で、その武器は振られる。肉は裂かれ、一刻も絶たぬうちに、触手は断たれた。
リノハ「...早い。」
ぼとりと触手が落ちる。生きているかの様に切られた先はうねうね動いているが、元は地面へ戻っていた。
カイル「────、まだか?」
そう話した瞬間、地面が揺れる。昨日よりは激しく無い揺れだが、人々の恐怖心を煽るのはそう難しくないだろう。
樹理「くっ...また、来ますッ!」
地面から、再び触手が飛び出す。今回は6本がカイルを囲む様にして暴れ出す。一気に6本はドーム状に上からカイルは襲いくる。
カイル「しつ、けぇぞォ!」
彼が振った武器の一撃が、その6本を弾き返す。刹那、カイルの視界が陰る。それは人のシルエット。リノハだった。
リノハ「────マジックウェア・シングル!」
その剣に火が宿る。彼女はその体を上下反対にしたまま、舞うような一回転をして触手を切り裂いた。
そして、カイルと無事着地したリノハは武器を収める。その場にいた触手の姿は、もう無かった。
樹理「...強いなぁ。」
悠々と立つ二人を見つめる。身近な様で、彼らは遥か遠くにいる実力者なのだと、否が応でも分からせられる。あまりにも、遠くに。
カイル「ふぅ〜、案外楽勝かぁ?」
安堵したカイルから横側。逃げていた人々が一部始終を見ていた様だった。
「す...すげぇ〜!おい見たかよあれ!」
「とんでもねぇ!一瞬でぶっ倒しちまったよ!」
「ちょ、ちょっと!あれ国公騎士のカイル・レヴァントじゃない。」
「うわ!すご!え!サインとか貰えないかしら!」
一同が一斉に詰め寄ってくる。カイルはしばらく考えて、「ははは!早めにここから逃げるぞ!」と駆け出した。
どうもまぁ、国公騎士の人気度がひしひしと伝わってきた今日この頃だった。
〜ギルドにて〜
コラハ「はい、ではまず、今回の反省を。」
カイル「あ、あ、あ、あぎゃぁぁアアアあ!!!!」
部屋に叫び声が響き渡る。悶え嘆き、この世の全てを濃縮還元したような苦しみ方をしている彼を見て、自らが先ほど思った事をふと思い返すのだった。
----------
ふと目を開ける。暗い視界と、ゴツゴツした肌触りのする地面が意識を覚醒させた。どうやら眠っていたようだった。周りはよく見えないが、地面から湿気を感じ、蒸し暑さを感じるほどだった。
手は動くな?足も変わりなしか。
そう自分に言い聞かせるように確認していると、ふと頭上から声がした。
「...起きました?」
「え...はい。」
体を起こし、目を凝らすと、周りには複数名いることが分かった。声の主はどうやら女性のようだ。
「良かった...。何か体調不良などは?」
「特にはないっ...すけど、あなたは、誰なんですか?」
虚空にも見えるそこへ、声をかけた。
「私はシパフス・ネール。私の右にいるのが旦那のシパフス・ザラニックです。」
ザラニック「こんにちは...といえばいいですかね?」
戸惑いながらも挨拶を返す。俺はこの名前を知っている。
「もしかして、ルイスくんの両親ですか?」
ザッ、と布が擦れる音がした。
ザラニック「し、知ってるんですか!息子のこと。」
「はい。今は保護されて、病院にいます。」
ネール「...良かったぁ...逃げられたのね...。」
そう言って、啜り泣くような声がした。
ザラニック「本当にありがとうございます!感謝してしきれない...!」
声しか聞こえないが、感謝が伝わってくるのを感じて、嬉しい気持ちになった。
ザラニック「あ!ところで、あなたのお名前はなんと?」
そう聞かれて、俺は自らの名前を答えた。
「────トロナガル・ラッドです。」
閲覧いただき、ありがとうございました!
次こそは、次こそはもっと早く執筆させていただくので、どうか楽しみにお待ちいただけると幸いです。
よければ評価や感想などしていただけると嬉しいです。
また次回!バイバーイ