date15.よかったら
どうも、私です。
今回は日常回です。面白みがないかも知れませんが、ゆったりと見てください。それでは、どうぞ!
あぁ、なんて良い天気だろうか。
こんな悲惨な光景でなければ、随分と、良かったのになぁ...。
「おっ、おかわり!」
「俺にも下さい!」
「わ、私も...!」
「ちょっと!もう3回目じゃないの?ずるいって!」
メーレ「ははー、俺もおかわりー。」
コラハ「私もお願いします。」
樹理「なぁんでお二方までがっついてるんですか!」
朝からギルドの宿舎に声が響く。
ギルドには今、食堂の料理人が降臨した。
さて、事の顛末を語ろうか。
昨夜、僕らは宿屋に行った...は良いのだが、僕らが寝泊まりしていた部屋が潰れていた。心臓に悪すぎる。大事には至らなかった僕らの荷物を受け取り、宿無しとなった僕らを見かねたメーレさんが、ギルドの宿舎に寝泊まりさせていただくこととなったのだ。
そして宿舎にて
メーレ「はい、注もーく。こちら、お客人のジュリくんとリノハちゃんです!今回悲惨なことがあったので、宿舎の一角を使って寝泊まりしていただきまーす!よろしくね?」
樹理「今回は、よろしくお願いしますっ!」
リノハ「よろしくお願いします!」
深々と礼をして挨拶する。こんな大大的に言う必要はあったかと思うが、礼儀は礼儀なのでしておく。
反応はまちまちと言ったところだったが、何人か話しかけてくれた人もいた。
1人は男性、気さくに話しかけてくれた。
男性「宿が倒壊...それは災難だったね。この建物は丈夫だから、基本は心配しなくても大丈夫なはずだよ。俺はしばらく食堂にいるから、何かあったら聞いてくれ。」
そして2人目だが。
「あ、こんばんは、昨日ぶりですか?」
樹理「あ!受付の対応をしてくれた人じゃないですか!こんばんは!」
受付嬢「はい、まさかこんな事になるとは!不思議なこともあるものですね。...ところで、あの男性の...そうです、ラッドさんは何処に?何か他のところへ?」
リノハ「───あ、そ...れは、その。えっとぉ...。」
曇った顔で察したのだろうか。それ以上は何も聞かなかった。
受付嬢「あ...いえ、すみません。今の質問は忘れてください。...それじゃあ、せっかくですし、これも何かの縁という事で、ここの案内をしますよ!」
樹理「良いんですか!ありがとうございます!」
と感謝の言葉を伝える。
受付嬢「では、まずはこちらへ!」
宿舎内は広かった。内装には木が使われており、暖かみを感じられる。天井には電球のように掲げられた魔結石の照明が並んでいる。
職員の部屋は、1人一部屋。鍵付きで、広さは六畳一間ぐらいだろうか。ベットは備え付けだそう。ただ、風呂とトイレは共同らしい。現代ではないので、一部屋に風呂とトイレをつけるのは正気の沙汰ではないのは分かる。破格にも程がある。
お次は大浴場。時間で男性と女性を分けている。壁には石材があしらわれている。お風呂は小さいが、十分体は洗える。と言うかこの世界でここまで設備が整っているのは、まさに神と言うしかあるまい。だって基本野宿前提だもんね⭐︎
そして食堂がある。...なんだか学生寮みたいだと感じざるを得ない。基本無料と言うか、材料費とかが給料から天引きされているそう。それでも給料は7万5000G。普通なら2ヶ月は遊んで暮らせるそう。
おっと言い忘れた。これはこの宿舎代含めての天引きで7万5000Gだぜ? 利用しない人の給料は10万Gに。ちなみに、冒険者は安定しない仕事だが、平均すると12万Gほど。基本的な小売業とかは普通7万G。これに家賃、食費を取られるそう。どれだけこのギルドがホワイト企業であるのかを思い知る樹理であった。
今は食堂のテーブルに座らせてもらっている。どうやらご飯を作るのは交代制のようで、ギルドで働く数名が飯班として繰り出されているようだ。イメージとしてはやはり学食が近い。カウンターの向こうでは厨房で人が動き回っている様子が見える。厨房は中世ヨーロッパがイメージに近い。
受付嬢「という感じなのがうちの宿舎です!良いでしょう?」
樹理「就職させてください。」
リノハ「だめです!一緒に冒険者やってくれる約束ですよね!」
なんて冗談を言い合って笑う中で、彼女がふと話し始める。
受付嬢「でも、私が来る少し前はこんなんじゃなかった。って先輩は言ってました。」
リノハ「『こんなんじゃなかった』...って、どう言うことですか?」
受付嬢「いえ、ちょっと...。」
そこからはヒソヒソ声で話を進めた。
受付嬢「あまり良い環境ではなかったそうなんです。清潔かと言えばそこまでで、ご飯はあまり美味しいとは言えないし。何より部屋がダメでした。」
樹理「...あー、もしかして結構狭かったの?」
受付嬢「はい、今の部屋より一回り...もっと小さいかも。ベットで部屋の6割を占拠していたと。」
せまっ!!!っとツッコみたくなる。今で言うほぼ三畳ぐらいだろうか。
受付嬢「愚痴をあげればキリがなかったそうなんですが、今のギルドマスター...メーレさんがギルドマスターになった時、変わったそうなんです。」
リノハ「と、言いますと?」
受付嬢「端的に言いますと、宿舎のリフォーム、労働環境の改善、受付の仕組みなど...働く人に寄り添った形で運営をしてくださって、今の環境になったと。あ、自慢じゃないですけど、就職したいギルドNo.2です。」
メーレさんはそこまでしていたと初めて知る。今一度メーレさんの凄さを再認識した。まさに理想の上司と言って良いかも...。
樹理「いやそれは凄いけど!そこまでしてNo.2って!No.1はもう何なんですか!」
受付嬢「給料良くて週休3日制です。」
樹理「アッハイ。」
そんな会話を繰り広げるなか、目に入ったのは厨房の様子だった。何やら困っているようだ。
樹理「ごめん、ちょっと失礼します。」
席を立つと、厨房のカウンターの前へ足を運ぶ。
樹理「すみません、あのー...大丈夫ですか?」
肌がしっかりと焼けた男性が食材と睨めっこしている。
男性「ああ、君は先ほどの。何と言うか、今はメニューに困っていてね。今ギルドが簡易避難先として使われていることは分かるかい?」
樹理「いえ、初めて聞きました。」
「そうか。その避難してきた人達にもご飯を食べさせてあげたいんだが...いかんせん、どうすべきかとね。」
リノハ「なるほど...数が必要になってきますから、中々大変ですよね。」
ただ、ギルドが避難所...というものの、お世辞にも学校の体育館のような広さはなかったはずだ。受け入れが出来る人数に限りはあるだろうが、それでも50は行くかもしれない。
樹理「えっと...じゃあ、今材料は何があるんですか?」
「あぁ、手伝ってくれるのかい?助かるよ。それじゃあ材料は────。」
ヴルスト(ソーセージ)
ポテト トマト ニンジン タマネギ etc...
樹理「・・・。」
男性「こんな感じだ。あと前日の肉の煮汁が少しあってね。ただ量はいかんせん足りないんだ。...一つ一つの材料の数はあるが、いかんせん種類が多くなくてね。ちゃんとした汁物を作りたいんだがなにを作れば良いかさっぱりでね。もう炒め───。」
樹理「ミネストローネだな。」
男性「───たりするか。それと...え?今なんと?」
樹理「いや、ミネストローネっていうスープだよ。それなら美味しくいただけるはずだし...あとは一緒にパンをつけても良いと思うけれど...。」
男性「ま、ちょ、あんた待ってくれよ。何だミネストローネとは。初めて聞いたぞ。...そのなんだ、作ってみてくれないか?時刻にはまだ余裕はあるんだ。」
樹理「え、あー...い、良いんですか?見ず知らずのやつに任せて。」
心の中で困惑が勝る。頼られるのはありがたいが、どうも変な感じはする。
男性「良いんだ良いんだ。俺みたいな不器用なやつよりあんたみたいな料理を知ってる奴の方が頼りになる。というわけで!頼んだぞ!」
リノハ「わ、私も食べてみたいのでお願いしまーす!」
受付嬢「私からもお願いしますね!」
カウンターを覗きにきていた御二方もしっかり手を上げてらっしゃる。なんてことでしょう。
その他厨房担当の方々からもオッケーをもらい、ひょんなことから料理をする羽目になった。思い切りの良さとその他のものに背中を押されてしまった結果がこれだ。
任されたものはやるしかないので、頑張るしかない。割と自炊はする方なので、ここでこの力が役立つのかと思う。と、言うわけで。
〜樹理の3分クッキング
Juri's kitcen〜
いやいや、ふざけるなふざけるな。そんな簡単に作れてたまるかっての。
野菜はしっかり洗って皮を剥き、だいたい1cm角に切り揃える。
玉ねぎは皮を剥いてくし形切り。
トマトは具は角切りに。トマト缶なんて便利なものはないので、器にトマトを入れて潰す。
ソーセージはまたまた5mm幅で輪切りに。
個人的な事にはなるが、給食のミネストローネには豆が入っていた。ただボソボソとしていて、口の水分が少しずつ無くなるので正直苦手なのを思い出す。
ここで鍋を用意。炊き出しでしか見たことない大きさと鉤にかけて鍋を吊るすということに驚きを隠せない。そして一度調味料が置かれた棚を覗く。
樹理「おお、オリーブオイルがある...。これってここのオリーブオイルですか?」
男性「そうだな。うちの名産であるオリーブを使ったやつだ。よく使っているんだ。」
オリーブオイルは正直オシャレな感覚が邪魔をしてそうそうふんだんに使えないが、今回は作る量が量なので、鍋にしっかり入れる。
そこにヴルスト、玉ねぎを入れて中火で炒める。といってもガスやIHのような便利なものはなく、いわゆる調理用の暖炉で行う。しかし火の魔法が使えることがアドバンテージ過ぎるのが確かで、火の調整はチョチョイのチョイだったりする。
玉ねぎが透明になってきたら、他の野菜も投入し炒める。ここで塩を入れる。塩は塩でも岩塩しかないが、塩を入れることで野菜の甘みが出る。
これもまたよい感じになったら、ここで水を適量投入する。
なお、ここにコンソメキューブなどと言った便利なものはないので、ここでさらに前日の汁を入れていく。ブイヨンの代わりに使うが、臭みはないしアクは取られていて、そこそこ凝っているのが分かる。
からのここでトマトを入れる。具も潰したのも一緒に入れて弱火ぐらいでコトコト煮込む。大体野菜の旨みを出したいなら1時間はかかるが、今はパパッと済ませるため15分程度にしておく。
最後に塩などでしっかりと味を整える。
が、ここで胡椒がないことに気づく。
樹理「あ〜...胡椒がないのか〜。」
受付嬢「いやいや無いですよ。あれ貴重品じゃ無いですか〜!」
確かに歴史じゃ昔は胡椒は貴重品だったというが、
この世界でも変わらないものなのだろう。
無くても大きく味が落ちるわけでは無いが、変わるものは変わるが...。
樹理「...お?」
ふと調味料の棚の近くにあった壺に目がつき、持ってみた。動かすと中で水が揺れ動いている。
男性「それはバジルだ。香り漬けに使うんだが、知ってるか?」
樹理「はい!いい香りですよね!」
────およそ口振りから察するにバジルはそこまで有名では無いのだろうか。もったいない。
それは置いておいて、今一度具材を皿によそって、バジルを添える。
3人と調理担当の方々が待つ...待っ...ちょっと心が前に行き過ぎているみたいだが、そこのテーブル席へと皿を運ぶ。
樹理「出来ました。ミネストローネです。スプーンは...もう持ってるんですね。」
男性「あぁ、すまない。少し先走り過ぎてね。...これはトマトスープか?いや、ここまで具沢山なのは見たことがないが...。」
受付嬢「うひゃ〜〜!美味しそ〜!」
リノハ「ありがとうございます樹理さん!いただきます!」
そう言ってそれぞれがスープを口に運んだ。
リノハ「えっ...!」
受付嬢「あ...!」
男性「む...!!」
樹理「な、どうかしましたか...?」
声を漏らしただけで押し黙ってしまった3人を見て不安に感じる。何かしでかしてしまったのだろうか。
リノハ「あ...え...?あぁ...?!?...美味しい...お、美味しい。えっと、故郷の感じでとても美味しくて美味しいです!???」
受付嬢「これは本当に人間が作り出したものなのでしょうか??」
樹理「え、えぇ?」
罵倒にも取れるような褒め言葉にも取れるようなことを言われて困惑を隠せない。というか明らかに様子がおかしい。何か不味い物でも入っていたのだろうか。
そこに彼が話し始める。
男性「...す、すまない。味の感想を一つも言わないのはどうかと思うが、美味さに語彙力が喪失したことが無くてね。ちょっと頭が追いつかない。」
樹理「あ、ありがとう...ございます?」
こうして美味しさのあまり放心状態にさせるというよい結果?によって樹理のクッキングは幕を閉じた。
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その幕は颯爽と破り捨てられて舞台の隅に投げ捨てられた。終わるわけがないというわけだ。
僕は再びミネストローネを作っている。無論これはギルドの職員+避難者への炊き出しを含めた量である。具材は途方もない量となり、鍋の大きさと数は比例するように必要になった。男性や他の方々が手伝ってくれるおかげで作業は早く進むが、いかんせん煮込む時間が長い。
時間を進ませる魔法なんてものは無いようで、待ちが必要になる。
ただやはり魔法は便利だと感じる。担当の人の内、風の魔法が使える人がいた。ある程度野菜の切る大きさを決めると、器用なことに皮を剥いて切る作業が秒で終わる。もはや一種の野菜カットマシンだ。
こうしてなんとか人数分の料理を作り終えた僕だったが、さらに追い打ちをかけるように配膳を行う。
皿は人数分足りるそうなので、盛り付けたら厨房担当の方がパンと一緒に持っていってくれた。ちなみにパンはライ麦や大麦が混ざる黒パンのようで、そこでも現代の食生活との違いを感じる。
そして間髪入れずにギルド内の食事の時間が迫っていていたので、言われるがまま料理をテーブルにしっかり並べていく。
数は54。それぐらいの人々がここで働いているようだ。
しばらくすると入り口から次々と職員が入って来て、席に座っていく。地震が起きた直後だからか、やはり顔は少し険しさを感じる。
ふと入り口付近を見ると、どこかで見た二人組の男性が、こちらを見つけるなり笑みを漏らしながら近づいてくる。
樹理「お疲れ様です!コラハさんは大丈夫なんですか?」
コラハ「ええ、少しだけですが休めましたよ。」
と首を動かす。
メーレ「えーと、ここから察するに、君が料理を作ったのかい?」
樹理「はい、作ることになってしまって...。ミネストローネって言うんです。腕によりをかけて作らせていただきました。」
コラハ「はぁ...聞いたことない料理ですね。初耳です。」
メーレ「楽しみだな〜!」
そう言って彼らは席へと向かった。
すでに全員が来たようで、席はほとんど埋まっている。先ほどからの反応で分かっていたが、少し物珍しさを感じているようだった。僕は部屋の奥の方でリノハと共に座る。そんな食堂の一角で感嘆の声が響いた。
「うまっ!」
「何これ!すごくすごい美味しいんだけど?」
「お、ヴルストだ!好きなんだよねこれ。」
「うま...うま...。」
「野菜が美味すぎるんだが?野菜ってこんな美味しかったっけ?」
「魔法の力だろ。」
僕は心の中でガッツポーズをする。成り行きで作ったとはいえ、褒められて嬉しくない人はいないだろう。横にいるメーレも興奮している。
メーレ「はははスプーンが止まらないよ。とんでもないものを作ってくれたねぇ!」
コラハ「・・・。」
彼は黙々と食べていますが、目と食べる速さから興奮が隠せておりません。
とまぁ、そんな様子を見て、ふと疲れが来た。
樹理「なんだか疲れちゃってぇ...もう動けなくってぇ...。」
リノハ「お疲れ様ですジュリさん。男性が皿洗いはしておくからゆっくり休んでいてくれって言ってましたし、私たちは一足先に部屋に戻っておきましょうか。」
そう言って戻ろうとすると、メーレが呼び止めてきた。
メーレ「ほう!ほっほまっへ!ちょっとふぁふぁひをひたいんだゃけぇじょ!」
コラハ「飲み込んでからにしていただけますか?」
メーレ「ごふぇんごふぇん。」
そう言って一度しっかり噛んだ後飲み込んで、彼は話し始める。
メーレ「今日は一度部屋へ行くとして、明日、朝に集まろう。場所は前君が気絶した部屋...って言えば分かるかな?」
樹理「あぁ...はい、分かりました。奥の部屋で集合ですね。」
メーレ「そうそう。じゃ、また明日ね!なんかあったら部屋に失礼するよ。勿論、なんかあったら質問しても良いからね!」
そう言ったメーレらと別れて、僕らは部屋へと向かった。
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リノハ「では、また明日に。おやすみなさい。」
樹理「おやすみ。」
彼女に1日の終わりの挨拶を告げ、僕は部屋に入った。
樹理「お、おーっ!」
そこには聞いていたものとほとんど変わらない部屋が広がっている。無論現代のと比べれば差はあるだろうが、築40年のアパートやマンションの一室だと言われたら信じるだろう。木の床に温かみを感じる。
僕はベットが目に入り、おもむろにそこへ腰掛け、そのまま横たわった。
樹理「...つかれたー。」
誰にも聞こえない声が、ただただ部屋の中を反射している。
確かな無力感を感じていた。ラッドを助けられなかった。考えられたはずの可能性を阻止できなかった。間に合わなかった。手は届かなかった。
『仕方ない。だって運動能力が高いわけじゃないから。』
『仕方ない。気づいていなかったのだから。』
『仕方ない。それはみんなも同じだったろう。』
『仕方な
────────。
その言葉をかき消すように体を起き上がらせて着替えを始める。
そんな言葉は、言い訳には過ぎないのだから。
つけるのにも慣れてしまった装備を外し、ベットに再び横たわった。
ふと、今までを思い出す。1ヶ月ほどは経っていないはずだが、まるで9年前のことのようだ。
...さすがに言い過ぎかぁ。
事故死したはずの僕は、あの森でリノハと出会い、そのまま成り行きのような形で旅へ出た。
ラッドやサラムさんだったり、ガードンやルリナだったり、ナーバス王やリトさん、メーレさんにコラハさん。メド院長やルイスくん。
多くの人に出会った...そんな感じだ。
樹理「...でも、まだ数え切れるか。」
僕はこれからどんな人達と出会うのだろうか。どんな旅をするのだろうか。
そしてふと、疑問が心の底から浮かび上がってくる。
樹理「僕は、何故...旅をするんだ?」
あまりにも───自分は、曖昧な理由で歩き出したような気がする。元の世界に戻れるかも分からない。戻っても、死んでいるかも知れない。
分からない気持ちだけが心に渦を巻いている。不安な気持ちだけが心を満たしている。
それでも、構わない。握り拳を作る。僕が今しなければならない事は、行方不明者もといラッドを助ける事でしかない。それは変わらない。
何の力になれるかは分からないが、出来るだけやらなくていけない。
樹理「...。」
そう思いながら、僕は眠りについた。
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リノハ「おはようございます、樹理さん!」
樹理「おはよう!そっちは眠れた?」
リノハ「はい!やっぱり野宿とは大違いですよ!ベット...運びながら旅しますか?」
樹理「いやぁ、流石に重さで大変でしょ。」
笑い合いながら、僕らは部屋を向かう。
突き当たりを曲がったところで奥へ向かえば、見るのは2回目となる扉がある。
3回ノックをすると向こうから声がした。
メーレ「はーい、いーよ!」
扉を開けると、仕事を進めているメーレと横のソファで悩みこむコラハがいた。
樹理「おはようございます!」
メーレ「おはよう!ちゃんと寝れたかい?」
リノハ「お陰で休めました、ありがとうございます!」
軽く頭を下げてリノハは答えた。
メーレ「よーし、じゃあ寝起きでなんだが、作戦会議と行こうか。ささ、座って座って。」
僕らはそそくさとソファに座る。皮のソファは骨組みがしっかりしている。
メーレ「まずはやる事の確認ね。合計で三つかな?
一つ目は行方不明者の捜索...というか救出だね。ドモル達のお陰で行方不明者らの場所はわかる。後で集会を開くから、その時に再度確認するとしよう。
二つ目は敵の討伐。行方不明の原因であるモンスター。そして協力者?と思われるやつを捕獲もしくは討伐をする。接敵した際は焦らずに連携をとる事だ。
三つ目、地震の原因を探ることだ。原因は不明だが、モンスターと共に平行作業して行う。以上だけど、何か質問は?」
リノハ「すみません、やはり協力者と思われるのはは...人なのでしょうか?」
メーレは少し考えてから話す。
メーレ「うーん、今わかっている事は、『仮面をつけている』『モンスターと意思疎通がとれる。』しか分からないからね。断定するのは難しいかな。」
ふと横で悩む樹理を見てコラハが声をかけた。
コラハ「どうかしましたか?」
樹理「...あの、推測にはなるんですが、一つ良いですか?」
メーレ「何か気付いたのかい?」
樹理「おそらく...地震の原因って、モンスターだったりしませんか?」
メーレ「...くわしく。」
樹理「はい。まず行方不明者の発生と地震がほぼ同時期である事。そして、地震の振動があまりにも不規則かつ、範囲が妙だと言うところです。」
リノハ「不規則...?」
端的に内陸型地震と海溝型地震について説明をする。
樹理「...と、二つの地震があるのですが...最近の地震って、他の街などに影響はありましたか?」
ラッド「いや、基本ないね。主な揺れの場所はここだ。今回の地震も強かったが、近隣の村に揺れはあれど、遠くまでは揺れていないとわかるけど...。」
地震大国に住んでいたからこそわかる。あの揺れは震度5強に匹敵すると言えるだろう。
樹理「だから変なんです。あまりに大きい地震が、あまりに狭い範囲で起こっている。その上でもう一つ。」
僕らが知った触手のモンスター。その能力。
樹理「やつは、地面を透過...いえ、水中とする能力を持っています。」
リノハ「ですね。ラッドさんが連れ去られた時も、壁から触手は出てきていました。」
樹理「しかも、その能力は触れた物にも付与できると考えていいでしょう。」
メーレ「それなら、ラッドが壁をすり抜けた理由も納得できる。」
樹理「おそらく、その能力でモンスターは地中を動き続けていると考えます。」
そこでコラハが疑問を唱える。
コラハ「そうだとして、触手のせいで地震が起こるのでしょうか。」
樹理「...それは、分かりません。ただ、もしかしてですが、触手が本体ではないのかもしれません。もっと大きいモンスターに触手があるだけかも。」
それを聞いたメーレは少し考えて、膝を叩いておもむろに立ち上がった。
メーレ「まぁ、考察はここまでにしよう!俺らがすべきことは簡単だ。モンスターの討伐、それに付随した何者の捜索もとい確保、行方不明者の救出となる。今日集会を行い、明日討伐隊を結成してドモルらの案内の元、本拠地である地下大水脈の元、地下大空洞へ向かう。これで異論はないね!」
僕らはそれぞれうなづいた。
メーレ「それじゃ、これで解散としよう。昼の集会に合わせて受付前に集合だよ!」
こうして話は終わり、僕らは部屋を出ようとする。
メーレ「あー、待って。ちょい待ち。ジュリ君、大事な話があるんだ。」
樹理「...なんでしょうか?」
鋭い眼差しが向けられる。そこはかとない緊迫感を感じられる。一体、どんな話をされるんだろうか。
メーレ「話はね────。」
メーレ「───ご飯、作って?」
樹理「はい?」
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樹理「はいご飯ですー!持ってってくださーい!」
今日の朝食は、ポトフとパン、切り分けたトマト。そして豪勢にも、人参を細切りにして、小麦粉のバッター液でまとめ、オリーブオイルで揚げ焼きにしたニンジンフライである。
リノハ「だ、大丈夫ですか樹理さん!なんだか手がありえない速度で動いてませんか!?」
樹理「ごめんあんまり話しかけないで!間違えちゃうから!リノハはゆっくり食べててね!」
リノハ「分かりましたけど無理しないでくださいね!」
無論大盛況であるというか。昨日の反響を見れば予想できたかも知れないが。皆様おかわりしまくりである。こうして悲惨な光景は出来上がるのだ。
樹理「なぁんでお二方までがっついてるんですか!!」
あぁ、何故、こんな事になってしまったのか。奇妙な出会いもある事だと思いながら料理をする。その中で、みんなの顔を見た。
美味しいと言う彼は、笑顔を見せてがっついている。
おかわりをせがむ彼は、物欲しそうに厨房を見て涎を垂らしている。
おかわりが3回目の彼女と、その横にいる彼女は楽しそうに笑い合って食べている。
元気なギルドマスターは、子供のように食事を楽しんでいる。
生真面目な国公騎士は、済ました顔をしながらも食事を口に運び続けている。
彼女は食事を口に運んで、よく噛んで美味しそうに飲み込んだ。横顔は透き通った氷の結晶のように見えた。窓から差し込む光は彼女に溶け込んでいる。ふと目があって、彼女は笑顔で笑った。
そんな顔を見て、僕は────。
_________。_________、________。
───ああ。
今度は、今はいない彼へ、料理を振る舞おうか。
だから、 きっと助けるよ。
閲覧ありがとうございました!
なんやらかんやらとこの異世界に適応している彼ですが、これも彼の能力あってのこと。
様々な出来事がすんなりと脳に入ってきます。
それが故の問題はありますが、おかげで異世界でもなんとか不自由なく生きています。
また次回もお楽しみください、それではまた!