data13.モルキュールモル
水が滴り落ち、ピチョンと一定間隔で音を鳴らし続けている。湿気が強く、横で常に流れ続ける水の音は下水道の中で蠢いている。先は暗く、視界が良いとは言えないだろう。
ラッド「暗ぇ‥灯り無きゃ通れないだろ。」
そんな愚痴をこぼすラッドの手にあるのは綺麗にカットされた丸い魔結石とそれを覆う器。いわゆるランタンである。中の魔結石には魔法が込められている。つくりで言えば電球なんかより簡単だ。
コラハ「私はそこそこ慣れてますがね。足元気をつけてください。」
樹理「‥それで、下水道の構造はあまりわかっていないんですが、どこに向かうんですか?」
メーレ「そうだね。説明しなければ。今から僕らは下水道の末端、行き止まりまで行く。ここは繋がっているのは水路だけで、道自体は繋がっていないんだ。」
リノハ「なるほど…尚更、モンスターが水生の可能性が高いですね。」
メーレ「ああ、そういうわけで、今から探索するとなると一時間程度だ。物凄くかかるわけじゃない。」
樹理「(この世界基準じゃ長くないのか…。)」
メーレ「そこまでに犯人が見つからない場合は、他のところもしらみ潰しってところかな?第一に行くとしたら…。」
コラハ「構えてください。」
一同は構えをとる。俺もワンテンポ遅れて構えた。
目の前にいるのは僕らのサイズとあまり変わりない大きさの動物。顔ばあまり見えないが、ふさもふな毛皮だ。
メーレ「これは…巷で話題のモンスターじゃないか!」
樹理「“ドモル”でしたよね!」
ドモル。モグラに似たモンスターで手首の関節がなぜか360度回るのが特徴。この手で土を掘り進めるらしい。自然界の掘削機と言っていいだろう。
メーレ「そう!何故か街に出てくるようになったモンスターだよ!ちょっと前までは大人しいやつだったんだけどなぁ!」
コラハ「無駄話はやめて下さい。一気にかかりますよ。」
ラッド「了解です!」
一斉に掛かろうとした時、リノハが僕らを呼び止めた。
リノハ「待ってください!なんか変じゃないですが?」
樹理「え、変?」
リノハ「いえ、なんか、動いてないというか。」
その言葉に首を傾ける。確かに鳴き声はしないし、棒立ちというか。まるでカカシのような印象を覚える。
ラッド「まさかなぁ…?」
ラッドはランタンをドモルの顔側に近づけてみる。
よーく目を凝らして見てみると、
…若干白目を向いている。
なんで?
毛皮のせいで分かりづらいが、震えている。
なんで?
「チュ、チュチュチチチチュュチユヂチチュチョチチ」
なんて?
メーレ「...え、嘘でしょ?」
コラハ「…何があったんですかこれは。」
*みんな こんらん している !
樹理「…は、話しかけてみる?...よーし、ドモルさん!こんにちは!」
ドモルの体が縮み上がる。
「チュ、チュ、チュチュチューッ!」
ドモルは急な呼びかけに驚き、逃げ去ってしまった。
ただ、
メーレ「うごぼぉ!?」
メーレに激突をかました後にだ、見た目としては屈強なラガーマンがサラリーマンにタックルした様子に酷似していたので、相当な威力だろう。
メーレは見事に後ろに吹っ飛び、尻餅をついた。
樹理「…逃げちゃった。」
リノハ「…なんだったんでしょう、あのモンスター。」
そんな疑問に、コラハは考察を交える。
コラハ「…『何かに怯えていた』のでは?それこそ、私たちのように、彼らの仲間も連れて行かれていてもおかしくありません。」
ラッド「はー、なるほど。」
樹理「…しかし、ドモルがいるならドモルキングがいるのでは?」
メーレ「ああ、いると考えて良いだろう。いてて…。」
メーレがやれやれというふうにおもむろに立ち上がった。
メーレ「気を取り直して進もう、出来ればドモルが行った方向にだ。」
その後、「なんで誰も心配してくれないんだ!」という苦情があったのは言うまでもない。
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約50分後だろうか。いくらかの長い通路を通り、いくつかの階段を降りた。もはやこの下水道でダンジョンが出来上がっている。
メーレ「うーん…苦戦するのは百も承知なんだけどね。これってのは見つからないものだ。」
樹理「仕方ないですよ。というか広すぎませんか、この下水道。」
コラハ「これは地下水のつくりに問題があります。
ここの下水道然り、上水道らが大樹の下の大空洞に繋がっています。複雑になった地下水の流れに合わせて造ると、自然に複雑になってしまった訳ですね。」
タメになる解説、ありがたい。一家に一台いたら嬉しいかもしれない。
ラッド「…ん?なぁ、ここ行き止まりじゃねぇか?」
その言葉に反応して前を見ると、壁が立てられている。
メーレ「あー、行き止まりかぁ。残念、見つからなかったみたいだ。」
リノハ「仕方ないですね。もとより、犯人は神出鬼没ですしね。」
樹理「…なんか、申し訳ない。」
ラッド「いや、謝る事ないだろ。とりあえずさっさと戻ろうぜ!流石にお腹空いてきたからな。」
そうして片道を戻ろうとした時、道の奥に何かの影が見えた。大きさは人型と同じだ。
樹理「待って!なんかいます!」
コラハ「あれは?まさか犯人でしょうか。」
メーレ「武器を構えてくれ。犯人の可能性が高い。」
それぞれ武器を構えて臨戦態勢に入る。メーレだけは武器を持っていない。
樹理「メーレさんは武器は?」
メーレ「俺のは緊急時用に取っといてるんだ。あまりそう使えない。」
少し疑問に思う節はあるが、理解して再び前を向く。前の影にジリジリと近寄る。
メーレ「魔法を使う。少し時間をくれ。」
魔法に時間がいることに疑問を覚える。すぐに出せるものでは?と考えたそのすぐ後だった。
メーレ「[汝はかの元に。その光は世界を照らそう。]、キラナ!」
初めて見る光景におどろく。俗に言う ”呪文詠唱“だ。光は内部を照らし、影の姿を浮かび上がらせる。
リノハ「あ、あれは!」
そこにいたのは、
「…チュチュ…チュ……。」
ドモルだった。しかもさっきのドモルと同じくドモルだ。
コラハ「…ま、またですか?何故あのドモルはここに?」
メーレ「…まさか、あれが犯人なのか?」
そんな話をしていると、ドモルは鳴き声をあげると。短い腕を自らの方向に降っている。
ラッド「…何やってんだ?あれ。戦おうとしてるのか?」
樹理「……『こっちにこい』って事じゃないか?」
ラッド「何かあっちにあんのか?」
僕らが向かって来るのを確認したドモルは、四足で走り始める。
樹理「やっぱり、何かあるんだな。」
コラハ「罠の可能性もありますよ。どうしますか。」
リノハ「行くべきです。でなければ、きっと姿を表さないと思います。」
その言葉にうなづき、僕らはドモルが向かった方向へ足を進めた。
そして、ドモルが足を止めると、そこには大きく穴のようなものがくり抜かれていた。
「チュチュチュ!チュッチューチュ!」
というと、その穴の中に入っていく。僕らもそこについていき、穴の中を進む。しゃがんだ状態で手探りで穴を潜っていくら、
メーレ「へぇー、いつの間にこんな穴があったのか。」
コラハ「ドモルが掘ったのでしょうが…もしかしたら、他の仲間もいるのかもしれません。」
樹理「いったい何があるんだろうか…。」
ふと、先ほどの疑問をメーレに質問する。
樹理「あれ、そう言えば、さっきメーレさんは呪文を使う時に詠唱をしていましたよね?あれはどうしてなんですか?」
その質問に、メーレは少し都合の悪そうな顔をした。
メーレ「あー…それね。そう言えば言ってなかったもんね。俺がうまく魔法を使えない事。」
その答えに驚く。うまく魔法が使えないとは、どういう事なのだろうか。
メーレ「いやぁ...ね。俺、魔法量はよかったんだけど、どーも人よりうまく魔法が使えなかった。
上手く魔法が出せなかった。水は溜まっているのに出す部分が...みたいな感じでさ。それで虐められたりもした...。」
顔が陰る。今を見ていないような目が、その辛さを物語っているような気がした。
樹理「…それでは、その、あまり魔法を使うのは得策では無いのでは?」
メーレ「それがね。どうも俺は魔法どころか剣の才もないらしい。あ、計算は得意だよ。」
メーレが自虐を交えて話しているが、あまりいい表情には見えない。失礼だったと考えたが、メーレは続けて話した。
メーレ「まぁ、そんな感じだったんだが…ある時さ、気づいたことがあった。それが、『詠唱をすると魔法が出し易くなる。』ってことね。」
樹理「なるほど、それで詠唱を…でも、どうして詠唱をすると魔法が出し易いんですか?」
その質問にメーレは頭を悩ませた。
メーレ「…それは、今のところ詳しい事は分かってないんだ。ただ、そのおかげで俺はある程度戦えるようになったんだ。それに、今はこいつもある。」
腰にかけたカバンをパンパンと触る。
樹理「なるほど…ちなみにどんな武器なんですか?」
メーレがそれはね…と話そうとした時、前から光が指してきた。
ラッド「多分出口だ!出れるぞ!」
僕らが歩き続けた先にあったのは、
「チュチューチュ!」
「チュチューチュ!」
「チュ!チュ!チュチュチュ!」
「チュチュチュチュチュチュー!」
ドモル達が造った住処だった。広々としている空間と、様々なドモルが行き交う姿はほとんど人の喧騒と変わらないことに度肝を抜かれる。
コラハ「これは…!凄いですね。ここまで広い住処は初めて見ました。」
ラッド「こんなところがあんのかよ!すげ〜!」
それぞれがこの光景に目を奪われる中、奥に飛び跳ねるドモルがいる。
リノハ「あっちみたいです!行きましょう!」
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僕らが向かった先は、彼らのいる空間の中で二番目に広い空間だった。目の前には階段上に掘られた土があり、案内したドモルは、階段を登ってその空間のさらに奥に行ってしまった。
ラッド「ここは…なんの場所だ?」
メーレ「僕らを案内したのなら、ある程度大事な場所であるのは確かなんだがなぁ。」
コラハ「入った瞬間に襲われたりしたわけでも無いので、ある程度信用は出来るのですが。わからない以上、警戒は怠れないですね。」
⁇?「気を楽にしてもらった方がありがたいのだけれどなぁ…。」
その声は階段の上から響いてきた。驚いた僕らは一斉にその方向を向いた。
⁇?「おっと、驚かせてしまったね。こんにちは、人間の皆さん。私はここのドモル達の住処をまとめているシナドモンです。確か、そっちではドモルキングだったかな?どうか、お客様方を歓迎したい。どうぞこちらへ。」
驚きを隠せない。モンスターであるドモルをまとめるドモルキングが自ら姿を表すどころか、こっちの言葉を話しているのだ。姿としては先ほどのドモルよりも年上のようで、パンダのもふもふ感を40%増やしたような感じだ。50%かもしれない。
そこにラッドが僕へ耳打ちする。
ラッド「(なぁ、どうなってんだよこれ!モンスターって言葉喋るのか!?)」
樹理「(僕もよく分からん!)」
メーレ「…あー、えっと、では、失礼ながら。」
そう言うと僕らは階段を登り、上にあった宮殿へと入って行った。
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宮殿は、土を掘られた物とは思えない綺麗さだった。いや、殆ど土色のはずなのだが、レンガのように綺麗に切られた石が使われており、厳かな雰囲気が漂っている。無論、ドアなどは無いものの、限られた部屋には文化的な側面を感じる。
僕らが通された客間には、ざっと16人が一堂に集まれそうなテーブルが3つあり、入って正面にはステージがあった。宴会場にも使われているのだろうか。
シナドモン「どうぞ皆さん、お座りください。」
その声に応じて、石造りの椅子に座る。
シナドモン「さて、改めて挨拶をしよう。私はシナドモン。このドモル達をまとめている、いわば王だと言っていいでしょう。」
メーレ「こんにちは。俺はナツカグ・メーレと申します。街のギルドマスターを勤めさせて頂いています。」
コラハ「私の名前はコラハ・ウィツギル。国公騎士として、王に忠誠を誓う者です。」
ラッド「お、俺の、な、名前はトロナガル・ラッドととと言います。え、えと。よろしくお願いします。」
ガチガチに緊張している。落ち着け。
リノハ「こんにちは。私はリノハ・シーミツマです。冒険者をしています。」
樹理「高野樹理です。同じく冒険者をしています。」
僕らの挨拶が終わると、シナドモンは口を開く。
シナドモン「皆様方、よろしくお願いします。水も出せず失礼をおかけするようですが、肩の荷を下ろしてくれるとありがたいです。」
物腰柔らかな印象を受ける。彼の目は黒いが、確かに優しさを感じる。
メーレ「いえいえ、そんなにご心配なさらなくても大丈夫です。それで、早速なのですが、僕らをここへ連れてくるようにしたのはあなたでしょうか。」
シナドモン「ええ、そうです。下水道の途中で人を見かけて、しかも冒険者の方だと聞いたので、急いで連れてくるようにとお願いしたのです。」
メーレ「…なんの目的で?」
メーレの目つきが鋭くなる。
シナドモン「皆様の保護です。」
その言葉に驚くが、シナドモンは変わらず話を続ける。
シナドモン「皆さんもご存知かもしれませんが、ここの下水道の中、いえ、大樹の下にある空洞の地下水の中に、何かがいます。」
急に降ってきた情報。黒幕はそこにいると決定づけるものだった。
コラハ「…それが、冒険者たちを襲っているんですね。」
シナドモン「はい。そして、私たちも住処を追われました。いつのまにかアイツはいて、私たちを襲ってきたのです。」
メーレ「姿は?魚などのようなでしたか?」
それを聞くとシナドモンは頭を悩ませた。
シナドモン「うーん…いえ、確かに奴は水の中にいたんです。ですが…ちょっと不思議でして。」
リノハ「特殊…ですか?」
リノハは頭を傾ける。
シナドモン「…私たちが襲われた時、水面からは…2本の触手が、伸びてきました。」
メーレ「…え、触手?触手だって?」
シナドモン「ええ、細めではあるんですが、強度は確かでムチのようでしたら。われらは触手を切ることができず、一方的に蹂躙されました。…実を言いますと、本物の王、カシアドはその際に殺されました。」
樹理「っ…。」
声が詰まる。王が殺されてしまった。という事実に驚きが隠せなかった。
シナドモン「今では、私がその代わりを務めている。という事です。カシアドと私は兄弟関係でしたので、自然にそうなってしまったわけです。」
リノハ「そう…でしたんですね。」
メーレ「それは、大変でしたね。」
シナドモン「もう慣れましたよ。ハハハ。」
そう笑っている彼の笑い声には、どうも悲しさが混じっているように感じた。そんな中、コラハは話を進める。
コラハ「…水を差すようでアレですが、それで、私たちにそれを話していただいたのは何故ですか?」
それを聞いたシナドモンは本題だというように姿勢を変える。
シナドモン「…言うまでもありません。皆さんには、あのモンスターを倒し、連れ去られた冒険者の方々を助けていただきたい。」
メーレ「…では、今、行方不明になっている方々は無事だと?」
シナドモン「はい、先日…まぁ、具体的に言いますと3日前です。…そうですね。『地下大空洞』と言うことにしましょうか。そこへ偵察に行ってもらいました。様子を確認したところ、複数名の方が地下水の湖の付近にて、檻に閉じ込められていることが分かりました。無論、私たちはそんなものを作った覚えはないので、おそらくは私たちがいなくなったのちに作られたものかと。」
淡々と話すシナドモン。とんでもなく大事な情報を手に入れた僕らは、考えを巡らせる。
コラハ「…つまり、触手のモンスターの他にも、犯人がいると言う事では?」
メーレ「檻を作れる技術を持った『何か』がいるってことだな。」
リノハ「共犯者、ということですね。」
シナドモン「話を続けます。目的はわかりませんが、何らかの目的で生かしておいている事は確かでした。そしてその檻で1人の男の子を確認しました。」
樹理「男の子…って、もしかして、碧色の目をした子だったりします?」
シナドモン「!ご存知でしたか!はい、その子の筈です。私たちはもとより穴を掘ることが得意です。バレないように子供1人分の穴を掘ることは出来ました。なにより、檻の中で言えば最も体力が残っていたというのもあります。こうして、一人逃すことには成功したと思っていましたが…その後は、皆様方が保護を?」
ラッド「はい、俺とリノハが。」
シナドモン「…良かったです。無事に戻れたのですね。本当に良かった。」
そう安堵する彼の表情は温かいものだった。
シナドモン「...とまぁ、こんな感じでした。」
メーレ「なるほど…シナドモンさん、情報提供、ありがとうございます。」
シナドモン「いえいえ、では、私は情報を出させていただきました。皆様方と協力し、あやつを倒したい。どうか、お願いできませんか。」
深々と頭を下げるシナドモンを、メーレはしばらく見た後、一呼吸置いて言った。
メーレ「こちらこそ、よろしくお願いします。」
シナドモンの目が輝く。2人とも握手をし、見つめあった。
シナドモン「仲間たちも喜んでおります。私達は救助をメインにやらせてもらいます。決行日はいつにしますか。」
メーレ「そうですね、できるだけ早い方が良いので、明日の昼、集会を行い、明後日に決行しましょう。」
それを聞いたシナドモンは、ふとゴソゴソと自らの身体を探って、棒を取り出した。木琴や鉄琴を鳴らすマレットの先を鉄に変えたようなものだ。
シナドモン「これで地面を叩いていただければ、私たちに音が届くようになっています。音を鳴らせば私達はそちらへ向かいます。1回で私、2回でこの場所の精鋭10〜20匹、3回でほぼ全員を呼び寄せるという合図を作っておきましょう。」
メーレ「了解しました。明日集会の際に呼ばせていただきます。」
お願いしますと頭を下げるメーレに合わせて自らも同じく頭を下げる。
「よし、それじゃ、もう戻ろうか。長居したいところだがゆったりしている暇は無さそうだからね。」
コラハ「えぇ、戻ったら、すぐに掲示板に張り出して召集をかけましょう。」
シナドモン「皆さん、ありがとうございました。どうか帰りもお気をつけてください。」
心配そうに見つめるシナドモンに手を振り、僕らはその場を後にした。
そして、出る直前である。
元気そうなドモル「だからさ!見たんだって!とんでもないのをー!」
賢いドモル「いーや、絶対嘘だな。そんな事は信じられん。」
樹理「…?うーん、ごめん、ちょっと行ってくる!」
ラッド「樹理?どうかしたのか?」
頭に彗星のような模様が着いたドモルと目が切れ目なドモルの話が気になり、話しかけた。
樹理「あのー、ちょっといいかな?」
元気なドモル「うわ!ヒトだ!え?なんでこんな所にいるんだ?夢?」
樹理「夢じゃないけど…シナドモンさんと話してたんだよ。ところでさっきの話…。」
元気なドモル「さっきの…ああ!そうだよ!コイツが中々信じてくれなくてさ!」
賢いドモル「そりゃそうだろう!そんなこと信じられるかタコスケ!」
元気なドモル「誰がタコスケだこの!」
樹理「まぁまぁ…それでどんな話なの?」
彗星のドモルは胸を張って話し始める。
元気なドモル「聞いて驚け!俺は俺たちを襲った奴の真犯人が分かったんだ!」
樹理「真犯人!?」
元気なドモル「そうさ!俺たちを襲った触手と仲良くしてやがったんだ!触手を撫でてたんだ!」
触手を撫でている…少なからずとも、確実に触手相手に警戒されていない。ということだ、犯人とまた間違いない。
樹理「そ、それで!犯人の見た目は!?」
元気なドモル「……えーっと、それはだな…。」
流星のドモルはばつの悪そうな顔をしている。
賢いドモル「な?そういうことだと言っている。不確定性が多いんだよ。バーカ!」
元気なドモル「誰がバカだよバーカバーカ!砂漠で人間に狩られちまえ!」
樹理「いや、な、なんかその、少しでも覚えてることはないの?」
それを聞いたドモルは少し考えてから言った。
元気なドモル「うーん、なんか、まるで悪魔みたいなやつだったぜ。ニヤニヤしてたし。」
賢いドモル「抽象的な事しか言えんのか?記憶力で言えばお前はドモルよりトサカドリが適任かもしれんな!『トサカドリは3歩歩けば忘れる』だったかぁ!?」
元気なドモル「ピーチクパーチクうるさいな!トサカドリの幼体さんだっけか?」
…喧嘩が始まってしまったので、感謝の言葉を送ってその場を後にした。
ラッド「お前って自分から変な事に巻き込まれに行ってたりするか?」
樹理「やめろ言うな。本当にそう見えてくるから。」
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穴を出て再び下水道にきた僕らは上へと向かっていた。あいも変わらず変わらない景色を歩き続けている。
メーレ「これで方針が固まったな!今日冒険者を集め、明後日に討伐と救出を開始する。そんで、その触手の奴と黒幕を倒して万々歳。ってことだ!」
リノハ「そんなにうまく行きますかね…。」
メーレ「…まぁ、大体上手くいかないのが世の常なんだけどね。」
メーレは肩をすくめてため息をつく。
メーレ「…でも、そんな事は許されない。ギルドマスターとしてやる方はやる。それだけさ。」
そんなメーレを見て、コラハはフッと微笑する。
コラハ「そうですね。私も国公騎士として、やれることはするつもりです。」
−−−−−−−−−−
一時間後。
メーレ「そろそろ地上だね。ようやくこの冒険も終わりってわけだ。」
樹理「戦いはこれから始まるんですけどね。」
そんな事を言うと、横からぐ〜と音がする。
ラッド「あー…お腹すいたなぁ。昼飯も食べてねぇし…あー!腹減った!」
リノハ「そんなに言わなくてもご飯は逃げませんよ。」
コラハ「…ご飯を食べるのは良いですが、流石に私たちは下水道にいたので、臭いはなかなかだと思いますが。」
樹理「残念。先に着替えみたいだな。」
それを聞いたラッドは残念そうにしながら口を尖らせていた。
「だ、だれか〜!だれかぁ〜!」
叫び声が響き渡る。
メーレ「!奥に誰かいるみたいだ!」
確かに男性の声がしており、みんなも聞こえていたようだ。
樹理「行きます!」
剣を抜いて一目散に走り出す。急いで助けなければ。何故こんな中にいるかは、おそらくヤツのせいでほぼ間違いないはず。そうならば、このままでは誘拐されてしまうだろう。
そうして向かった先には、何かの姿も見えず、助けを求めた人影も見えない。近くの排水溝では、人1人程度の大きさの穴から水が流れている。
樹理「遅かったのか…?」
瞬間、確かに横の壁が蠢いたように見えて目を瞬く。なんだろうか。疲れているのだろうか。
信じられることではないと結論づけていた。
そこから、自らの体めがけて触手が伸びてきた。
まずい。/まずい。
逃げろ。/動け。
行動しろ。/急げ。
早く動け/指先だけでいい、動け。
脇腹へ魔法がぶつかる。急な衝撃を受けた体は、大きく横に吹っ飛び、ラッド達の足元へ倒れ込んだ。
ラッド「おい!ジュリ!大丈夫か!?」
樹理「問題ない!自分でやった|。」
メーレ「急いで引く!走れ!」
暗闇の中を走り始める。背後からは四本の触手が今に襲い掛からんと向かってきている。
ラッド「(速ぇ!俺たちに追いついてもおかしくない!)」
コラハ「ここで防ぎます!誰かカバーを!」
その声に合わせるように、リノハは向きを変える。
焦点を合わせ、触手目掛けて飛び込む。
リノハ「───はぁぁぁっ!」
放たれた四撃はそれぞれの触手にあたり、怯んだ様子を見せる。
コラハ「覆膜呪文!」
通路内を閉じるように現れたその呪文は、透明な膜が展開されており、まるでバリアのようだ。
通らなくなった触手たちが何度も叩いて壊そうとするも、壊れる気配はない。
樹理「...これで一安心、か。」
軽く息切れを起こしながら剣をしまう。
メーレ「なんとかだけどね。急いで戻ろう。」
そして出口へ向かおうと歩みを進めた途端だ。
微かに違和感を感じた。先程の触手は4本、それらが水棲とする。ある程度の知能を持っている上で。
シナドモンが言ったのは2本。数が合わない。増えたのだろうか。それとも、元々2本だけで彼らを蹂躙するのは簡単だった?
いや...おかしい、もしかしたら。何か勘違いを───。
樹理「っ!違う!4本じゃ────!」
そこで、間違いに気づいた時には、もう遅かった。
ラッドがうめき声を上げたと思えば、壁から生えてきた触手に絡め取られ、口を押さえ込まれていた。
ラッド「うぐ───。」
足先から地面を蹴る。少しだけでもドゴルを使いスピードを稼ぐ。距離は5m。2歩さえ歩ければ間に合う。
樹理「ラッドッ!」
そうして、彼の手を掴まんと伸ばした手は、無惨にも空を切る。
触れることさえ出来ずに、ラッドは壁へと引きずり込まれてしまった。
勢いを出した身体はスピードを出したまま止まることが出来ずに、ひるがえそうとした肩から壁にぶつかる。
樹理「───ぐ。」
そのまま摩擦する音を立てて座り込む。ぶつかった痛みと助けられなかった後悔が自分を襲う。大きな痛みではないはずなのに、ズキズキと痛む感覚がした。
リノハ「樹理さん!」
心配で駆け寄ってくるリノハ。当たった箇所を触りながら、声を発する。
リノハ「...ラッドさん、は。」
コラハ「・・・・・。」
メーレ「......っ、くそっ!...くそっ!」
右の拳で壁を叩くメーレは俯いて、悔しさを噛み締めている。
何もできずに攫われてしまったことに、それぞれが苦悶の表情を表す。
樹理「...ラッド。」
そんな中で、コラハが声を上げた。
コラハ「...俯いていてはいけません。魔物の彼が言っていたことが本当ならば、彼はまだ無事な筈。ならば急いで作戦を整えるべきです。」
その言葉にハッとしたメーレは顔を上げる。
メーレ「...ギルドマスターとしたことが、我を忘れていたか。ああ、その通りだ。今すぐ急いで戻ろう。」
その言葉の後、彼は樹理へと目線を向ける。
メーレ「...立てるかい?」
優しさのこもった声だと感じる。悔しさを、彼自身も分かっている。
だから、その答えに軽く息を整え、はっきりと答えた。
樹理「────立てます!」
閲覧していただきありがとうございます!
いつも通りの投稿頻度の遅さにうんざりされているかと思います。
そんな私の小説を見ていただいてくれてる皆様に感謝しています。
良かったら評価や感想をしていただくと嬉しいです。
では、またまたー。
あ、ちなみにいつか魔法についてまとめたものを出す予定です。お楽しみに!




