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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~  作者: KEY-STU
第一部 一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)

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91/2021

91.モラクスの囁き

『お前の望みを叶えてやろう、漆黒の美しい獣よ』


『……誰? ……何処にいるの?』


『我はどこにでも存在する、待っているが良い、今すぐお前の所へ赴き助けてやろう…… 力を欲するのならば、我を受け入れるが良い』


 秋日影は誰とも分からないその声に、(すが)るように頷いて、声の主を受け入れる事に決めるのであった。  


 同意の意思を深層で受け取った悪魔、モラクスはゆっくりと秋日影の精神へ侵食を開始した。



 翌日、コユキが善悪に対して、偽メリーを気取っていた頃、秋日影は自我を保ちながらも、その内面は既にモラクスの魔力で満たされていた。

 組合の家畜運搬車が横付けされた牛舎の中、秋沢明と組合員の二人が秋日影を移動させるために、肥育ゲージのパネルを開けた時に変化は起こった。


 ヴァヴォォォォォ!


 とても牛の物とは思えない、身の毛もよだつ様な怒声をあげ、秋日影だった物は立ち上がった。

 四足では無く、後ろ足二本で人間の様に直立したのである。


 驚いて、立ち(すく)む秋沢明の前で、徐々に姿を変化させて行く秋日影。

 左右に伸びていた角は前方に向き直り、より長く鋭く形状を変えたそれは、まるで御伽噺(おとぎばなし)に描かれる鬼の角の様だった。


 肉体は肥大化した筋肉に包まれ、漆黒の上半身は人型に近く、前脚は最早、腕と呼ぶのに相応(ふさわ)しく、(ひづめ)強靭(きょうじん)な爪を持った五指へと変化していた。


 唯一牛のなごりが見て取れる所といえば、後ろ足の(すね)から先の部分、それ以外は尾を残すのみであった。

 顔つきも、牛のそれとは大きくかけ離れ、一見人間に似てもいたが、赤く光る瞳と鋭く伸びた牙の存在が、両者は全く異質な物だと見る者を納得させていた。


 何より人間とはサイズが違っていたのだ、優に三メートルを超えた巨体は、それだけで周囲に強烈な圧力を与え続けていた。


「秋沢さん、逃げんと!」


 その場で小刻みに震え、逃げる事も忘れて立ち尽くしている明に声を掛け、牛舎の外へと逃げ出す男。

 我に返った明もその後を追い、牛舎の扉を閉めようと振り返った時だった。

 化け物の赤い瞳がこちらを凝視しているのが、はっきりと見えたのだが、それは見慣れた秋日影の人懐っこい物とは似ても似つかなかった。


 そこから逃げ出しながら、彼、秋沢明は正しく理解した。

 アレは秋日影が変化した物では無い、秋日影は既にアレによって奪われてしまった、変えられてしまったのだと。


 逃げ出した先には、謎の巨漢、プロレスラーだろうか、がいた。


 明は思わず叫んだ、


「ウチの牛が化け物にされちまったんだ! 秋日影が! 俺らも逃げるから、あんたも早く逃げなきゃ!」


 すると、巨漢が落ち着いた口調で言葉を返してきた、


 その子はアタシが助ける、と……

 アイツを倒してね、と……


 秋日影の命は助からないかも知れ無いし、助かったとしてもどの道出荷されるだけだろう。

 でも、この太った人は言った。

 秋日影で無く、アイツを倒すと。

 恐らく、アイツとは秋日影を奪った相手の事だろう、そう明は感じていた。

 せめて秋日影の体からアイツを追い出して欲しい。

 ここまで頑張って来たアイツの二十四ヶ月を無駄にしたくない。

 最後まで肉牛としての生を全うさせてやって欲しい、そう願った時、自然に言葉が出ていた。


「頼む。 あの子をアイツから解放してやってくれ」


 その言葉に巨漢、コユキは進めていた歩みを止めると振り返り黙って明を見つめた。

 その視線の意味を一瞬で理解した明は、コユキに向かって言葉を続けた。


「分かった! 無事出荷できたら、利益の一割、いや二割があんたの取り分だ! それでいいだろう?」


 コユキはニヤリと笑って返した。


「そんなの、いらないわよ」


 そう言い終えると向き直り、


回避の舞い(アヴォイダンス)


 残像を残しながら化け物へと肉薄していった。

お読みいただきありがとうございます。

感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)

まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、

皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。

これからもよろしくお願い致します。

拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。


Copyright(C)2019-KEY-STU

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[良い点] コユキが格好良いですね。太った人、と書くだけで何か良い人に変わったようにも思えて不思議です。ただ、コユキが秋沢さんたちの心を掴んだようです。強くなったコユキの戦い、とても楽しみです。 [一…
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