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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~  作者: KEY-STU
第一部 一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
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3.コユキ

 真夏の暑い部屋の中、額にうっすらと汗を滲ませながらも、順調に手だけは動かし続けている。

 編目を数えてさえいれば、なんの屈託も無くいつまでも編み続けて居られるこの時間がコユキにはお気に入りであったと見える。

 

 不意に独り言が口を()いて出る。


「マフラーが完成したら、次は何を作ろうかなぁ? いつも通り編みぐるみ…… ん? 違くて、実用的なのにするかなぁ? んっとぉ、おお、そうだ! バッグが良いじゃないの♪ うん、バッグに決めたわん!」


 次回作はバッグにする事に決まったらしい。

 一見、ありがちな選択に見えるワンシーンなのだが、ここには彼女が自ら背負った『闇』が潜んでいるのである。


 なぜかって?

 だってここまでの観察から類推するに、編みぐるみは当然だが、バッグにしても使う予定は無い事が容易に察せられるからである。

 

 コユキ、彼女は二十年来の立派な引きこもりだし、当然、『お出かけ』の予定なんてあろうはずもない。

 コユキにとっての『お出かけ』といえば、徒歩二、三分のコンビニへ食料を調達しに行く位のようだし、それすらも必要に迫られなければ実行しないみたいだからね。

 勿論手ぶらで、お金はポッケ、バッグの出番は無いだろう。

 

 要約しようか?

 実際に用いる事は無い、すなわち実用的で無いということ。

 にもかかわらず、真夏のうだる様な暑さの中、大量の汗と自身の悪臭に(まみ)れながらの果てし無く続く単純作業。

 少なく無いカロリーを消費しつつ、完成した瞬間からダニの温床としてしか存在意義を持たない物を生み出す苦行。

 

 実際『カラフル』な部屋のそこかしこには無数とも思える色鮮やかな編みぐるみが飾られている。

 その数およそ千体にも及び、それ以外にもセーター、マフラー、手袋、帽子、手提げ、下着に至るまで、考えられるありとあらゆる毛糸に依る創作物があちらこちらに存在していたが、どれ一つとして使われた気配は皆無だったのである。


 この集中力、これは()しかして凄いんじゃないかな?

 この一見、無意味にしか感じられない行動からこそ、彼女の本質が窺い(うかがい)知れるのではないのだろうか?


 私は仮説を立てた。


 これは、もしかして、『時間潰し』または『暇潰し』という行為ではないだろうか、と……

 こことは文明レベルだけでなく、価値観、生態系、死生観すら異なる世界の住人である私には、容易には受け入れがたい仮説では有るが……


 誰にも平等に与えられ、権力者でも大金持ちでも、他者から譲り受ける事が不可能な、なによりも貴重な時間。

 それを無駄に消費するなど、私にとっては信じられぬ愚挙であり、人生に対する冒涜とも感じる暴挙でもある。

 いわゆるカルチャーショック、()しくはジェネレーションギャップなのだろうか?

 理解に苦しむ……


 ふむ、取り敢えず保留として、続けて『観察』してみる事とするか……


 基本的にコユキは服装にも無頓着らしい。

 主にスウェットの上下を好んで着用している、と言えば多少聞こえが良いかもしれないが、残念な事に父親のお古のようだった。


 ガタイは良い方の父親が、愛用していたスウェットの、ウエストが伸びきってしまったものがコユキにぴったりだったらしい。

 脂肪がたっぷりとついた、豊満すぎる腹に上手いこと引っかかっている、まるで誂えたようだ。


 髪形についても服装と同様に、一切の(こだわ)りを持っていないな。

 美容院や床屋には行かず、少し伸びてくると自分で適当に切っているらしい。


 うん、上手にではなく本当に適当に……

 適当、この魔法の言葉通りに、マジ適当に…… それで良いと思っている様である。


 わかりやすい表現にするとザンバラ頭である。

 丁度、大相撲に入門して数場所目の若手力士のそれに良く似ている。

 コユキの体型との親和性の高さもあって、決して似合っていない訳では無い。

 スウェットと合わせれば、ちゃんこの後の相撲部屋の日常の様な情緒も(かも)し出す事に成功している、うん! お似合いだね♪


 しかし彼女には、事ある(ごと)にこの素敵なヘアスタイルや服装を否定してくる存在がいるようだ。

 それは他ならないコユキの家族達であり、二人いる妹たちは特に口煩くてコユキ的には辟易しっぱなしらしいな。

 顔を合わせれば、痩せて! 美容院へ行ってくれ! 痩せて! せめて女物を着て! 痩せて! などとコユキには意味の分からない発言を繰り返しているのか、ふむふむ、なるほど。


 しかし、周りがなんと言おうとコユキ自身はどこ吹く風で、


「服なんてコレで十分よ、第一まだ着られるんだから勿体無いでしょ? それにね……」


 一旦、言葉を止めると悪そうな笑顔を浮かべて、(おもむろ)に有りもしない髪を(ひるがえ)すように肩の辺りを太い指で払って続ける。


「髪形については、ちゃんとした理由があるんだからね! ほら最近の男ってヤバいやつ多いって言うじゃないのよ! あんたらみたいにロングやミドルだと、女性らしいとか思わせて、大人しい印象を持たせちゃうんだってよ? 力押しでとか、ストーカーで長期戦でとか、何とかなるって錯覚させたりするリスクって増えるのよね! 子供連れてるあんたらは、それだけで背後に控える旦那の存在が抑止力として有るけどさ、アタシの場合は自己防衛するしかないのよ? 飢えたケダモノ、狼たちを責めるのは勿論その通りだけど、女性自身も確りと自覚を持つべきだと思うわね!」


だそうだ、いつもこんな感じらしい…… 痩せる云々はまるで無視である。

お読みいただきありがとうございます。

感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)

まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、

皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。

これからもよろしくお願い致します。

拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。


Copyright(C)2019-KEY-STU

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