22.夢じゃなかった(泣)
沈んだ気分でいると、聞き慣れた声が階下から聞こえてきた。
「コユキ殿ー! おはようございまーす! コユキ殿ー! 迎えに来たでござるよー!」
善悪だ。
これがリエの声だったらどんなに安心した事か。
「……そうだ、朝ごはんだね! お腹空いた~」
無理に気持ちを明るい方へ切り替えた後、
「ちょっと待っててぇ――――」
と階下に向けて声を掛け、取り敢えず傍らの雪○宿を口に入れられるだけ頬張ると、
「よっこらしょっ」
とベッドから立ち上がり、二歩進んだ所で屁が出た、
ばっっ! ふぅうう~ ……プスッ
「……くっさ」
とブツブツ言いながら腹を揺らし、渋々階段を降りていった。
一見すると普段と変わらない様子だったが、実は内心でちょっと冷っとしたコユキである。
夕べの今朝だ、ましてや人としての尊厳に関わる事態だ、やむを得ない事だろう。
階段の下ではいつもと変わらない人懐っこい笑顔の善悪が、薄紫の作務衣姿で立っていた。
「……お、コユキ殿っ! おはようございます」
――――っちっ! 無駄に爽やかだな!
コユキは少しホッとしてしまった自分にムカついた。
「はい」
スッと差し出された茶色と黄色が目立つ紙パック。
反射的に出してしまった掌には五百ミリリトッルの甘いコーヒー牛乳が握らされていた。
「……ありがと ……取り敢えず、シャワー浴びてくる、上がって待っててよ、あ、皆の様子見てみてくれる?」
半目のまま、バリッと紙パックを開き注ぎ口から直接グビグビ飲み干す。
「うむ、承知したのでござる」
請け負った善悪は自身の脱いだ雪駄を揃え、茶糖家の母屋へ上がった。
「これは…… 茶糖家の方々には気の毒な事であったな……」
うっかり合掌してしまった善悪に、
「ちょっと、まだ生きてるんだから止めてよね、縁起でもないっ!」
んグっ、と平手に備え、両足を踏ん張った善悪だったが平手は飛んでこなかった。
コユキは完全に目覚めていないようである。
まだ半目だから暴力衝動も抑えられているのかも知れない。
――――寝惚けて…… むむっ? 違うっ! 異様に浮腫んでいるのだ! パッツンパッツンだ!
「うむ、失礼した、そうであるな」
――――そうか、拙者もまだまだ修行が足りないのでござる……
昨日のペペロンチーノの塩分が多かったのだろうと、自身の味付けを振り返り始めた善悪だった。
しかしその考察は間違っていた。
寝起きのコユキは常に浮腫んでいる。
半日くらいは浮腫んでいる、代謝が極端に悪いのだ。
デブの常である。
善悪の勘違いが正される事は無く、二人は幸福寺へと向かうのであった。
「いただきますっ!」
両手を顔の前でパンッ! と合わせた。
コユキは幼少の頃から常に暴君であった。
不潔だし、クサイし、肥満だし、ブスだし、キモオタだし……
挙げればキリがないが、善悪は、この食に対する真摯さだけは好ましく思っていた。
そして、コユキが大量に食べるのは、現実逃避だろう事をも勝手に好意的に理解していたのだ。
――――しかし、こんな時に良く食べられるな…… いやいや、食べざるを得ないのも辛い事であるかもな…… 聖女であれば食べない訳にもいかぬであろうし…… ん? 聖女は食べる、のか? 何でそう思ったのでござろ…… はて?
と、見当違いではあったが、それなりに分析をしていた。
善と悪。
名前の通り、両面を常に考える善悪だった。
「はーい、召し上がれ」
幸福寺での朝ごはんである。
ほかほかの白いご飯、根深汁、塩が吹いた焼鮭。
善悪お手製キュウリのぬか漬け。
シンプル故に難しい、しかし絶品の品々……
コユキは、
「うまうま」
とがっついている。
それを見て満足気な善悪であった。
「おかわりあるからね~!」
結局、一升炊いたお米を完食したコユキであった。
――――ふう、ギリギリセーフであった、念の為、明日からもっと炊いておくのでござる……
空になったお櫃を眺め、安堵する善悪だった。
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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