13.旅立ちの覚悟
玄関先にはヤギ頭が崩れ落ちた残骸が、ボロボロと灰の様になっている。
「う~ん、どうしよう? 汚いなぁ…… それに残しておくと良く無い気もするし…… ばい菌とか……」
――――ホウキっいぇどっかにあったっけ? それにお清めの塩とか撒いた方が良いわよね?
ホウキを探して辺りをウロウロしている時、灰の中で何かがキラリと光った。
怪訝な顔をして拾い上げてみれば、半透明の赤い石の様である。
「何だこれ? 宝石? ヤギ頭が持ってたモノかな? あいつアクセサリー的な物付けてたっけ? 崩れ残ったのかなぁ?」
バケモノが持っていた若しくは身に付けていたモノだと思うと気味が悪かった。
しかし、何か手がかりになるかもと思い、取り敢えず拾ってスウェットのポケットに入れておくコユキ。
ホウキを発見し、掃き掃除をしていると、傍らにヤギ頭が手にしていた小汚い袋が落ちているではないか。
拾い上げ、中を覗いてみるが不思議な事に空っぽであった。
「あれぇ? アイツ確か何か青い玉みたいなのを入れていた様な? 変だなぁ? 若しかしてぇ?」
コユキは何かを思いついたらしく、自分の部屋へ行き、そこら辺にあったタウン誌をその小袋へ入れてみた。
「! 消えたっ?」
試しに、働く気も無いのにもらってきた求人誌を何冊も入れてみる。
……やはり消えた。
「これは良い物を手に入れたぞ!」
コユキは嬉しそうに、青カビが浮いたパンや、履き古した黄ばんだパンツを次々と入れてみた。
じゃぁこれも! と廃刊になり部屋の中に放置していたBL雑誌『ゲロゲロ』を手に取った。
今までどれ程『ゲロゲロ』に青春と情熱、それに僅かでない小遣いを捧げてきた事か。
様々な思い出がコユキの脳裏に蘇る。
コアなファンの一人であったコユキは創刊当初からこのマイナー雑誌を支えてきたのだ。
親のカードをそっと持ち出し、コミケへと向かったあの日々。
そして、共に歩もうと心に決めたにも関わらず、突然の廃刊宣言。
「くっ…… ちきしょうっっ!」
怒りにまかせ、袋の中へ次々と放り込む。
消えた……
「ほぅ~! 噂に聞くアイテムボックス的なやつかな? これもあいつに聞いてみよう」
袋の端をズボンのウエストゴム部分に挟み込みくくり付けた。
家の玄関に鍵を掛けて外出するなんて、コユキの人生で初めての行為であった。
いくらコユキが一人部屋に篭ろうとも、いつも家には誰かいた。
皆がいなければ自分は今ここにはいないし、引き篭る部屋さえ無かったのだから。
今までずっと、三十九年間、図々しくも一人で生きてる様な気になっていた。
そんな勘違いに、いざ一人きりになってみて漸く気が付いたのだった。
「あっ! 生ゴミは片付けていこう、ニオイそうだもんね」
先程の便利袋に生ゴミを放り込んだ。
「なんとかしなきゃ! 今はアタシしか動けないんだから! 皆を助けなきゃ!」
と、何度目かの決意を自分自身に言い聞かせ、玄関に鍵を掛け、意気込んで家を飛び出してきたコユキであったが……
「ううぅぅ ……暑い ……暑すぎる」
然程進む前に弱音が覗いてしまう辺り、コユキらしさと言えるだろう。
コユキの太り過ぎの体に、その白く艶かしい、セルライトの浮かび上がる肌に、真夏の日差しがジリジリと容赦なく照り付けている。
殆ど部屋から出ない、常に日陰にいるコユキの生白い肌がみるみるうちに赤くなっていく。
照り焼き、あぶり焼き、天日干し…… まさにそんな状態であった。
「何よ、地球温暖化は本当だったんじゃないっ! まとめサイトにすっかり騙された…… ちきしょうネトウヨの逆張り番長めぇ~っ!」
普段はサンダル履きのコユキだった。
夏だからサンダル若しくはゴム草履という訳ではなく一年中、春夏秋冬、暑い日も寒い日もサンダル履きだった。
今日、何年かぶりに履いたスニーカーが足に馴染む訳が無い。
まだ一キロも歩いていないというのに、踵には靴擦れができ、足指には水ぶくれができていた。
「せめて靴下を履いてくればこんな事にはならなかったと言うのにぃ…… ん? 靴下? ってあったっけ?」
靴下などそんな高尚なものは、学生の頃以来履いた事が無かった、というか持っているかどうかも怪しい。
ジリジリと炙りチャーシュー化しながら、途中、道路脇に子猫の死骸を発見したコユキは何か思うところでもあったのか、
「可哀想に…… 一人ぼっちでこんな所で死んじゃったのね……」
と語り掛けながらその死骸を便利袋にそっと入れた。
やはり消えた。
「これで成仏してね」
両手を合わせるコユキだった。
それにしても、子供の頃だったらあっという間だった道のりがこんなに長距離に感じるとは、こんなに動けないものだなんて…… と、どうやらコユキは自分の体力を過信していた様だ。
「ううぅ、しんどいーこんなに遠かったっけ? まさか空間の相対性を肌で感じる事になるなんてー」
もう少し運動しておけば良かった、とこの時ばかりは後悔した。
ふぅ~、ふぅ~と荒い呼吸をしながら、汗だくになりつつも、なんとか目的地へと辿り着くのであった。
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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