表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~  作者: KEY-STU
第一部 一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
105/1847

105.キタヨ

「よし!」


「お見事!」


 目論見(もくろみ)通りの結果に終わったらしく、喜色満面でガッツポーズを決めるコユキの声に、右手をサムズアップしながら褒め称えるモラクス。

 訓練の結果を見たがっていた当の善悪は、半崩壊した白壁を見て、


「あああああああああ! 直したばっかりなのに―――――― で…… ご、ざ、る~」


と嘆く事ひとしおであった。


 「あー、ごめんね善悪」


 慌てて頭を下げてくるコユキに対して、


「い、いや大丈夫でござる…… ま、まあ又鯛男(タイオ)君に頼めば元通りで、ござる」


と気を取り直したように呟いた。

 

 あのオールスターズリーダーの鯛男にそんな事が?

 左官の修行でもしていたのかと、首を捻って考えているコユキの様子に気が付いた善悪が、


「あー、まあ、こっち関係の話しでござるよ」


 言いながら、右手の人差し指と親指で輪っかを作ってコユキに見せ、悪そうに微笑むのであった。

 コユキもお寺と檀家さんの話だと割り切る事にして、善悪が投げた砂利の部分が薄くなっている、境内を(なら)す為にしゃがみ込んでじゃりじゃりと始めるのだった。


 その背中を見つめながら善悪は思った。


――――それにしても、素直に凄いのでござる! これは最早、回避特化とかでは無くて、攻守のバランスが取れた、超絶戦士、いや、達人のレベルなのでは無かろうか? お、そうだ!


 思っているうちに、丁度すぐ横の立ち木に立てかけて有った、竹の庭箒(にわぼうき)を目に止めた善悪は、それをそっと手にして正眼に構えた。

 そのまま、コユキの頭頂部目掛けて、鋭く打ち降ろしたのだが、当然避けられる事が前提であった。


 しかし、


 スパ――ンっ!


「え!? あれ、な、何で?」


 振り下ろされた(ホウキ)の柄はコユキの頭にクリーンヒットし、小気味良い音を立てたのだった。

 当然(かわ)すだろうと思っていた為、軽くパニック状態を起こしている善悪の耳に、モラクスの声が、


「兄者の『気配察知』の効果を、私の『気配隠蔽(いんぺい)』が相殺しています」


と冷静に告げるのだった。

 固まったままの善悪に対して、頭を痛そうに擦っていたコユキが、顔を真っ赤にしながら飛びかかった。


「ムキ――――――――っ! いきなり何すんのよ!! 善悪ぅぅぅぅぅ! 『散弾(ショット)』」


「ええっ? ちょ、ちょっと、くっ! 『エクス・ダブル』」


 ボッ! バボンッ!


 同時に展開されたスキルがなんとか相殺される中、上位スキルを使用した善悪は、


「ぬぅ~んぅ~んぅ……」


と、呻きを最後に意識を失うのであった。


 もう慣れた様子で、防火水槽からバケツに入った水(ボウフラIN)を手にして気を失っている善悪に向けて、ザバアァっとやって目を覚まさせたのであった。


 額にウニウニ蠢くボウフラを張り付かせたまま、フラフラ起き上がった善悪と手を繋いで庫裏(くり)に戻ったコユキの前に、ここんとこ存在感が希薄になりつつあったオルクスがトコトコ歩いてやって来て口を開いた。


「キタヨ! ……パズス ……ソレト ……ラマシュトゥ ……キタ!」


 コユキと、彼女に手を引かれたままの善悪は声を揃えた。


「「来たの?」」



 この幸福寺では日常風景になりつつある、ドタバタ劇のほんの十分ほど前、花のお江戸の大東京の真ん中で、純朴な魂が、自ら望まぬ羨望、いや激しい嫉妬の渦を我が胸中に抱いていたのであった。


 その魂は人間達からジローと呼ばれていた。

 ジローはもう何年もの間、忸怩(じくじ)たる思いを抱き続けていた。

 恥じ入る理由は自分自身の不甲斐なさに対してである。

 その思いは、今は亡き最愛の女性に対する誓いを果たし得なかった自分に対する嫌悪をも孕んで、一層彼を苦しめていたのだ。


 九年前、大地が大きく揺れた時、彼女は慌ててプールから上がろうとして、段差を踏み外し左前足に小さく無い怪我を負った。

 一時期僅か(わずか)に回復の兆しを見せた物の、地震の日から一月も待たずに、呆気なくその命の灯火を消したのであった。

 享年三十九歳。

 息を引き取る前に彼女はジローに言った。


『私がこのまま死んでしまうのならば、ここ、世界の五指(ごし)に数えられる大都市、東京の中心にいる同胞は貴方一人になるわ…… これだけは忘れないで頂戴、アメリカのセントラルパークの動物園には私達の同胞はいないのよ。 つまり貴方は全ての『カバ』の中で、最もアーバンでパリシュトゥな存在なの…… 遥かサバンナの水場に無尽蔵にいる、全ての同胞達の為にも…… 人気者でいてね…… 私も…… 天国で………… 見守っ、て…………』


 そこまで告げると彼女、サツキは意識を失ってしまい、数日後に眠ったまま旅立って行ったのであった。


 あの日、大地を揺らした大いなる力、大自然の猛威が彼から奪った物は、最愛の存在、サツキだけでは無かった。


 被災後、三月一杯の休園を経て、再開された動物園には、被災避難者の割引制度導入の影響もあり、それなりに人々は訪れてくれていた。

 放射能を避け首都圏に避難していた人々は、(こぞ)って様々な動物達の生態に、現実を忘れた様に笑顔を向けた。


 動物達は今まで以上に、人々を喜ばせようと、繰り返される余震に、人間の何倍もの感知能力によって(もたら)される恐怖を感じつつも、各々の役割を必死に努め続けていた。

 同じ列島に住まう、無辜(むこ)の魂を安んじようと、出来ぬ努力を実行し続けたのであった。

 

 ただ一頭、カバ舎に孤独なまま残されたジローを除いて……

お読みいただきありがとうございます。

感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)

まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、

皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。

これからもよろしくお願い致します。

拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。


Copyright(C)2019-KEY-STU

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=140564926&size=200



fw2razgu4upfkla8gpm8kotvd1hy_1365_xc_ir_92ne.jpg
にくい、あんちきしょう…… ~食パンダッシュから始まる運命の恋~ は↑からどうぞ



eitdl1qu6rl9dw0pdminguyym7no_l63_h3_7h_23ex.jpg
3人共同制作の現場 小説創作の日常を描いた四コマ漫画 は↑からどうぞ



l7mi5f3nm5azilxhlieiu3mheqw_qn1_1kv_147_p1vu.jpg
侯爵令嬢、冒険者になる は↑からどうぞ
~王太子との婚約を一方的に破棄された令嬢はセカンドキャリアに冒険者を選ぶようです~ 



jvan90b61gbv4l7x89nz3akjuj8_op1_1hc_u0_dhig.jpg
見つからない場所 初挑戦したホラー短編 は↑からどうぞ



異世界転生モノ 短編です
8agz2quq44jc8ccv720aga36ljo7_c1g_xc_ir_97jo.jpg
【挿絵あり】脇役だって主役です ~転生を繰り返したサブキャストは結末を知りたい~ は↑からどうぞ



小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] 後半何かと思いました。相変わらずとんでもない視点を持ち出してくれますね。椋鳩十先生を思い出しました。被災についての取材、考察も見事で、真似できないものがあります。素晴らしかったです。 [一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ