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悪役令嬢に私はなる!  作者: 柊遊馬


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第23話、第二の刺客


 シウメ・パトラス。17歳。水色の髪の持ち主で、前髪で目元が隠れている根暗系、小柄な少女。


 魔術科に所属し、メラン・スタフティに恋愛感情を抱いている。


「……絶対に、許さない……」


 学校内でもフードを被っているので、よく見れば目立つのだが、彼女は何故か人から見えにくいらしく、声をかけられることは滅多にない。


 そんな見れば目立つだろう彼女は、壁の陰から、女子寮へと向かうメアリーを見つめていた。


「もうすぐ……」


 仕掛けた爆発トラップに差し掛かる。これを踏めば、魔法陣に刻まれた魔法が発動するという罠である。


 軽い攻撃魔法をセットしたから、怪我はするだろう。だが爆発力は調整したから、間違っても死ぬことはない。……本当はメラン先輩に近づく女は殺してやりたいが、あいにくとシウメは気弱な性格であり、そこまでの度胸はなかった。


 メアリーが足を止める。


 もう、あと二、三歩なのに何故止まったのか? 隠れて様子を見ていたシウメは息を呑んだ。


 その瞬間――


「はい、確保ー」


 突然、首根っこを捕まれて強い力で引き寄せられた。驚くシウメ。その眼前にいたのは――


「私、アイリス・マークスのモノに手を出すなんて、いい度胸ねぇ?」


 最強侯爵令嬢アイリスがいた。シウメは声を失い、おろおろとする。――どうして? 何故、バレている?


「聞くまでもないけれど、私は心が広いからあなたの言い分を聞いてあげるわ」

「あ……あわ、え、あ……」


 うまく言葉にならなかった。元々、人と話すのは苦手なのだ。


「感謝しなさいよ? あのままメアリーがあなたの仕掛けを踏んでいたら、天下の王子殿下が激怒されて、あなた死刑になっていたわよ?」


 王子殿下と聞いて、ますますわからなくなるシウメ。メラン先輩に近寄る女を吹き飛ばそうとしただけなのに、何故王子がお怒りになるのか、さっぱりわからなかった。



  ・  ・  ・



 放課後の3年の教室。生徒たちは部活か、あるいは寮に帰ったために、他に誰もいない。私とシウメだけだ。


 メアリーには私の部屋に行って、王子の相手をさせている。まあ、ヴァイス王子もそのほうが喜ぶだろう。


「さて、シウメ。あなたは学校施設内に魔法トラップを仕掛けた。……これは校則に違反していて、通報案件」

「……」


 フードを被っている上に目元が隠れているから、表情がわかりにくい。だが半開きの口の形を見る限り、動揺しているように見える。


「生徒に怪我でも負わせたら、退学ものね」

「……」


 緊張のあまり硬直しているようだった。私はフッっと微笑する。


「まあ、あのトラップは私が解除したから、踏んでも何も起こらないけれどね。誰も被害が出ていないんだから、あなたは『まだ』悪いことはしていない」

「……!」


 でも私に弱味を握られたことには間違いない。侯爵令嬢の力をもってすれば、たとえ未遂でも学校から放逐することもできる。


「さて、何故あなたがこんなことをしたかだけれど……」

「……」


 シウメは口を閉ざす。この手のタイプは、切羽詰まらないとだんまりで通そうとするのよね。


「聞かなくてもわかってるのよ。魔術科の先輩、メラン・スタフティが好きで、それを邪魔する女を吹き飛ばして諦めさせようとした」

「っ!?」


 息を呑むシウメ。表情はわからないが、図星を突かれた反応だろう。


『赤毛の聖女』では、そういうキャラクターだものね、あなたは。メランルートにおける、ヒロインのライバルキャラ。


 好きな人のためなら何でもするヤンデレ系。なお攻撃はメランではなく、それに寄り付く女のほうに向けられる。


 ギリシャ神話に、そんな女神がいなかったかしら。浮気性の夫が手を出した女のほうに制裁を加える処女神だか、結婚を司る女神だかが。


 閑話休題。


「で、あなたの誤解を解いておかないといけないわね。あなたはメアリーが、メランを落とそうとしていると思っているようだけど違うの。彼が関心を持っているのは、メアリーではなく、私」

「!!」


「彼が会いにきているのは私のほう。メアリーは無関係」

「でも……」


 シウメが小さな声を出した。


「メラン先輩は、あの一年に声をかけた」

「最初はね。でもあれ、私のことを聞いてたのよ」


 嘘です。最初は純粋にメアリーのことが気になって声をかけてます。でも今はそのフラグをへし折って、私のほうに彼の注意は向いている。


「さあ、どうする? 今度は私に毒でも盛る?」

「っ!」


 挑発すれば彼女の敵意を感じた。大人しく、自信のないシウメだが、ことメランが関係すると、感情が表に出てくる。


「でも、残念。まだ彼は私に惚れてはいない……」

「ふっ――!」


 シウメが飛び掛かってきた。私はその伸びてきた腕を掴むと、その場に引き倒した。


 バタンと音が教室に響いて、シウメが呻き声を上げた。


「研究室ごもりのもやしっ子が、私に勝てると思っているの?」


 そのまま押さえ込む。


「私の話を聞いたほうがいいわよ、シウメ。あなた、メランと付き合いたいのでしょう?私がその願いを叶えてあげるわ」

「!?」


 前髪の間からわずかに見えたシウメの緑の目が、驚きに見開いた。


「勘違いして欲しくはないけれど、私はあなたの味方よ――」


 と、口では言いながら、彼女の首もとに文字を刻むように這わせた。


「いま、私はあなたに呪いをかけたわ。私に害をなしたら、メランが死ぬ呪いをね」

「っ!? ど、どうして!?」


 あからさまに動揺した。私は意地の悪い笑みを浮かべてみせる。


「だってあなた、こっちが善意で言っても超面倒くさく解釈するもの。私に彼への恋愛感情がないって言ったら、それはそれで彼に魅力がないのかって怒るし。褒めたら褒めたでキレるでしょう?」

「っ……!」

「あなたとメランがうまくいくのを私は望んでいる。味方と言うのも本当。でもあなた信じてくれないもの。だから保険よ。大丈夫、あなたが私を信じてくれる限り、メランは死なないわ」

「……」

「そう、あなたは私を信じるしかないのよ」


 私は彼女を放してやる。ゆっくりと立ち上がる、シウメは口を真一文字に引き結んでいる。……絶対私を信じてないわ、この子。


「本当はここで始末してしまったほうが早いんだけどね。そうすると、メランがとても悲しむよ。あなたのことを気にかけているから」

「……!?」

「さ、ついてきなさい。教育を始めるわよ」

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