プロローグ
なんか、頭の中に湧いたので書いてみました。
スキル至上主義の世界で勇者や剣聖、賢者や聖女などの恵まれたスキルの多くを習得できる者は成功者と呼ばれ、逆に戦士や武闘家、魔法使いや回復術士などは普通者と呼ばれ、更にその下の下手をすればスキルすら習得できない職業を持った者は敗北者と呼ばれる事となる。
15歳になる頃には必ず“天命の儀”により、自身の職業を教会にて水晶を通し知る必要が有る。
何故なら過去に自身の職業によるスキルで好き放題やまくった奴が居るとの事だ。
「次の者、前へ!」
「おっし、俺の番だな緊張するな。」
「大丈夫だろ、そうそう敗北者にはならんだろ。」
「そうだと良いけど、お互い敗北者にならない様に祈ろうぜマネル!」
俺が話し合っていたのは幼馴染みのアーサー・マークス、毎日剣の稽古に励んで努力を欠かさない真面目な奴だ。
「アーサー君、水晶に手を翳してくれるかな?」
「お、おお! これは、何と!!」
アーサーが手を翳した水晶を神父が覗き込むと驚愕の表情を浮かべる。
「あの、どうかされましたか?」
「オホン……、すまない滅多に無い職業で合ったのでな少し待ってはくれないかな?」
「え、はい……良いですけど。」
神父は教典を開き、とあるページに目を通し始める。
「ふむ、過去に一人存在しておるな……同じ職業の者が。」
「一体どんな職業なんですか?」
「喜びなさい、君の職業は“光の勇者”と言って幾つもの伝説を創り出した英雄アルトリアと同じなのだ!」
「「「「「おおおおお!!」」」」」
その名を聴いた周りの人達が一斉に歓声をあげる。
「あの子、真面目だから神様が成功者の職業を与えてくれたんだわ!」
「アーサー君、こっち向いてー! あたしと付き合いましょー!」
「良いなあ、アーサーの奴…俺なんて戦士だもんなあ。」
皆口々にアーサーに羨望の眼差しを送るが俺には関係の無い事だ、アーサーが光の勇者なら次呼ばれる俺もきっと何か凄い職業になるに決まっている。
「静粛に…次の者、前へ!」
「やったな、アーサー!」
「ありがとう、稽古頑張った甲斐が合ったよ! 次はマネルの番だね。」
「では、水晶に手を翳してくれるかね?」
「いざ行かん、俺の栄光への道筋を導き出し給え! 天より高い野望と地より深い愛情を持って成功者としての天命を我が手に!!」
「マネル君……、ちょっと黙っててくれるかな?」
「良いだろう、これもまた宿命。」
俺は知っている、誰もが生まれた時より自身の職業は決まり切っている事を。
「あー、またマネルの悪い癖が出てる。」
「アーサー君、マネル君って何時もああなの?」
「調子に乗ってる時は大体あんな感じだよ。」
先程と同様に神父が水晶を覗き込み、苦い顔をしながら俺に職業を告げる。
「どうした? 俺の生まれ持った職業に驚きが隠せない様だな、さあ職業はなんだ? アーサーが光の勇者だったからな、早く言ったらどうだ剣聖か、それとも賢者か? まさか、聖女……は無いな俺男だし……。」
(言いづらい、こんなに自信過剰な子に敗北者のモノマネ師だなんて。)
「やれやれ、まだ他に自分の職業を知りたがっている者達が待っているというのに。」
「………師。」
神父はボソッと何かを呟くが上手く聴き取れなかったので聞き返す事にした。
「今何て?」
「マネル君の職業は、モノマネ師だ。」
アーサーの時とは、打って変わって周りは葬式ムードでヒソヒソ話をし始める。
「ねぇ、確かモノマネ師ってモノマネしかスキルが無いはずよね?」
「ああ、擬態したり魔物を真似たりな。」
「魔物を真似られるなら、そこそこ良いスキルなんじゃないか?」
「いや、強さまでは変わらなかったはずだ。」
俺は、そのまま教会から自宅へと帰る事にした。
「マネル……。」
「放っておきなさい、もう彼とは友達を辞めなさい。」
「父さん、何言って!」
「そうね、アーサーにとっては辛い選択になると思うけど仕方の無い事よ。 これからは、友達を選びなさい。」
「母さんまで……。」
俺は教会から出て、帰る道中考え事をしていた。
今のアーサーは成功者で自分は敗北者、何故こんな事で差別されなければならないのか本当に狂った世の中だと思うが、俺は敗北者である事に喜びを感じている。
だってそうだろ、もし敗北者が数々の功績を残し成功者を超えた英雄にでもなれたとしたらスキル至上主義の世界は崩壊し、皆が手を取り合う平和な世界が実現出来るのだから。
「ふ……、ふはははははは! 俺なら出来る、最底辺の職業だからこそ、この成り上がった時の反応は凄まじいものとなるのだ!!」
そして、家に着くと俺は魔物図鑑を片っ端から漁り自分のスキルを知る事から始めた。
魔物の中には躰を硬質化させ、身を護る者や鋭い爪で木々を切り裂く者など様々な能力を持った魔物が載っている。
「ふむ、モノマネのスキルを昔アーサーと試した事があったが、確かに身体能力は変わらなかったが硬質化や爪を使って木々を切り裂く事はできたからな。 その分集中力は要るが、この最弱と呼ばれるスキルで俺は最強になってみせる!」
(ん、誰かドア越しに俺を観ているな……気配で分かるぞ。)
「マネル……、あんた大丈夫なの? 敗北者になって落ち込んでると思って。」
「別に俺は落ち込んでなんかないぜ、マミィ! それにこれはチャンスなんだ、神々が与えし試練と言うべきか……そんな訳だから心配する必要はナッシング!」
「そう、元気なら良いわ。 元気だけがマネルの取り柄だものね! そう言えば、こんな紙がポストに入ってたわよ?」
母さんから渡された紙に目を通すと冒険者ギルドからの冒険者募集のお知らせだった。
「コイツは丁度良さそうなのが来たな! 早速登録してくるかな!」
「冒険者って危険な仕事でしょ? アンタに務まるの?」
「心配性だな、母さんは……流石に初っ端からヤバイ依頼なんて受けさせないだろ。 良くて、薬草摘みか鉱石集めくらいじゃないか?」
「まあ、それもそうかしらね。 あんまり無茶するんじゃないよ。」
「分かってるって、んじゃ行ってくるよ!」
「行ってらっしゃい。」
冒険者ギルドへ俺は移動し厳ついオジサンにポストに入っていた紙を見せると無言で登録書を差し出される。
「ん……。」
「感じの悪いオジサンだな、喋れないなら別に良いけど。」
黙々と差し出された紙に自分の名前と生年月日、職業、スキル名などを書き込んでいく。
最後の項目に将来の夢と書かれた欄があり、ありったけの野望を書きまくり、紙を厳ついオジサンへと渡す。
「ほらよ、書けるとこが無くなるまで書いてやったぜ?」
「おめえ、本当に冒険者として働くつもりか?」
「当たり前だろ、何か不満でも?」
オジサンの顔は明らかに不満な表情をしており、顎を擦りながら少しばかり考え事して何かを提案する。
「不満しかねぇよ、そうだな敗北者って事で試験内容は厳しいが、もし合格出来たのなら冒険者として認めてやるよ!」
「良いだろう、どんなに厳しい試験内容だろうと必ず合格してみせるぜ!!」
読んでくださり有難う御座います。
楽しんでいただけたのなら幸いです。