携帯口糧
タイムマシンが実用化されて久しいが
俺はあることを実行に移した
太平洋戦争下のニューギニア戦線へ食料を投下するという暴挙だ
飢えた日本軍の兵士のことがいつも気になっていたからだ
携帯口糧は軍用の戦闘糧食が手にはいらなかったので民間用をアレンジした
容器:長さ30センチ、直径10センチの銀色の円筒形
落下時に破損しないよう重厚に造ってある
内容物:天然水、牛缶(バイオ食肉)、缶めし(赤飯)、漬物(缶)、カップ麺(圧縮タイプ)、
ビタミン剤、マッチ、タバコ(無印健康タバコ)、等々
あまり変なもの詰めて、敵性かく乱と思われてはいけないので、なるべく当時の時代に合うよう
苦心した
輸送方法は、実物大模型に補強をほどこした一式陸上攻撃機だ
推進器は携帯用反重力コンバータを利用した
コックピットのタイムマシンを操作すると
まばゆい光の渦につつまれ、一瞬でニューギニアの上空だ
日本軍の敗残兵が潜んでいる地域の超低空で投下した
一回に運べるのは500個ほどだから、忙しい
夕闇のせまるジャングルのなかへ、銀色のかがやきが吸い込まれていった
その後数十回飛行したが、敵機の追尾は未来の推進器のおかげで振り切った
地上の兵士の反応はよくわからないが、時折ジャングルの切れ目から
ボロボロの戦闘服を千切れんばかりに振り続ける日本兵の姿が見えた
「もう十分だろう」
俺は最後のフライトを決行した
いつまでも、このような違法行為を続けるわけにもいかない
そろそろ、タイムパトロールがかぎつけるころだ
いつものように投下すると、ジャングルの切れ目に
多数の日本兵が手を振っているのが見えた
「危ない!」
運悪く無数の携帯口糧が彼らの頭上を直撃したのだ
一瞬の出来事だったので、避けることもできなかった
おそらく何人かは即死だろう
次の瞬間、俺の体に異変が起こった、タイムマシンの異常でも、敵機の攻撃でもなかった
激しい痛みが走り、体が透けて消えていくのがわかった
うすれゆく意識のなかで理解した
「あの日本兵のなかに・・・。俺の先祖が・・・。」