セカンドステップ
「それで、伊澄に相談事があるんだっけ。家族にも言えないことを相談するのが本当にこいつで良いの?よく考えたら?」
マリーが、カウンターテーブルに座る俺に、オレンジジュースを差し出しながら言った。一条伊澄にも同じものを出していて、彼のむすっとしたような不機嫌な表情から、ジュースじゃ嫌だったんだろうな、と彼の子供っぽさに少し笑った。
「良いんです。一条さんで。信頼できるって、聞いたので」
それに、この人じゃないと、意味がない。
「母さんが、殺されたんです。3年前に。俺はその、第一発見者を探していて…。この街にいることはわかってるんです。だけど、なかなか見つからなくて。それで、一条さんに、一緒に探してほしくて」
その場の空気が、氷を張り詰めたように冷たくなるのを感じた。
「どうして、第一発見者を?ふつう、そこは犯人を捜すものじゃない?」
「犯人はもう、死んでしまっているので…」
俺は、2人に3年前のことを話した。
「3年前、俺はこの街じゃなくて、都心から近い郊外に住んでました。俺と、母さんと、父さん、それと、小学生の妹が1人。ミクっていうんですけど。今は、一緒に住んでいません。俺だけ高校に進学すると同時にこの町に来ました。3年前、母さんが買い物から帰ってきたら、いきなり強盗に襲われて。かなり抵抗したんですけど、その強盗、ナイフを持っていて…。 それで、腹を刺されて、し…死んでしまって。母さんいなくなってからの毎日は、本当に苦痛でした。父さんは会社を辞めてずっとお酒ばっかり飲んでるし、妹は…ミクは心を病んでしまって、今は祖父の家で、暮らしているんです。カウンセリングも受けていて…。それでも、未だに以前のように笑ってくれなくて…!犯人が、憎かった。俺の家族をめちゃくちゃにした犯人が…! でもっ、犯人は警察から逃げることが苦痛になったのか知らないけど、自殺してしまって!俺はもう、誰を憎んで良いのかわからなくなって…。そんなときに、たまたま事件を目撃していて、警察に通報してくれた近所の人から教えてもらったんです。第一発見者のことを」
驚いたように、マリーが目を見開いた。
「通報したのは、第一発見者じゃなくて、近所の人だったの?」
「そうです。第一発見者は、…何もしていなかった。何も!その近所の人の話によると、その男…ああ、第一発見者は男だったらしいんですが…その男は、母さんが襲われているときからずっといて、母さんが抵抗しているときも、ナイフで腹を刺されているときも、ただその光景を見ているだけだったんですよ!助けに入ってくれれば、母さんは助かったかもしれないのに…!」
「…動けなかった」
一条伊澄がつぶやいた。
「動けなかったじゃ、言い訳にもならないんですよ!人の命がかかってるのに…!だから俺はこの町に来たんです。そいつに復讐してやるために!」
「復讐って…何するつもり?それによっては伊澄も手を貸さないと思うけど」
訝しげな表情で俺を見るマリー。
「まだ、何をするかとかは決めてませんよ。そいつの顔を見たら、浮かぶんですかね…」
視線を落として、二人の表情を見ないようにした。
「…一条さん。手伝って、くれますか?」
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