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simmilar  作者: 鍋山きのこ
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ファーストステップ

自分に似ている人と出会ったら、人間、二つの反応に分かれると思う。好意を抱くか、嫌悪を抱くか。俺の場合、前者であることをすぐに理解できなかった。

 酒のにおいと、ネオンの光が輝く夜の街で、俺はいったい何をしているのだろう。みんなが楽しそうに笑いながら会話していて、自分とはかけ離れた世界に、少し憂鬱になる。まあ、最も、未成年である俺に理解できるような簡単な世界ではないことぐらいわかっているのだけれど。                        

 今にもあふれんばかりのゴミが詰め込まれた水色のゴミ箱の蓋をぎゅっと押して、その上に座り込む。行き交う人々が、自分に目もくれないことに少し悲しくなるなんて、幼稚にもほどがある。そのうち、楽しそうな人の顔を見るのも嫌になってきて、頭を下げた。こうしていれば、誰かが声をかけてくれるような、淡い期待を抱いていた。左耳に手をやって、その感触を確かめているうちに、自分は随分と惨めなことをしているのだなあ、と感傷的になってしまった。

 「お前、誰か待ってんの?」

待ちわびていた誰かの声は、予想していたよりも若い男の声だった。

 もったいぶるようにゆっくりと顔を上げる。本当は早く顔が見たかった。誰でも良いわけじゃ、なかったから。

 「あんた、誰?」

目の前に現れた男の姿は、想像よりも派手だった。夕焼け色に染めた髪が、暗い仲でもよく見える。左耳に輝くシルバーのピアスが、俺には少し、痛々しく見えた。ローズ色のシャツを羽織り、黒のスキニーパンツをはいたその姿は、さながら映画に出てくるチンピラのようだ。

 「俺?俺はイチジョウイスミ。数字の一に、条約の条で一条。イタリアの伊に、澄み渡るの澄で伊澄。あ、イタリアって漢字で書けるか、お前」

 別に名前を聞いたわけじゃないのだけど。そんな思いと裏腹に、頭の中で男の名前がずっとやまびこのように反響していた。

 「で、何してんのお前。まだ若そうだし、まさか未成年じゃないだろうな」

 心臓が、ドクッと脈打つのを感じた。

 「未成年だよ、お察しの通り。会えて良かった。俺、あんたのこと探してたんだ」

 「探してたぁ?俺のことを?」                                    

 口を大きく開けて、間抜けな顔をしている一条伊澄をよそに、ゴミ箱のうえから降りて、彼と肩を並べてみると、彼が思っていたよりも小柄なことがわかった。おそらく、身長は170㎝くらいだろうか。俺とあまり変わらなかった。

 「友達から、聞いたんだ。家族にも、友達にも話せないようなことがあったら、一条伊澄に相談すると良いって。相談、乗ってくれないの?どうしよう、俺、話聞いてもらう体でここに来たから、もし話聞いてもらえなかったら…」

正義感が強く、困っている人を放っておけない性格だと言うことを、俺は知っていた。

 「…ったく、誰から聞いたんだよ、そんなこと。しょうがねえ、ついてこいよ」

夜の人混みに紛れて消えていく派手なオレンジを追いかけながら、まだしつこく鳴っている心臓の鼓動をなんとか止めようとした。

 「お前、名前は?」

俺は、小さく息を吸って答えた。

 「アイダカナト。相手の相に、田んぼの田。奏でる人とかいて奏人」

一条伊澄がそうしたように、俺も監事の説明まで丁寧にした。変な緊張感で、胸が押しつぶされそうになる。

 「へえ。かっこいい名前だな」

「…ありがと」

 少しの安心感と、それを上回る悲しみが同時に押し寄せた。

 それからしばらく歩いたけれど、その間は2人とも何もしゃべらなかった。俺は俺で、何か話されてもまともに返答できる気がしなかったし、一条伊澄も、何か考えている様子だった。

 「ほら、入れよ。安心しろ、変な店じゃねーから」

 案内された店は、入り組んだ路地の先にある小さなカフェだった。

 「ごめんなさい、もうお店しまってるんだけど。…って、え?」

 カウンターテーブルの向こう側に、派手な女がいた。刈り上げられた髪の毛は目が覚める子綱コーラルピンク。赤紫のキャミソールから、ほどよく筋肉の付いた二の腕が露出している。その長い腕を折りたたんで、洗い終わったばかりだと思われるグラスを拭いていた。

 「ちょっと伊澄!何その子、また引っかけてきたわけ?」

 「違うって!こいつ、俺に相談があるんだってよ。こんな時間に俺を待ってたなんて健気だろ?ゴミ箱の上に座ってたから、連れてきたんだよ。俺のとこじゃ、ダメだからな」

少しふざけた口調で言いながら、横目で俺にウインクをした。なんだか、さっきと人が変わったような気がして、少し怖かった。

 「え、じゃあその子、未成年なの?ねえ、ちょっとアンタ、歳いくつ?高校生?中学生?」

 「こ、高校生です」

女の勢いに押され、動揺した。

 「おいやめろって。怖がってんだろ」

そう言いながら、一条伊澄は俺の右手を取り、女の右手をつかんで無理矢理握手させた。

 「奏人、こいつはマリーだ。この店のオーナー。こんな見た目してるが、全然怖くないから。そんで、マリー、夜の十二時にネオン街ほっつき歩いてる不良少年が、相田奏人。…よく補導されなかったな、お前」

 「相田奏人くんね。まあ、それは良いんだけど、こんな時間に外に出ていて大丈夫なの?それに明日学校とか…」

 「学校は、明日休みです。今日、金曜日ですから」

俺の言葉に、マリーは納得したように片手で額を押さえて言った。

 「あーそっか、道理でサラリーマン連中が多いわけだ」

少しずつ、投稿していきます。宜しくお願いします

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