木崎灰 4
レベル上げ、一定数の経験値を稼ぐことでレベルが上がり各種ステータスが上昇するというなんともゲームチックな単語ではあるがこの世界にも存在している。
まあステータスボードがあってレベルがそこに書かれているのだから当然といえば当然のことではあるのだが...
「レベル上げって言ってもどうするの?経験値効率で言ったら人殺すのが1番だけど」
クライスがそんなことを聞いてきた。
まあ確かに効率のことを考えればそれが1番だろう、だが
「いや、モンスターを狩るよ」
「どうして?人殺すのに抵抗ある?それでほんとに復讐できるの?」
「そうじゃないよ、まだ実際に人を殺したことないから抵抗があるのかどうかは確かに分からないけど人殺しで経験値稼ぎをしないのはまた違う理由だよ」
「ふーん、そっかじゃあモンスターを探そ!」
クライスも納得してくれたようで僕たちは早速レベル上げを開始した。
モンスターを狩り始めて3時間程が過ぎた。
レベルが高くなるにつれて必要経験値が多くなるのは予想がついていたためそれなりに覚悟はしていたのだが、まさか途中からレベルを上げてもSPを全然手に入れられなくなるとは思っていなかった。
初めはレベル1毎にSP10獲得だったくせに途中からレベル5毎にSP3獲得になるとかイカレ仕様にも程がある。
ちなみにクライスはレベル上げを始めてから30分程で「楽しそうなこと探してくるね!」とか言ってどこかに行ってしまった。
まあ文句ばかり言っていても仕方ない、SPが一度に手に入る量が少ないのならば数を重ねるしかないと思い狩りを再開しようとすると
「見ぃつけた」
突然知らない声が聞こえてきた。
「誰だお前」
「あ?名前聞こうとしてる?なんでこれから死ぬやつに名前教えなきゃいけないんだよ」
「僕に何の用だ?」
「何の用って、お前を殺しに来たんだよ!!!」
そう言うと男は僕に向かってタックルをしてきた。
が、正直さっきまで狩っていた猪っぽいモンスターの突進に比べたら動き出しのタイミングも分かりやすく速度も遅かったため難なく避けられた。
「俺の攻撃を避けるとはなかなかやるじゃねぇか、だが!まだまだこんなもんじゃないぜ!!」
どうしよう...
男の攻撃を剣で防ぎながら僕は割と悩んでいた。
この男は弱い、今の僕なら簡単に殺せるだろう。だが僕は人殺しで経験値稼ぎをしないと決めている。
けど、僕を殺そうとしてるんだよなぁ...
「おらおらどうした!?さっきから守ってばかりだぞ!?俺の攻撃に手も足も出ないか!?」
イラッ
決めた、とりあえず何回か斬ろう。ついでに僕が人を斬ることに抵抗を感じるかどうかも確かめられるし。
剣を握る手に伝わる肉を斬る感触。
「は?痛ってぇぇぇぇ!!!」
なんだこいつ...ほんとに弱いな
「おい!何突っ立ってるんだ!早く俺を癒せ!」
「は、はい...!"治癒"!」
は?何が起きてるんだ?
僕は目の前の光景に理解が追いついていなかった。
斬られた男を少女が治癒系のスキルだろうか?を使って治している。そこまでは分かる、だがではなぜ少女には首輪らしきものがつけられている?なぜこの少女には多くの痣や傷がある?あれは仲間同士なのか?
「...ふぅ、よし、俺復活!行くぞおら!」
「待ってくれ、その子はなんだ?仲間か?」
聞かずにはいられなかった。頼む、そうだと言ってくれ。
「あ?仲間?こいつが?...アッハハハハ!!!!仲間なわけねぇだろ!奴隷だよ奴隷!こいつは治癒を持ってるから俺らの負った傷を癒すためにここにいんの!」
「...お前はそれでいいのか?」
「仕方ないんです...私が弱いからいけないんです...治さなきゃ殺されちゃうから...」
「は!?なに奴隷が勝手に喋ってんの!?お前は黙って怪我癒してればいいの!」
この子だって向こうで何かがあったからこっちの世界に来たのだろう、なのに何故こっちの世界に来てまでこんな仕打ちを受けなければいけない?そんなのあんまりだろう。
「決めた!お前も俺の奴隷にする!そんで死ぬまでいじめ倒してやる!」
そう言うと男の右手が黒い光を纏った。
「俺のスキル主の手!この手に触れられればお前にもこいつと同じ首輪がついて主人である俺には絶対に逆らえなくなる!おら!行くぞ!」
「"透過"」
「おわっ!!」
触れられる寸前で僕は透過を使用し手を避けた。当然触れる気でいたのだろう、男がバランスを崩しそのまま転んだ。
「死ね」
僕は倒れた男の首を後ろから剣で突き刺した。
男は数秒間悶えていたがそのうち動かなくなった。
「もう大丈夫だよ」
そう言いながら少女の方を見ると少女は何が起きたのか分からないと言った様子で僕の方を見ていた。
「あの、えっと、助けてくれたんですか?」
「え?うん、まあそうなるのかな」
「どうして?」
「どうしてって言われても...君が苦しそうだったから」
「えっと、ありがとうございます...?」
「何故疑問形...まあいいや、どういたしまして、で、君はこれからどうするの?」
と、そんなことを話していると
「ごめん!1人そっち行っちゃった!」
クライスが少し慌てた様子で出てきた。
「1人行っちゃったってことは誰かと戦ってたのか?」
「うん!そうだよ!ってあれ?もしかして灰お兄ちゃんが殺した?」
「ああ、これ?うん、ってクライス?その子たちは?」
「奴隷にされてた子たち!そこの子も多分そうでしょ?」
「こんなにいたのか...」
見たところ7、8人はいる。
「その子たちどうするんだ?」
「確か街に両親が死んじゃった子とかを保護するための施設があったはずだからそのに連れてく!」
「そうか、じゃあそうするか」
「うん!それより良かったの?」
「何が?」
「人は殺さないみたいなこと言ってなかった?」
「ああ、それ少し変えたんだ」
「変えた?」
「この世界に来た人たちって向こうで何かあった人たちばっかりだろうからそんな人たちを経験値稼ぎとして殺すなんてしたくないって思ってたんだけどな、実際はそういう人もいれば悪人もいることが分かった。」
最初の奴らがたまたま悪人だったことに若干の期待をしていたのだが、この頻度で悪人に出会ってしまうということはそういうことなのだろう。
「だから僕は善人は殺さない、けど目の前の人間が悪人だと分かったら迷わず殺す。経験値のためにもこの世界のためにも」
「そっか、うん!それがいいと思う!」
若干恥ずかしいことを言ってる気がしていたのだがクライスは俺の考えに満足しているようだしこれでいいのだろう。
話も纏まったため奴隷にされていた子たちを施設に保護してもらい僕はレベル上げを再開した。
ちなみにあの男を殺したタイミングでレベルが上がっていないにも関わらずSPが10増えていた。
クライスの言った効率とは何の効率なんでしょうね。