木崎灰 1
やめろ...こっちを見るな...やめてくれ...お願いだから...そんな目で僕を見ないでくれ...
刃物が肉に突き刺さる音が響く。
「...よし!レベルアップ!」
魔物の多く生息する森。そこで僕-木崎灰は魔物を狩りレベルを上げていた。
「それにしても危なかったな、まさかアイツらが僕たちを騙そうとしていたなんて」
スキル嘘発見器があって助かった。このスキルのおかげでヤツらの発言に嘘が混ざっていることが分かったため怪しく思い、夜のうちに逃げてきたのだ。
「さて、そろそろ新しいスキルでも取ろうかなっと」
えーっと?火魔法Ⅰ、風魔法Ⅰ...ここら辺はいいや飛ばそう。多分弱いやつだし。
「なになに?変換に刺突に封印...強いのか弱いのかよく分からないやつばっかりだな...」
スキルの説明もないからスキル名だけで想像するしかないし...
「移動速度上昇、暗視、ステルス...よし、このスキルにしよう」
結局僕は2つ目のスキルとして透過を選択した。理由としては今の僕では戦えるスキルが1つも無いからだ。攻撃は僕自身の運動神経で何とかなるとしてもさすがに元の世界で見たことの無い魔法攻撃を繰り出されでもしたら避けられずに死んでしまうかもしれない、だからスキル名から察するにすり抜けが可能になるであろうスキル透過を選んだのだ。
「さて、早速使ってみるか。"透過"」
ッッッ!!!???
途端、呼吸が出来なくなった。
再度呼吸をしようと試みると、呼吸を再開すると同時に透過が解除された。
「ハァ...ハァ...なんだ今のは?」
腕だけを透過したのだから酸素を肺がすり抜けてしまい呼吸ができなく感じた訳では無い、ということは、
「スキル使用における条件のようなものか...」
まさかスキルにこんなデメリットが存在しているなんて...
とはいえスキルの内容は想像通りのものではあったため、これによって短時間という条件付きではあるが攻撃を完全に躱せるようになった。
「あとは隠密や妨害系のスキルを手に入れられれば満足なんだが...」
突如鋭いものが風を切る音がした。
「ッッ!!!!"透過"!!!」
僕が透過を使用した瞬間、僕の頭の位置をナイフが突き抜けていき奥の木に突き刺さる。
「あれ?おっかしいなぁ?確かに当たったと思ったのに」
声のした方を振り返ればそこには金髪ショートカットの女の子が立っていた。
「アンタのスキル?どうやったの?教えて!」
「人にナイフ投げつけといて謝罪の一言も無いのか?というかまずお前は誰だ?」
「え?怒ってるの?なんで?まあいいや!とりあえず今アタシはアンタと戦いたい!いいでしょ!?」
嫌に決まってるだろ...
「嫌だ、と言ったら?」
「関係ない!アタシは今アンタと戦うことが楽しそうだと思った!それだけで十分!」
言うが早いか彼女は俺に向かって再度ナイフを投げつけてきた。
「危ねぇなぁっ!!!」
僕は飛んできたナイフを持っていた剣で弾いた。別にもう一度透過で躱してもいいのだが息が出来なくなることを考えるとあまり多用はしたくない。
「あはっ!飛んでくるちっちゃいモノを連続で弾くなんてアンタ、目が良いんだね!」
「でも!えいっ!」
すると、確かに弾いたはずのナイフがもう一度僕めがけて飛んできた。
まずい!"透過"!!
「また避けられた!?でもまだまだ!」
何度弾いても透過で避けてもナイフは地面や木に当たる前に方向をこちらに変えて飛んでくる。
やばい!このままだと息がもたない!...それなら!
駆け出した先には金髪少女。
「おわ!こっちきた!」
さっき気づいたのだがどうやら透過は触れているものも一緒に透過するらしい、そのため透過をしても着ている服が落ちることは無いし持っている剣を落としてしまうことも無かった。
だけど剣を持つ手だけ透過を解除すれば体を守りながら彼女に攻撃を入れられる!!
投擲で露骨に距離を取ろうとするってことは接近戦が苦手ってことだろ!?
ここで透過対象から手を外して...!!
...!?
僕の渾身のひと振りは空を切った。
「アタシの攻撃は躱すくせにアンタの攻撃は当てられる?そんな便利なスキルあるわけないよね!」
そう言いながら彼女は既に反撃の構えを取っていた。
まずい...!!
「ガハッ!!!!!」
彼女に剣を持っていた手を蹴られ俺はつい呼吸をしてしまった。
「あ!やっと声出してくれた!もしかして黙ってることが発動条件?でもこれでもう避けれないってことだよね!」
そう言いながら彼女は楽しそうに追撃してくる。
「せーのっ!」
彼女から繰り出された蹴りが僕の腹に突き刺さった。
「お、女の子の出せる蹴りの威力じゃねぇだろ...てか、接近戦苦手じゃねぇのかよ...」
その言葉を最後に僕は意識を手放していた。
「あ!起きた!?」
気がつくと目の前にはさっきの女の子がいた。
「大丈夫だった?痛かったよね?ごめんね?」
とても心配そうに、申し訳なさそうにこちらを見てきている。なんだかそれを見ていたらいつまでも引きずるのもバカバカしく感じてきて、蹴られたことがどうでもよくなっていた。
「あ、あぁもう大丈夫だ...けど、さっきはなんでいきなり襲ってきたんだ?」
「え?えっとねー、アタシのスキルにセンサーっていうのがあってー、それ使って楽しいこと探してたらここだったの!」
は?意味がわからない、けどどうやら嘘はついていないみたいだ。
「えっと?つまり?楽しそうだったから僕を襲ったってこと?」
「うん!そういうこと!」
「ハハッ!なんだそりゃ」
あまりの意味のわからなさに思わず笑ってしまった。
「あ!元気になった!もう大丈夫だね!それじゃあアタシは次の楽しいこと探すから!じゃあね!バイバ...イ?」
突然元気だった彼女が大人しくなった。
「どうしたんだ?」
「なんで?さっきまで元気がいっぱいだったのにだんだん怒りと怖がりが大きくなってる...」
「なんのことだ?」
「アタシのことが怖い?ううんそうじゃない、さっきまではアタシが近くにいたけど元気だった...」
「おーい、大丈夫かー?」
「それよりもっと根っこの方で怖がってる...」
「さっきから何言ってるんだ?」
「...また裏切られるのが怖い?だけど騙した人達を殺してやりたい?」
「!?...お前なんでそのことを知ってる!?」
「.....あはっ!アンタ一体誰のことを殺したいの?」
「なんでお前に教えなきゃいけないんだ!」
「お母さん?お父さん?それとも友達?」
「...僕のことを裏切ったヤツらとそれをただ見てたヤツら全員だよ、けどヤツらは...!」
「...楽しそう!」
「は?」
「アタシにも手伝わせてよ!アンタの復讐!」
「なんでだよ嫌だよ、これは僕一人でやるんだ」
「どうやってその人を見つけるの?」
「!?」
「アタシなら見つけられるよ、アンタの復讐相手」
「...」
「決まりだね!アタシはクライス・グリーン!クライスって呼んで!アンタは?」
「...木崎灰」
「うんうん!アタシはアンタの復讐相手の所まで案内してあげる、だからアンタは復讐相手を殺すところをアタシに見せて!これからよろしくね、灰お兄ちゃん!」
透過は発動と同時に呼吸が出来なくなります。解除するには呼吸をしようと意識する必要があります。
クライスちゃんはイギリス出身の13歳の女の子です。スキルに脚力強化と身体強化を持っているため、18歳の灰君を一撃で気絶させることが出来ました。