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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

精神病者が10年かけて書籍化作家になったお話

作者: 書籍化した名無し

 前書きだが、この作品は書籍化した作品の宣伝のために書かせてもらった。

 ただ前書きや初めに宣伝するのは何となくマナー違反のような気がした。

 そのため、このエッセイの最後に宣伝することにした。

 もしも最後までお読みいただけたなら、宣伝した作品に興味を持っていただければ幸いである。




 ここから本文だ。

 概要は、精神病を患った僕が作家になりたいとがむしゃらになった10年を語る。それだけである。


 初めに断らなくてはいけないのが、これを読んだところで、小説を書く上では何の参考にもならないということだ。

 なぜなら僕は精神病者である。普通の人と感性も生活も考え方も違う。だから参考にしようと思って読んでも、「バカじゃないか?」「何考えてんの?」と思うだけだろう。


 しかしながら、それでも僕は書籍化できた! 精神病者の僕がだ!

 中々に興味深いと思うがどうだろうか。


 どうやってできたのか、お付き合いいただければ幸いだ。


 ただし内容は順風満帆ではなく挫折の連続だ。しかもショッキングな話題もある。偏見や気持ち悪いと思うような持論もある。主観も含まれているため、僕以外の登場人物はフィクションと考えた方がいいかもしれない。それに記憶があいまいなので嘘を言っているかもしれない。


 それが苦手な人は、止めた方が良い。


 何せ精神病者の僕の記録だ。


 真面な訳がない。





■【一章 10年前に新人賞に応募した】


 僕は小学、中学といじめを受けていた。それのせいか、人生で何がやりたいとか考えたことなど無かった。いつも目先のことだけを考えていた。


 でも高校に入ると友人に恵まれ、楽しい高校生活を送ることができた。

 大学でも友人に恵まれた。とても楽しい日々だった。


 そのおかげか、大学に入学してしばらくすると、一つの夢ができた。


「小説家になりたい!」

 だから新人賞に応募した。


◆なりたいと思った切っ掛け1:読書家の母

 切っ掛けの下地は、母親が読書家だったことだ。

 母は本当に読書が好きで、休みの日は三本か四本見ている(ただし流し読みで詳しい感想は言えないとのこと(笑))

 そんな母の元で暮らしていたから、僕も自然と本を読むようになった。

 ただ母ほどは読まない。一月か二月に一冊あるかないか。


 というのも漫画やアニメ、インターネットが面白かったからだ。今も面白い。

 だからそっちに集中していたため、読書量が少なかったと言える。

 また小学中学はいじめで、読書する元気も無かった(高校から元気は出た)


 話が脱線してしまったが、とにかく、母のおかげで、小説家という職業に触れることができた。

 だから漠然と

「小説家って楽しいのかな?」

 と思っていた。


◆なりたいと思った切っ掛け2:アメリカンコミックの名作と出会った


 衝動が抑えきれなくなった切っ掛けは高校2年の時に見たアメリカンコミックである。

 タイトルは

「バッドマン・キリングジョーク」

「ウォッチメン」


 今もアメリカンコミックの名作と呼ばれる作品だ。


 ◆作品紹介およびなぜ小説を書く切っ掛けとなったのか。


1.「バッドマン・キリングジョーク」


 タイトルの通りバッドマンシリーズの外伝である(バッドマンは有名だから説明の必要は無いよね?)

 この作品の主役はバッドマンのライバル、ジョーカーである(ジョーカーも知っている人は多いはず)


 以下作品の紹介である。

------------------------------------

「最悪の一日が、幕を開ける――

 アーカム精神病院からゴッサム最強の犯罪王ジョーカーが消えた。

 脱獄に成功したジョーカーは、ゴッサム市警本部長ゴードンを拉致し、さらにその娘バーバラを刃にかける。

 そして、ジョーカーはフリークスの集まる遊園地で、ある実験を試みる……。

 絶望的な状況下において、人はどこまで正気でいられるのか?そしてジョーカーを狂気に駆り立てる「過去」とは?

アメコミ界の異端児アラン・ムーアが、ジョーカーの誕生の秘密を暴く!!


引用元:小学館集英社プロジェクト(Sho Pro Books)の「バットマン:キリングジョーク 完全版」の購入ページにある内容紹介を引用


URL:小説家になろうの規約に接触するため割愛

  Googleで「小学館集英社プロジェクト バットマンキリングジョーク」で検索すると購入ページのリンクへ行けると思います。

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 この作品で僕が凄いと思ったのはジョーカーというキャラクターだ。

 圧倒的な存在感とカリスマ性。何より狂人だからこその苦しみ(僕も狂人だから大いに共感した)


「ジョーカーを超える悪役を小説にしたい!」

 これが一つの切っ掛けだ。


2.「ウォッチメン」

 ウォッチメンは、もしも本当にスーパーマンが居たら? を起点に作られた作品だ。

 作品の舞台は1985年のアメリカなので当時の事情を知らないといまいち伝わらない内容かもしれない。

 しかし、本当に現実世界にスーパーマンが居たらどんな社会になる? 冷戦は終わっていたのか? ベトナム戦争はアメリカ側の勝利になっていたのか?

 それらを大真面目に考えて作られた作品だ。だから鬼気迫る迫力がある。


 以下作品の紹介である。

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“金曜の夜、ニューヨークで一人の男が死んだ―”1985年、核戦争の危機が目前に迫る東西冷戦下のアメリカで、かつてのヒーローたちが次々と消されていた。これはヒーロー抹殺計画のはじまりなのか?スーパーヒーローが実在する、もうひとつのアメリカ現代史を背景に、真の正義とは、世界の平和とは、人間が存在する意味とは何かを描いた不朽の名作。アメリカン・コミックスがたどり着いた頂点がここにある。全ページ再カラーリングに加え、48ページにわたる豪華資料を収録した完全改訂版。SF文学の最高峰ヒューゴー賞をコミックとして唯一受賞し、タイム誌の長編小説ベスト100にも選ばれた、グラフィック・ノベルの最高傑作。


引用元:Amazonの「WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books) (日本語) 単行本」の購入ページのあらすじを引用


URL:小説家になろうの利用規約に接触するため割愛

  Googleで「ウォッチメン 書籍情報」で検索すると購入ページのリンクが見つかると思います。

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 この作品の凄いと思ったところはリアリティと斬新なストーリー、魅力的なキャラクターである。


 登場人物は皆曲者ぞろいだ。


 中年になってもヒーローになりたいと思う大人。

 恋人が分身もできる最強の男。

 とてつもない力を持つがゆえに人間が蟻のように見えてしまうヒーロー。

 正義のためなら殺人は正当であると本気で思っている犯罪者。

 この世界は神様が考えたジョークで、自分たちにできることは楽しむことだけと考える暴漢。

 世界最高の頭脳と身体能力を持つ完璧超人。


 その他色々いるが、本当に曲者ぞろいだ。

 しかし物語を読むにつれて彼らの信念が分かってくる。


 彼らはそれぞれの正義感を持って行動している。

 それが化学変化を起こし、最後は素晴らしき結末を迎える。


 最後の結末は衝撃的だった。


「この作品を超える作品が書きたい!」


 そう思うのも当然だった。


◆ライトノベル全盛期と思い上がり

 僕が大学生になったばかりの頃はライトノベルがとても盛り上がっていた。

 一般書籍よりもライトノベルが売れていたような記憶がある。


 このころは電撃文庫が頂点だったが、当時の僕は、

「僕ならもっと面白い作品が書ける!」

 と思いあがっていた。


◆以上から応募した


 上記の過程を得て僕は新人賞に応募することにした。


「絶対に受賞する!」

 そう思って書いた記憶がある。


◆3年間の落選、筆を折る。


 しかし現実は甘くなかった。僕は一次選考を突破する事もできなかった。


「なぜだ? 皆見る目が無いのか? それとも僕が悪いのか?」


 一次選考で落選した場合、選評すら来ない。だからどこがダメだったのか知ることもできなかった。


「文章力? ストーリー? それとも題材?」


 分からないまま3年間が過ぎた。そして大学3年の時に情熱が消えた。


「僕に才能ないな。筆を折ろ」

 この時僕は執筆に本当に疲れていた。だから筆を折ることに躊躇は無かった。

 就活など進路が控えていたこともあった。


 だから僕は筆を折った。

 2012年だった記憶がある。








■第二章 躁うつ病


 執筆を諦めたが僕は特に暗くなかった。アニメやゲームなど楽しいことは沢山あったし、友人とお酒を飲む楽しみも覚えた。毎日が楽しかった。


 進路も順調だった。

 僕は大学院へ進学することにした。

 理由は、就活したくなかったから(笑)

 もう一つは、大学院へ行った方が就職に有利だと思ったから。


 大学時代は本当に目先の事だけを考えていた。

 目の前に楽しそうなことがあれば飛び込む! 焚火に飛び込む虫のようだ。

 それでも毎日が楽しかった。

 それを続けたいとも思ったので、大学院へ入った。


◆大学院 就活 躁うつ病発症


 大学院一年の時は楽しかった。ゼミの研究はそこそこ順調だったし、単位も取れていた。ぶっちゃけた話大学院は大学の延長だと思えた。ゼミの研究がもっと必要なくらいだった。

 今思い出しても、結構楽をしてきたなと思う。


 しかし大学院に居続けることはできない。だからさすがに就職しようと思った。

 当然と言えば当然だ。


 そして僕はうつ病になった。


◆大学院2年

 大学院2年になってから就活が始まった。ところが就活は思うように進まない。

 進路指導の教員からのアドバイス、OB訪問とOBからのアドバイス。全部実行した。

 実行すれば就職できると思ったから。


 ところがアドバイスをこなしても全く内定がもらえない。そもそも第一志望の会社からは門前払いされた。アドバイス通りにしたのに!


 それとともにゼミの居心地も最悪になった。

 研究が上手くいかず、ゼミの教授が怒鳴るようになったのである。

 元々教授は怒りっぽかったが、研究が上手くいかないと机を平手打ちしながら耳元で怒鳴るようになった。

 今までなかったから、衝撃的で、恐怖を覚えた。


 就活が上手くいかない、ゼミの恐怖。これによってうつ病になった。


◆うつ病の症状


 うつ病だと直感したのはキーボードが打てなかった時だ。


 指先が棒のように突っ張って動かない。なのにブルブルと震えている。

 僅かな音にも恐怖を覚える。誰かが僕を笑っているように思える。


 うつ病を自覚してから、僕は急いで病院に行った。


 このままだと死ぬと思った。

 死にたくなかった。


◆診断名:双極性障害(躁うつ病)


 僕は病院に行くとすぐに問診票を渡された。全部で100問あったと思う。


 内容はお酒の量や睡眠時間、自殺歴、近親者に精神病者が居るか、妄想癖など色々だ。


 面倒だったがすべて書いた。


 完全な余談だが、精神病にかかっていないのに精神病者だと病院に行く人が居るという。問診票は病状の判断の他に、それをはじくために行っているようだ。

 というのも精神病の薬はすべて劇薬で、扱いを間違える、または悪用すると麻薬のような効果を発揮してしまう。また副作用も普通にある。

 余談終了


 僕は問診票を書き終わり、診断された時のことを覚えている。



「あなたは過去に自殺を図ったことがあるんですか?」

「二回ほどあります」

「いつですか」

「小学校の時に一回。中学校の時に一回。大学院2年の就活中に一回です」(数を間違えている)

「どのように自殺しようと?」

「小学生の時は包丁を胸で刺そうとしました。でも切っ先が肌に当たると怖くて止めました。それからしばらくした後に包丁を首筋に当てました。やっぱり怖くて止めました」(記憶が蘇って来たのでさらに増えている)

「続けて」

「紐で首を絞めたことがあります。でも自分の力じゃ全然効果がありませんでした。ただ包丁よりも怖くなかったんで、自殺するなら首吊りだなって思いました」

「中学時代は」

「制服がブレザーだったからネクタイを持って居たのでそれで首を吊りました」

「よく助かったね」

「母に見つかりました」(この時母も同席していた。母は頷いた)

「就活中も」

「同じです」

「理由は」

「小学中学はいじめです」

「就活中は」

「内定が決まらなかったのと、ゼミの教授に怒られたからです」


 ぺらぺら。

 先生が問診票を捲る。


「あなたは過去に自分が神様だと思ったことがあるのですね?」

「なんでもできるって思う時がありました」

「一度だけ?」

「毎年二回か三回あります。周期があって、数か月ごとに思ったことがあります」

「その時の気分は?」

「最高の気分です。気持ちよくて元気で、歩くだけで楽しかったです」


 その後も先生が質問する。


「あなたは双極性障害の疑いがあります」

(双極性障害:気分の沈む鬱状態と気分が高揚するハイ状態が周期的に入れ替わる気分障害。詳細を知りたい場合はURL:https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_bipolar.html#:~:text=%E5%8F%8C%E6%A5%B5%E6%80%A7%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AF%E3%80%81%E7%B2%BE%E7%A5%9E,%E3%81%8F%E3%82%8A%E3%81%8B%E3%81%88%E3%81%99%E3%80%81%E6%85%A2%E6%80%A7%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82を参照)


「そうだと思います」

 診断終了


 僕は以前から自分が双極性障害なのではと薄っすら思っていた。病的な全能感を感じることがたまにあったからだ。

 しかし医師から直接伝えられた衝撃は凄かった。


「僕は狂人(イカレテいた)のか」

 正式な診断書を貰った時、自分が普通の人間ではない、社会不適合者だと理解した。


「だから僕は虐められていたのか」

 僕はそれによって気づいた。

 虐められたのも、新人賞に落ちたのも、就活が上手くいかなかったのも、すべては僕が悪かった。


「どうやって生きて行けばいいんだ?」

 気付いたのは良い。しかしどうするかが問題だった。







■第三章:家族の絶望と就職と退職


 僕は薬を貰って自宅療養することになった。

 自殺する危険性は低いと思われたようだ。僕も一応、死ぬ気は無かった。


 しかし自宅療養中は何度も死にたくなった。


「お前が甘やかすからあいつは病気になった!」

 夜、父親が母親に怒鳴る。

「私のせいだって言うの!」

 夜、母親が父親に反論する。

「お前が産んだんだろ!」

「あんたも一緒に育てたじゃない!」


 家族は僕が狂人(イカレテ)いると知って、絶望した。


「どうして真面な子供が産まれなかったの?」

 誰かが隣でいつも言っていた。


 もしも僕が真面だったら、両親はとても幸せだった。

 ところが僕は狂人(イカレテ)いた。両親はとても不幸だった。


「ごめんよ」

 謝ることしかできなかった。


◆一度目の就職と退職

 しかし僕は何とか卒業し、就職することができた。


 自宅療養に集中したことが功を奏した。就職はうつ病が完全に発症する前に、奇跡的に内定が取れた(うつ病になったのは就活の緊張感が途切れたせいかもしれない)



 しかし僕はすぐに、この会社はダメだと思った。

 言い訳させてもらうが、これは鬱云々の話だと思っている。もっとも真面な人ならへっちゃらかもしれないけど。


 理由は色々あったが、一番の理由は新人研修なのに残業が酷かったことだ。

 しかも理由は日報が上手に書けていない、だ。実務ですらない。

 最初は親切心かと思ったし、残業代が出るから良いと思っていた。

 ところが入社時に渡された給料の内訳を確認すると、見込残業が月80時間(毎日4時間残業)となっていた。

 それを見て、


「4時間残業させなくちゃいけないから、日報の書き方なんて下らない理由で残業させているのか」

 これにはガッカリした。もはや会社に身をささげたいと思えなかった。


 僕は結局、二週間で退職した。

 ただし、この退職は間違っていないと思う。


◆二度目の就職と小説家になろうの出会い。


 退職したことで再び家族が絶望すると思った。

 ところが以外にも家族は退職に賛成した。

 僕の様子がおかしかったらしい。またいつも僕が深夜に帰ってくるため、会社に不信感を抱いていたようだ。


 とはいえ、仕事は探さないといけない。


 幸いすぐに辞めたため、すぐに行動することができた。


 若者向けの就労移行支援サービスがあったのでそこに入った。するとそこで運よく就職先が見つかった。


 仕事はキツイと言えばきつかったが、結構楽しくやれたと思う。少なくとも前の会社に比べればずっと良かった。


 ただ退屈を感じたこともあった。だから何かないかと探した。


「小説家になろう?」

 その時偶然小説家になろうを知った。


「小説家になろうの作品が出版ね」

 今から5年6年前は小説家になろうの作品が出版されるだけで話題になった。

 Web小説が一般小説ライトノベルになること自体が珍しかった。


 特に盛り上がったのが魔法科高校の劣等生だ。

 これは電撃文庫という大手から出版されたため、非常に注目された(他に出版された名作もあるが話題だけなら魔法科高校の劣等生がダントツだった)


 僕は以前、小説家になることを断念した。しかしニュースを見て、再び思った。


「アマチュアでもバシバシ出版されてるし、ここだったら行けるんじゃないか?」

 再びやる気になった


◆小説家になろうへ投稿と二度目の筆折り


 しかし投稿するや僕は自分がアマチュアの中でも底辺だと思い知った。


 まったくお気に入りがつかないし、PVも出ない。


「何がいけないんだろう?」


 やはり分からない。


 しかし一月ほど毎日投稿した。

 毎日だいたい一万字ほど書いてがむしゃらに投稿した。

 だが結果は同じだった。


「やっぱり才能ないな」

 ひと月以上やったが成果が無く、燃え尽き症候群になった。だからその作品はエタッた。おまけに寝不足で仕事にも支障が出ていた。

(この時は躁うつ病の躁状態だった。一日一時間寝れば十分だった、と思っていたがもちろんそんなことはなくミスを連発した)


 思いあがっていた、小説家になろうを舐めていた、その結果だったが、この時は気づけなかった。


「もう二度と小説は書かない」

 とにかく僕は筆を折った。二回目だ。


 二回も筆を折った作家は居るだろうか? たぶん居ない。


◆アルコール依存症発症


 小説家になる夢は諦めた。とはいえサッパリした記憶はある。それくらい書くのが辛かった。


 しかし、それとは別に、大問題が発生した。


 アルコール依存症である。


 切っ掛けは叱責だった。

 ミスや納期遅れなどが重なりめちゃくちゃ怒られた。

 それから晩酌を始めた。


 配置換えも後押しした。

 僕はその時派遣社員だったのだが、自社のメンバーが居たため上手くやって来れた。

 ところがメンバーが入れ替わった。今度は知らない人だ。

 人付き合いのストレスでさらに酒が増えた。


 仕事もかなりきつくなった。納期もそうだがやることが不明確(僕はSEだった)でいまいち全容が掴めない。もっと積極的に調べれば良かったかもしれないが、アンテナを張ることができなかった。


 この時期になると行動が明らかにおかしくなる。

 まず煙草の頻度が増した。一時間に一本。普通の職場なら考えられないだろう。しかし僕はやっていいと思っていた(ここら辺の常識は初めから無かったし、たとえ知っても煙草が手放せなくなっていた)

 まあそれでも何とかやっていけた。怒られることもあったが何とか納期内に仕事を終わらせた。


 しかしアルコールの量は増え続けた。毎日2リットルの発泡酒を飲んだ。

 それで止まらなかった。

 今度は焼酎をウーロン茶で割って飲むようになった。

 この時期からたびたび、酒で遅刻するという最低な行為を行うようになった(有給を使って誤魔化した覚えがある)


 重症なのが、酒を飲んで遅刻するという行為に罪悪感が全くなかったことだ。


 この時の記憶はハッキリしていないが、おそらく、鬱状態だったのだろう。酒を飲んで不安を和らげたかった。だから量が増えた。

 おまけに罪悪感を感じないということは周囲の目に興味を持てないという状態だ。これはおそらくアルコールで頭が鈍っていたためだろう。


 僕はどうも、鬱状態でも働くために、お酒を飲んでいたらしい。

 しかしお酒で誤魔化しきれるほど、仕事は甘くない。

 でもプレッシャーから逃げるためにお酒を飲む。


 お酒が無いと生きられない。


 アルコール依存症であった。


◆二度目の鬱と隔離病棟へ入院


 自身がアルコール依存症であることに薄々気付いた。だがどうやって止めたらいいか?

 アルコールを取らないと眠れない。不安で仕方ない。そもそもコンビニがあるため我慢できずに買ってしまう。

 誰か相談する相手が欲しかったが、仕事仲間には相談できない。だらしないと言われるのが落ちだった。

 家族にも相談できない。

 また絶望して欲しくない。

 病院に行くか? しかし行ってどうするのか?


 そもそも僕はアルコールを手放したくない。だから病院に行きたくない(実際は通院中。ただしアルコールのことは伏せていた)


 悪循環の中、仕事で盛大なミスを犯した。

 端的に言うと、設計ミスだった。

 これで僕の信用は無くなった。


 それは仕方ないのだが、それよりもその時の叱責で再び鬱状態になってしまった。


「またか」

 自殺するためにドアノブで首つりしようと思ったが、ネクタイが思いのほか短く断念した(やはり首つりするならロープを買わないとダメだ。自殺するならそれ相応の出費も必要だ。ケチってはいけない)


 結局僕は母に助けを求めた。そして病院で診断書を書いてもらった。

 そして鬱状態として休職した。


 しかし今度は自宅療養はできない。アルコール依存症だからだ。


「アルコールを止められますか?」

「止められません」

 主治医にハッキリと言った。


 僕は結局、家族と相談して、精神病院へ入院することとなった。


 ただし入院する場所は一般人が想像するような場所ではない。


 精神病専門の病院が持つ、隔離病棟という場所だ。


◆隔離病棟

 隔離病棟は健常者は絶対に見ることができない場所だ。そこで何が起きているか、少しは興味があるだろう。


 まずお金の話をしよう。


 隔離病棟の入院は入院と変わらないため料金は一般病棟と同じだ。だから入院代は父親に出してもらった。ありがたい。


◆隔離病棟と一般病棟の違い


 まず隔離病棟は出入り口に鍵がかかっている。ずっとかかっていて、職員しか開閉できない。

 これは脱走防止だ。あとで語るが隔離病棟は行動が制限されるため、逃げ出したいと考える人が出てくる。


 次に持ち物に制限がある。

 マッチなど危険物はもちろんだが、携帯電話やスマホ、ベルトなど紐類も危険物の一つに数えられる。

 まず携帯電話やスマホについてだが、精神病者は外界からの刺激に敏感だ。それが引き金になって症状が悪化する場合がある。


 具体例として僕の場合を話す。

 僕はアルコール依存症で入院した。その時スマホを持って居たら何をするか?

 まずネットサーフィンでお酒を見るだろう。これはダメだ。


 アルコール依存症はアルコールと接触する機会を無くす必要がある。つまり情報も届かないようにする必要がある。もし届くと飲みたいと思い、脱走を企てたり、飲みたいのに飲めないストレスで症状が悪化する可能性がある。


 紐類は自殺防止だ。本当に徹底していて、小説の栞となる紐もダメである(紐がついた小説は持ち込み禁止として没収される)

 靴紐もダメである。だからパジャマや衣服も紐の付いていない物に限られる。


 次は内装だ。

 一番目立つのは、ドアノブが無い事だ。

 ドアノブを使った首つり自殺は一般的になっているため、どの病室も引き戸になっている。出入り口は違ったと思うが、そこはナースステーションから丸見えである。


 次にナースステーションだが、ガラス張りの鍵付きドアになっていて、患者が入って来ないようになっている。唯一小窓があって、そこで外出届などのやり取りをする。


 次にテレビだ。病室には全くない。唯一広間に一台だけある。ビデオやDVDは見られない。

 これは携帯やスマホと同じ理由だ。


 窓は開けられないようになっている。自殺防止だ。


 鍵の付いた病室もある。

 暴れる患者を隔離するところだ。入ったことは無いが、拘束具のような物が見えた記憶がある。


 煙草を吸える喫煙室があった! これは一般病棟では考えられないだろう。

 これは嬉しかった! 好きなだけ吸えた! でも夜の10時に閉まってしまう。

 夜は寝ろって事だ。


 内装の違いは以上だ。廊下などは綺麗に清掃されていて、日の光もたくさん入るので一般病棟とそれほど変わらない。


◆隔離病棟での行動

 隔離病棟は行動が制限される。


 一つ目は食事だ。絶対に職員の前で食べなければならない。自室で食べることは許されない。

 これは摂食障害(過食症、拒食症)の患者に配慮してのことだと思う。


 食事が終わると全員薬を飲む。夜は人によっては睡眠薬が処方される(僕は処方されたことがある)

 ここで凄いのが、薬も職員の前で飲まないといけないことだ。しかも薬を飲んだか、口を開けて確認してもらう必要がある。

 これは飲まない患者が居るためだ。

 なぜかと言うと、精神薬は猛烈な眠気や倦怠感を伴う物が多い。また治ったから必要無いと薬を飲むのを拒否する人も居るからだ。反対に過剰摂取する人も居る。

 これらの危険を排除するため、必ず職員に薬を飲んだか見てもらう必要がある。


 ちなみに食事の献立は普通の病院食だった。

 薄味だったのが辛かった。塩と醤油が欲しかったが無かった。

 でもカレーはとても美味しかった。何だかんだ手作りは美味しい。

 食事は一番の楽しみだった。


 二つ目は電話だ。公衆電話しかない。しかも許可が必要だ。

 やはり外的刺激を避けるためだろう(家族と口論になる可能性は0ではない)。


 三つ目は外出だ。医師が許可を出さないと出してくれない。また外出届があるため、行先と帰宅、外出時間を伝えなくてはならない(帰って来ないと外出禁止である)

 これは本当に辛かった。入院中は刺激が遮断されるため退屈で仕方ない。一週間は良かったが、二週間目からイライラしてしまった。

 幸い三週間目からは外出できるようになった。



 こうして上げてみるとやはり一番は外出禁止がキツイ。

 パソコンやスマホがあれば引きこもりやっほうと思えるかもしれないがそれが無いため本当に退屈である。少しずつ体力が戻ってくるとそれが凄いストレスとなる。


 また精神的にきつい部分もある。


 僕は隔離病棟の入院を希望した。これは自分から申し出た。

 しかしいざ入ってみると、まるで自分が牢屋に入れられているような気分になる。

「お前は何するか分からねえから大人しくしてろ」

 そんな感じがした。


 もっとも隔離病棟に入院する人は行動を制限しないと治らない人だ。


 他人と自分を守るため、安心して入院できる場所。それが隔離病棟だ。


◆入院患者


 よく精神病者は話してみると普通の人が多かったという意見を聞く。

 確かにその通りだった。

 皆普通に話せるし、論理的な会話もできる。大富豪で楽しく遊んだ時もある。


 しかしそれでも、健常者と違う印象を受けた。


 しかも違うと言っても本当に人それぞれに違いがある。共通点など無い。


 おそらくすぐに気付くのは話し方や行動だ。

 ある人は吃音があったり、話し始めると止まらなかったり、全く喋らなかったり、廊下を歩き回ったり、じっと椅子に座っていたり、煙草を吸いまくったり、などなど。


 ただ迷惑と感じることは無かった。吃音はあったが普通に聞き取れたし、話が止まらなくても注意すればすぐに止めてくれる。喋らない人も話しかければ返事を返す。廊下を歩き回る人は暇だから散歩気分で行っていた。トランプに誘うと楽しく参加した。じっと椅子に座る人は薬の副作用だと思う。煙草は口が寂しいから許して。


 とにかく話し方、行動は変わっていたとしても個性と受け入れられる。日常生活に問題があるとは思えない。


 しかし一緒に過ごしていると、健常者と考え方が違うなと気づいた。


◆入院患者のタイプ


 入院患者さんの考え方は三つのタイプに分かれている印象だった。


 一つは自分の病気を恐れているタイプ。


 一つは孤独感に悩むタイプ。


 一つは自分が病気であると受け入れているタイプである。




◆自分の病気を恐れているタイプ。

 ある男性(Aさん)の話だ。

 彼は重度の統合失調症のようだった。


 彼は普段、一人で過ごしている。時に煙草を吸うことがあったが、話したことは無い。

 無口で大人しい人という印象を受けるだろう。

 すり足で小さく歩くため、気の弱い人にも見える。


 しかしある時、彼は廊下で誰かに叫んだ。

「酒口! おい酒口! こら!」


 なぜか怒っていた。理由は分からなかったが明らかに興奮状態だった。


 すぐに看護師が駆け付け、彼を取り押さえた。

「離せ! 離せ!」

 そう言って彼は隔離病室へ入れれた。

 注射器を持った看護師が部屋に入ったのと見たため、鎮静剤を打たれたと思った。


 この出来事はびっくりしたし、納得もした。

「これが統合失調症か」

(統合失調症:幻覚(見えない誰かが見える、聞こえない声が聞こえるなど)症状が発生する病気だ。詳細はhttps://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html#:~:text=%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87%E3%81%AF%E3%80%81%E5%B9%BB%E8%A6%9A,%E3%82%92%E4%BD%B5%E3%81%9B%E3%82%82%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82を参照)


 入院患者は統合失調症が多かった。

 彼らは幻覚症状に悩まされる。


 幻覚症状は人によってさまざまのようだが、Aさんの場合は怒っていたため、過去の嫌な奴が見えたのだろう。


 切っ掛けはストレスが多いようで、イラっとすることがあると不意に幻覚を見てしまうことがある、ようだ。

 薬によって症状を押さえることができる。ただし劇薬のため、薬を飲むと頭がぼんやりするようだ。


 Aさんは二日後に戻ってきた。

 いつものようにおどおどした態度だった。


 何度か彼と喫煙室で出会ったことがある。


 基本的に会話は無い。ただし、部屋を出る時に会釈すると、怯えるような上目遣いで会釈した。


「怖いんだな」


 彼は自分が他人を傷つけてしまうことを恐れている。そんな印象だった。


◆孤独感に悩むタイプ。


「みんな、分かってくれないんだよね」


 統合失調症のBさん(女性)は煙草を吸っている時に愚痴った。


「子供を二人産んで、子育てしないといけない。でも薬飲むと動けないんだよね。それなのに喧嘩になる」


 彼女は普通の奥さんだった。明るく、喫煙室で笑っていた記憶がある。

 笑うと歯がむき出しになるほど豪快に笑うが、他人の愚痴には真摯に聞いた。


「普通の事ができないんだよね。なんでみんなできるんだろ?」


 印象的なセリフだった。


 またこういう人も居た。

「俺はもう退院しても良いと思うんだ。でも医者がダメだって言うんだ」

 Cさんは巨体だった。太っていたと言える。髪を刈り上げたイカツイ見た目だったが、AKBなど流行の曲に詳しかった。昔の曲も詳しかった。見た目とは違っていて面白かった。


 彼は行動に問題があった。

 煙草を自室のトイレで吸ったことがあった。

 これは厳重注意で済んだが、隔離部屋に入れられるようなこともした。


 僕はその現場を見ていなかったが、どうも持ち物に関して、看護師ともめたらしい。

 ヒートアップして看護師の両手を掴んだ。それが危険と判断されて隔離部屋に入れられた。


 本人は大したことないと言っていたが、両手を掴むという行為自体、口論中でも健常者はやらない。

 彼はそれが分かっていなかった。


 病名は統合失調症と聞いた。

 統合失調症と一口に言っても、色々な人が居た。


「そろそろ退院して働きたい」

 彼は僕から見ても重症だった。でも働きたいと、喫煙室で胡坐をかいて、俯いた。

 巨体が小さく感じた。


「寂しいな」

 彼らは一人ぼっちだった。理解されない。それが辛かった。

 もちろん、健常者は理解できない。出来る筈がない。

 だから苦しみも分からない。

 そのギャップに苦しんでいた。


「健常者も辛いってのが悲劇で喜劇だ」

 彼らは家族に理解されなかった。しかし家族も大変だ。絶望感でいっぱいだ。

 僕はそれを身をもって知っている。


 だから悲しかった。


◆自分が病気であると受け入れているタイプ

 これは鬱病患者に多かった。

 彼らは落ち着いていた。


「簡単な計算もできなくて。それで鬱だって思ったんだ」

 Dさんはお子さんの居る既婚者(男性)だった。

 一生懸命働いていたが、鬱になったため休職したらしい。


「三年前に鬱になったんだけど再発しちゃって。だから思い切って入院したんだ」

 彼は落ち着いていた。髭を蓄えていたが目が垂れていて優しい印象だった。


 彼は自分が病気であることを受け入れていた。だから病院の規則を守って生活した。だから早く退院した。


 すぐに退院できる人はこのタイプだ。

 自分が病気であると受け入れているためか、入院生活を受け入れていた。

 入院中は普通のお父さんだった。


「ちゃんと仕事ができるか不安だよ」

 ただし彼も不安があった。


「こうやって再発すると、自分が役立たずだって分かるよ」

 もしかすると受け入れるしかなかったのかもしれない。


◆自分のタイプ


 余談だが僕のタイプは全部だ。

 躁状態、鬱状態の時で考え方も何もかも違う。


 多重人格に見えるかもしれない(医学的には違う)


 躁状態の時は孤独感に悩むタイプになる。

「俺は元気なのに」

 元気いっぱいだから頑張れる。健常者として振舞える。そんな誇大妄想をしてしまう。


 鬱状態の時は自分が病気であると受け入れているタイプである。

「病院行くしかねえな」

 こういう時は自殺を図るか病院に行くかの二択になる。


 気分が安定しいる時は自分の病気を恐れているタイプだ。

「迷惑かけてるな」

 毎日そう思う。


◆退院

 僕は二か月ほど入院した後、退院した。

 退院後は元の仕事に戻った。配置換えなどはあったがそれくらいだった。








■第四章 アルファポリスとの出会いと二度目の退職


 職場復帰すると再び仕事が始まる。今度はアルコールを取らないように気を付けて生活した。


 比較的何とかなっていたが、そうなるとまた悪い癖が出る。


「退屈だな」


 再び退屈を感じた。


 ただし僕はこの時小説を書くとは思わなかった。

 そもそも興味が無かった。


 しかし、再び筆をとることになった。2018年の2月中旬だった。




◆切っ掛け

 切っ掛けはアダルトゲーム、ラ○ス10をクリアしたからだ。


 ラン○シリーズはアダルトゲームのソフトとしては30年以上の歴史があるビッグタイトルだ。

 さすがに1からはやっていないが、偶然やった6が凄くおもしろかったので、それから最終作の10までやった。


 ラン○シリーズは設定やキャラクター、世界観などがぶっ飛んでいて、しかもそれが面白いというとんでもない作品だった。もはや設定や世界観だけを調べるだけでも楽しかった。それくらい嵌った。


 そんな好きなシリーズが終わった。


「終わっちゃったか」

 ラン○10はだいたい100時間ほどやった。これほど嵌ったゲームは久しぶりだった。

「これで終わりなのか……」

 文句の無い終わり方だった。カタルシスも十分。

 しかしそうなると、悲しさが襲った。


「ランス君の活躍は見れないのか」

 主人公の名前はランスという戦士だ。

 この男、アダルトゲームでも珍しく、「女はすべて俺の物、世界はすべて俺の物!」という考えをしていた。平気でレイプもする。褒められた人間ではない。

 しかしどこか愛嬌があって、おまけに強い。しかも何だかんだ世界を救ってしまう。

『魔物が攻めてきただと? 俺の女(世界中の女)を殺す奴は俺が殺す!』

 そんなノリが好きだった。


「続きが見たいな」

 しかしそう願っても終わってしまった。

 ならどうするか?


「俺が書いたらどんな物語になるんだろ?」

 再び筆をとった。


◆アルファポリスに投稿


 僕という人間は心の中で誰かに認めてもらいたいと思っているのだろう。

 だから僕は自分が書いた小説を誰かに読んで欲しかった。


 だから再びWebサイトに投稿する決意を持った。


「小説家になろうは止めておくか」

 ただ小説家になろうは止めた。アダルトゲームが出発点なのでR18の内容だったし、何より以前、小説家になろうで失敗した苦い記憶があったためだ。


 しかしならばどこが良いか? 探していると、一つのサイトを見つけた。

「アルファポリス。書籍化も積極的なのか」


 アルファポリスは小説家になろうと同じ小説投稿サイトだったが、明確な違いが一つあった。

 それは、アルファポリスは出版社が運営しており、投稿された作品の中で良い物は積極的に自社で出版していた。


 小説家になろうで出版する場合、必ず出版社から声がかかるのを待つ必要がある。なぜなら小説家になろうを運営している会社は出版社ではない。だから小説家になろうで書籍化するためには、出版社から声がかかるまで待つ必要がある。

 例えるなら川に釣り糸を垂らし、魚が食いつくのを待つ釣り人だ。


 アルファポリスで出版する場合、アルファポリスから声がかかるのを待つ必要は無い。

 というのもアルファポリスは投稿作品を出版申請、つまり売り込むことができる。

 これは海原に出て魚を取る漁師に似ている。


「しかし……書籍化申請してもなぁ」

 実際問題、出版申請したからといって書籍化できる訳では無い。出版申請するためには条件があるし、条件を満たしていても、アルファポリスが売り物にならないと感じたら受理されない。


 しかし書籍化するだけなら、小説家になろうよりもチャンスを感じた。


「作家になりたい」

 僕はもう一度作家という夢を思い出した。


 だったら書くしかなかった。


◆アルファポリスの処女作


 処女作はR18なので作品名などの紹介は止めておく。

 ストーリーは単純で、「異世界転生した最強の犯罪者がハーレム作りながら世界を救う物語」だ。


 この作品は元々ラン○シリーズの主人公を意識したものだった。出発点がそれだったからである。


 ところが書いてみると非常に書きにくかった。見切り発車だったという理由もあるが、とにかく主人公が扱いにくい。

 主人公は犯罪者なので倫理観が無いし、ある意味それが個性だった。だから気に入らないと思ったらすぐに殺す。声もかけないで殺しに行く。しかも設定的に最強なので不意打ちだと相手はまず死ぬ。


「……こいつ、どうやったら動かせるんだ?」

 主人公が個性的でしかも倫理観も無く血も涙もない。女の子が「助けてください!」といってもまず助けない。少なくとも自分には助けようとする姿が見えない。

 そのせいでラン○シリーズのように巨悪を倒していく展開を考えていたが、ストーリーが進まない。


「主人公は倫理観のある奴じゃなきゃダメだな」

 この作品は打ち切りにするしかなかった。


 ただ、嬉しい事もあった。


「Hotランキングに入った!」

 Hotランキングはあえて言うなら一か月以内に投稿された作品の新作ランキングのようなものだ。

 1位から100位まであり、ジャンル分けはされていない。

 このランキングは曲者で、アクセス数やお気に入りはもちろん、日数など様々な要素を加味してランキングを決めているらしい。詳細は分からないが、小説家になろうのランキングでは考えられない作品が乗っていることもある(ホラーや純文学のジャンル作品が80位前後に居たことがあった)


 僕の作品はその時お気に入りが50しかなかった。それでも80位まで上がれた。


「もうちょっと頑張れば上位に行けるんじゃないか?」

 そんな手ごたえを感じた。


 さらにいうと小説家になろうで投稿した作品はブクマが10くりだった。ところがアルファポリスだと5倍の50になった!


 ここなら行ける! そんな直感があった。


◆アルファポリスの二作目


 二作目はまず、処女作の反省から始まった。


「主人公は倫理観が必要だ」

 これが前提だった。そうじゃないと処女作の二の舞だ。


「書籍化するなら……」

 二作目から僕は書籍化を意識して書いた。アルファポリスならできると思ったためだ。

 だから真面目に考えた。


「ハーレムの人数は3人まで。登場人物も10人以内に納めよう」

 処女作は他にも反省点があった。

 僕はハーレムが好きだ。だから多めに女の子を出す癖がある。ところが処女作は30人くらい出してしまった。名前を覚えるだけで重労働だった。

 また30人出したところで実際に主人公と行動したのは3人だった(この三人はキャラが立って居て好きだった)。

 3人しか行動していない。なら27人はなんで出したんだ? そんな話になってしまう。

 他にも総登場キャラが多く、名前を考えるだけでも大変という状況が頻発した。それどころか名前が被ったりすることもあった。もはや僕でも把握しきれないほどだった。


 これらから登場人物は、主人公+ヒロイン3人のみ。名前ありは敵キャラ含めて7人という縛りを設けた。


「ストーリーはシンプルに」

 処女作はストーリーも大変だった。正直自分の腕では調理し切れないほどの大作だった。


 これは処女作がラン○シリーズが元ネタになっていたからだ。

 よく考えずに、「ラン○シリーズと同じような悪党が世界を救う物語」と考えてしまったため、どうやって世界を救うのか? なぜ世界を救うのか? 敵キャラはなぜ世界を滅ぼそうとするのか? など色々なことが考えられていなかった。


 そういった経験から、とにかくストーリーをシンプルにしたかった。その時頭に浮かんだのがウィザードリィというRPGゲームだ。


 ウィザードリィはアメリカで開発されたコンピュータRPGゲームで、RPGゲームの元祖とも言える作品だ。ドラゴンクエストやファイナルファンタジーの元になった作品だと思っている。

 やることは単純で、モンスターを倒して強くなりながらダンジョンの最深部を目指す。それだけである。今のように凝ったストーリーではない。


 しかしこのシンプルさが気に入った。今の自分の力量でも扱えると思った。


「ダンジョンから脱出する物語だ」

 物語は単純だ。

 主人公とヒロイン3人がダンジョンに閉じ込められる。4人はダンジョンを脱出するために力を合わせてダンジョンの最深部を目指す。


 そういった発想で生まれたのが二作目である

「○○○○○○○○」だ(あとがきにタイトルとリンクを記載)。


 この作品はしっかりと完結できた。ハッピーエンドだった。


「20位まで上がったか」

 発想は間違っていなかったと言える。

 前回よりもさらにお気に入りが増えたし、Hotランキングの順位も更新した。


「でもこれだと出版申請はできないな」

 お気に入りは完結した時で350くらいだったか? 前回よりも7倍も増えた。大健闘だが、出版となると非常に厳しい数字だった。


 出版するなら新作を書くしかなかった。


 しかし大丈夫、僕ならできると思った。


 そんな時に鬱が再発した。


◆鬱の再発と二度目の退職


 話は前後してしまうが、アルファポリスに二作目を登校中、再び鬱が発症した。

 原因は仕事がとてつもなくきつくなったことだ。正直この案件は明らかに自分の力量を超えていた。

 とにかく納期がきつかった。休日出勤しても間に合わないと思ったほど凄かった。

 難易度も高かった。その理由の一つは取扱説明書などの資料がすべて英語だったことだ。


 あまり仕事のことは語れない。ただイメージだけで伝えると、「新製品のテレビを作った。それを動かすリモコンが必要だから作ってくれ」。そんな感じだ。


 リモコンを作るだけ。単語だけなら簡単だ。ところが実際にやって見ると大変だった。


 まずリモコンを動かすプログラムを作る場合、リモコンに搭載されているCPUを制御する必要がある(パソコンのCPUと原理は同じ。性能はパソコンのCPUの方が高い)。

 このCPU制御を行うなら、CPUの取り扱い説明書が必要だ。

 しかし説明書は英語オンリーだった! トイックの点数が300点未満の僕に分かる訳ないだろ! つかCPUの説明書なので英語ができる人でも分からない人は多いと思う。


 それでも仕事なのでやらなければならない。仕方ないのでまずは目次を確認する。そこからCPUの制御に必要そうな単語を探す。(初期化やスタート、レジスタ、メモリなど)

 見当をつけたらグーグル翻訳や辞書を開いて翻訳してみる。不自然だと思ったところは文脈などを確認してもう一度翻訳してみるなど。

 これの繰り返しだった。納期が迫っていたのでさすがに全部はできなかった。全体の三分の一は翻訳した。二日くらいで終わらせた記憶がある。


 次に実際にプログラムを作成するのだが、ここからが地獄だった。

 CPU制御を行うプログラムを書いたのに正常に動作しないのだ。

 何がいけないのか? もう一度説明書を開く。そしてCPU制御を行う時の手順を確認する。次にプログラムがその通りに書いてあるか確認する。

 ここで問題が見つかればめでたしめでたしだ。

 しかしプログラムが間違っていない。なのに動かない。なぜ?

 何度も説明書を見る。それでも分からなければハードウェアを確認するしかない。専門外だ。でもやるしかない。


 とにかくこれの繰り返しだった。


 僕が一番辛かったのは納期のプレッシャーだ。二週間以内に完成させる必要があった。しかし間に合うとは到底思えない。でも上司や客先の期待に応えないといけない。


 酒に逃げることは無かった。だから僕は小説を書いたとも言える。執筆する世界が逃げ道だった。


 だが現実はこくこくと迫る。


 覚えているのは、休憩中に泣き出したところだ。

 その後上司に言った。


「僕ではもう無理です」

「ギブアップか」

「ギブアップです」

 やり取りはそんな感じだった。鬱とは言わなかった。


 とにかくギブアップできた。自分の力量では納期に間に合わないという、ある意味正当な理由だった。だから最悪外されても事務仕事などやろうと思えばできただろう。少なくとも即刻首にはならないと思う。

 しかし僕はもうダメだと思った。


「また鬱か……」

 鬱になったのは大学院時代と合わせて3回目だった。


 結局僕は退職を決意した。


「私は君に期待しすぎていたんだね」

「そうですね」

 上司との最後の会話はそんな感じだった。


 今思い出しても良い会社だと思う。嫌いになれない。できればもっと努めたかった。

 でもこれ以上は迷惑になる。

 そう思うと辞めるしかなかった。


◆再び家族の絶望と職業訓練所


 退職してしばらくは失業保険で暮らした。貯金もあったし、実家だったのもあって少しは余裕があった。

 ただ両親はさらに不仲になった。


 父親にも叱られた。


「お前は治る気が無いから治らないんだ。本当はただゴロゴロしたいだけなんだろ」


 何も言えなかった。


「働かないといけない」

 しかしもう鬱にはなりたくなかった。

 そんな時、障害者手帳という物を知った。


 障碍者手帳は医師の診断書があれば取得できるし、就職時に障碍者であるという証明にもなる。証明できれば障碍者枠で就職できる。

 障碍者と証明できれば、残業などある程度会社側が配慮してくれると聞いた。


「これしかないか」


 しかし障碍者枠で就職という言葉がいまいち分からなかった。

 そこで精神障碍者専門の職業訓練所に通うことにした。

 もうSEなどは無理だと思ったので、電話対応など事務仕事全般を取り扱うところだ。


 入所したのは2018年の10月だった。


◆アルファポリスの三作目


 退職してしばらく療養し、落ち着くと現実逃避したくなった。


「一度でいいから出版したい」

 このままでは死んでも死にきれない。だから新作を考えた。


「二作目の時にお気に入りとPVが上がった話があったな」

 二作目はHotランキングが終わると、投稿したら一日に一つか二つ、お気に入りがつく程度になった。場合によっては剥がれる時もあった。

 これはHotランキングを持つアルファポリスの特徴だと言っていい。

 HotランキングでPVやお気に入りが稼げないと、あとは緩やかに停滞するか、緩やかに上昇するだけになる。(これを考えると小説家になろうのシステムも悪いものではない)


 そんな中、一日で20もお気に入りがついた時があった。普通なら一つか二つ、下手すると剥がれる時もあるのに、だ。


 その話は、クラス転移してきた少年が、主人公と戦って死ぬ話だった。


 詳細を語ると、物語は終盤で、主人公は最強クラスの力を手に入れていた。最強なのであとはラスボスが待つ最深部へ行くだけった。

 そこでラスボスは策を考える。異世界転移した奴と主人公を戦わせるのだ(異世界転移した奴はもちろんチート持ちだ(もっとも主人公はさらに強いが))


 ラスボスは空間支配やら宇宙を創造できるやらと凄まじい力を持って居た(今考えるとなんで?)。

 その力を利用し、ダンジョンの各階層に異世界を作り上げ、そこに異世界人を配置した。主人公が最深部に行くには、各階層で召喚された異世界人を倒す必要がある。


 上記の少年はそんな刺客の一人だった。


 詳細はこうだ。




 ある少年がモンスターと話せるチートを持ってクラス転移したが、戦力にならないと追い出された。

 しかし彼はモンスターと話せるチートを活用して、モンスターはもちろん魔王とも仲良くなった。

 少年はモンスターや魔王の力を借りて成り上がる。そうすると、なぜ魔族が人間たちと争うのか気になった。魔王に聞くと、「言葉の分からない奴らだから」という理由だった。

 話し合いができないから戦争になっている。ならば話し合いができれば戦争は終わる。彼はそう考えて、魔族と人間の通訳となった。

 彼の狙いは成功し、人間と魔族は和平した。彼はその功績によって大臣となった。

 転移したクラスメイトは全員いつの間にか死んでいた。


 少年は平和に暮らしていた。しかし黒幕から、主人公を殺さないと世界が滅ぶと聞かされた。

 少年はモンスターと話せる以外の力はなく弱かった。それでも少年は勇気を振り絞って一人で戦うことにした。主人公は最強で、その世界の魔王や英雄でも太刀打ちできないと分かっていた。だから一人で戦うと決めた。

 少年は主人公に襲い掛かる。主人公は良く分からないまま戦うことになった。

 結果、少年は死んだ。

 少年が死ぬと世界中の魔族や人間が彼の死を悲しんだ。

 主人公はなぜこうなったのか理由が分かると、改めてラスボスを倒す決意をして、先に進んだ。




 個人的にこの話は気に入っている。だからこそ人気が出たのかもしれない。もふもふ人気やクラス転移の人気もあったのかもしれない。


「この少年を主人公にしよう!」

 手ごたえを感じた。


 結果三作目の「○○○○○○○○○○」ができた(タイトルとURLはあとがきに)


◆巨大すぎるHotランキング1位と2位


 三作目は今まで以上に人気が出た。快進撃だった。


 投稿してからお気に入りは増えた。Hotランキングに載るまでに20くらいと細々だったが前二作よりも順調な滑り出しだった。

 そして10日後くらいにHotランキングに載った。

 初めは90位。お気に入り数は20。

 それから数時間後、60位。お気に入り数は100。

 さらに数時間後、20位。お気に入り数は300。

 次の日は10位。お気に入り数は1000。

 それから半日後、5位。お気に入り数は1300。

 次の日、3位。お気に入り数は1800。


 初めてHotランキングの上位になった。しかも3位だ。今まで小説を執筆したが、最高の人気だった。


 しかし、そうなると欲が出る。

 1位になりたい! そう思った。


「1位と2位が凄すぎる」

 しかし1位と2位は僕以上に人気だった。

 まずお気に入り数は二人とも10000を超えていた。どうやら一人はすでにデビューしていたプロ作家の様だった。

 PVも桁外れだった。


 結局僕は3位で終わった。14日くらい経つと、少しずつHotランキングの順位は下がり、21日くらい経つと、Hotランキングから姿を消した。

 お気に入り数は1900くらいだった。


 対して1位と2位は一月ほど1位と2位を独占していた。お気に入り数も伸ばしていった。


「書籍化するんだったら……」

 お気に入り数1900は快挙だ。しかし出版するとなると門前払いされる可能性が高かった。

「最低でも5000は欲しい」

 実際のところ、出版するかしないか決めるのはアルファポリスだ。だからもしかするとお気に入り数が500でも申請すれば出版できるかもしれない。

 しかし僕は、5000は無いと厳しいだろうと思った。勝手に思った。


◆第11回ファンタジー小説大賞(アルファポリス主催)


 とはいえ、1900もあればダメもとでも出版申請しても良かったかもしれない。というか僕は申請するつもりだった。

 しかしできなかった。

 9月に開催される第11回ファンタジー小説大賞が迫っていたためだ。


 詳しい説明は省くが、第11回ファンタジー小説大賞は9月のため、7月、8月、9月、10月はファンタジー小説の出版申請はできないという決まりになっていた。(6月もダメだったかな? 忘れた)


 僕がHotランキングから落ちたのは八月半ば。もう遅かった。


「でも、ファンタジー小説大賞の応募すれば!」

 出版申請しなくても受賞すれば出版できる。ならば応募するしかない。


◆第11回ファンタジー小説大賞45位


 ファンタジー小説大賞は読者投票も行っている。それで順位が決まると言っても過言ではない。

 PV数も順位のポイントに関係するため、たくさんの人に見てもらう必要がある。


 こういったことから、ファンタジー小説大賞中は毎日更新が望まれる。人によっては二日に一回などあるが、大概の参加者は毎日更新を行っている。毎日二回行う人も居る。


 僕もとにかく更新した。場合によっては日に二回更新した。


 この期間はかなりきつかった。ストーリーそのものは思い浮かぶが描写が思い浮かばない。それでもやるしかないため、説明口調だったり、説明不足だったり、会話文だけで進むことも多かった。展開が思い浮かばない時はストーリーを変える時もあった。


 もっとも、じゃあ時間があればそうならなかったの? と言われると、時間があってもこうなっただろうね、と答える。

 まだまだ未熟だった。それだけだった。

 でも一生懸命書いた。


 最終順位は45位。初参加にしては上出来だと言っていい。

 何せ2000作品ほど集まったのだ。その中で100位以内なのだ。拍手していいだろう。


 しかし僕は悔しかった。

「これじゃ出版申請できない」

 僕の作品は結局、賞を貰えなかった。これはアルファポリスが興味を持たなかったからだ。そう考えることしか出来なかった。

 そうなると、出版申請しても答えは同じだ。何せ45位だ。一度は内容を見ただろう。その上で落選したのだ。


「また書かないと」


 僕は三作目を完結させると迷走した。


◆三回目の筆折り


 ファンタジー小説大賞は45位だった。

 しかし出版申請はできなかった。ならどうするか? 新作を書くしかない。


「次は何を書けばいいんだ?」


 次のアイデアが思い浮かばなかった。


「小説家になろうに戻ってみるか」

 僕は正直な話、アルファポリスに疲れていた。大会中はもちろん一作から三作目までの8ヵ月間、240日更新してきたから、当然と言えば当然だと思う。


 また実は三作目は終盤辺りで感想が大荒れしてしまった。

 原因はストレス展開が長く続きすぎた感じだが、とにかく、何を書いても罵詈雑言という日々だった。これに疲れたというのもある(このため三作目は打ち切りと見ることもできる)


 だからふと、今まで離れていた小説家になろうに戻ってきた。


「戻ってきたけど……」

 しかし人気はでなかった。

 というよりこの時期は躁と鬱の入り混じったパニック状態だった(今にして思えば)

 やはり自信のあった作品が落選したため、ショックだったのだろう。


「警告か」

 人気が思うように出ないことの焦りや悲しみから執筆作品は迷走、ついには性描写を入れてしまい、運営から警告を受けた。


「止めよう」

 警告を受けた時、自分は疲れ切っていることに気づいた。

 そしてもう作家になることは諦めて、他の楽しみを見つけることにした。


「職業訓練もあるし」

 執筆は時間が掛かる。僕の場合はだいたい1話書くのに5時間くらいかかる。それを毎日だ。

 さすがに職業訓練が始まると執筆にそこまで時間をかけることはできない。通所への移動時間や訓練の時間があるし、睡眠時間の確保など体調面も気を付けなければならない(作品を投稿してから一日4時間睡眠だった気がする。今にして思えばだが)


 とにかく筆を折った。迷いはなかった。




 ちなみに、筆を折った後、筋力トレーニングに嵌った。結局4時間睡眠だった。

 僕の悪い癖だ。一度嵌るとそれに夢中になってしまう。


 ただし筋力トレーニングの結果、体重が8キロ落ちた。

 スーツも着こなせるようになった。

 悪い癖が出たが、それがいい方向に向かったと言える。

 今も続けている。最終目標は片手懸垂10回だ。










■第五章 書籍化


 2019年の3月、筆を折ってから4か月ほど経ったと思う。


 ある日僕は通所の帰り、電車の中で暇つぶしにネットサーフィンしていた。

 その時偶然、やる夫スレを見た。


 やる夫スレはアスキーアート(通称AA)を使った漫画のような読み物だ。だいたい、やる夫というデブで不細工な男が、努力を重ねて皆に認められるというストーリーになる(もちろん違う作品もある)

(詳細はこちら:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%84%E3%82%8B%E5%A4%AB)


 このやる夫スレから小説も出版されている(https://foraastory.kadokawa.co.jp/)。全部見た。面白かった。


「僕も書いてみるか」

 単純に面白そうだった。だから僕もやる夫スレを書いてみようと思った。


「いや無理だろこれ」

 しかし一週間くらいして挫折した。

 原因はAAだった。


 やる夫スレは漫画のように、AAとセリフ、字の文の三つで構成されている。

 この中で一番重要なのはAAだ。これが無いとやる夫スレではない。


 しかし気に入ったAAを探すのはとても大変だ。それどころかAAが無いキャラも多い。

 自作できれば良かったが、難易度はとてつもなく高かった(おそらく絵を描くのと同じくらい難しい)


 気に入ったAAが無い。そうなるとストーリーやキャラクターに制限がかかってしまう。もどかしい気持ちだ。


 またAAのキャラクターそのものが問題でもあった。


 AAはやる夫という掲示板オリジナルキャラクターばかりではない。というよりオリジナルキャラクターは少なかった。オリジナルキャラクターよりも版権キャラクターが⒐割以上占めていた。


 涼宮ハルヒの憂鬱の涼宮ハルヒ、空の境界の両儀式、ローゼンメイデンの水銀燈、この素晴らしい世界に祝福をのめぐみん、Fateのセイバーなどなど。


 やる夫スレを書く場合は、版権キャラクターのAAを使わないといけなかった(全く使わないという選択肢もあったが、難しかった)


 この版権キャラクターが曲者だった。強敵と言っても良い。


 物語を考えて、あとはAAを配置するだけだ。そう思って作ってみた。


「このキャラクターはこの場面でこんなこと言わねえだろ」


 版権キャラクターは凄まじい個性を持って居る。当たり前と言えば当たり前だ。


 だから自然と違和感を覚えてしまう。


 ストーリーや設定はオリジナル。でもキャラクターは版権キャラクター。二次小説のようなものだ。


 こうなってくると版権キャラクターにストーリーや設定が引っ張られてしまう。

 一生懸命に考えたストーリーがどうしても面白く感じないのだ。


 版権キャラクターを使った弊害だ。


「二次創作も大変だな」

 この経験を得て二次創作の大変さを思い知った。キャラクターの個性を殺してしまっては、二次創作の意味が無い。個性を殺すくらいならオリジナルを考えた方が良い。


「また小説書くか」

 やる夫スレの作成は諦めた。

 でも考えたストーリーは捨てられなかった。


 やる夫スレが書けなかった原因は簡単だ。版権キャラクターが強すぎた。ならどうすればいいか?

 答えは簡単。自分でキャラクターを考えればいい。

 ただし僕にAAを作成することはできない。


 しかし小説なら書ける。


 だから筆をとった。


◆再び小説家になろうで警告


 小説は小説家になろうへ投稿することにした。

 アルファポリスは感想が荒れた経験があって怖かった。アルファポリスに投稿しても書籍化できなかったというショックもあった。


 だから小説家になろうへ戻ってきた。


「そこそこ人気は出たか?」

 何作か書いた。エタってしまった作品もあるが、二作程度は完結できた。


 その中の一つはブクマが500を超えた。書籍化には程遠いが、今までで最高のブクマ数だった。


「警告か」

 小説を書くと再び書籍化を夢見る。悪い癖だ。

 そしてこの癖は悪い方向へ向かった。


 運営から二度目の警告を受けた。やはり性描写だった。


 人気取りのためになぜか性描写を入れてしまう。エロは何だかんだ人気があるから。


「もう無理だな」

 警告はショックだったが、それ以上に警告を受けるような行為をしても、それほどブクマは集まらなかった。

 ルール違反しても勝てない。才能が無いと認めるしかなかった。


 結果、僕は小説家になろうを去った。


◆ノクターンノベルズとの出会い


 その時の僕は警告を受けたりなんだりとのショックで荒れていた。

 しかし暴れるようなことはしたくない。


「いっそのことR18の小説を書くか」

 鬱憤溜まっていたのもあった。めちゃくちゃな物語を書きたかった。

 そこで思いついたのがR18小説だ。

 R18なら欲望のままに書いても怒られない。


 そこで見つけたのがノクターンノベルズだった。


「R18なら書籍化できるかな?」

 R18小説で書籍化する。恥ずかしいとは思わなかったし、むしろ面白いと思った。


 R18小説はアニメ化などは難しい。しかしアニメ化云々など言える立場ではない。出版できるなら何でもチャレンジするべきだ。

 それにR18小説は絵がエロイ! ある意味夢がある! それに僕はエロ漫画好きだし。


 とにかく気晴らしも兼ねて書いてみることにした。


◆日間ランキング第六位


「PV数すげえ!」

 僕が投稿してまず驚いたのはPV数だ。初日で1000くらいあった。これは小説家になろうでは考えられない出来事だった。

 今までは良くて30くらいだった。


 そして見てくれる人が多いため、ブクマもついた。


 これはノクターンノベルズの特徴だと言っていい。


 R18小説はマニアックなジャンルだ。しかしマニアックだからこそ、好きな人は新作も積極的に見てくれる。だからこそポイントやブクマも積極的にしてくれる(ほとんど僕の想像だが)

 

「日間ランキングにあがった!」

 ノクターンノベルズの日間ランキングは小説家になろうと少し違う。

 といっても少しだけでめちゃくちゃ変わっている訳では無い。


 小説家になろうに投稿していた時、せめて日間ランキングには入りたいと思っていた。

 しかしそれは叶わなかった。


 ところがノクターンノベルズでは叶った。小説家になろうとは違うが、その系列だ。

 変則的だが、願いは叶った。


「六位か」

 執筆した作品は日間ランキングで六位になった。上出来だ。


 しかし、六位から先には上がれなかった。


「エロ小説を舐めてたな」


 僕はどこかでR18小説を舐めていたのだろう。R18なら簡単に書籍化できる。

 そんな思い上がりがあった。


 しかし実際はできなかった。日間ランキングは六位が限界で、ブクマも1000ほどで止まった。

 内容がR18小説の中でもマニアックだったというのが原因だろうが、それはそれだ。


「書籍化できないのは実力不足なだけか」


 僕はどこかで、日間ランキングに載ってしまえば、書籍化できるほどのブクマが集まると考えていた。しかし実際は違った。


 日間ランキングに載った。しかしブクマは増えない。書籍化できない。


 どういうことか?


 実力不足。


 それだけだった。


「才能ないな」

 日間ランキングに載れないから書籍化できないと思っていた。日間ランキングに載れば書籍化できると思っていた。

 しかしそれは違った。日間ランキングはスタート地点に過ぎない。下手するとレースの出場権に過ぎない。


 僕はレースに出場した。そして負けた。実力を思い知った。


「筆を折るか」


 さすがにこれ以上は無理だ。理性はそう言っていた。


 だが心のどこかで、何かがある。


 そう思った。


「才能が無い? 実力が無い? 本当か?」


 だったら、アルファポリスでHotランキング3位になったのは偶然だったのか?

 ファンタジー小説大賞で45位になったのは偶然だったのか?


 違う。


 三作目は確かに苦い経験があった。だが僕の中で一番人気が出た小説であることに違いなかった。


「三作目を手直ししたらどうなるんだ」


 感想欄が荒れた。なぜ荒れたか? ストレス展開が長かった。


 そこらへんを手直ししたら、もっと人気が出るんじゃないか?


 思ってしまったら、実行したくて仕方なくなった。


 暑い暑い8月の時だった。




◆再びアルファポリスへ


 僕が行ったのはアルファポリスのHotランキングの確認だった。

 正直、また化け物と戦いたくなかったし、化け物が居たら諦めようと思った。


 それくらい怖かった。


「Hotランキングに化け物は居ないな」

 ただその時、お気に入りが10000越えの作品は無かった。


「これなら一位になれるか?」

 ある意味思い上がりだ。そもそも10000越えが居なければHotランキング一位になれるとはどういう理屈か? 良く分からない。


 ただ僕はこの作品は絶対に人気が出ると確信していた。


 なぜか? 以前、第三位になったものを手直しした作品だ。


 つまらない訳がない。


「やるか」


 僕は再びアルファポリスへ投稿しようと思った。


「しかし……テーマはどうしよう?」


 プロットを考えている時、テーマをどうしようか考えた。




◆「クスリと笑ってもらえる作品を」


 テーマ。難しい言葉だ。おそらくすんなり言える人は居ないだろう。


 とりあえず、小説のハウツー本を読んで探してみた。


「読者の事を考える?」


 テーマとは何か。探していると、そんなワードが目に入った。


「僕って読者の事を考えたこと無いな」


 僕は読者のことを考えて執筆したことは無かった。


 だから考えてみた。


「考えるって何を考えるんだ?」


 読者の事を考える。言葉は分かる。


 しかし、何を考えればいいのだろうか?


 読みづらい漢字は使わない? 異世界転生にする? ストレス展開を無くす?


 これらは読者の事を考えているのかもしれない。でも何となく、違う気がした。


 答えは見つからないまま、数日が過ぎた。



 その日は、鏡の前で身だしなみチェックをしていた。


 前日、職業訓練で身だしなみが大切だと注意されたからだ。


 僕は身だしなみに意識が回らないタイプなので、気をつけなくてはいけなかった。


 だから、その日は通所前に鏡と向き合った。


 ネクタイ、スーツ、髪型のチェックは終わった。歯も磨いた。


 最後は表情を確認した。


 なぜか? 身だしなみは表情も含まれるからだ。仏頂面は失礼だと教わったからだ。


「笑ってないな」


 鏡の中の僕は笑っていなかった。それどころか目が狐のように吊り上がっていた。眉間や額にしわもたくさんある。

 敵意がむき出しであった。


 これはダメだ。就職活動の面接に落とされる。だから笑ってみることにした。


 ところが笑えない。躁うつ病になってから、一度も笑ったことが無かった。いっぱい泣いた記憶はあるのに。


 その時、僕が小説を書きたいと思ったきっかけとなった作品、「バッドマン・キリングジョーク」を思い出した。

 登場人物のジョーカーは狂人だった。でも僕は彼が好きだったし、彼のジョークは笑えた。




「僕は読者に笑ってもらいたいんだ」


 ジョーカーのおかげで気付いた。


 なぜ書籍化したいのか? 昔は認めてもらいたいだった。精神病者だけど面白い物が書けるぞ! だった。


 でも本質は違った。


 僕は読んだ人に笑って欲しかった。


 笑顔は誰でも素敵だ。美しく可愛い。


 僕はもう笑うことは無い。しかし誰かを笑わせることはできるはずだ。

 

「クスリと笑ってもらえる作品だ」


 矛盾だらけでも良い、バカにされても良い。むしろバカにされた方が良い。それで笑ってくれるなら上出来だ。


 それが読者にできることだ。


 そんなコンセプトで四作目を書いた。


 それが書籍化した。




◆注意


 話の腰を折ってしまうが、どうしても注意したいことがある。


 ここまで読んでくれた人は僕が狂人(イカレテ)いることが良く分かったと思う。


 しかし、これまでの僕が接してきた人は狂人ではない。普通の人間だ。狂人は僕だけだ。


 それは作品を読んでくれる読者も同じだ。


 読者は僕の作品を見てくれた。楽しんでくれた。今も楽しんでくれていると思う。


 そんな人たちを見て、


「狂人が書いた作品を楽しめる? お前も狂人だな!」


 などと絶対に言わないで欲しいし、思わないで欲しい。


 なぜ注意するのか?


 似たようなことを言われたからだ。どこでとは、誰にとは、言わないけど、言われたことは事実だ。


 どうしてもそう思ってしまうのなら、すぐにブラウザバックして欲しい。


 僕を笑うのは良いし、いくらでも後ろ指を指して良い。それであなたが笑えるなら上出来だ。


 でも他の人を笑ったりしないで欲しい。後ろ指を指さないで欲しい。


 他の人の笑顔を奪わないで欲しい。


 だからこそのお願いであり、注意であり、ある意味で命令でもある。




 また、まず無いと思うが、僕の読者がもしかすると、この宣伝を見てしまうかもしれない。

 ショックだろう。もしかすると僕を見限るかもしれない。

 それは仕方ない事だ。


 ただし、これだけは伝えたい。


 あなたは僕の作品を読んでくれた。楽しんでくれた。それにショックを受けないで欲しい。


「あなたは普通の人だ」


 僕は狂人だ。でも僕は皆が楽しめる様に書いた。狂人成分が入らないように注意して書いた。


 だから安心して欲しい。


 あなたは普通の人だ。僕とは違う。




◆アルファポリスで四作目 Hotランキング1位に


 話を戻す。


 僕は四作目を投稿した。必ず受け入れられると思って書いた。


 投稿してお気に入りは順調に入った。前回よりもさらに好調だった。


 Hotランキングに載ったのは投稿して5日後だった。その時のお気に入りは確か60くらいだった。


 初めの順位は80位だった。お気に入りは60。


 次の順位は40位だった。お気に入りは200。


 次の順位は10位だった。お気に入りは500。


 次の順位は5位だった。お気に入りは700。


 次の順位は3位だった。お気に入りは900。


 次の順位は1位だった。お気に入りは1200だった。


 僕はHotランキングに載ってから二日程度で、Hotランキング一位になった。

 最高記録だ。誇らしかった。


 それから3日くらい一位だった。お気に入りはだいたい5500から5900くらいだったと思う。

 そこから少しずつ落ちて行った。


 とはいえ、お気に入りは順調に増えた。24Hポイントが総合一位になったこともある(24Hポイントはアルファポリス独自のポイントランキング。詳細はアルファポリスで確認だ!)


「ついに5000を超えた」

 手ごたえを感じだ。


 しかし運が悪いことにまたまた出版申請できなかった。


 第12回ファンタジー小説大賞が迫っていた。



◆第12回ファンタジー小説大賞


 僕は正直悩んだ。


「前回よりも順位が落ちたらどうしよう」

 この作品は僕の最高傑作だ。

 それが前作よりも順位が低かったら、立ち直ることはできない。


 それでも僕はファンタジー小説大賞に参加した。


「この作品でダメならもうダメだ」


 吐き気がするほど緊張した。




◆第12回ファンタジー小説大賞8位


 結論から言うとファンタジー小説大賞で8位となった。


「もうちょっと上に行けると思ったんだけどなぁ!」


 他の参加者が書いた作品も面白い。だから仕方ないと言えば仕方ない。




 それはともかく、大会中は本当にきつかった。


 ストーリーなどはスラスラ思い浮かんだ。しっかり書けた。


 しかし順位が気になって仕方なかった。


 順位が一つ上がると体が高揚し、順位が一つ下がると胃液がこみ上げる。


 そんな感じだった。正直もう参加したくないと思うほどのプレッシャーだったし、たとえ今、参加したとしても途中でギブアップするだろう。




◆第12回ファンタジー小説大賞 結果発表


 しかし順位は納得した。あとは結果発表だけだ。


「8位だ! 受賞するに決まっている!」


 発表は11月1日だった。10月中は訓練に身が入らないほど緊張した。


 11月1日、運命の日が来た。




「落ちたか」



 僕は受賞できなかった。


 最終選考に残ることはできたが、受賞はできなかった。



「出版申請するしかない」


 僕は11月1日に出版申請した。




◆躁うつ病の再発


 落ちた。その事実を知った時、躁うつ病が一気に悪化した。


 幸い以前よりも程度は低かった。

 というのも躁うつ病になってから欠かさず薬を飲んでいたため、その効果があったのだ。

 だから訓練も何とかこなせた。




 それでも行動がおかしくなった。


 まず一日中部屋を歩き回った。じっとしていられなかった。


 睡眠時間も不規則になった。


 ある時は2時間しか寝られない。そう思ったら次の日は16時間も眠った。


 食事も不規則になった。


 ある時は一日で4食、ある時は一日1食。食べたいときと食べたくない日が交互に来た。


 これは躁と鬱が数日、下手すると数時間おきに入れ替わっていたことが原因だ。


 ある時は鬱、ある時は躁。


 ある時は自分から進んで訓練を行う。ある時は職員から注意されるまでぼんやりする。


 行動が安定しなかった。


「出版申請通るかな」


 本当に不安だった。


 実はこの時、再び小説家になろうで執筆した。しかし不安定な精神だったためめちゃくちゃな作品を書いてしまった。

 もちろん人気は出なかった。


「もしもダメだった時はどうする?」


 それを考えると恐怖した。


 自分が何をするのか分からなかった。


「もしもダメだったら対処しよう」


 人に迷惑をかける前に、対処する必要があった。その準備はしっかりした。




 そんな時、メールが来た。


「あなたの作品を書店に並ばせてください」


 アルファポリスからの連絡だった。


 書籍化が決定した。




 書影

挿絵(By みてみん)




■最後に


 これで宣伝は終わりだ。宣伝とはいえ、エッセイという形もとった。ちょっとだけでも楽しんでくれたのなら幸いである。




 考えれば長かった。10年かかった。


 よく考える。


「自分が真面だったら、もっと早く書籍化できたのかな」


 僕は才能が無い。それだけなら未だしも、考え方や感じ方が健常者と異なっている。


 狂人である。


 真面だったら、健常者の考え方や好みなどすぐに理解できただろう。


 しかし僕は理解できなかった。


 執筆を初めた10年前は、世界に名だたる文豪になってやると意気込んでいた。


 小説家になろうに投稿を始めた5年前は、ここなら書籍化できると高を括っていた。


 それらが間違いであると一年で気付けていれば、もっと早くデビューできただろう。


 しかしそれが理解できるまで8年かかった。


 しかも、理解できるだけではダメだった。

 実行できるように訓練しなければならなかった。


 二年かかった。合計10年だ。


 しかし気は抜けない。訓練したとしても、ふいに忘れてしまうことがある。狂人であるがゆえの苦労だ。




 思い返すと、僕は恥ずかしいことをたくさんしてきた。家族にも迷惑をかけたし会社にも迷惑をかけた。色々な人に迷惑をかけた。


 社会的に見れば価値が無い人間だ。本来なら居なくなった方が良い。


 しかしながら、それでも出版することができた。


 少しは恩返しできただろうか?




 正直、こういった宣伝方法で良かったのか、不安である。

 一応規約には違反していないし、他の人に迷惑をかけるような内容では無いと思っている。

 書影は、編集者の人が、宣伝する時はぜひ使ってくださいと言ってくれたものだ。


 だから何とか、大丈夫だと思う。


 しかし悪評が立つ恐れもある。


 だけど僕は思った。


「悪評でも、この子たちを知ってもらいたい」


 宣伝している作品は、我が子だ。もはや僕の手を離れていると思っている。


 彼らはあなたたちを楽しませることができるだろうか? 親心ながら不安である。


 しかし、書影の子供たちは、前を向いている。


「大丈夫!」


 そう言っている。


 ならば知ってもらわないといけない。たとえ悪評が起きても、この子たちを知ってもらいたい。


 大丈夫。この子たちはいい子だ。絶対に皆を楽しませてくれる。




 最後に、ここまで見てくれてありがとう。


 また、家族や会社など関わってくれた人たちもありがとう。


 アルファポリスや編集者さんもありがとう。




 そして、10年間苦しみ続けた自分に伝える。


「ありがとう。よく頑張った」

二作目;迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!


三作目:クラス転移したら追い出されたので神の声でモンスターと仲良くします

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― 新着の感想 ―
[良い点] 興味深く読ませていただきました! 私も鬱病経験者ではありますが、貴方の様な立場から小説家を目指している人は、日本には沢山いると思います。 10万人や20万人ではきかない程いると思います。…
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