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君に贈る言葉 ~大切な人~  作者: 零式紫電(デバイス)
2/2

始業式

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーー………



 先生と職員室に向かうと、先生は自分の席に座り、腕組みをした状態で俺の話を聞く体制を取った。


 そんな先生に俺はとりあえず詳しい状況の説明とカズキのせいで誤解が生じたことを伝えると、先生は小さな溜め息をしたのちに納得してくれた。



「…なるほどな。

 まあ、お前が女の子を泣かすことはないと思ってたが、そういう事だったんだな。

 それにカズキの言い方もひどいよな」


「そんな笑い事じゃないですよ。

 こっちとしてはたまったもんじゃないですよ」


「まぁまぁ、アイツらしいと言えば、アイツらしいだろ。

 長い付き合いなんだから大目に見てやれよ」


「…わかりました」



 先生のセリフに対して、実に複雑な気持ちがあったが、とりあえず誤解が解けただけでも良しとしよう。


 そんな俺に先生は「戻っていいぞ」と言ってきたから、俺は言われるままに教室に戻った。




 そして、教室に戻るとカズキの周りに人だかりが出来ていて、どうやらクラスの男子連中の奴らに俺のことで質問責めを受けていたようだ。



(自業自得だ……)



 俺はそう思いながら、人だかりを横目に自分の席に戻って座ったが、その俺の姿に気付くなり、その集団は俺の方に集まってきた。



「女の子泣かせたってホントかよ!?」


「どんな子?可愛かった?」


「お前も隅に置けないな~」



 何かしら、面白い話が聞けるような期待を抱くような、キラキラと目を輝かせるみんなの質問責めに対して、俺はとりあえず職員室で先生に言ったように状況を説明した。


 すると、案の定、明らかにつまらなそうな反応が全員から返ってきた。



「なんだよ!!名前も聞いてないのかよ!!

 もう少し、積極的に行けよ」


「まぁ、ヤマトだったらそんなとこで終わりだろうな……」


「つまんねー」



 誤解は解くことには成功したが、いったい、クラスの奴らは俺に何を求めてるんだと疑問が出てきた。


 ただ、俺の態度はいつも通りクラスの奴らの盛り上がり方とは正反対で冷ややかだったが、なぜか次から次へクラスの男子連中が俺の所に来ては同じ質問を繰り返し、最終的には興味を持ってきた女子にも説明することになり、結局、クラスのほとんどの奴らに説明する事になってしまった…



「はぁ…」



 さすがに、あれだけ同じ事を何回も聞かれ説明すると、自然と溜め息が出てきてしまう…


 だけど、その溜め息と共鳴するかのように忘れかけていた"怒り"が込み上がってくる。


 すると、そんな俺にその怒りをぶつける対象から声を掛けてきた。



「なんか色々と大変でしたな、ヤマト君!」



 その人の不幸を楽しむかのような能天気な声のカズキの言葉に俺の苛立ちが一気に爆発して、俺は素早く振り向くと、鬼の形相でカズキの胸ぐらを掴み、顔を近づけて叫んだ。



「カズキ!テメェ!!

 誰のせいでこう面倒な事になったんだ!!言ってみろよ!!」


「マジでゴメンって!!

 俺も悪気は無かったんだって~。

 口が勝手にそう動いてしまったんだよ~」


「勝手に動いたって、お前の口だろうが!?

 だいたい、今日は朝からバックはぶつけてくるし、女の子にぶつかった事の話を面倒な方にもっていくし!!

 なんか、怨みでもあるんかい!!

 どうでもいいから、1回殴らせろ!!」



 カズキは俺の怒りの気迫に圧倒されながらも、必死で謝ってきたが、さすがの俺でも許すことができなかった。



 とりあえず、コイツを殴らないと気が済まなかった。



 俺は怒りの感情に任せて拳を振り上げたが…



「オイ!!お前ら、いつまで遊んでいるんだ!!

 始業式が始まるぞ!!」



 気が付くと先生が教室に戻ってきていて俺らの後ろで怒鳴っていた。


 その声に我に返り振り向くと、先生は俺の顔を見つめまま無言でいたが、その威圧感は俺の怒りの感情を軽く上回る感じで、それに押されるままに俺は振り上げていた拳を下ろし、カズキを解放した。


 その事にカズキは助かったと言わんばかりの安堵した表情を浮かべ、先生は何事も無かったように他の生徒に体育館に行くように指示を出してた。


 その指示に他のクラスメイトがぞろぞろと教室を出ていく中、俺とカズキも一緒に教室を出ようとしたが…



「なぁ、ヤマト?」


「なんだよ?」


「人を殴ろうとするのは悪い事なんだぞ?」


「…………」



 何も悪びれることもなく、にやけながら言ってきたカズキの言葉に俺は何も言い返さず、無言で睨みつけてた。



(絶対あとでぶん殴ってやる……)



 心の中でそんな小さな野望を秘めつつ、静かな"怒りオーラ"を出しながら、俺はカズキと一緒に体育館に向かった。




 そして、体育館に着くと既に生徒達が整列をし始めていて、俺らも静かに自分達のクラスの列に加わり、始業式が始まるのを待っていた。


 その間も、俺は自分の前に立っているカズキの頭を殴ろうと何回も考えていたが、何とか自制心を持って耐えていた。


 ただ、始業式が始まりクソ長い校長の話を聞いているうちに、その復讐心よりも俺の中で眠気が襲ってきた…



(眠い……)



 別に昨日、夜更かしをしていたわけではないが、春の暖かい日差しとお経に近い校長の話のせいで、ウトウトとしてきた。


 それは俺だけではなく、他にも何人かの生徒が眠気と戦い始めていた。


 だけど、そんな中、カズキは急に俺の方を振り返ると、少し興奮したように小声で声を掛けてきた。


「おい、ヤマト。あれ見ろよ」


「…え、なに?」


「なに眠たそうな顔してんだよ。

 壇上を見てみろよ」


「壇上?」



 カズキの言葉に俺は意識を取り戻し、壇上を見上げると、そこには思いもしない事が起きていた。



「あっ!」



 思わず飛び出す驚きの声。


 その声に周囲にいた生徒達が俺の方に視線を向けるが、俺はそれにも気にせず、ただ一点だけを見続けてた。


 それもそのはず、俺の視線の先には昇降口で俺にぶつかってきた女子の姿があった。



「……なんで?」


「あの子が新入生の代表挨拶だってさ。

 けど、代表挨拶なんかする奴って入試の成績が1番の奴だろ?

 じゃあ、あの子って頭いいのか?」



 意識を半分無くしてせいか、全く状況が飲み込めない俺に対してカズキが囁いた。


 そんな中、彼女は緊張した面持ちで一礼すると静かに深呼吸をした。


 そして、彼女の挨拶が始まった。



「あたたかな春の訪れと共に、新たな気持ちを胸に私達はこの高校に入学しました。

 新入生として、校長先生をはじめ、諸先生方、上級生の先輩方と共に、学校行事や部活動にも一生懸命に取り組んでいきたいと思います。

 また、この高校の取り組みでは………………」


 

  その挨拶をしている姿は凛とした姿で、昇降口で俺にぶつかった時に見せた泣きそうな表情とは全く違った印象に見えた。


 その姿に俺は視線は彼女に向けられたまま止まっていたが、そんな俺に気が付いたカズキが俺をからかってくる。



「ヤマト。な~に見惚れてるんだよ?」


「べ、別に…違うって……」


「そんなに照れるなよ。

 あの子、かわいいし、見惚れるのも仕方ないよなぁ」


「だから、そうじゃないって…」



 カズキのニヤニヤとしたからかいに俺は否定をしていたが、その声は動揺を隠せてなかった。


 それは単純に、彼女の姿の違いに驚いていただけかもしれないが、俺の中では、それとは別に彼女を声を聞いていると、ぶつかった時には気付かなかった事に気付くことがあった。


 それは"懐かしさ"だ…


 だけど、今日初めて会った人にそんな感情を抱くわけがあるはずもなく、とりあえず気のせいという事にしようとしたが、それでも気になる所はある。



(もしかしたら、前にどこかで会ったことがあるかもしれない。

 名前を聞けば思い出すかもな)



 極めて少ない可能性だったが、それに期待して、俺は挨拶の最後の言うであろう彼女の"名前"を聞くことに集中したのだが…



「…………新入生代表「なぁ、ヤマト。あの子って、ほんとかわいいよなぁ。

 俺、勝負に出ようかな」



 彼女が名前を言う瞬間、カズキの"無駄な一言"によって俺の期待はかき消された。


 そして、名前を聞き逃したことに呆然とする俺に対して、カズキは不思議そうに俺を見ていた。


「どうした、ヤマト?

 なんか大事なものを取られたように俺の事を睨んでいるけど?」


 (コイツ……

 やっぱりぶん殴る!!)



 自分のしたことにも気付かず、悪びれるような様子も見せずに、首を傾げるカズキの表情に俺の中に彼女の登場によって忘れていた、今日のカズキに対する憎しみが増大して蘇った。


 俺は無言でカズキを睨んだが、さすがのカズキでも自分が何か俺の気分を害ずるような事をしたのだなと理解したようで、ただただ苦笑をして俺を見ていた。



 そんな中、代表挨拶も終わり、俺の疑問は謎のままで彼女は壇上を降りて、彼女が自分のクラスの列に戻る為に、俺のクラスの列の横を歩いて来て、俺の横を通り過ぎる時に彼女と目が合ってしまった。


 その事に俺はとっさに目線をそらして、平静を装っていたが、彼女が通り過ぎるまでの間、少し堅くなっていた。


 今まで感じたことのない緊張感…


 ただ偶然に出会った女子が横を通るだけなのに、変に硬くなっている自分自身に違和感しかない…


 今日は何もかも調子が狂っているような気がする……


 そんな複雑な気持ちを抱いてる俺をよそに、司会の先生が始業式を締める。



「以上で始業式を終了します。

 尚、本日はこの後、各クラスでホームルーム後、校舎内の清掃で帰宅になります。

 部活などある生徒はそれぞれの活動を頑張りましょう」



 その声に促されるままに、生徒達がぞろぞろと各自の教室に向かい始め、始業式は終わった。


 そして、今日は今言われたように、始業式の後はホームルームと掃除をすれば帰れると言う最高の日だ。


 もちろん、部活や委員会とかがある奴らは放課後にそれぞれやることあると思うが、俺は部活も委員会もやってないからそのまま帰れる。


 だけど……



(帰ったら何しよう……)



 ぼんやりと放課後に何をするか考えてみたももの、特にやりたい事がない俺は、こういう時に何もする事がない……


 だけど、それは今に始まった事ではなくて、早く学校が終わるときにはいつも考えてみるが、結論は出てこない事だ。


 そんな俺の隣ではカズキが同じ部活の奴と部活の話をしていた。


 なんとなく、こういうカズキの姿に以前は熱中出来るものがあっていいなと羨ましく思う事もあったが、今となってはそんな事を思う事もなく、俺は一人スタスタと歩いて教室に戻った。


 そして、その後、ホームルームでは、今年度の1年間の日程の連絡や進路決定についての説明をされたが、先生が色々と言ってる中、俺はほとんど聞かずにいつものように外を眺めていた。


 だけど、その脳裏では始業式で代表挨拶していた彼女の姿と声が過ぎる……



 (どっかで聞いたような声なんだけど…

 全く思い出せないんだよな…)



 思い出せそうで思い出せない歯がゆい気持ちになるぐらいの気になる彼女の声…


 悶々とした気持ちだけが俺の中でうごめいていて、先生が何を言っていたなんて覚えてもなかった。


 そして、その気持ちはホームルームが終わり、掃除中でも残っていた。


 俺は箒を持ったまま、また外をぼんやり見ていたが、そんな俺の後ろからカズキがいつもの能天気な声を掛けてきた。



「ヤ~マ~ト~く~ん。なにを黄昏ているのかなぁ。

 ちゃんと掃除しないと、怒られるよ~」



 ただ、その声を聞いたときに俺は我に返り、ふと思い出したように、箒を振り上げるとそのままカズキの能天気な脳天を叩いた。



 ーーゴンッ!!


「イッテ~!!いきなり何するんだよ!!」


「うるせー!!

 今までのお返しだ!!」


「だからって、箒で殴る奴が居るか!?」


「朝からバックぶつけてきた奴が何を言ってるんだ?

 それに今日は俺の気に障ることばかりしやがって…

 なんか文句でもある?」


「いえ……文句ありません…」



 溜まりにたまっていたうっぷんを晴らす事は出来たが、それでも俺の気持ちは収まりがつかなかったせいか、妙な気迫の乗った俺の言葉に、カズキは圧倒され、自業自得だと理解したのかそれ以上は言わず、二人で掃除の続きをやり始めた。


 その掃除も終わり、クラスの奴らはそれぞれ自分の部活や委員会の方に向かい始め、カズキも自分の部活に向かうためにバックを担ぐと、足早に教室を出て行く。



「じゃあ、俺も部活に行くわ!!」


「じゃあ。またな。」



 そう言葉を交わすと、カズキは同じ部活の連中と部活に向かったが、何もない俺は一人教室に残ってた。



(暇だな……。

 なんか、やることないかな……)



 俺は誰も居なくなった教室で、またまたぼんやりとしていた。


 すると、俺の後ろから声が聞こえた。



「なんだ?ヤマト、いつまで教室に居るんだ?

 早く帰って勉強でもやれよ」



 その声に振り返ると、そこには先生が立っていた。


 その姿に俺はまた何かぼやかれると思い、カバンを手に取ると教室を出ようと、先生の横を通り過ぎようとしたが…



「さようなら」


「おい、ヤマト」


「なんですか?」



 案の定、嫌な予感は当たるのか、通り過ぎようとしてる俺を先生は急に呼び止めた。


 その事に俺は面倒くさそうな表情で言い返す。


 そんな俺に先生は笑顔で話しかけてした。



「なぁ、ヤマト。お前、高校生活で何か楽しい事があったか?」


「楽しい事ですか?

 ……特にないですね」


「お前なぁ…

 朝やさっきのホームルームでも言ったけど、高校生活はあと一年しかないんだぞ?

 何か一つぐらい思い出に残るような事を作れよ」


「そんな事言われても…

 ああ、去年行った修学旅行は楽しかったですよ」


「そうじゃなくてなぁ…」



 思い出したように言った俺に先生は明らかに呆れたように言い返していたが、たぶん俺にこれ以上言っても無駄だと分かったのか…



「まぁ、いいや。

 とりあえず、今しか出来ない事もあるんだから、少しでも楽しい高校生活を過ごせるようにしろよ」


「はーい。それじゃあ、帰りまーす」



 半ば呆れ気味の先生の言葉に俺は軽い返事を返しながら、先生から逃げるように教室を出て行った。


 そして、校舎も出て、校門の外に出ると、少し解放された気持ちになっていたが、この後にやることがない事には変わりがない…



(とりあえず、街中でも行ってみるか……)



 俺は心の中でそう呟くと暇潰しの為に街中の方に行くことにして、いつものやる気のない歩き方で俺は駅まで歩いて行き、電車に乗って街中に向かった。


 電車を降りて街についた俺はウロウロと駅周辺を歩いていたが、ふと駅の近くにあるデパートの中に入った。


 もちろん、理由なんてなく、ただ何となく入っただけであるから、結局何もやることがなく、デパート内を引き続きウロウロしていただけだった。


 しばらくこの状態が続いていたが、そんな中、突然俺のスマホが鳴った事におもむろにポケットから取り出し画面を見ると、カズキからの着信を知らせていた。


 それを見て、面倒くささがあったが、俺は電話に出た。



「もしもし……」


『あ~、俺だ。

 部活終わったけど、お前今どこに居る?』


「どこって、いつものデパートに居るけど。なんか用か?」


『いや~、面白い情報が手に入ったからお前に真っ先に教えたくてな!

 今からそっちに行くから待ってな!』


「ええ…今からかよ…」



 電話口のカズキに対して、俺はいつものように不愛想な返事を返していた。


 カズキの場合は、大体こんな感じで唐突に連絡が来て、こっちの返事に関係なく予定をぶち込んで来る。


 ただいつもだったら、あまり気が進まない感じで渋々付き合うこともあるが、とりあえず今は文句を言いながらも暇だからちょうど良かったのかもしれない。


 そんな俺の返事を聞くなり、カズキはすぐに電話を切った。



(……別に、電話でも良かったんじゃないか…?)



 電話が切れた後にそんな事に気が付いたが、俺はとりあえずカズキを待つことにした。




 ……それから30分後、カズキがこっちに手を振りながら現れたのだが、妙に輝く笑顔に気色悪い裏声で俺を呼びながら駆け寄ってくる。


「おーい、ヤマト―。待った~?」


「気色ワルッ!なんだよ、その彼女的なノリは!?」


「いやぁ、ただ普通に登場しても面白くないから、思考を変えてみた」


「いや、変える方向間違ってるから…

 そんな事より、電話で言ってた面白い情報ってなんだよ?」


「とりあえず、ゲーセン行こうぜ!!」


「…ああ、分かった」



 俺はすぐに本題を済ましたかったが、カズキは俺の言葉には耳を傾けないで、自分のやりたいことを言ってきた。


 その事に俺は電話の時と同じように返事をして、とりあえずカズキの遊びに付き合うことにし、二人でデパート内にあるゲームセンターに向かった。


 ゲームセンターに着くとカズキは真っ先に最近気に入っている格闘ゲームの席に座り、ネット対戦に熱中していた。


 だけど……



「あ~、また負けた~。なんで毎回勝てないんだよ~!

 こいつら絶対チータ―だろ~!」



 はっきり言うとカズキは弱い…

 基本的にコマンド入力も出来ないし、ガードもしないでパンチとキックの連打のみ。

 そんな初心者から成長しない奴に、負けるほうが難しいと思うのだが……


 そんなカズキの後ろ姿を俺は近くにあった据え置きのベンチに座わり黙って見ていたが、カズキの熱中ぶりを見ていると当分やり続けるだろう……


 俺はおもむろにベンチから立ち上がると、ゲームセンター内をウロウロ歩いていたが、ふっと1台のUFOキャッチャーが目に付いた。



(1回ぐらいやってみようか…)



 いつもだったら全くやる気がしないものだが、今日は珍しく中に入ってた大きめのクマのぬいぐるみに目がいってしまった。



(どーせ、取れないだろうし…。

 というか、逆に取れたらどうしよう……。

 こんなの持って歩けれないよな……)



 そんなことを考えながら、俺は適当にやってみた。すると……



 ーーガタン!


(……とれた…)



 こういう時に限って上手くいってしまう。



 俺はぬいぐるみを取り出し口から取り出すと脇に抱えてカズキの所に戻ったが、カズキはまだ白熱していた。



「くっそ~!!負けた~!!このチーター共が!!」



 負け犬の遠吠えと言うか、ザコキャラの捨て台詞と言うか、そんな言葉を放ちながら、再び100円玉を投入しようしたが、カズキは財布の中を見た後に席から立ちあがると、ブツブツ文句を言いながら俺の方を来て、こっちを見るなり、俺が抱えているクマのぬいぐるみを凝視して、この世の終わりでも見たかのように愕然とした表情でぬいぐるみを指差してきた。



「ヤ、ヤマト。お前、何を持ってるんだ…?」


「クマのぬいぐるみ」


「な、なんでそんなの持ってるんだ…?}


「取れたから」


「そうか、取れたのか……」


「…………」



 勝手に深刻そうな雰囲気の中を醸し出しながら単調的な会話をしていたが、カズキは堪えきれず吹き出したように大爆笑してきた。



「ヤマトくん!

 そんな可愛い物を取ってきて、どうするんですか!?

 抱きながら寝るのか!?」


「うるせー!たまたま取れただけだよ!!」



 からかうカズキの言葉に俺は余計に恥ずかしくなって、顔を赤くしながら言い返していた。


 ただ、そう言ったところで、カズキのからかいは変わることはない。


 そこで、俺は話を変えようとカズキに聞いた。



「そんなことより、電話で言ってた面白い情報ってなんだよ?」


「あーそうだった!

 いや~、ゲームに熱中し過ぎで忘れてた~」


(忘れてたって……)


「まぁ、とりあえず、その話もあるから何か食いに行こうぜ!」


「いや、俺は別に腹は減ってないんだけど…」


「いいからいいから」


「……へいへい、分かったよ」



 いつもながらのカズキのマイペースっぷりに呆れていたが、からかいも済んだし、ようやく本題に入る事が出来るようだから、俺はカズキに付いて行き、デパートの近くにファストフード店の中に入った。


 すると、カズキは本当に腹を減ってたせいか、席に着くなりかなり注文をしていた。


 ただ、その注文量と今のカズキの懐具合は釣り合ってない。


 注文した後に店員から出された伝票を見て、カズキはようやくその事に気付いた。



「あれ?もしかして金足りない!?

 ヤマト~、金貸してよ~」


「注文減らせばいいだろ……」


「やだ~!腹減ったからこれだけ食わないと足りないッス!!」


(ガキか……)



 子供のように駄々をこねるカズキに対して、俺はまた呆れていたが、これもいつもの事だからとりあえず金を貸すことにした。



「分かったよ。足りない分は貸してやるから」


「サンキュー!!」


「ちゃんと返せよ」


「明日には返すから!任せな!」



 俺の言葉にカズキは親指を立てて二ッと笑ってきた。


 カズキはこんな奴だが、借りた物を返さないって事をしたことはないし、ちゃんと恩も返す奴だから俺も安心して貸している。

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