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CASE7『覚悟』

「……それが、私と愛子の出会いよ」


 未来は手に持ったハートのネックレスを握り締めながら、骸骨男に話す。

 不死人との戦いが終わり、騒ぎになる前に二人は骸骨男の家に戻っていた。そこで、未来は暗い表情を浮かべながら骸骨男に愛子との__さっき戦った不死人との出会いを語る。

 話し終えた未来は、今にも泣きそうな顔で口を開いた。


「ねぇ、白骨さん。愛子を__」

「__それは出来ない相談だな」


 未来が言い終える前に、骸骨男はきっぱりと断る。

 骸骨男は頭に被っていたソフト帽を取ると、伽藍堂の目で未来を見つめながら話し始めた。


「不死人になった奴は、二度と人間に戻れない。あとはただ暴れ回る化け物として成長するだけだ」

「で、でも愛子はあの姿になっても私のことを覚えて……ッ!」

「だとしても、だ。どうして不死人になっても意思が残っているのかは知らないが、人間に戻す方法はどこを探してもない。例え、ジョンでもな」


 不死人になった者を人間に戻す方法は、世界中を探してもないとはっきりと言う骸骨男に、未来は悔しげに唇を噛み締める。

 本当は未来も分かっていた。あんな化け物の姿になってしまった愛子を、元に戻すことは出来ないと。

 それでも、未来は諦めたくなかった。大事な親友だからこそ、少しでも可能性があるならそれに縋りたかった。

 だけど、骸骨男は無慈悲にもその可能性を否定する。

 黙り込んでしまった未来に、骸骨男は面倒臭そうにため息を漏らした。


「それで、どうするんだ?」

「どうする、って?」

「嬢ちゃんから受けた依頼は、親友を見つけて欲しいだっただろう? 姿形は変わっているが、嬢ちゃんの親友は見つけ出した」


 未来が骸骨男に依頼した内容は、愛子を見つけて欲しいというもの。不死人になってしまってはいるが、依頼通りに見つけたことになる。

 唖然としている未来が座っているソファの対面にどっかりと座った骸骨男は、足を組みながらカタッと顎骨を鳴らした。


「状況はどうあれ、依頼は依頼だ。金を貰って、契約は終了。そうだろう?」

「金の亡者……ッ!」

「ククッ、亡者ねぇ。言い得て妙だな。亡骸なのは違いねぇからな」


 カタカタを顎骨を鳴らして笑った骸骨男は、ソフト帽を被り直して立ち上がる。


「とにかく、嬢ちゃんとの依頼はこれで終わりだ。ここからは俺個人の仕事__不死人狩りの時間だな」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 愛子を殺すつもりなの!?」


 本来、不死人狩りが骸骨男の主な仕事だ。そして、その不死人こそ……未来の親友、愛子。

 不死人になったからと言って、愛子が親友なことには変わりない。慌てて未来が止めようとすると、骸骨男はホルスターからリボルバーを抜いた。


「あれはもう人間じゃねぇ(・・・・・・)、不死人だ。しかもレッドタグになった、危険な存在……放っておくと、他の人間が殺されるぞ?」

「だ、だけど……」

「それだけじゃねぇ。あの不死人は弱点の太陽の光を浴びても死なない、普通では(・・・・)ありえねぇ奴だ。一応はレッドタグになっているが……危険度はそれ以上だろう」


 そう言って骸骨男はリボルバーのシリンダーを解放すると、込めてあった六つの弾丸を抜く。

 それから、テーブルの引き出しを開けてそこか銀色の弾丸(・・・・・)を取り出した。


「いつも使ってる不死人用の弾丸でも、あれは殺せねぇ。このとあるお偉い司教が作った、特別性の銀の弾丸を使わないとならねぇぐらいだ。かなり値段が張る代物だが……まぁ仕方ねぇよな」

「待って……待ってよ!」


 特別性の銀の弾丸をシリンダーに装填していく骸骨男に、未来は怒鳴り声を上げながら立ち上がる。

 そして、未来は骸骨男に詰め寄ると、トレンチコートを掴んで涙を流しながら睨みつけた。


「な、何か方法があるはず! 愛子を不死人にした、あのガスマスクの奴を捕まえて聞き出せば……」

「淡い希望は抱かない方がいいぞ」


 必死に懇願する未来に、骸骨男は首を横に振る。


「ガスマスクの男が人工的に不死人を作り出しているのは、間違いねぇ。だが、ああ言った手合いは作ることが目的(・・・・・・・)だ。作った不死人をわざわざ人間に戻すような研究はしてねぇだろうよ」

「で、でも、もしかしたら……」

「もしかしたら、なんていう不確かな希望で罪のない人間が死んでもいいってのか、嬢ちゃん?」


 低い声で問いかける骸骨男に、未来はグッと押し黙った。

 骸骨男はトレンチコートを掴んでいる未来の手を握り、ゆっくりと離させながら話を続ける。


「もしかしたら、元に戻す方法があるかもしれねぇ。もしかしたら、ガスマスクの男がそれを握ってるかもしれねぇ……そんなIFの話を信じて止まる訳にはいかねぇんだよ」


 そう言って骸骨男は未来に背を向けた。


「俺は今起きている現実(・・)しか見ねぇ。実際にレッドタグ以上の化け物が現れている。別に誰かを助けようだとか、罪のない人間が死ぬのは許せねぇとか__そんな正義感は抱いてねぇ」


 骸骨男はソフト帽を目深に被り、手に持っていたリボルバーを見つめる。


「だが、不死人が表で暴れると、仕事がしづらくなる。俺の仕事は不死人狩りだ、それが出来ねぇと生活出来ねぇ。だから、俺は__あの不死人が他の人間を巻き込む前に、片を付ける」


 ホルスターにリボルバーを仕舞った骸骨男は、扉のノブに手をかけた。


「嬢ちゃんがこれからどうするのかは知らねぇが、裏の世界に足を踏み入れちまったんだ……覚悟(・・)は決めておけ。どっちに転んだとしても、後悔しないようにな」


 そう言い残して、骸骨男は部屋から出ていく。

 その背中をただ見送ることしか出来なかった未来は、がっくりと膝を着いた。

 ポタポタと床に涙が落ちていく。どうすることも出来ない無力さと、骸骨男の言葉を否定出来なかった悔しさに、涙が止まらない。


「覚悟って言われても、どうしていいのか分からないわよ……ッ!」


 まだ高校生の未来には、裏の世界に足を踏み入れる覚悟が足りなかった。


 その覚悟とは__愛子がいなくなるかもしれないことへの覚悟。


 平穏無事に愛子が助かることはありえない。それが、現実だった。

 未来の頭の中で、骸骨男の言葉が反響していく。


 __どっちに転んだとしても、後悔しないようにな。


 その言葉に、未来は手に持っていたハートのネックレスに目を向けた。


「愛子……」


 自分が助け、助けられた一番の親友、愛子。

 その愛子が今は、不死人になって人を襲うかもしれない。


「それだけは、させたくない……ッ!」


 未来はギリッと歯を鳴らし、手にしていたハートのネックレスを力強く握りしめた。

 そして、未来は腕で涙を拭って立ち上がる。


「__私が愛子を、救ってみせる(・・・・・・)


 覚悟を決めた未来がそう呟くと、外からバイクのエンジン音が遠ざかっていくのが聞こえた。

 骸骨男がバイクに乗って、不死人になった愛子を探しに行ったんだろう。

 未来はドアを開け放ち、走り出した。


 向かう先は骸骨男のところ……ではない。


 雑居ビルから飛び出し、骸骨男が向かっただろう方向とは逆方向に走る。

 呼吸を荒くさせ、汗だくになりながら路地裏を駆け抜けていく。

 そして、目的の場所にたどり着いた未来は、扉を勢いよく開け放った。


「おっと、驚いたな。いらっしゃい、未来ちゃん。スカルヘッドはどうしたんだ?」


 未来が向かっていたのは<NO NAME>。

 その店主のジョンは勢いよく入ってきた未来に驚きつつも、笑顔で出迎えた。

 だが、未来は何も答えずにズンズンとカウンターに近寄ると、バンッと力強くカウンターに手を置く。

 

「み、未来ちゃん?」

「__買い物がしたいの」


 様子のおかしい未来に戸惑っていたジョンに、未来はボソッと答える。

 そして、顔を上げた未来は真剣な表情ではっきりと言い放った。


「買い物がしたい! 情報と、私が言う物を用意して欲しいの! お代は情報と__私の魂!」


 そう言って未来はカウンターに自分の魂とも言える、デジタルカメラを置く。

 ジャーナリスト志望の未来にとって、カメラは命と同じぐらい大事な物だ。

 その魂とも言えるカメラと、自身が持つ情報を代価に買い物がしたいと言う未来に、ジョンは呆気に取られる。


 だが、すぐにジョンはニヤリと楽しそうに笑みを深めた。


「未来ちゃん、言っただろう? 俺は未来ちゃんを気に入ってるんだ。その未来ちゃんが、そこまでして買い物がしたいって言うんだ……その覚悟(・・)、しかと受け止めたぜ」


 ジョンは姿勢を整え、口角を上げる。


「__いらっしゃい、<NO NAME>へ。ご注文をどうぞ、お客様?」


 未来を一人の客として認めたジョン。未来はゆっくりと深呼吸してから、注文を話した。


「私から差し出す情報は、普通ではありえない不死人について。求めるのは詳細な不死人の情報。そして__私でも扱える、銃が欲しい(・・・・・)


 覚悟を決めた未来は、愛子を救うために行動を開始した。




  

さぁ、そろそろクライマックスですよー!

よろしければ、最後までお付き合い下さい!


『漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらな戦争に音楽を〜』

も、よければお読み下さいな!


ではでは。

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