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CASE6『親友で恩人』

 早川未来にとって日向愛子は親友で__恩人(・・)だ。


 未来と愛子の出会いは、高校一年生の時。

 愛子は整った顔立ちに綺麗な長い黒髪。スタイルもよく、大人しい愛子はまさに大和撫子だった。

 だけど、大人しい性格で読書ばかりしている愛子は、誰とも仲良くすることなく一人で過ごしていた。

 愛子の整った容姿に女子たちは嫉妬し、疎まれていたことも要因で、一人も友達がいない愛子。それでも、愛子は特に気にしてなかった。

 

 そんなある時、事件が起きた。


 一年なのにサッカー部のレギュラーになった他校の男子が、愛子に告白した。

 顔立ちもよく、他校の生徒なのにこの学校の女子から人気があった男子だったけど、愛子はその告白を断った……それが、事件の始まりだ。

 その男子はフラれた腹いせに、周りに愛子の悪口や根も葉もない悪い噂を流すようになった。

 そして、女子の人気が高かったその男子をフったことに加えて、流れている噂から女子は愛子をイジメ始めたのだ。

 靴を隠す、読んでいた本を破く、陰口や仲間外れにするなど……陰湿なイジメを愛子は受けていた。

 愛子はそれでも誰にも言わずに耐えていたが、それが気に食わないのか女子からのイジメはエスカレートしていき、精神的なものから身体的なイジメになっていく。


「あんた、生意気なのよ!」


 女子トイレで、愛子は数人の女子に囲まれていた。腹部を殴られ、うずくまっている愛子に女子たちは罵声を浴びせている光景。

 そして、一人の女子が水の入ったバケツをうずくまっている愛子に被せた。濡れ鼠になった愛子を女子たちはゲラゲラと笑っている。

 それでも、愛子は何も言わずに黙って耐え続けていた。すると、率先してイジメていた女子が、何も言わない愛子が気に食わないのか、舌打ちする。


「……何か言いなよ。気色悪い」


 そう吐き捨てた女子が足を振り上げ、愛子を蹴ろうとした__その時、パシャリとシャッター音が女子トイレに響く。

 音に気付いた女子たちが慌てて振り返ると、そこにはデジカメを構えた未来の姿。


「みぃちゃった。バッチリ、証拠は抑えたから」

「あ、あんた何撮ってんのよ!?」


 イジメの現場を撮られた女子は急いで未来のデジカメを奪い取ろうとすると、未来はスッと避けて襲ってきた女子に足をかける。

 そのまま床に倒れた女子を見下しながら、未来は女子たちに言い放った。


「あんたたち、やりすぎよ。無抵抗の女子をそんな大人数でイジメて、楽しいの?」

「アンタには関係ないでしょ!? いいからそのカメラ渡しなさいよ!」

「嫌よ。それに、今回以外にもあんたたちがその子にしてきたことは全部カメラに抑えてるわ。データは家のパソコンに保存してるから、このカメラを奪っても無意味よ」


 それを聞いた女子たちはどんどん表情を青ざめていく。自分たちがしてきた罪の重さを今更になって自覚した女子たちは、未来に黙ってて欲しいと懇願する。

 だけど、未来は鼻で笑って「断る」とはっきりと答えた。


「あんたたちがしたことは、全て先生に報告する。これからどうなるかは……先生たちの判断に任せるわ。覚悟しなさい」

「そ、そんな……なんで……」

「__ビビるぐらいなら、イジメなんてしてんじゃないわよ!」


 未来の怒鳴り声に女子たちはビクリと肩を震わせ、怯え始める。未来は「情けない。いいからもうどっか行きなさい」と言うと、女子たちは蜘蛛の子を散らすように女子トイレから逃げて行った。

 いなくなったことを確認してから、未来は唖然としている愛子に声をかける。


「大丈夫?」

「え……あ、ありが……」

「あいつらがやったことは許せないけど、あんたもあんたよ? ただ黙ってるだけじゃ、何も終わらないし始まらないわ」


 お礼を言おうとした愛子に、未来は手を差し伸べながら言い放つ。

 愛子も分かっていたのか、黙って話を聞いていた。


「根も葉もない嘘の噂が流れていることが、私の主義に反するから今回あんたを助けたわ。でもね、本当ならあんた自身がどうにかしないといけないことよ?」

「……うん、そうだよね」

「分かってるならいいわ。とりあえず、あいつらとあんたにフラれた男子についての情報は全て集めてる。イジメていた証拠、あの男子の今までしてきたこと……探れば探るほど、色んな情報が出てきたわ。その全てを先生に報告するから、あんたがイジメられることはもうないと思うわ」


 たった一人で女子たちと噂を流していた男子の情報を集めた未来に、愛子は呆気に取られていた。

 未来はそれだけ言うと女子トイレから去っていく。その背中を、愛子はただジッと見つめることしか出来なかった。


 そして、次の日。未来の情報は提出された。

 未来が手に入れていた情報によると、その男子は裏では悪いことを多くしていたようだ。

 サッカー部のレギュラーになるために悪い噂を流してレギュラーだった先輩を陥れたり、何人の女子と関係を持って泣かしていたらしい。

 他にもカツアゲや暴力事件、タバコもしていたことなど……全てを暴かれた男子とイジメをしていた女子たちに処分が下される__はずだった。


「なんでですか!? 証拠は提出したはずです!」


 未来の怒鳴り声が職員室に響く。

 怒りの矛先を向けられていた男性教師は、面倒臭そうにため息を吐いた。


「たしかに証拠はあるけどなぁ……お前一人が集めたにしては、詳し過ぎないか? 本当なのか?」

「本当ですよ! 渡した証拠が全てです!」

「だがなぁ……」


 未来が提出した証拠を疑う男性教師。だが、その情報は間違いなく事実だった。だけど、男性教師の反応は悪い。

 その理由は__事の発端である男子生徒が、他校(・・)の生徒ということ。

 それに加え、その男子生徒は裏では色々していたが表向きは周りの評判がよく、サッカーの才能もあって、将来プロになれるほどの逸材のようだ。

 他校からするとこの事件を大事にしたくない、出来るなら揉み消したい頭のようで、それを聞いた男性教師もそうするつもりだった。


「そもそも、本当にイジメがあったことすら疑わしいなぁ。イジメられた本人は何も言わないし、でっち上げじゃないのか?」

「そんな……ッ!」


 イジメについても疑い始めた男性教師に、未来は愕然とする。証拠は出揃っているのに、男性教師はこれすらももみ消そうとしてきた。

 未来は歯を食いしばりながら、拳を握りしめる。

 悪を許さず、正義を持って真実を報道する。それが未来のポリシーなのに、それすらも許されないことに……未来は悔しくて仕方がなかった。


「とにかく、このことは先生たちに任せて、お前はこの件から手を引きなさい。話は以じょ……」

「__待って、下さい」


 何も言わなくなった未来に男性教師は話を強引に終わらせ、事実の隠蔽をしようとした時__職員室に愛子が入ってきた。

 愛子は未来の隣に立つと、深呼吸してから意を決したように口を開く。


「この子の言ってることは、全部真実です! 私はずっと、イジメられていました!」


 今まで何も言わずに耐え続けていた愛子が、勇気を振り絞って真実を打ち明けたことに未来は目を丸くして驚いていた。

 男性教師も驚いていたが、すぐに面倒臭そうに後頭部を掻く。


「まさか、二人でグルになってるんじゃ……」

「いいえ! たしかに私はイジメられていました。でも、怖くて何も言えなかったんです……でも、ただ黙ってるだけじゃ何も終わらないし、始まらない。そう、教えて貰いました」


 未来の一言が、愛子に勇気を与えた。

 愛子は今にも泣きそうな目を男性教師に向けながら、はっきりと言い放つ。


「もう一度言います。この子の言ってることは、全て正しいです。もし、信じて貰えないなら……校長先生に直訴します」

「なッ!?」


 愛子の言葉に男性教師は焦り始めた。今回のことをもみ消そうとしているのは、この男性教師の独断だ。

 それを校長先生に知られたら、自分まで巻き込まれる。それは避けたいのか、男性教師はさっきとは打って変わって引きつった笑みを浮かべて、頷いた。


「わ、分かった。信じよう。私の方から校長に報告し、イジメていた女子生徒の処分を下す。他校の生徒に関しても、提出された証拠を元に話をしよう」

「ありがとう、ございます」


 これで、未来の証拠は正式に受理された。

 二人が職員室から出ると、未来が愛子に声をかける。


「……ありがと。あんたが勇気を振り絞ってくれたおかげで、助かったわ」

「ううん、いいの。そもそも、最初に助けられたのは、私の方だから」


 愛子は優しく微笑むと、未来に向かって手を差し伸べた。


「ねぇ、一つお願いがあるの……私と、友達になってくれませんか?」


 未来は目をパチクリさせると、口角を上げて差し伸べられた手を握りしめる。


「いいわよ。あんた、意外と見所あるし。よろしくね」


 しっかりと握手した二人は、示し合わせたように小さく笑みをこぼした。


「私、早川未来。報道部よ」

「私は日向愛子……って、知ってると思うけど」

「当然よ。これでもジャーナリスト志望だから、あんたの情報もちゃんと抑えてるわ。スリーサイズもね」

「えぇ!? そ、それはやめてよ!?」


 こうして、二人は友達になり__それから、親友になった。

 余談だが、他校の男子生徒は退学処分、イジメていた女子生徒たちは停学処分になり、今回の事件は解決する。

 親友にして、恩人。それが、未来と愛子の関係だった。

 

 



長らくお待たせしました!!

今日から更新再開します!


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