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CASE5『衝撃の事実』

 骸骨男は引き金を引き、銃弾を放つ。一直線に向かっていく銃弾を、不死人は丸太のように太く大きな異形の右腕を振り回し、弾き返した。

 通常のよりも大きいリボルバーの銃弾でも、不死人の異形の右腕を貫通することが出来ない。それでも、骸骨男は二発、三発と連続で引き金を引く。


「キャアァァァァァァァッ!」


 耳をつんざく高周波のような甲高い悲鳴を上げた不死人は、その巨体からは考えられないほど俊敏な動きで銃弾を避け、そのまま天井ギリギリまで跳び上がった。

 そして、右腕を骸骨男に向かって振り下ろす。


「おっと、危ねぇ」


 骸骨男は振り下ろされた右腕を軽々避けると、不死人は地面に向かって右拳を打ち下ろした。

 その瞬間、爆音と共に床が砕け、地震のようにビリビリと廃ビル全体が振動する。


「うひゃあ!? ちょ、ちょっと白骨さん!? 大丈夫なの!?」


 物陰に隠れていた未来は音と振動にペタンと尻餅を着きながら、骸骨男に向かって叫ぶ。

 だけど、未来の心配を聞いた骸骨男は余裕そうに肩を竦めた。


「安心しな、嬢ちゃん。こんな大振り、俺には当たらねぇよ。まぁ、当たれば一撃で骨が砕けるだろうがな」


 ズレたソフト帽を被り直してから、骸骨男はリボルバーを構える。


「嬢ちゃんは巻き込まれないように隠れてな」

「そうする! あとは任せたわ!」


 未来はそそくさと物陰に隠れると、骸骨男はカタカタと顎骨を鳴らしてから呆れたようにため息を吐いた。


「ったく、素直な嬢ちゃんだ。さて……それにしても、厄介な腕だ」


 骸骨男は改めて不死人を観察する。

 不死人の異形と化した右腕は太く、頑丈。自慢のリボルバーでも撃ち抜けないほど、その右腕の筋肉量は高密度に圧縮されていた。

 不死人の右腕は強固な盾にして、矛。今の一撃をまともに喰らえば、常人なら一発で死ぬのは間違いない。


「まぁ、俺は死なねぇ(・・・・)けどな」


 カタ、と骨を鳴らして笑った骸骨男は、引き金を引く。

 響き渡った銃声は一発。だけど、放たれたのは三発の銃弾。骸骨男は一瞬にして三回引き金を引いて見せた。

 放たれた弾丸は不死人の右腕__ではなく、胴体。撃ち抜けない右腕を狙うのは無意味と思っての判断だ。

 だけど、不死人は即座に右腕を盾にして銃弾を防ぐ。


「そうくると思ったぜ__ッ!」


 すると、骸骨男は全ての銃弾を放ち終えてすぐ、動き出していた。

 素早い動きでリボルバーのシリンダーを横に開放させると、そこから六つの空薬莢を床に落とす。同時にトレンチコートのポケットからスピードローダー__一回でリボルバーの弾丸全てを装填する道具__を取り出し、シリンダーに突っ込んだ。

 一回で六発の弾丸を装填した骸骨男は役目を果たしたスピードローターを適当に投げ、シリンダーを戻して銃口を右腕を盾のように構えた不死人に向ける。

 そして、引き金を引いて発砲した。


 この間、一秒。まさに神業と言える早撃ちをやってのけた骸骨男が狙ったのは、不死人の足だ。


「__キャアッ!?」


 放たれた銃弾は不死人の右足を撃ち抜き、短い悲鳴と共に不死人は横に倒れ込む。

 骸骨男は不死人の弱点を見抜いていた。それは、足。

 太く大きな右腕を盾にされれば、胴体は狙えない。でも、例え大きくても右腕が守れるのは頭と胴体、太ももまでだった。

 骸骨男は守り切れていない足__膝から下のふくらはぎを的確に狙い、撃ち抜く。

 結果、骸骨男の狙い通り不死人は地面に倒れている。


「寝るにはまだ早いぞ?」


 そんな大きな隙を、骸骨男が逃すはずがない。

 骸骨男は倒れている不死人の頭を狙い、一気に三発の銃弾を撃ち放った。


「__キャアッ!」


 野生の勘か、本能か。

 不死人は倒れたまま右腕を振り回し、どうにか銃弾を防ぐ。それでも、全てを防ぐことが出来ずに右肩を撃ち抜かれた。


「ギッ……グルル……ッ!」


 どうにか立ち上がった不死人だが、骸骨男の放った銃弾によって右肩__その関節に風穴が空き、だらりと右腕が垂れ下がっている。

 これでは自慢の右腕を動かすことは出来ないだろう。


「__チェックだ」


 骸骨男は冷徹な声で呟き、リボルバーを構える。

 あとは不死人の頭を撃ち抜けば、戦いは終わる。骸骨男はそう考えていた。


 だが__そう簡単に終わるほど、不死人は甘くない。


「__キャアァァァァァァァッ!」


 不死人は空気をビリビリと震わせながら甲高い雄叫びを上げると、撃ち抜かれていた右たかの関節からまるで逆再生されたかのように、元の形に戻っていく。

 そして、一瞬の内に風穴は塞がり、不死人は右腕を動かし始めた。


「ちっ……再生速度が通常のよりも早いな」


 その再生速度は予想外だった骸骨男は悪態を吐きつつ引き金に指をかける。

 そのまま引き金を引こうとして、動きを止めた。


「おいおいおい、嘘だろ……」


 骸骨男は面倒臭そうにため息混じりに呟く。

 不死人はブルブルと体を震わせ始めると、右腕の形が変化していった。

 大きさと太さは変わらずに、拳が鋭く尖っていく。メキメキと音を立てながら右腕は太い丸太のような異形から、鋭く分厚い大剣のように姿を変えた。

 それだけではない。次は左腕が骨と筋肉がへし折れ、潰れていき、嫌な音を立てていく。


 そして、不死人の左腕は先ほどの右腕と同じく、丸太のように太く大きな異形へと変貌していった。


 右腕は剣、左腕は盾。大きな体格と相まって、その姿は巨人の騎士にも見えなくもない。

 不死人は三日月のように口角が裂けそうなほど引き上げて笑うと、左腕を盾にするように前に向けてから、一気に走り出した。


「ちぃ! 面倒だ!」


 骸骨男は悪態を吐くとその場から飛び込みながら離れる。

 そして、大剣と化した右腕が地面を叩き割り、地響きが広がっていった。

 飛び込んだ骸骨男は綺麗に前転し、片膝を着きながらリボルバーを構えて引き金を引く。

 全ての銃弾を一気に撃ち放ったが、不死人は左腕の盾を振り回して防いだ。


「ちぃ!」


 面倒臭そうに骸骨男はシリンダーから空薬莢を地面に落とし、素早くスピードローダーで装填してからまた発砲する。

 すると、不死人は左腕の盾で自身を守りながら、放たれた銃弾を無視して骸骨男に向かって突撃した。


「おいおいおい、少しは怯めよ」


 突撃してくる不死人を地面を転がることで避けた骸骨男は、やれやれとため息を漏らす。

 そしてまたリボルバーを構えて引き金を引こうとして、やめた。


「今のあいつに銃弾は効かねぇな……」


 強固な守りは撃ち抜けないと判断した骸骨男は、周囲をキョロキョロと見渡し始める。

 ゴミや廃材が打ち捨てられた広い空間、今にも折れそうなボロボロの柱、穴が空いた天井。

 それらを確認してから、骸骨男は思考を巡らせた。


「__キャアァァァァァァァァァァッ!」

「ちっ。少しは考える時間をくれよ」


 だが、大剣と化した右腕が襲ってきて、思考を中断させられる。

 ブンブン、と轟音を響かせながら振り回してくる大剣をギリギリで避けながら、骸骨男は不死人から距離を取った。


「ねぇ! ねぇ、白骨さん! 本当に大丈夫なの!?」


 そこで、未来は物陰に隠れながら骸骨男に向かって叫ぶ。

 必死に、心配そうに叫ぶ未来に、骸骨男は返事もしないで不死人の攻撃を避け続けた。

 反応しない骸骨男に地団駄を踏んだ未来は、また叫んだ。


「ねぇってば!」

「やかましい嬢ちゃんだ」


 あまりのしつこさに骸骨男はため息を漏らしながら、引き金を引く。だが、放たれた銃弾は不死人ではなく、天井に着弾した。

 不死人から離れた骸骨男は、未来の方に顔を向ける。


「黙って見てろ」

「でも! 銃は効いてないし、外してるし!」

「嬢ちゃん、いいことを教えてやろう」


 不安そうにしている未来に、骸骨男はカタッと顎骨を鳴らしてリボルバーを天井に向けて、言い放った。


「__銃ってのは、何も敵に当てるだけの武器じゃねぇ」

「じゃあどうやって勝つのよ!?」

「言っただろ? 黙って見てろ。こんな状況、俺には不利でもなんでもない。銃が効かねぇなら……」


 そして、骸骨男は引き金に指を置いた。


「__別のやり方をするだけさ」


 引き金を引き、銃口から銃弾が撃ち放たれる。

 一度の銃声が響くと、骸骨男は一瞬でシリンダーに残っていた銃弾を全て撃っていた。

 放たれた銃弾は不死人の頭上__天井に着弾する。

 すると、天井にヒビが走り抜けていった。


「これはオマケだ」


 そう言うと骸骨男は空薬莢を落とし、スピードローダーで即座に装填すると次にボロボロの柱に向かって引き金を引く。

 撃ち抜かれ、風穴が空いた柱がビキビキと音を立てながら崩れていき__天井のヒビがさらに広がっていった。


「__キャアッ!?」


 骸骨男が何をしようとしているのか察し、天井を見上げる不死人。だが、気付くのが遅かった。

 ヒビが入った天井からガラッと破片が落ち、どんどん崩れていく。


「__押し潰されろ」


 骸骨男の言葉と共に、とうとう天井が一気に崩れ落ちた。

 ガラガラと落ちてくる瓦礫に不死人は飲み込まれ、砂煙が巻き起こる。


「ちょ、ちょっとぉぉぉ!?」


 すると、未来が隠れていた頭上の天井も崩れ始め、未来は頭を抱えながらしゃがみ込んでいた。

 骸骨男は素早い動きで未来を肩で担ぎ、そのまま廃ビルの外へと走り抜ける。

 落ちてくる瓦礫を華麗に躱し、亀裂が走った床を飛び越えた骸骨男は、未来と一緒に廃ビルから逃げ出すことに成功した。

 担いでいた未来を下ろすと、同時に廃ビル全体が倒壊し、瓦礫の山になっていく。

 それを見た未来は唖然と瓦礫の山を見つめ、骸骨男はカタッと顎骨を鳴らした。


「どうよ、嬢ちゃん。これが、俺のやり方だ」

「……やり過ぎよ」


 自慢げに言ってくる骸骨男に、未来は呆れたように首を横に振る。

 だけど、これで瓦礫に押し潰された不死人は抜け出すことが出来ないだろう。廃ビルから出れば、太陽の下……不死人の弱点に自ら出てくることになる。

 これでチェックメイト。二人はそう思っていた。


 __瓦礫の山が、震え始めるのを見るまでは。


「……嘘だろ?」


 骸骨男は信じられないとばかりに口を開く。

 そして、瓦礫の山から大剣と化した右腕が勢いよく突き出てきた。


「__キャアァァァァァァァァァァッ!」


 甲高い悲鳴のような雄叫びが響き渡ると、瓦礫の山に押し潰されていた不死人が顔を出す。

 瓦礫の山を吹き飛ばし、その巨体を太陽の下に晒した不死人は__気にした様子もなく、恨めしげに骸骨男を睨んでいた。


「不死人が、太陽の下に出られるだと? そんな事例、聞いたことがない」


 骸骨男が茫然としながら呟く。だが、実際に不死人は太陽の下に出てきた。

 通常の不死人は太陽を嫌う。その理由は__太陽の光を浴びると、体が灰になるからだ。


「……こいつ、なんだ?」


 気持ちを切り替えた骸骨男は、リボルバーを不死人に向ける。通常とは明らかに違う不死人だが、討伐する相手には変わりない。

 警戒しつつ、いつでも撃てる態勢になっていた骸骨男に対して……不死人は自身の体を抱きしめるように両腕を組んだ。


「__キャアァァァァァァァアァァァッ!」


 ビリビリと空気を震わせる雄叫び。すると、不死人の体からメキメキと嫌な音が聞こえ始める。

 ただでさえ大きな体が、一回り二回りと肥大化していく。まだ人間の形を残していた顔は化け物のように変貌していき、新たな腕が二本、背中を突き破るように生え出てきた。


「__レッドタッグになりやがった」


 レッドタッグ。不死人の三段階目で、昔ある街を一つ滅ぼしたとされる、危険な存在。

 目の前にいる不死人は、その三段階目に姿を変えていた。

 表情が青ざめた未来は、不安げに骸骨男のトレンチコートをギュッと掴む。


「ほ、本当に大丈夫なの?」

「……前言撤回だ。これは、かなりヤバい。今の装備じゃあ、太刀打ち出来ねぇな」

「ど、どうするの!? あれが街で暴れたら……ッ!」


 二人が会話していると、不死人は爆音を響かせながら空高く跳び上がる。

 四本になった腕を振り上げ、二人に向かって振り下ろそうとしてくる不死人に、骸骨男は未来を担いでそこから離れた。

 そして、四本の腕が地面に着弾する。


「きゃあぁぁッ!?」

「くっ! しまった!?」


 轟音と共に地面を揺らす衝撃に、骸骨男は未来を落としてしまった。

 地面に倒れた未来が痛みに顔をしかめながら起き上がろうとすると……。


「__ひっ!?」


 倒れている未来の目の前に、不死人が立っていた。

 見下ろしてくる不死人に恐怖した未来は、足が震えて逃げることが出来ずにいる。

 すると、不死人は未来を襲う__ことはせず、ゆっくりと膝を曲げてしゃがみ込み始めた。

 

「な、何? なんなの?」


 襲われると思っていた未来はガタガタと震えながら後ずさる。

 そして、不死人は怪物と化した顔を未来に近づけると、目を合わせた。


「__ミ、ラ……イ……」


 未来の顔を見つめた不死人が、未来の名前を辿々しく呟く。

 すると、未来は目を見開き、ワナワナと口を開いた。


「あなた、もしかして……」


 未来は震える手を、不死人の顔へと近づけていく。

 手が触れる瞬間__銃声が響き渡り、不死人は腕で防御した。

 その時、チャラッと不死人の体から、未来の前に何かが落ちる。


「嬢ちゃん、逃げろ!」


 骸骨男はそう叫ぶと、また引き金を引いた。撃ち放たれた銃弾は不死人の腕に当たり、硬い音と共に地面に落下していく。

 不死人はギリッと鋭く尖った牙を食いしばると、跳び上がって未来から距離を取った。

 そして、不死人は骸骨男と__未来をチラッと見てから、逃げるようにどこかへと跳び去っていく。


「……逃げた、か」


 骸骨男は逃げた不死人を追わず、やれやれとため息を漏らしながらリボルバーをホルスターに仕舞った。


「嬢ちゃん、怪我はないか?」


 茫然とへたり込んでいる未来に声をかけた骸骨男だったが、未来は黙り込んでいる。

 様子のおかしい未来に首を傾げた骸骨男は、また声をかけた。


「おい、嬢ちゃ……」

「そんな……嘘でしょ……」


 未来は不死人が落とした物を拾い上げると、頬に涙が流れる。

 そして、未来は骸骨男に目を向け、口を開いた。


「今の不死人__愛子(・・)だった」


 手に持っていたのは、ハートのネックレス。


 不死人が落としたそのネックレスは__未来が探している、愛子の物だった。



 


お読み頂きありがとうございました!


先週は投稿出来ず申し訳ないです!

たまに休みますが、必ず完結まで書ききるので、それまでお付き合い下さい!


異世界×ロックバンドの転移もの作品、『漂流ロックバンドの異世界ライブ!〜このくだらない戦争に音楽を〜』も、よろしければお読み頂けると嬉しいです!


ではでは〜。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ききき、気になる展開!!!! [一言] 敵強いうえに倒すわけにもいかなくなりましたね。 先が気になりますわー!
2020/08/21 20:57 退会済み
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