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ワールド・ブラインド   作者: 宝の飴
第二章 新世界開眼
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第四十八話 明るい、憂鬱

 同刻、前線基地――

 ユーリアがラヴィと合流したのと時を同じくして、廉太郎れんたろうは一人、医務室で静かに座っていた。目を閉じて寝息をたてるクリスの顔を、そうしてずっと眺めている。

 直視もできないような、全身の怪我。それに応急処置を施したのち、セーフハウスで合流した女性職員と共に再び馬車に乗せられて、昼のうちにこの安全な基地へと引き上げている。

 そこで本格的な治療を受けた後、クリスは夜まで眠り続けた。

 そして日付も変わるころ、つまりちょうど夜更かしとなる時分。


「……ん」


 自然と、クリスが目を覚ます。休む直前と変わらず、傍に居座り続ける廉太郎の姿を目にするなり、辟易した声を漏らした。


「その、じっと見られてると怖いんですけど」

「いいだろ、ここにいても」


 迷惑そうな露骨な視線。それを受け入た上で、廉太郎としてもそれは譲れないところであった。


「鬱陶しい……せっかく、離れられるようになったというのに」


 そう――

 もう、離れるだけでクリスを苦しめることにはならないのだ。

 これまでお互いの間にあった距離的な制限は、イレギュラーな接続のせいで起こった不具合だ。それが、今回の件では一度接続を解除されている。その上で再接続を果たしたことにより、クリスへの魔力供給が滞りなく行えるようになったのだった。

 結果、お互いの自由度が増し、クリスにかけられた枷が一つ外れた。


「――え、もう一緒に寝てくれないのか?」


 もちろん喜ばしいことではあるが、いざ傍に寄るなと言われてしまうと、寂しい気持ちにもなってしまう。


「気持ち悪いですね……子どもだからって、何してもいいと思ってませんか?」

「心外だなぁ」


 単に、また一人で眠るのかと思うと憂鬱になるだけ。

 果たして、自分は元の世界に帰れるのか――夜に一人でいると、そんな考えが押し寄せてきて眠れなくなる。周りに人がいる日中はどうにか忘れられている不安が顔をだして、心がざわめき立つ。

 そしてそれは、日が経つたびに強くなる。

 一度眠ろうと今夜横になったとき、それを実感してしまった。

 クリスが傍にいた――それだけのことで、このところの三夜を心安らかに過ごせていたのだと、今更ながらに思い知っていた。


「今日だけだよ」


 横になったままの頭をそっと撫でる。包帯や負傷で、クリスは抵抗もできなかった。頬に触れ、髪をどかして、額の汗を布で拭った。「扱い、犬猫みたいになってませんかね」表情と言葉だけで、クリスはそう不平を尖らせる。


「クリス」


 その気持ちの名前に、廉太郎は心当たりがなかった。


「お前のために俺ができることって、なに?」


 罪悪感、哀れみ、保護欲、父性――そのすべてに当て嵌まるのかもしれないし、まったくの的外れであるのかもしれない。


「何をしなくちゃいけないと思う?」


 怪我を負わせた償いを、人生に巻き込む責任を。どういうかたちで取るべきなのか。 

 この先の生き方、少なくともどちらかが死ぬまでは傍にいなければならない二人の生き方。それについて、もう少しちゃんと考えるべきだし、話し合うべきだとも思う。

 今日の件で、そう痛感させられる。

 それまで分かっていたつもりで、何も真剣に考えてはいなかったから。


「別に」


 つまらなそうにクリスは答えた。 


「私を重荷に感じる必要も、気を使う必要もないですから……そういうの好きじゃないんで」


 そう言いだすクリスの気持ちが、なんとなく廉太郎は理解できる。

 ――気を使わせてしまうのを、悪いと思ってしまうのだ。もっと言えば、嫌なのだろう。

 全部が全部とは言わないが、どこか自分と似ているところがあるのかもしれない。普段の様子からは遠い印象だが、廉太郎は少しだけそう思った。


「いやなんていうか……もっと違くて」


 それでもどこか、クリスの言い分は寂しい話だとも思う。

 クリスの存在を重荷だなどと。そう思っているだなんて、できれば考えてほしくない。


「お前と、ちょっと仲良くなりたいと思うだけだよ」

「んー、無理ですね」


 にやりと意地の悪い顔で答えたクリスに、同じような顔で曖昧に返していた。

 クリスとの関係を、一体、何と呼べばいいのだろう。

 友達ではありえない。おそらく、一生そう思うことはできない。

 一生負い目を、後ろめたさを覚え続ける。

 一人の人間に――本人はそれさえ否定しているけれど――ずっと傍にいることを強いるのだ。

 クリスはそれを『重荷に感じる必要はない』と言ってくれるが、それは無理な話だ。

 特に、廉太郎のような人間には。


「というか……はっきり言いますけど私、廉太郎のことそんなに好きじゃないですからね」

「えっ……ど、どのあたりが――」

「人間性がつまらないところ」

「お前――」


 その告白にも指摘にも、思いのほか動揺させられてしまう。そのせいで、静寂な部屋に響くくらいの声が上がってしまった。


「泣いてくれたろうが……俺が動けなくなったとき!」

「そ、それは悪いと思っただけで――」


 なぜか呼応するように、クリスの口も早く回った。目を泳がせ、「――で、あれ……『ロゼ』さんは?」と話をそらす始末。

 そらされればそれに従うのが常なので、「今はいないよ」と答えてやる。

 魂の中に誰もが持つ自我、その一部。

 『ロゼ』の正体は今やそれだ。ロゼの魂から廉太郎の魂へと、居所を変えるように引っ越してしまった存在。

 操る肉体はなく、廉太郎の意識の中にのみ現れる、思念体のような存在。


「俺の表の意識に現れ続けるのは、疲れるんだってさ」


 消えたわけではなく、無意識の奥に引っ込んでいる。姿も見えず声も聞こえないが、眠りに堕ちればそこでまた会えるずだ。


「へぇ。出たり引っ込んだり、なんだか背後霊みたいですね」


 その言葉に、唐突に。

 ぞくりと――


「……本人には言うなよ」


 背筋に寒いものを感じながら、意味もなく小声でそう諭した。声は震えていた。「今も、多分聞いてはいるんだろうけど」


 彼女の死を連想させる言葉。それを避けておきたかったのだ。

 今の『ロゼ』の状態を、一種の死後状態と捉えることは恐ろしい。とてもではなく、認めることなどできはしない。

 それでは、まるであの日。

 ロゼの自我を二つに分け、その片方を殺してしまったようなもので――


「――おっ、まだ起きてたね」


 考えてはならない、普段目を逸らしていなければならない思考から救い出すような声が背後から聞こえた。

 心臓に直接囁かれてもしたような反応で、廉太郎は大袈裟に声の方へ体を向ける。


「こんばんは」


 セーフハウスで行き会った、基地常駐の女性職員。

 ここまで帰るのにも、その後のクリスの対応にも面倒を見てもらった女性に、廉太郎は頭が上がらず一礼で応じた。


「やっぱさ、明日にでもすぐ帰るべきだよ。町とは連絡とれねーし、何が起きてるかも怪しいしさ」

「はい」


 会話に混じるのを面倒がり、寝たふりでやり過ごしているクリスを廉太郎は一瞥する。長い距離車に乗せるにはまだ気が引ける容態だが、今この場に迫る危機の正体が見えないのが現状だ。

 廉太郎が狙われた理由も、それを指示した者も。

 ラヴィを襲い、ユーリアが追って行った敵の存在も。

 それから、この基地自体が通信妨害に晒されているという事情もある。そう長居するのは、あまりに悠長がすぎるだろう。


「でさ、ちょっと聞きたいんだけど――」


 聞くタイミングを逃してしまったので名前は分からないが、気にかけてくれるその女性はしばしそれを聞くまいかどうか躊躇っていた。


「最近ユーリア、何かあった?」

「はい?」

「いや、なんか様子おかしい……っていうか、まっとうになってておかしいっていうか――」


 話には聞いた。一人の手に負えなくなって、ユーリアはここの職員全員に頭を下げ、ラヴィの捜索を託して行ったのだと。

 これまでのユーリアの態度と過去の確執を思えば、一変したようなものだ。廉太郎でさえ、聞き返してしまったほどの。

 そうせざるを得ない状況だったとはいえ、そう決断できたのは凄いことであったに違いないのだろう。


「あんた、とラヴィって子……あいつの友達か?」

「えぇ」


 ラヴィに関しては、あの日廉太郎と共に出会った時が初対面だったようで、そう言ってしまうのは語弊がある。だが、ぎこちないながらも相性は悪いように見えなかった。

 だから勝手に言う分には困らないはずだと、そう断言しておいた。


「ふぅん、じゃあ以前からそうなのか……」女は口元に手をあててぶつぶつと考え込み、やがて値踏みするように廉太郎を見た。「あんた新顔だろ? あいつと何かあったりした?」

 

 と、そのとき。


「同棲してますよ」


 と、寝ている設定の子供の口から横やりが入れられる。慌ててその口を手で覆うも、女は「え……あ、そういうこと?」とすっかりと目を丸くしてしまう。

 何が「そういうこと」なのか、一人で勝手に納得してしまっているその思考自体、なんとなく察することができてしまう。

 どうつっこんでも面倒な話に繋がってぐちゃぐちゃになってしまうので、それ以上触れることなく曖昧な笑みで流しておいた。

 どこかで見たようなその笑みが、直視するには目に悪い。


「垢ぬけたねぇ。やるじゃん、あんたも」

「いや、その――」


 しかし、ただ無視するには、そこには心に刺さるような誤解がある。

 その関係が、今日のユーリアに影響を及ぼしたのだろうと――おめでたく、一般論で考えているらしい、その女性。

 だが、事実として。

 ――廉太郎とは、何の関係もない一件でしかない。

 自分が彼女に与えた影響など、間違いなく、ほんの少しも、絶対にありはしないだろう。

 人間の廉太郎に友達として接してくれるのは、廉太郎がこの世の部外者であるからだ。特別廉太郎が何か働きかけて、彼女の固執している考えを和らげたわけでは決してない。

 そういう、特別踏み込んだ話は、これまで一言も話していない。

 ユーリアの過去、その事情は知っている。だが、それは一方的に知っているだけだ。打ち明けられたわけでも、聞こうとしたわけでさえない。 

 そんな風にユーリアの、誰かの一番深い部分の事情に触れる勇気など、とても出すことはできない。

 どれだけ、そうしてやりたいと願おうとも。


 ――だから、やはり。

 クリスに言われずとも。

 自分がつまらない人間だなんて自覚は、元からいくらでもあるのだった。






――――


 




 町に着いたのは日が昇る直前。ラヴィの運転に揺られ、道中何も起きることなくたどり着く。朝焼けに白む車内で、横たわったトリカの顔が照らされていた。

 一時はどうなるものかと動揺させられたが、今は穏やかに眠っているように見える。

 その姿と、ラヴィの言葉で、きっと大丈夫なのだろうと信じられる。


「ねぇラヴィ、図書館に運ぶのよね?」

「うん」

「……一苦労ね」


 ラックブリックの町中に、車で乗り入れることはできない。狭い町なので走行は前提になく、車両はすべて町が管理する共同車。車庫も駐車場も、城門の近くに併設されている。

 そして、今のトリカは車に頼らず女二人で運んでいける重さにない。もちろん、図書館は町の中だ。眠っているのだから歩いてもらうこともできず、かといって人手を借りようにも周囲に事情は漏らしたくない。

 手押しの台車でも用意して布か何かをかけてしまえば楽なのだが、高台に建つ図書館へ入るには敷地内の階段を昇らなければならない。

 機関本部塔といい、大仰な施設はやたら上を目指したがる――などと、考えても仕方のない愚痴のような考えが脳を掠めた。


「あ、それは心配ない」


 淡々と指摘してくるこの友人を、ユーリアはもう不愛想だとは思わない。頑なに表情も口調も変わらないけれど、機嫌が悪いだとか、距離を置かれているだとか、そういう子供が不貞腐れたようなことをする人ではない。

 今まで不貞腐れているのが常だった自分が言うのだから、間違いもあるまい。

 単にそういう正確なのだ。思えば、上司のアニムスに似た要素でもある。


「あら、どうして?」


 ラヴィは片腕で器用に車を停め、隣に座るユーリアに軽く手を振ってみせる。


「この子は私が連れてけるから、ユーリアは一人で歩いてきて」


 そして、当たり前のようにいなくなった。

 後部座席に横たわっていたトリカごと、一瞬で車内から姿が消える。


「……無茶苦茶だわ。やっぱり」

 

 何度見せられても、やはり人間技だとは思えない。常軌を逸した、それだけで歴史が塗り替わりかねない能力だ。

 だが、どうせいくら考えたところで分かりはしない。そのあたりの秘密も、いずれ教えてくれるだろう。

 アニムスと同じ力をラヴィが使えて、それを見たトリカが模倣したのだ。その上、最初からトリカを連れ帰るつもりで同行したというのだから、トリカとラヴィたちの間に何らかの繋がりがあるのは間違いないのだから。

 それ以上考えるのをやめ、ユーリアは一人車を後にした。







「よくやったな」


 開口一番――

 図書館の戸を開くなり、まさに入り口で待ち構えていたように館長のアニムスが出迎える。不意を打たれたようで、ただでさえ苦手意識のあるユーリアは顔が引きつってしまう。

 銀髪、長身。神経質そうな鋭い顔つきは、常時睨んでくるかのよう。表情が無機質なのはラヴィと同様だが、親しみやすさも親しまれようとする気配も感じないところが決定的に違う。

 不愛想な館長を怖がって、来館者はいつも驚くほど少ない。

 早朝なのもあり、今朝は誰もいないようだった。ラヴィの姿も見えないのが不可解で、訝し気にその顔を見上げた。


「よくやったなって……トリカのこと?」

「そうだ」


 ラヴィの言った通り、彼女は先んじてここに跳び、そして事情を話し終わったということだろう。


「じゃあ、あの二人は?」

「地下にいる」背を向け、いつもは閉じられていた戸に指をさす。「お前も来い」


 案内する気もないのか、アニムスはそう言い残し、ラヴィのように姿を消した。

 ――つい癖で、ユーリアは一瞬背後を振り返る。

 ここに来るたび、嫌がると分かっていながらそうやって背後から肩を叩いてくるからだ。実際に――なにゆえか――酷似したトリカの能力と対峙するまで、ほとんど嫌がらせに特化したような能力のように錯覚していたほど、それは頻繁に。

 にもかかわらずここに来るのを止めなかった理由は、単にここと本が好きだったのと、苦手だとはいえ別に嫌いなわけではなかったからだ。


「……この階段ね」


 戸を開けると、言葉通りに地下に向けた階段が螺旋状に続いていた。図書館は縦に高く、一室吹き抜けの広い空間だ。アニムスはここに住んでいるというだから、やはり地下に居住スペースがあるのだろう。

 なんとか明かりは灯っているものの、螺旋の底が見えないほどに暗く、それだけ深いことが分かった。

 足を下ろし、ユーリアは一段ずつそれを降りていった。

 そして――


「どれだけ長いのよ……」


 今日、この時。色々あって殊勝な心構えになっていない今でなければ、暗闇に向かって目くじらを立てている自信がある。下る速度とかかった時間から距離を逆算してみても、建物としてはありえないほど深く長い階段だ。

 彼らは自由に場所を跳べるようだから構わないのだろうが、付き合わされる凡人にはたまったものではない。これでは、もはや彼ら専用ではないか。

 その手のものにはいまいち命を預けるだけの信用をおいていないが、さすがに人力でも動力でもいいから昇降機が欲しい。


「これ、別の世界とかに繋がってんじゃないでしょうね……」


 一人で変わり映えのしない階段を折り続けていると、そんな突拍子もない想像に心が逃げてしまう。はっきり言って、恐怖さえ覚えそうになっていた。

 そして――


「遅いぞ」

「無茶言わないで」


 あまりの言い草に反感を隠さず、疲労は隠すようにそう答えた。

 やっと現れた底で扉を空けると、中は談話室のように落ち着いた空間が広がっていた。天井を見上げる図書館部と違い、多少裕福な家庭の一室といった様子。

 行儀悪く、促される前にソファーに体を預けていた。閉塞感やもろもろの圧から解放される。同時に、帰りはこれを上るのかと思うと、さすがに心が折れそうになる。


「エレベーターがあったろう」

「……うそ」

「嘘だ」


 さすがに舌打ちくらいは許してほしい。謝りたいのは、汚された自分の品性に対してだけだ。


「ねぇ……。前から思ってたのだけど、私のこと嫌いなんでしょ?」

「まぁな」

「…………」

「嘘だぞ」

「なんでそう弄ぶのよ?!」


 全部真顔で告げられるから冗談だなんて思えなかった。

 本気で傷ついてしまった自分が、あまりに悔しくて恨めしい。


「それで傷つくようなやつだからな、お前は。――からかいがいがある」

「あのね、子供じゃないんだから――」


 ラヴィの言うように、図書館の中での思考はやはり、すべてアニムスに覗かれてしまうようだった。その上でこうも意地悪をされてしまうと、口ではとても勝てる気がしない。

 見た目だけなら、アニムスはベリルかローガンあたりと変わらない青年であるのに、この正体不明の男は五十年以上このままの姿を維持している。急いで成熟する必要もないせいで、長命種は逆にどこか幼稚性を得るのだろうか。――年々、年下なんじゃないかと思えてくるようなアイヴィの振る舞いを思い返してみても、なんとなくそんな気がしてしまう。


「まずは礼を言わせろ」

「ちょ、ちょっと待ってよ」


 話が見えていない状況でいきなり話が進められてしまいそうで、ユーリアは慌てて割って入る。


「あなたがトリカのことを気にかけたり、それでお礼をいったりする理由が、私には分からないのよ」


 そもそもの、根幹の疑問。

 それが分かればラヴィを同行させた理由にも繋がるし、彼女とトリカがアニムスと同じような能力を扱える秘密にも繋がる。疑問に思ってたことがすべて判明する。

 そして、それはトリカの今後の対応に対するヒントにさえ繋がりそうな、そんな明るい予感を放っているのだった。

 食い入るように顔を覗き込むユーリアに、アニムスは僅かに目を細めた。


「マリナ・クラポットを知っているな?」

「……えぇ」

 

 七日前、諜報員と判明したアルバーに機関の魔術師が襲撃をかけ、それに巻き込まれて命を落とした。――死んだトリカの母親だ。

 彼女がどうかしたのか。そう伏し目がちに訴えるユーリアに、アニムスは目線を合わせるように向かいのソファへと腰を下ろす。

 そして、変わらず感情の分からない声と口調で、真意と真相の全てを告げる。


「マリナは俺の娘だ」

「え――」 

「だから、トリカは俺の孫にあたる」

 

 それ以上、アニムスの顔を直視していることができなくなる。知れず硬く握っていた自分の手に、ユーリアの視線は落ちていった。

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