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5-9 寝起き観察と首都観光

 本日もよろしくお願いします。


 年末年始ですが、予告せずお休みを貰う可能性があります。

 ご容赦ください。

 朝5時。


 いつもなら修行を始める時間なので、命子は自然と目を覚ました。すっかり早起きの習慣がついている。


 3つあるベッドは、紫蓮、命子、萌々子の順で使用している。

 しかし、本日はそれに馬場と滝沢もプラスされていた。

 滝沢は紫蓮のベッドで、馬場は命子のベッドで一緒に寝た。一番年若い萌々子が1人で眠る謎の構図である。


 命子ちゃんたちは国賓級なんだから警護します! などと抜かして、馬場たちが泊まった結果である。2人はとても自由だった。


 抱き枕にされていた命子は、そっと馬場の腕を解き、湯沸かしメーカーでお茶を淹れる。

 雪解け水を飲料にしたキスミアの水は美味い。それで淹れたホット猫じゃらしティだ。


「んー、ニャンダム……」


 命子はふかふかなソファに座り、麦茶みたいな素朴な味のお茶を飲んで風流した。

 そんな命子に、ベッドから声が掛かる。


「昨日の夜は最高だったわ」


「ふふっ、そうだろハニー」


 もじもじしながらシーツで身体を隠す馬場に、命子はニヒルに笑った。

 見た目は中学生だけど普通にこういうジョークもできるのね、と馬場は思った。メモメモ。


「さて、それじゃあ私はささらたちを起こしてこようかな。アイツらは起こしてあげなくちゃ無限に寝てるからね」


 寝起きが悪い友人2人を起こすべく、命子はどっこいしょとソファから立ち上がる。

 すると、馬場がベッドから抜け出す。しっかりとパジャマは着ている。


「私も行くわ」


「我も行く」


 次いで、紫蓮も起きてきた。 


 そうして、3人でパジャマのまま部屋を出る。

 その手には隣の部屋のルームキーが。有事に備えて、命子とささらがお互いの部屋のスペアキーを持っているのだ。


 まずはベルを鳴らす。


「やれやれ、やっぱり起きないな。アイツらは仕方ねえ奴らだ。なーっ?」


「ほんそれな。ささらさんとルルさんはどうしようもない」


「あの子たちはダメダメね」


 命子たちは高度なアリバイを作り、ルームキーをぶっ刺した。

 ドアを開け、中に入る。

 命子たちは気づかないが、もしこれが男性だったら甘い香りに思ったはずだ。命子たちの部屋も同じように甘い香りがするのだが。


 そうして奥まで進むと、命子の視界が暗転した。


「な、なにごと!?」


「羊谷命子にはまだ早い」


 紫蓮が命子の目を塞いだのだ。


「私に早いような光景がこの先に!? ってちょっと待って、私に早いってことは紫蓮ちゃんにも早いでしょ!?」


「我はダウナーキャラだからセーフ。それに対して羊谷命子はちょっとご遠慮願いたいです」


「私のほうは理由がないじゃん! おのれ、我が内蔵倫理コード!」


 暗闇に閉ざされた命子の耳に、あーわわわわっと馬場の声が聞こえる。


「えーなになに、私も見たい! 何が起こってるの!?」


「ぴゃっ」


 命子がジタバタするので、紫蓮の手が外れる。


 命子の目に映ったのは、果たして。

 一緒にベッドで眠るささらとメリスだった。

 普段抱き枕を使っているささらの餌食になったメリスが眉を八の字にして、んー、と呻いている。


「えぇー? まさかの組み合わせ。ルルはどこ行ったの?」


「そこに転がってる」


 紫蓮が指さす先では、床の上でルルが引きずり下ろしたシーツにくるまって眠っていた。


「どうしたらこうなんの。ヤバい寝相だな」


「羊谷命子の寝相は良いよね」


「そりゃね。私の寝相の良さは関東圏内じゃちょっと有名なんだよ?」


「奴の眠った後にはシーツの皴一本ないという」


「恐ろしい暴力みたいで良いね、それ。カームスリーパー・羊谷命子、この後すぐ!」


 そんなことを話していると、ルルがむくりと起き上がった。


「んにぇ? あぇ? んー……」


 キョロキョロ周りを見回したと思ったら、んー、とまたその場で寝た。


「なぜ起き上がったのにベッドで寝ないんだろう」


「クソウケる」


 命子と紫蓮が指をさしてプーッとする傍らで、馬場はルルの気持ちがなんとなくわかってしまった。

 単に移動するのが面倒というのはあるけど、硬い床で眠る気持ち良さというのもあるのだ。さすがにフローリングに直はきついが、ここのように絨毯が一枚あれば馬場的には成立する。毎日は勘弁だが。


「はー楽しかった」


「じゃあ、我らは帰ろう」


「修学旅行みたいで超楽しいわね、ふふっ」


「おっ、馬場さんの過ぎ去りし青春が蘇る感じですね」


「不死鳥」


「過ぎ去りしとか言ってると、ぶつわよ?」


 ちょっと期待していたアダルトな感じではなかったが、十分に満足である。

 3人は元の部屋に戻った。

 起こすのを忘れていたけれど、本日はここまで早起きする必要がまるでないので、どうでも良かった。


 朝ご飯の時間になると、ルルがぷくぅっと頬を膨らませて登場した。

 それに対して、ささらとメリスはしきりに謝っている。


「メーコ、聞いてくだサイ! シャーラとメリスがワタシをベッドから落として、2人で気持ちよさそうに寝てたデスよ!?」


「ルルはもういらんってことか」


「そゆことデス!?」


 命子の言葉に、ルルが愕然とする。


「ち、違いますわ! もう命子さん、ややこしくなるから変なこと言わないでいただけますか!? ねっルルさん、機嫌直してくださいまし」


『ルル、ごめんね。次はシャーラを落とすから機嫌直して? ねっ、次は2人で寝よう?』


 そんなルルに、ささらとメリスは謝り続ける。

 ささらはメリスのセリフが複雑すぎて分からなかった。分かっていればゴングが鳴っていた。


 とはいえ、ルルは元々あまり怒りが継続する性質でもないし、そもそも今回は怒ったふりなので、ちやほやされた食事を終える頃にはケロッとした。




 さて、本日は観光の日だ。


「お友達を呼んでいいですか?」


 萌々子の上目遣いのお願いにより、萌々子が昨日友達になったアリアと合流した。


「モモコちゃん、呼んでくれてありがとうれす」


「ううん。私のほうこそ一緒に遊んでくれてありがとう。あっ、この人は私のお姉ちゃん。で、こっちは――」


 萌々子が身内を紹介して、アリアも自己紹介する。


「アリアなのれす。この子はニャビュルなのれす」


 ネコミミフードを被ったアリアを、命子たちはにこやかに迎え入れた。


 早速、みんなでニャビュルをモフモフし始める。

 ニャビュルはキスミア猫の特徴なのか、構われるのをあまり嫌がらない。


 そうしてアリアを迎え、一行はキスミア観光に出かけた。

 本日は首都内での観光だ。


 まずはキスミア水車博物館に行く。


 近代的な博物館で、水族館ではないけれど大量の水が使用されている。

 しゃらしゃらと心地良い水の音と共に、様々な場所でカッコンカッコンと水車が回っている。


 水車の近くでは水を動力としたカラクリと連動して、人形が動いたり、砂のアートが描かれたり、様々なことが行われている。

 旧市街で見たような単調な物ではなく、キスミア水車が生まれて500年という長い時間でその技術は昇華して、この場にある物はより複雑なカラクリとなっている。

 照明にもこだわっており、別世界に来た印象を受ける。


「なにこれすごーい! 見て見てアリアちゃん。猫さんがネズミを追いかけてるよ」


「モモコちゃん、これはドゥーモの作品れすね。猫さんとゴミムーの作品をよく作る人なのれす」


「ゴミムー?」


「あっ、フニィ……マウス? これ、これれす」


 アリアはネズミを指さして、ゴミムーだと教えた。

 萌々子は、偶然日本語で連想できる単語が入っていたため、ゴミムー……、とネズミを哀れんだ。


「あっ、そだ、えーとえと。にゃ、ニャモーテス!」


「ふふふっ、メルシシルーれす!」


 友人の国の言葉で『超やばい』と感動を伝える萌々子に、アリアも合わせて『ありがとう』と答える。


 そんな2人が見ているのは、円盤の上をおもちゃのネズミと猫が追いかけっこしているカラクリだ。

 猫とネズミは共に足がしっかりと動いており、時にネズミは倒木の下を潜り、猫はその上をジャンプするといったこともしている。

 一定時間が過ぎると猫がネズミを捕まえるが、その後また追いかけっこが始まる。


 命子は、その隣で砂の絵を描く水車を見ていた。

 棒が動いて12パターンの砂絵を作り出し、完成しては消してしまうカラクリだ。

 さらに照明が切り替わることで、どれも雰囲気のある絵となる。


「ほへぇ、水車でどうしてこんなことできるんだろう?」


「ふっふっふっ、キスミアは水車と猫じゃらしを作らせたら世界一デスからね」


 隣でルルが言った。


「ワタシもルマルト……フニィ……人形が踊る水車なら作れるデスよ?」


 ルルは、キスミアの固有名詞を日本語に置き換えて説明する。


「マジで?」


「ニャウ。学校でやるデス。4つくらいしか動かないちっちゃいのデスけどね」


「へぇ。良いねそういうの。日本だとコレっていう工作はないからね」


「ちょんまげとかカタナ作れば良いデスよ」


「うむ、こりゃ文部省に進言だな」


 水と水車の音、それから明暗を上手く使った博物館らしい雰囲気を味わいながら順路を巡り、外へ出る。

 外のベンチでは、紫蓮ママが娘にひざまくらされて介抱されていた。


「我の母は回転体が弱点らしい」


「はわー、ごめんねぇ紫蓮ちゃん。3倍ダメージなのー」


「母はHPが低いんだからもう水車見ちゃダメ」


「でもクルクルしてるからつい見ちゃうのー」


「めっ!」


「はわー」


 命子は、仲良しな母娘だなぁとほのぼのした。

 そんな紫蓮ママの眼前で、ルルがくるくると指を回す。紫蓮ママも目をクルクルと回す。紫蓮がそっと母親の目を手で隠した。


「ルルさん、我の母を苛めないで」


「ごめんデス、もうしないデス」


 ささらとルルには若干の遠慮がある紫蓮が、珍しく注意する。

 ルルはこれはいかんとすぐに悪戯を止めた。


 その後、美術館やら水路を船で下ったりと、旅行らしいことをする。

 猫じゃらしパスタを食べ、午後はショッピングとなる。


 キスミア土産で有名なのは、2つある。


 1つはミニチュア水車だ。

 回る物もあれば回らない物もあるし、カラクリを搭載した物も中にはある。

 基本的に水車は水がなければ動かないし、そうなると苔を取ったりとケアも必要になる。

 故に、お土産は電池式の物が多かった。

 電池を使うなら水車はもはや必要ないのだが、電池が動かすのはあくまで水車部分のみというこだわり仕様だ。


 命子は、記念に猫が動く物を買った。

 萌々子は、ネコミミフードを被った女の子が身体を左右に揺らしてリズムを取る物だ。

 萌々子が買ったのは、どことなくアリアを思い出す物だ。萌々子はこの旅行が終わればお別れなことを理解しているのだろう。 


 そして、有名なもう1つのお土産は、ネコミミとネコシッポである。

 キスミアは、昔からお祭りの日にネコミミとネコシッポをつけて仮装する風習がある。伝統的な物は、獣の毛皮で作られた中々リアルな物だ。

 現代のは合成繊維であったり、サイバー風にプラスチックであったり。日本のアニメによるケモミミブームに乗っかって、日常のファッションとして成立している。


 そんなキスミアのネコミミは、安くない。

 日本円にして最低でも2000円以上はする。

 その分、非常に出来が良かった。人の髪の質やネコミミとの境目が計算されているのだ。職人のこだわりを感じる。

 高級ネコミミ・シッポセットだと10万円するものすらあった。意味不明である。


 命子は、ここでこの旅行用の特別費用を使いまくることにした。

 月のお小遣いを2万円に設定している命子だが、この旅行でなんと8万円まで使えることにしたのだ。ちなみに、萌々子にはお小遣いで4万円あげた。


 メインはネコミミとシッポがセットの物だ。3000円相当。


 教授はこの色でぇ、オオバコ幼女は明るい色でぇ、大学生のお姉さんはこれでぇ、馬飼野のあんちゃんは適当でいいや、とそんな感じ。

 生涯で一番お金を使ったことは間違いなかった。

 命子は自分でも気づかなかったが、人にお土産を買うのがとても好きなタイプの人間だった。


 学校関連のお土産は非常に難しい。

 命子はたくさんの子と交友関係があるので、1人に買うとキリがない。


 修行部部長に買えば、一緒にダンジョンに入った魔法少女第一期生の他の4人はしょんぼりしてしまうし。この5人に買えば、今度は他の子がしょんぼりしてしまうし。みんなに買えば、金銭感覚が常人の命子が混乱する。

 故に、みんなで遊べるようにクラスと修行部部室にネコセットを3着ずつ買っておく。これで順番にウィンシタ映えしたまえ、という計らい。


 ささらとルルは、無難にお菓子セットをたくさん買っている。

 猫じゃらしクッキーや麦茶だ。


 そうして買い物を終えて、ホテルに届けてくれるように手配している最中のことである。

 馬場がスマホを見ながら言った。


「あら、礼子からだわ」


「教授!?」


 命子が食いついた。


「まあアイツは教授ではないんだけどね」


「何言ってんですか、教授は教授ですよ。で、なんですって?」


「逆に何言ってんの!? もう、まあ良いけどね。えーっと、風見町で変な物が見つかったみたいだわ。その関係で礼子が風見町に来てるみたいね」


「新ダンジョン!?」


 命子は手をブンブンして興奮した。


「正体不明の光の柱だって。もしかしたら、この後ダンジョンに変化するのかもしれないけど……パッと見、セーブポイントかしら?」


「どんなのどんなの? おー、マジでセーブポイントみたい」


 小さい命子が腕にしがみ付いてスマホを覗き込んでくることに、馬場はだらしない顔をした。

 他のメンツも興味津々なので、見えやすいようにしてあげる。


 光の柱は、直径1メートル程度、高さ2メートル程度の物だ。

 地中から光が天に向かって立ち上がっており、2メートル地点で薄くなって消えていく。


 なんだろうねぇ、とみんなで話し合う。

 ゲームをやる勢からはたくさんの予想が出てくる。

 ルルやメリス、萌々子もだ。


 一方、ささらは、アニメや漫画は嗜み始めたがゲームには手を出していない。

 回復装置やワープゲートとか、みんなどうしてそんな発想が出てくるんだろうと思った。

 柔軟性が足りないと常々思っているささらは、若干しょんぼりである。


 そんな中で、1人だけ難しい顔をしている子がいた。

 こめかみを両手でうにうにと刺激し、目を『><』にしている。


「どうしたの、アリアちゃん?」


 萌々子が問うた。

 アリアはパッと目を開けて、答えた。


「フニィ……あのあの、アリアは用事を思い出したのれす」


「え、そうなの。ごめんね、もしかして忙しかった?」


「ノーア。大丈夫なのれす。モモコちゃん、今日は楽しかったのれす」


「うん。私も楽しかったよ。あと5日キスミアにいるから、また遊んでほしいな」


「ニャウ。お電話くださいなのれす!」


「うん。するよ! アリアちゃんもしてね?」


「ニャウ!」


 アリアは他のメンツにも挨拶をして、帰っていった。




 萌々子たちと別れたアリアはニャビュルを従えてしばらく歩く。

 ベンチでスマホを弄る男、カフェでお茶を飲むカップル、ショーウインドウを眺める女性2人――多くの人がごく自然な様子でアリアの動きに同調して動き始める。


 通りを曲がったアリアは、すぐに車に乗り込んだ。

 ふかふかな後部座席に座ったアリアのお膝の上に、すかさずニャビュルが寝転がる。


『おかえりなさいませ、アリア様』


『はい。じぃや、至急、夢司書の下へ向かってください』


 アリアは、少女とは思えないキリッとした顔をして、じぃやに指示を出した。


『かしこまりました』


 じぃやは理由を聞かずに、主の指示通りに行動を開始する。


『光の柱……夢日記のどこかに記述があったはずなのだけど……』


 アリアは、記憶の糸を辿りながら遥かなるフニャルーを見つめるのだった。



―――――


 キスミア語講座


『ゴミムー』 ネズミ。ゴミとついているがたまたまである。


 ※おさらい

『フニィ』 えーっと、のような言葉。

『ニャモーテス』 すっげぇ、超やばい。

『メルシシルー』 感謝

 ※、感動を真摯に伝えたいのなら『シペールル』が一般的。『ニャモーテス』はギャルっぽさがある。


 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ評価、感想、大変励みになっています。

 誤字報告も助かっています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アリアちゃん……夢日記とな? 夢で未来視してるんだろうか??
[一言] にゃもーてす。 ところで話は変わるけど、うたわれるものという作品に、語尾に「にゃも」を付けるおっさんが居てな…?
[一言] ト○とジ○リーですな(笑) マンダム(-.-)y-~ つまりこの子はジャンヌダルクの生まれ変わりと
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