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5-8 萌々子の冒険

 本日もよろしくお願いします。

 命子たちが雪ダンジョンに潜った日の朝のことである。


「紫蓮ちゃん、これはどう着けるの?」


「それはここをこうやって……」


「ふんふん、なるほど」


 ホテルの一室にて、命子は萌々子のお着替えを手伝っていた。

 同室では、紫蓮が紫蓮ママのお着替えを手伝っている。


「はわー、ふぐぅ、ひっくうぐすぅ、は、はわー……」


「母。泣くな」


「だってぇ。はわー、ぐずふしゅー」


 紫蓮ママはベンベン泣いていた。嬉し涙だ。

 娘が自分のために防具を作ってくれたので、着付けをしている最中に決壊した。


 紫蓮ママの恰好は、青いワンピース。

 その上に白く輝く胸鎧。

 スカートの中にはブーツと膝上まである白い脚甲。

 腕には手甲、頭部には鳥の羽根飾りがついた白と青の兜。


「紫蓮ママ、すっげぇーっ!」


 命子は手をブンブン振って興奮した。

 戦乙女みたいになった紫蓮ママがそこにいた。若干、虫も殺さない顔をし過ぎているが。


「我の母、聖騎士バージョン。これは売れる」


 紫蓮は自分の仕事にうんうんと満足気だ。


 その後、紫蓮に手伝ってもらって、萌々子の装備も着けていく。


 こちらは、白を基調として緑色のラインで装飾された同タイプの装備だ。


「こ、コスプレみたいだよぅ」


 もじもじしまくる萌々子だが、内心で凄く嬉しいのが見て分かる。


「今の時代じゃ誰もコスプレとは思わないよ。みんな、どこのダンジョン産だろうって思うはず」


「それはお姉ちゃんだけでしょ?」


「……実は、テレビを見ていると、いろんな人の服装をダンジョン装備って疑っている自分がいるんだ」


「ダンジョン脳め」


 2人の装備は、ダンボール製だ。

 風見ダンジョンに出没するダンボールさんがドロップするダンボールをメイン素材として、バネ風船のバネを伸ばして作った針金や、ヘビ皮が使用されている。

 兜の羽根飾りは、カラコロニワトリがドロップする羽根だ。着色が容易なため、とても綺麗。


 ダンボールは一般塗料でカラーリングされており、じっくり見てもダンボールとは気づかない出来である。

 そして防御力も、胸鎧は57を叩き出している紫蓮の渾身の一品だ。


 着替え終わると、みんなにお披露目だ。

 おーっ、と感心する一同。

 まだまだ若い紫蓮パパは、妻が戦乙女に大変身したことに顔を真っ赤にして惚けている。


 紫蓮ちゃんが作ってくれたのー、と感極まって泣く紫蓮ママは、ててぇっと走り出す。

 ドキッとしながらそれを受け止めようと手を広げる紫蓮パパは、ママに恋をした頃を思い出し中。

 が、紫蓮ママ、これをまさかのスルー。

 紫蓮ママはその背後にいるささらママに抱き着いた。新しくできたこのお友達3人が、紫蓮ママは大好きだった。

 父親たちが、そんな紫蓮パパを慰める。ウチも最近、びっくりするほどママ友の話ばっかりなんだ、と。


「みんな、見て見て。ウチの妹、超カワカッコいいでしょ!」


「ホントですわね、騎士様みたいですわ」


「世界を救う感じデース!」


 お姉さんたちに褒められて、萌々子のもじもじが止まらない。

 紫蓮はその隣でドヤドヤした。


「もじもじしちゃって萌々子ったら。ンチュー!」


「な、やめ、やめろーっ!」


 猫っ可愛がりする命子の顔面を、萌々子が必死で押しとどめる。

 嫌われた命子は憤慨した。


「お、お姉ちゃんだぞっ!」


「うっさいわ!」


「あのね、萌々子。お姉ちゃんは来年中学生になる萌々子を心配してるんだよ? 知ってる? 中学生は友チューっていうのがあるんだよ? そんなことじゃあ生きていけないよ?」


「友チューとか小学生でもあるし」


「マジで!? 私の時はそんなのなかったんだけど!? チューなんて言葉を吐こうものなら、エッチの烙印を押されたのに、この数年で何が……はっ、おのれぇ教頭派によるクーデターか!?」


「メーコは朝からよく口が動くデスね」


「ンチュー、ムチューっつって?」


「バカ姉、やめろーっ!」


 そんなことを話している外で、紫蓮ママに装備を見せつけられた他の母親たちが娘たちをジーッと見つめていた。自分も手作りプレゼントが欲しくなっちゃったのだ。


 紫蓮ママも落ち着き。

 本日の予定の確認に入る。


 そんな中で、ささらが命子にこしょこしょと聞いた。


「命子さん、友チューってなんですの?」


「友達にチューするコミュニケーション……かな?」


「そんなものが……命子さんはやったことあるんですの?」


「3回くらいやられたかな。それ以降は逃げ回ってたからないね。アイツら、やたらと私にやろうとするんだもの。ささらも友チューは嫌がる子にはやっちゃダメだよ」


 中学生の頃の命子は、とにかくロリが前面に出ており、そういう標的になりやすかった。

 小さいことにコンプレックスを持っていた命子は、友チューの標的にされることが、親愛よりもロリだと認識されているようで嫌だったのだ。


「そうですの……友チュー……」


 そう呟くささらはまた一つ賢くなった。


「ちなみに、お、お、お口ですの?」


「さ、ささら、今はミーティング中だよ」


 グイグイくんなぁと思いつつ、命子はめっと注意した。

 ささらは、ハッとして友チューなるものを想像しながら、ミーティングを聞いた。




 命子たちが雪ダンジョンに入っている間、大人たちはG級ダンジョンに入る予定になっている。

 命子たちの親ということもあり、彼らもまた冒険者免許を取得していた。

 全員がペーパーではあるが、念のために。それが今回、早速活躍することになった。


 冒険者免許を取得できる年齢ではない萌々子は、滝沢と共にキスミアのレベル教育に参加だ。


 紫蓮は、そんな紫蓮ママと萌々子のために、防具を製作したのである。

 薙刀の訓練もあったので、残念ながら他のメンツの物はない。紫蓮パパの分もない。無念。


 親たちのペア分けは、羊谷家と有鴨家、笹笠家と流家だ。

 これにSPが2名同行する。冒険味はない。


 この中で、男親は全員がそこそこ運動ができた。

 一方で、女親はルルママがとても運動神経が良い。

 他は運動神経がはっきりと悪い。キリッとしたささらママも悪いし、ぽやぽやした命子母と紫蓮ママも悪い。そんなメンツで冒険に出かけるのだった。


 さて、そんな中で萌々子だ。

 姉たちを乗せたマイクロバスが雪ダンジョンへ向けて走っていく姿を見つめながら、萌々子はしょんぼりである。


「お姉さんたち、行っちゃいましたね?」


 隣で見送る滝沢が気遣わしげに言う。

 萌々子はコクンと頷いた。


「もう1年早く生まれてれば一緒に行けたのにな」


 冒険者免許は制限がたくさん付いているものの13歳から取得が可能なので、萌々子は悔しかった。


 明らかな寂しげロリに、滝沢はあわあわした。

 そして、ふんすと頑張るぞポーズ。


「今日は頑張りましょうね!?」


 萌々子は滝沢を一度見上げてから、また俯いてコクンと頷く。胸の前では無自覚のうちに指遊びが始まっていた。

 萌々子は気づかないが、そんな仕草が姉にそっくりであった。




 さて、本日の萌々子はレベル教育に参加するわけだが。

 待ち合わせ場所に行くと、そこには昨日、首都の旧市街で見た女の子がちょこんとパイプ椅子に座っていた。

 コートについたネコミミフードを被った女の子だ。


 その両サイドには、綺麗なお姉さんが2名立っている。

 女の子のお膝の上には、スカーフを首に巻き、小さなシルクハットを頭に乗っけたキスミア猫が丸まっていた。


 自分と同じくらいの身長ということは、すなわち10歳前後!

 ピシャゴーンと12歳少女の脳裏に、ネガティブな推理が降ってきた。


 滝沢が口を開いた。


『本日はよろしくお願いします!』


 キスミア語で挨拶を交わし、ピシッと頭を下げる。


「こちらこそよろしくお願いします! 全員日本語ができますので、どうぞ日本語をご使用ください」


 対して、流暢な日本語で綺麗なお姉さんたちも対応する。

 そんな中で、女の子がにぱっと萌々子に笑いかけた。


「モモコちゃんれす?」


「は、はい。そうです」


「あたしはアリアなのれす」


「アリアちゃん? よろしくね?」


「ニャウなのれす!」


「この猫ちゃんは?」


「この子はニャビュルなのれす」


「こんにちは、ニャビュルちゃん」


「にゃー」


「触っていい?」


「もちろんなのれす」


 そんな風に仲良くなり、ニャビュルをもふもふしていると時間になった。


 キスミアのダンジョン入場は日本とほとんど変わりなく、レベル教育者と冒険者で入場するタイミングが分かれている。

 萌々子はあれ、と首を傾げる。


「ここは冒険者用の入場列じゃないんですか?」


「ちょっと特殊な立場だから、ここに並んでいるのよ」


「そうなんですか?」


 よく分からないが、滝沢が言うなら別に良いだろうと萌々子は納得した。


 キスミアの冒険者の列は、中々に面白い。

 日本とは違い、動物を連れている人が結構いるのだ。


 キスミア猫を連れている人が一番多いが、犬やウサギ、中にはフェレットみたいな生き物もいる。


「可愛い!」


「ねーっ!?」


 滝沢は仕事を忘れて萌々子と共に、キャッキャする。


 一方、キスミア人からすると萌々子は注目の的だった。

 あれは羊谷命子なのでは、と。キスミア人には、命子と萌々子の区別があまりつかなかったのだ。

 さらに、その装備。白と緑の鎧がとてもカッコ良く見えたのだ。


 時間が経ち、ダンジョンに突入する。


「ホントにナスさんだ!」


 萌々子はキスミアのG級ダンジョンに出てくる四足が生えたナスの魔物に、目を見開いた。


「ニャモロカなのれす。にゃもーって鳴くれすよ? 猫さんのふりをするのれす」


 アリアがそう教えてくれたそばから、ニャモロカがにゃもーと鳴いて、ジャンプしながら一行の下へ近づいてきた。


 本日は、萌々子とアリア、そしてニャビュルだけで戦闘する。他のメンバーはお守りだ。


 萌々子はドキドキしながら、貸してもらった鉄パイプを構えた。

 アリアは、魔法のステッキだ。ダンジョン産ではなく日本産。ピカピカ光るヤツだ。

 ニャビュルは、テシテシと後ろ足で顔を掻いている。


「頑張って萌々子ちゃーん!」


 滝沢がフレフレする中、萌々子はたぁーっと踏み出した。

 事前にスマホで動画を見て勉強してきたので、タイミングはばっちりだ。


 萌々子は【剣装備時、物攻アップ 小】を所持しており、以前参加したレベル教育で『見習い剣士』になった。

 それから1か月を超える修行で、中々に強くなっている。


 命子よりも小さな132センチのロリッ娘が、ジャンプ中のニャモロカにえいっと斬撃を浴びせる。

 攻撃を受けたニャモロカはポテッと転がり、にゃもーと鳴いた。


 滝沢は唇をムニムニして、なんだこれと思った。

 本人たちは物凄く真剣に戦っているのに、滅茶苦茶可愛かった。


 萌々子は転がったニャモロカに追撃せず、相手がジャンプしたら攻撃というパターンを繰り返す。

 姉がシュババッとできるのだから自分もできる、なんて子供っぽいことは考えない。自分は素人なのだから、手順を踏まえてしっかりと戦うのだ。


 そんな風に自制が利くロリなので、危なげなくニャモロカを倒した。


「ナスさんのドロップはナスなんだね」


「プリプリに太ってて美味しそうですねぇ」


「キスミアでは焼きナスにもしますし、スープに入れたりもしますね」


 萌々子と滝沢がじゅるりとしていると、お姉さんが教えてくれた。

 レベル教育の後半では、みんなで焼きナスパーティを予定している。


「次はアリアなのれす! モモコちゃん見ててなのれす?」


「うん、頑張ってね!」


「ニャウ!」


 新たに出現したニャモロカに、アリアが対峙する。

 そして、天井へ向けて魔法のステッキを掲げた。


「スターダスト・フォーチューンなのれす!」


「「……」」


 ピカピカピカーッと魔法のステッキを光らせて、いきなりそんなことを言い出したアリアに、萌々子と滝沢は唇を噛んで、色々なものを耐えた。

 スターダスト・フォーチュンは、日本で日曜の朝9時から放送されている女児向けアニメで出てくる必殺技だ。使用されると運任せなスターダストにより敵は運任せで消滅する。


「ニャビュル、行くのれす!」


 必殺技名を言うだけ言い、アリアはニャビュルに命じた。

 ニャビュルは大きく飛び上がり、ジャンプするニャモロカの頭上を取った。


 そして、前足で引っかき攻撃。

 空中で2連撃だ。


 にゃ、にゃもーとニャモロカは光になって消えていった。


「キスミア猫強っ」


 萌々子は目をまん丸にして驚いた。

 そんな萌々子に、強くなった動物に多少は詳しい滝沢が教えた。


「ニャビュルちゃんの前足には腕輪が付いてますよね。あれが爪での攻撃を強くしてるんですよ。人間にとっての剣とかと一緒ですね」


「へぇ、そうなんですね」


「ただ、とても危ないので、知能補正が掛かった訓練された動物と、その子とちゃんと契約しているテイマーがいなければ許可されませんけどね」


「そうですよね。あんなの私負けちゃうもん」


 犬に追い掛け回され泣きそうな体形の少女がそんな評価を下し、滝沢はキュッと唇を噛んだ。頬はゆるゆるだ。可愛い物が好きな滝沢の頬はこの旅行中、緩みっぱなしである。ちなみに、馬場も同じだ。


「にゃふふん、どうれすか?」


 アリアがドヤ顔をして尋ねてきた。


「ニャビュルちゃん、凄く強かったね!」


「ニャビュルも強いれすけど、それをテイムしてるアリアも凄いのれす?」


「うん、アリアちゃんも凄いよ!」


「れす?」


「う、うん? うん、強かった!」


「れす!」


 れす? と首を傾げるアリアを萌々子は忖度して褒めた。良くできたロリである。


 2人と1匹が交互に戦い、疲れたらお休みしつつ、5時間ほどかけてダンジョン1層をクリアする。


 敵は1体で、かつアリアと交互に戦っただけに、萌々子のレベルは1しか上がらなかったけれど、いくつかのジョブを発生させておいた。


 そうして、帰還ゲート付近で約束のナスパーティだ。

 ナスパーティは、このダンジョンでレベル教育を受けるキスミア人の恒例行事になっているらしい。


「あつっ、美味い、あつ美味い!」


「美味しいれす! モモコちゃん、美味しいれすね?」


「うん、あつ美味しいね!」


 キスミアでは日本人がそこそこ暮らしているのでショウガ醤油も存在するが、昔からナスがあるため、ナスを食べるためのソースは独自に開発されている。ナス田楽に少し辛みがついたような味だ。


 姉たちから置いてけぼりを喰らった萌々子だが、アリアというお友達もできて、中々に充実したキスミア旅行をしていた。

 ナスを食べたんだよ、と姉たちに自慢しようと萌々子は笑うのだった。




 そうして、夕方になる頃には全員がダンジョンから帰還した。

 命子は早速、萌々子を可愛がり出す。


「どうだった、ダンジョン楽しかった?」


「うん。お友達もできたし、猫さんとも冒険したの!」


「え、猫さんと冒険したの? なにそれ超羨ましいんだけど」


 命子は妹が凄く楽しそうな経験をしていて、良かったと思うと共に羨ましく思った。

 そんな命子の肩がトントンと叩かれ、振り返ってみると。


「にゃん!」


 ネコミミを付けたルルが、にゃんとポージングした。


「そっか、私もでけぇ猫とはいつも冒険してるか。ほりゃ、ゴロニャーン!」


「にゃにゃにゃうにゃにゃ!」


 命子は、ソファの上で猫みたいに仰向けで動かなくなったルルを放置し、萌々子とのお話を再開する。ルルはささらとメリスに構われ出して、わちゃわちゃと手足を動かしてニャーニャー言っている。


「こーんなおっきなナスも食べたんだよ。ニャモロカっていう猫のふりをしたナスをね―――」


 嬉々として自分の冒険譚を話す妹に、命子は楽しそうに笑って耳を傾けるのだった。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、とても励みになっています。

 誤字報告も助かっています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニャモロカさん… …いまさらですが、よくこんなに可愛い由来の子を頭からひねり出しましたね。すごい。
[一言] ニャモロカ…。 想像しようとしたらシルエットの段階でタラコに掻き消されました…! た〜らこ♪ た〜らこ♪ た〜っぷり、た〜らこ♪ 実際?はどんな生き物なのでしょうか…。
[一言] う~ん、平和や!w こんな日常がずっと続けばいいのに……(フラグ強制建設
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