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4-9 敵2体と見回りチーム

 本日もよろしくお願いします。

 活動する時間になり、4人は朝食を摂る。


「ダンジョンキャンプは割とキツイね。2人とも眠くない?」


 そう問うた命子は、鶏肉を挟んだパンをもしゃついた。

 もぐもぐする命子の姿に内心でほっこりしながら、ささらが言う。


「寝ろと言われればすぐにでも寝られそうですけど、別に眠くはありませんわね」


「あー夜6時の感覚な」


 学校から帰り、やろうと思えば一瞬で眠れる、されど眠くはない感じ。

 暇だからといってその時間に眠ってしまうと、夜眠れなくなっちゃう罠。小学生の頃の命子はよくこの罠にハマったものだ。


「まあ、別に昼間キャンプを開いちゃいけない法はないからね。眠くなったらテントを張って少し寝よう」


「そうデスね。無理はゲンキンデス!」


 方針を決め、食後の一休みをしてから、みんなで準備体操。

 テキパキとキャンプやおトイレの目隠しを回収し、命子たちはゲート前まで移動した。


「ここからは敵が2体デスね」


 G級ダンジョンは、1+5階層置きに一度に出てくる敵が1体ずつ増えていく。必ずではなく、少ない場合もある。6層だと1体か2体編成だ。


 敵の種類は基本的に1層から5層までの敵の寄せ集めだ。

 特定の階層に行くとまた新しい敵が出てくる場合もある。


「やっとそこそこ楽しめそうだね」


 というわけで、6層に降りる。


 6層は、古代遺跡が生命力の強い植物に侵食されたような風情の迷路だ。


 自衛隊の話では、【植物採取】というスキルを持っていると、フィールドアイテムをゲットできる場所が発見できるらしい。これは2層の草ステージでも同じだ。尤も、この中でそのスキルを持っている者はいないのだが。


 しばらく歩くと、早速敵が出てきた。


 4層に出てくるダンボールさんと、5層のタツシャボンだ。


「あっ、ダンボールさんだ」


 ダンボールさんは、ダンボールを逆さに被った何かだ。

 黒い影のような手足を持っており、ピョンピョン飛び跳ねる。

 命子はこの敵がコワ可愛くてちょっと好きだった。


 ダンボールさんは面倒くさい敵で、ダンボールの上から攻撃してもダメージを負わせられない。

 黒い手足やダンボールの下から攻撃しなければならないのだ。

 ダンボール部分は攻撃を受ければ凹んだりするのだが、すぐに復元してしまう。ただし、火魔法だけは弱点になっており、効く。

 攻撃力は、普通だ。ノーマルな一般人なら死闘になる。


「それじゃあ、話し合った通り、紫蓮ちゃんの訓練も兼ねていこうか」


 この中で、紫蓮だけ複数の敵と実戦をしたことがない。

 命子たちとて1対複数はないけれど、それに似たような忙しい戦闘は経験した。

 だから、命子たちがサポートしつつ、紫蓮がメインで戦闘すると事前に決めておいたのだ。


 ちなみに、紫蓮の装備だとG級の魔物の攻撃は、丸めた新聞で思い切り引っ叩かれるくらいの痛さだ。普通に涙目になる程度には痛いが、致命傷には程遠いダメージといったところ。


 そんなわけで紫蓮が前に出る。


 命子はささらから魔導書を返してもらい、すぐに対応できるようにしておく。

 ある程度距離を詰めると、ルルが高速移動で敵の背後へ回り込み、そちらから対応できるようにする。

 ささらは一番防御力が高いので、すぐに紫蓮を庇えるようにスタンバイ。


 フォーメーションは、紫蓮を頂点にした命子とささらのトライアングル、敵の背後にルル、といった形。


 先輩たちがフォローしてくれることに、紫蓮は嬉しい反面、少し悔しかった。

 世界でも最も早くダンジョンに入れた1人なのに、こうして大きな差ができてしまっている。


 昨晩、仲間だと命子が言ってくれたけれど、肩を並べられなくて何が仲間か。

 頑張って強くなってやる、と紫蓮は血陣怨手をギュッと握った。


 ピョーンと跳ねたダンボールさんに向け、紫蓮は大きく踏み込んで間合いを詰めた。

 利き手で柄を、もう一方の手で打撃部分を押さえ、踏み込みと同時に押さえていた手を離す。


 踏み込みと腰の捻りから生み出されたエネルギーが、リリースされた血陣怨手に伝わる。

 紫蓮はこれを二節棍の抜刀術だと解釈している。


 下段から強襲した血陣怨手は、ジャンプ中のダンボールさんの中身に重い一撃を加える。


 血陣怨手は三節棍のように複雑な動きをしない武器だが、真ん中が鎖で繋がっているだけあって、ただの棒よりも扱いが難しい。

 ぶっちゃけ、早く武器を替えたいな、と思っている紫蓮だが、今まで使ってきただけあってその扱いは上手かった。


 その一撃でダンボールさんは天井に叩きつけられ、その位置をチラリ見て把握しながら、紫蓮はタツシャボンのシャボン玉を転がって避ける。

 シャボン玉は低速だが誘導性能があるため、避けて一息というわけにはいかない。


 すぐにタツシャボンに血陣怨手を当てる。

 鎖で繋がった人形の手の勢いに任せて、自らもぐるりと身体を回し、勢いの乗った打撃をタツシャボンへ叩き込んだ。


 空中で光となって消えるタツシャボンだが、シャボン玉はすぐには消えない。

 3つのシャボン玉を回避しながら、虫の息になっているダンボールさんへとどめの一撃を入れた。

 そうして戦闘が終わり、3秒ほどでシャボン玉も消えていく。


 ふぅ、と紫蓮は小さく息を吐く。

 みっともない戦闘はできないと少しドキドキしていたのだ。


 イメージトレーニングでは色々な敵と複数で戦ったけれど、実戦では初めてだった。

 しかし、上手に出来たと自分でも評価できる内容であった。


 顔は無表情だけれど、紫蓮は割と色々なことを考えているのだ。


「おー、やんなぁ紫蓮ちゃん」


「うん」


 目をまん丸にして驚く命子に、紫蓮はコクリと頷いた。

 ただ続く言葉が見つからない。褒められて気恥ずかしいのだ。


「それじゃあ、私たちも1回ずつ戦って、紫蓮ちゃんメインで行こうか」


 命子の提案で、3人も1対2の戦闘を行う。


 ルルは小鎌と忍者刀であっという間に倒してしまう。

 この頃になると、ルルの小鎌の扱いが非常に上手くなっており、むしろ忍者刀よりも上手なのではないかと命子は思った。まるで爽快系アクションのキャラみたいな立ち回りだ。


 ささらは手堅い戦闘だ。

 まだ『見習い魔導書士』なのでステータスはダウンしている。ジョブ自体は特段ステータスを変化させることがないのだが、【筋力アップ 小】などのジョブスキルが無くなることでこういう現象が起こり得た。

 とはいえ、『見習い騎士』をマスターし、その際に身につけた剣術と体捌きがあるので、問題なく敵を斬り払っていく。それが時代劇の殺陣たてでも見ているかのように、様になっている。


 そして命子は、魔導書を再びささらに貸してしまったので、剣での戦闘だ。

 無限鳥居で鍛えた魔剣ゼギアスを抜き、敵と対峙する。


 敵は、ダンボールさんと歌カエル。

 前進してくるダンボールさんと、後衛で歌い続ける歌カエルという陣形だ。

 歌を聞き続けると吐いてしまうので、いかに素早く歌カエルを倒すかがポイントになる。本来なら、仲間全員で一気に倒すところだ。

 二刀流を練習中の命子だが、歌カエルが出てきたために一刀で対応。現状では一刀のほうが強いのだ。


 ぴょーんとジャンプするダンボールさんの中身を、魔剣ゼギアスで斬り上げて両断する。

 光になったダンボールさんのドロップは他のメンツに任せ、命子は歌カエルに向けて一直線に走った。

 その走り方は、剣を斜め後方に携えるカッコいい走り方だ。


 近くまで走り寄ると、歌カエルは攻撃態勢になる。

 歌カエルもさすがに接近されてまで歌い続けるわけではなく、ジャンピングアタックをしてくるのだ。他にも敵が嘔吐状態になると攻撃態勢を取る。


 ジャンピングアタックの間合いギリギリで止まった命子は、慎重に近寄る。

 ケロッと鳴いてジャンプしてきた歌カエルを真横に避けながら、魔剣ゼギアスで首を落とした。


 光になったのをしっかりと確認して、命子は剣を払い、鞘に納める。


「動かない敵がいるパターンは忙しいな」


 命子は愚痴った。


 このダンジョンだと、フサポヨ、根菜マン、歌カエルが動かない敵だ。

 ただし、フサポヨと根菜マンはチームワークが死滅した魔物なので、実質敵が1体減るようなものだ。歌カエルだけが動かないことで厄介さが増す。


「どうよ、中々私の剣術も様になってきたでしょ」


 命子はポンと鞘を叩いて言った。


「無限鳥居で戦っていた頃からちゃんと様になってましたわよ?」


「そうかな? あの頃は手足を動かすことばかり考えて、腰の捻りとか全然意識できてなかったんだよね」


「武術は腰が基本」


 ささらと命子の会話を、紫蓮が結ぶ。


「腰の使い方が下手っぴだと、攻撃力がガクッと下がりマスよね」


「分かるぅ!」


 女子がするものとはとても思えない会話が繰り広げられる。

 しかし、本人たちはキャッキャしているつもりだ。

 ネイルの艶の代わりに剣のキレ。モデル歩きの代わりに腰の使い方なのである。




 その後、しばらく戦闘を続けると、魔本が水の魔導書を落とした。


「きゃっほーい!」


「ラッキーですわね。どうしますの?」


「私は3冊持ってるしいいかな。3人で決めて」


「ワタクシもまだ結構ですわ。ルルさんか紫蓮さんでどうぞ」


「ワタシも大丈夫デース。シレンがどうぞデス」


 先輩勢が順繰りに辞退し、魔導書は流れるように紫蓮の物になった。

 紫蓮は魔導書を胸に抱え、もじもじしてお礼を言う。


「あ、ありがとう」


 先輩勢はほっこり。


 この頃になると、24時間経ったので3人とも『見習い魔導書士』からジョブチェンジした。

 すでにジョブ候補の中に『火・水の見習い魔法使い』が現れているので、一先ず用済みなのだ。


 ささらとルルは、それぞれ『見習い武器職人』『見習い防具職人』に変えて、そこら辺に落ちている石などを適当に武器や防具へ【限定合成強化】していく。もしもの時のためにジョブ候補に『見習い合成強化士』を出しておきたいのだ。


 そんな風にして、7層、8層と順調に降りていく。

 ほぼ最短ルートで降りているため、宝箱は発見できず。


 敵が2体になったことで増え始めたドロップを手分けしてリュックに入れて、歩を進める。


 9層目の途中で自衛隊の見回りチームと出会った。


 ダンジョンに関わる自衛官は基本的に薄手のコートを着ており、その中に初級装備を着用している。

 コスプレチックな初級装備だけだと、ご機嫌すぎて世間の目が気になるのだ。これが広告塔の隊員だとガンガンコスプレチックな装備で表に出るのだが。

 なんにせよ、コートを着ているので遠くからでも自衛官だと分かる。


 出会った見回りチームは、男3人、女性2人、犬1匹の構成だ。


「こんにちはー!」


 命子たちが元気に挨拶すると、自衛隊員たちは驚いた顔をして、すぐに敬礼した。


「みなさん、探索お疲れ様です!」


 そう言ったのは、女性自衛官だ。


 命子たちは知らなかったが、ダンジョンの見回りをしているチームには、必ず2名以上の女性自衛官が配置されていた。これは、女性冒険者を気遣ってのことだ。


「あ、はい。お姉さんたちも見回りありがとうございます!」


 命子もビシィッと敬礼して応えた。

 完全におままごとに見えるが、自衛隊員たちは楽し気に笑った。


 一方、命子たちは犬が凄く気になった。


 茶と黒のシェパードだ。

 かつての命子なら不安に駆られるレベルで精悍な顔立ちをしている御仁である。

 首の下に真っ赤なスカーフを巻き、後ろ脚に赤いリストバンドのような物を装着している。それが非常によく似合っていた。


「彼は、ヤクモ号です。私のパートナーです」


「おー、テイマーなんですね。こんにちはヤクモ君」


 命子の笑顔を見上げ、ヤクモ号はコクリと頷く。

 とても落ち着いた御仁だ。


「ヤクモ殿がつけてるのは初級装備なんデスか?」


 ルルが質問した。


「はい、そうですよ。動物の装備はアクセサリーみたいな感じなんです。全体装備もありますが、人で言うところの甲冑みたいに素早さが下がる場合があるんです」


「ヤクモ殿、買ってもらえて良かったデスね!」


 ルルがニコニコして語り掛けると、ヤクモ号は尻尾をパタパタ動かした。心なしかドヤ顔をしているようにも見える。


「えっと、もふもふして大丈夫ですか?」


 命子の問いに、お姉さんはにこやかに許可を出す。


「そ、それじゃあ失礼して……」


 命子たちは、おっかなびっくりヤクモ号をもふもふした。

 ひともふすると恐怖心は消し飛び、キャッキャしだす。

 ヤクモ号は、やれやれ仕方ねえ嬢ちゃんたちだ、みたいな雰囲気が出ている。ハードボイルドである。


「ヤクモ君は強いんですか?」


「強いですよー。私よりも強いですからね」


「やるなぁ!」


 何も分からない答えであったが、命子はヤクモ号をもふった。

 しばらくもふもふされて、ヤクモ号は解放された。


「みなさん、ペースが早いですね。無理はしてませんか?」


 確かに命子たちのペースは非常に早かった。

 地図を見ながら寄り道せずに来たというのもあるが、敵を倒すスピードが格段に速いのだ。


「これといって無理はしてないですね。眠い子いる?」


 命子の質問に、3人は首を振るった。

 お姉さんは、そこで眠い子という単語が出ることに驚いた。疲れたとかではないんだな、と。


「さすがですね。今日はこのまま10層で宿泊予定ですか?」


「そのつもりです。妖精店でチェックインの後に、余裕があれば少し狩りをする予定です」


 お姉さんの質問に、命子は正直に答えていく。

 その内容を男性隊員が横で、手帳にメモをしていく。


 ダンジョン内では、いつどこで誰と会ったか、メモしておくのだ。

 そうしておけば、帰還予定日時に当人が帰ってこなかった場合、最低でもどこの階層以上を探索すれば良いか早期に知れるのである。

 今、命子たちは9層で目撃されたので、もし遭難したら9層以上を捜索すれば良いと分かるわけだ。

 Dサーバーがあるので完全に上手くいくとは限らないが、やらないよりはやったほうが良い。


 これは見回り役の公的チームだけではなく、できれば全冒険者が行うのを推奨されているが、なにせ面倒くさいので今後に期待と言ったところである。特にF級、E級と上に行くほど、こういう取り決めは重要になってくるので。


 少しお話したあと、見回りチームとお別れする。


「はー、ヤクモ君でっかかったねぇ」


 角を曲がり、命子が言った。


「装備を褒められて嬉しそうだったデス」


「うん、誇らしげだった」


 犬と触れ合って上機嫌なルルに、紫蓮もコクリと頷いて同意する。

 そんな中で、ささらが小さく笑う。


「どうしたの?」


「いえね。この前、ルルさんが忍犬が欲しいと言っていたことを思い出したんですの」


「あははっ、忍犬か。確かに憧れるね」


 命子は、ほわほわーんと、クノイチな自分と共に月が照らすススキ野原を走る相棒を思い浮かべる。鎌を咥えた白い紀州犬だ。


「育てるとしたらなんの犬種を忍犬にするの?」


「ル・シアン・デ・ピレネーデース」


「知らん名前だ。どんな犬?」


 語感的にヨーロッパの犬かな、と首を傾げる命子に、ささらが教える。


「命子さん、日本だとグレート・ピレニーズと呼ばれている犬ですわ」


「でっかいよ! 完全に犬業界の重戦士じゃん!」


「んふふぅ。最終的には巻物を咥えて巨大化するデース!」


 やはりルルの考える忍者は、何かが違うと再認識した命子だった。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、とても励みになっています。

 誤字報告もとても助かっています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よ、妖怪段ボール返しだぁぁぁ!! え?ちょっと違う?
[一言] あっ、ダンボールさんだ 中身が蛇さんじゃなくて良かった、 丈夫なダンボールは、スニーキングしてくる蛇さんが欲しがりそうw グレート・ピレニーズ 名犬美しい懐かしい、ルルは赤○イメージだろう…
[一言] ルルの考える忍者はNINJA。忍犬はたぶん忍ばずにNINKENかな(あんま聞いた事無いな)。
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