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4-7 キャンプ

 本日もよろしくお願いします。

「ついに3層か」


 命子は感慨深くなった。

 本日何回目の感慨深さか分からない。感慨深いっ子である。


 最初のダンジョン行ではここで帰ってしまった。

 あの日、帰還する前に周りを見回した風景が、この場にはそっくりそのまま残っていた。

 1点だけ違うのは、頼もしい仲間がいることだ。頼もしすぎて、過剰戦力とも言う。


 軽いミーティングを終えて3層に突入して、新たな敵を倒しながら進む。

 この階層は、ところどころに水たまりがある迷路だ。


 ご新規さんは2体だ。

 小攻撃力の泥を飛ばしてくるオタマジャクシと、歌うように鳴くカエルである。

 この2体はペカトゥーと同じゲームに出てくる生物で、進化する前がオタマジャクシ、進化後がカエルだ。


 両者ともに、攻撃力は弱い。

 無装備で喰らっても『超痛い』で済む程度だ。


 しかし、2体には厄介な特性があった。

 オタマジャクシの泥は、服に付くと装備が重くなる。

 そして、カエルは……


「ケロケロ、ケロケロケローケッケロー!」


 早速、水たまりの上で体高30センチくらいの大きなカエルがケロケロやっていた。

 カエル嫌いでも大丈夫そうな可愛いフォルムだ。ただし、目だけは真っ赤でキレッキレ。


「声可愛っ!」


「夜中に鳴いていたらぐっすり眠れそうな声ですわね」


「ニッポンの声優さんの声みたいデスね」


「ルル、それだ!」


「でも吐く」


 先輩たちがキャッキャする中、後輩が切り捨てる。


 そう、紫蓮が言うように、この声を20秒ほど聞き続けた者は吐いてしまうのである。

 かなり酷い嘔吐に見舞われ、その酷さたるや胃の中が空になる勢いなのだとか。


 ただし、カエルの歌は、頭装備の防御力により聞いていられる猶予が長くなる。

 冒険者たちがつけているヘルメット『100/100』でも2分くらいは聞いていられる。ささらがつけているハチガネだったら完全シャットアウト。命子たちは防御力が低いウサミミやらタヌキミミなので、やはり2分くらいしか聞いていられない。紫蓮の仮面も頭装備なので適用されて、これもシャットアウトだ。


 なお、カエルさえ倒せば、嘔吐状態からケロッと抜け出せる。

 貰いゲロはするかもしれないが。


「カエルだけに、なっ!」


「い、いきなり、どうしたんですの命子さん!?」


「いや、なんとなく。ケロン!」


 そういうわけで、可愛いけれどすぐさま斬って捨てる。


「それにしても、みんな、カエル平気なんだね」


 ドロップしたカエルの皮を速攻で衣服に合成強化して、命子は尋ねた。

 テカテカした皮をリュックには入れておきたくなかったのだ。


「ワタクシは虫のほうが嫌いですわね。名前を口に出すのもおぞましいアレとかですわ」


「アイツは本当にしょうもねえ生き物だからね!」


「じゃあ虫が出てきたらワタシがみんなを守るデス! その代わりに蛾が出てきたら頼みマース」


「ルルは蛾が苦手なのか。風見町で生きていけないんじゃない?」


「夜の自動販売機には近づかないようにしてマス」


 夏の夜の風見町は超魔〇村だ。

 自動販売機は集会場になっている。


「紫蓮ちゃんは?」


「我は人食いザメ」


「得意なヤツのほうが珍しいわ!」


「我、虫とか爬虫類は全部平気。いきなり出てきたらビックリするけど、毒持ってたり咬まないなら素手で掴んで投げられる」


「超頼もしい。じゃあサメは?」


「サメはダメ。クマとかライオンならワンチャンあるように思えるけど、サメは無理ゲー。我がまだ前世の記憶を思い出す前にサメの映画見てダメになった。連鎖的に海も嫌いになった」


 そこはちっちゃい頃で良いんじゃないかな、と命子は思ったが言わぬが花。


「そういうメーコは何が苦手なんデスか?」


「私はささらも嫌いなヤツと……うーん、他には特にないな。紫蓮ちゃんと一緒でいきなり出てこられたらビックリするけど。まあ素手では掴めないね」


 G級では蟲系の魔物は出てきたという報告はないがF級からは出てくる場所もあるらしいので、こんな話をして備えていく。

 これにより、大きな蛾が出てきてもルルのフォローができるようになった。


 お話ししたり、新しいジョブを出現するために行動したりしながら、3層を越え、4層も越え、5層に辿り着く。


 2層では1組のパーティと出会ったけれど、3層からは誰とも出会わなかった。

 今日に限り、他のパーティはやはり1層での活動が長めなのだ。


 5層に到達して、ルルが早速敵と戦い始める。


 敵は、空飛ぶタツノオトシゴだ。

 自衛隊はこの敵をタツシャボンと名付けた。ネット界隈で、ネーミングセンスが息してないと酷評を浴びた。バネ風船よりはマシなのだが、名づけ親が美少女か国かの違いである。酷い話だ。


 タツシャボンがなぜシャボンなのかと言えば、この敵が口からシャボン玉を出すからだ。ドストレートなネーミングなわけだが、一発で分かるという利点は大きい。


 このシャボン玉には触れた者を、大きくノックバックさせる特性がある。ダメージは少ない。

 これは防御力で耐性を得られず、身体の重さや耐性スキルが必要になる。

 ゆえに、この敵よりも圧倒的に強い命子たちでも、喰らえばノックバックさせられてしまう。なお、ふっ飛ばされた後のリカバリングは、個人の身体能力に関わる。


 シャボン玉は2発までしか出せないようで、敵が1体ならばなんてことの無い敵だ。

 火の魔導書を借りているルルは、火弾を飛ばしてタツシャボンを光に還した。

 しかし、シャボン玉はすぐには消えずに残っていた。


「敵が多くなると厄介らしいから気をつけようね」


「ニャウ。猫蝙蝠を思い出しマスね」


「そう言えばそうだね」


 無限鳥居の洞窟に出現する猫蝙蝠が、同じようにノックバックをさせてくる敵だった。

 猫蝙蝠の場合は、鳴き声による全体ふっ飛ばし攻撃なので、タツシャボンのほうがまだ可愛い。


 敵を倒しつつ、5層のゲートが見える場所までやってきた。


「それでは今日はここでキャンプをします!」


 命子の号令で、一同は各々返事をした。


 時刻は、19時。

 休憩を挟みつつ移動したが、中々に速いペースでここまで来られた。


 5層のゲートは、50メートルほどの長い一本道の真ん中にある。

 命子たちはあえてその道の端っこにキャンプを張ることにした。この近くに良い感じの行き止まりがあるのだ。そこを色々な用途に使いたいと思っているのである。

 どんな用途かは秘密だ。


 余談だが、ダンジョン内でのおトイレは、日本のトイレ業界が総力を挙げて開発した『ムニカ・エール』を掛けることで、土くれになる。

 まあ命子たちには関係ないことだ。美少女はトイレとかいかないので。


 早速、みんなで手分けしてキャンプの準備をする。


「おトイレが完成したデス!」


 ルルとささらが行き止まりから帰ってきて報告した。

 ……きっと誰か他の人が使うために用意したのだろう。


「こっちもできたよー」


 命子と紫蓮もワンタッチテントを完成させた。

 物の2分程度で完成する小さな物だ。


 基本的に、G級ダンジョンは各階層ごとに気温が一定なので、テントすら必要ではない。

 これはいずれ潜ることになる高難易度でのキャンプの予行練習という側面が強かった。


 寝具は2セット。

 見張り2人と休みが2人という計画だ。


 このテントを見て一番ニコニコしたのは、ささらだった。

 こういうお泊りに少なくない憧れがあるのだ。


 もちろん他のメンバーもワクワクしている。

 友達とのキャンプでワクワクしないはずがない。


「おっと、敵だ」


 G級ダンジョンの敵はあまり積極的に移動しないが、全く移動しないわけではない。

 フラフラ当て所なく移動して、敵を見つけたら張り切る感じだ。


 やってきたのはこの階層に出るもう1体の敵、カラコロニワトリだ。

 やはり自衛隊が名付け、センスは賛否両論となっている。


 カラコロニワトリは、ベースが通常の倍ほどあるニワトリだ。

 特徴的なのは、歩くたびに頭の部分が赤べこのようにカラコロ動くこと。

 一歩進むごとに頭が揺れるため、移動は非常に遅い。


 近付く者に対して、この奇妙な動きをする首を1メートルほど伸ばして攻撃してくる。

 攻撃力は中々高く、弱い装備ならば離れて戦うのが丸である。


 命子が飛び出して斬撃を浴びせて光に還す。

 ドロップしたのは、100グラムほどの鶏肉だった。


 命子が戦っている間、紫蓮が見張りをして、ささらとルルはお料理を始める。


 取り出したるは無煙炭。

 火の魔導書の『着火』を使用して炭にあっという間に火を点ける。


 そのそばで、アルミホイルを4つ広げて、ダンジョン産の食材を並べる。


 風見ダンジョンで獲れる食材は、4つ。

 2層に出てくる根菜マンの根菜と、ヘビ肉。

 3層に出てくる歌カエルのモモ肉。

 5層に出てくるカラコロニワトリの肉。


 深層に行くともう1種類増えるが、5層までだとこれだけだ。

 各種肉ドロップは、無限鳥居のウサギ肉と同じように、不思議なラップで包まれていた。

 これらは自衛隊がきちんと検査して食用可と分かっている。


 ヘビ肉とカエルのモモ肉は、頑張って食ってみようぜ、ということになった。たくましい女子たちだ。


 それだけでは寂しいので、真空パックに詰めて持ってきたキノコと野菜も入れ、バターと塩こしょうを振る。

 食材を包み込んだアルミホイルを4つ、燃える炭のそばに置く。

 どんな味になるかは未知だ。


 主食は、パン。

 スープは、冷製スープ。


 レトルトカレーなどでも良かったのだが、鍋や網、五徳がかなりの荷物になるので、こんな風になった。


 敵が1体出てきたので、命子が飛び出て倒して戻る。


「できた?」


「メーコ、30秒も掛からず戻ってきたデスよ?」


「スピードスター命子と呼んで。あっ、でも超良い匂い!」


 ふわりとバターと肉汁が交じり合う香りが命子の鼻腔を強襲した。


「あの時は塩すら持っていませんでしたわね」


 ささらが真っ赤に燃える炭を見つめながら、無限鳥居の1日目を思い出して、言った。囲炉裏でウサギの肉を焼いて、しんみりしながら食べたのだ。


「だね。でも美味しかったよね」


「ニャウ、美味しかったデス。シレンもダンジョンご飯は食べたデスか?」


 ルルが尋ねると、紫蓮は首を横に振った。


「我、家から持っていったし、移動しながら食べられる物しか食べてない。お肉はドロップしたけどダンジョンのことがバレちゃいそうだから、全部、合成強化に使った」


「じゃあ初ダンジョン飯だね!」


「うん」


 アルミホイル焼きに詳しい人がいなかったので、少し多めに時間を取り、1つ開けてみる。


 3重にしたアルミホイルを丁寧に開くと、ふわりと湯気が立つ。

 食材から出た汁とバターが混じったソースが絡まった、ホカホカの肉と野菜がそこにあった。

 わぁっと4人の歓声が上がる。


「超美味そう! 他のも大丈夫かな?」


 他の3つも開けて、出来上がっていることを確認し、4人は夕食にした。


 命子はパクリとカラコロニワトリの肉を食べてみる。

 その瞬間、命子はカッと目を見開いた。


 そのまま、もきゅもきゅと口を動かす。

 濃厚な鶏の旨味とバターと塩コショウ、キノコ、そして未知の味……恐らく根菜の味が加わっている。

 ごっくん!


「なふー……プルンプルンのもきゅっもきゅやがな」


「命子さん命子さん、ヘビ肉も食べてくださいですわ!」


「ささらは最初に攻めたのかよ、どれどれ……う、うっまー!」


 味は淡白に思えるが食感がコリコリしていて面白い。

 以前手に入れた時は怖くて食べなかったけれど、まさかこれほど旨いとは思わなかった。


 紫蓮ちゃんは楽しんでるかしら、と命子がチラリと見ると、紫蓮はソースにパンを浸して食べていた。


「天才かよ紫蓮ちゃん」


 命子も早速真似してみると、これが実に良い。


「なくなっちゃったデス……」


 ルルがしゅんとして、言った。

 無言で食べていたので、早かった。


「鶏肉余ってるけど焼く?」


 命子がリュックサックからカラコロニワトリの肉を取り出した。


 結局ルルとささらが鶏肉を半分ずつ食べ、食事は終わる。


 こうして命子たちは、キャンプの前半を終えた。


 しかし、ダンジョンキャンプはここからが本番だ。

 見張りをするのも大切だけれど、寝る行為自体も重要な仕事になる。


 ドキドキして眠れない、ではダメなのだ。


 見張りを信用してストンと眠る。

 緊急事態が発生したら、すぐに起きる。

 そういう訓練もしなくてはならないのである。


 時刻は21時。

 光源はないけれど常に明るいダンジョンは、時間の感覚が狂いやすい。


 ダンジョンキャンプは続く。

 読んでくださりありがとうございます。

 キャンプの練習段階の子達です。


 ブクマ、評価、感想とても励みになってます。

 誤字報告も助かっています。

 ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
3周してやっと気付いたけど、もしかしてダンジョン産の食材って寄生虫とか細菌っていない? 鳥や豚(っぽいモンスター)の刺身が食えるのでは?
[気になる点] >ついに3層か まだ2層の最後の渦に入る前ですね? いまさら猫蝙蝠 一つ目の猫頭、こうもり翼の生えた猫じゃないんですねw
[一言] 『ムニカ・エール』 ネーミングセンスが実に○林製薬。
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