4-6 お姉ちゃん属性
本日もよろしくお願いします。
その後も何組かの冒険者と遭遇した。
多くのパーティが、とりあえず戦闘に慣れる、という目的で数時間行動する予定だと教えてくれた。
魔導書が出ればラッキー。実際に、出会ったうちの1組はすでに1冊ゲットしていた。
ソロで潜っている人は見なかった。
20組しか同じサーバーにならないわけだし、たまたまかなと思う命子だったが、なんてことはない、ソロは『ダンジョン活動予定書』の段階で落とされているのだ。
本日は冒険者誕生の日だ。実際に多くの冒険者が帰ってくるのは数日後になるが、なんにしても、人死はどうしても避けたいのが政府の考えだった。
よって、なんらかの手段でパーティを集めた者たちだけが入場しているわけだ。コミュ障には非常に辛い所業と言えた。
彼らは、戦闘に慣れたら順次6層を目指す。
このダンジョンの構成は、1から5層まで各層で魔物がダブらない。5層までで魔本は1層目にしか出ないのだ。
6層からは、1から5層の魔物の混成チームが出てくる感じだ。
翌日からはダンジョン体験があるために1層では宿泊してほしくないので、必然的に長期間魔本を狩るには6層以降で行う必要があるのだ。
それなら10層の妖精店で魔導書を買えという話だが、魔導書は1500ギニーする。
これはバネ風船の魔石で150体分だ。結構ハードなのである。
素材も売ればもう少し効率が良くなるが、素材は地上で売ってもいいし、地上産装備の合成強化にも使えるため、極力妖精店には売りたくないというのが冒険者たちの考えだった。
これは命子たちも同じ考えである。
無限鳥居の防具は、まだ合成強化マックスになっていないため、素材は貴重であった。
ただ、紫蓮の装備を整えてあげたいので、10層までに手に入った魔石と素材はかなり売ってしまうつもりでいる。
命子たちの探索は、地図を見てほぼ寄り道せずにゲートを目指す。
途中で簡単に確認できる行き止まりだけ、宝箱があるか確認しつつのダンジョン行だ。
途中で他のパーティと軽くお喋りしたため、ゲートへは2時間ちょいで到着した。
「よし、それでは次の階層に進みます。みなさん、魔物の情報は覚えていますか?」
こうして初見の敵が出てくる階層の前では、ミーティングが推奨されている。
購入したダンジョン情報冊子には、魔物情報も記載されているため確認は容易だ。
羊谷先生の質問に、ルルがニャウ! と元気に答えた。
「フサポヨと、根菜マンと、ヘビデース!」
「ルルさん、よく予習してきましたね。花丸あげちゃいます!」
「んふふふぅ!」
「ヘビは毒を持っていません。っていうか我々の防具を貫通するほどの攻撃力もありません。マジで練習用の敵です」
各々の返事を聞き、羊谷先生は満足そうに頷いた。
というわけで、青いゲートへ飛び込む。
背の低い草が茂る2層に到着すると、命子はすぅっと息を吸い込んだ。
1層にはない草の香りがする第2層。
「約束通り、私は帰ってきたぞ。2層目!」
「大体いつもあんなこと言ってマスね」
「いつも通りの遊びですわね」
ズビシィッとダンジョンの奥を指さして宣言する命子に、ささらとルルは苦笑いした。
早速探索を始め、歩きながら命子は説明する。
「先ほどもチラッと出てきましたが、とにかくヘビがクソウザい階層です。注意していきましょう」
「ヘビはボーナス。弱いのに防具の材料に重宝する」
命子の言葉に、紫蓮がそう言った。
「マジか。確かにヘビ皮は良いアイテムだと私も思うけど。いきなり出てくるとビクゥッてならない?」
「我の潜ったダンジョンにいた蛇は、フルオープンで戦いを挑んでくる奴だった」
「じゃあここをごらんなさい! ヘビが隠れる場所が上下左右たくさんあるんですからね! 気を付けないとダメですよ!」
「なぜ、ですます?」
「テンション上がっちゃってる感じ」
分かる、と答えた紫蓮は無表情でぴょーんとジャンプする。
命子もぴょーんとジャンプして応えた。
2人はダンジョンに入れてテンションバカ高だった。
「あっ、ヘビデース」
と、ルルが大ジャンプを使用して、天井の草むらに隠れていたヘビを忍者刀で切った。
光がぽわりと霧散して、ヘビ皮と魔石が落っこちてきた。
「ルルはね、ヘビを見つけるのが上手なんだよ」
無限鳥居のツチノコもそうだったが、ルルはヘビをすぐ見つけてキルしてくれる。
そう命子が教えてあげると、紫蓮はルルを見て、コクンと頷いた。
命子とは最初から打ち解けられた紫蓮だが、ささらとルルにはまだ距離がある感じだ。
ささらとルルの見た目のお姉さん力が全部悪い。命子? ……うん。
「出たフサポヨだ!」
命子は目をキラキラさせながら、ほらあれあれ、と指さして3人に教えてあげる。まるで風船を配っているウサちゃん着ぐるみをお母さんに報告する幼女のよう。
指さした先では背の低い草の中に、50センチくらいの緑色の物体が鎮座していた。
「ホントに茂みのつもりなんですわね」
「バレバレデース」
背丈が低い草の中にいるというのもそうだが、フサポヨは密度が高すぎた。普通の茂みのように内部に枝が無いのが分かってしまうのだ。遠目に見れば分からないかもしれないが。
このフサポヨは、命子が倒すことになった。
両腰に携えた神剣オルティナと魔剣ゼギアスをスラリと抜き放つ。
「ニトーリューするデスか?」
「うん。最終的には魔導書も合わせて四刀流。超強いの」
「ソレ絶対強い、かっこ確信デス」
「ルルさん、また変な表現してますわ。それもアニメですの?」
「ニャウ。今度一緒に見まショー」
せっかく2本剣を持っているわけだし、命子は最近練習を始めたのだ。
理由はカッコいいからだ。
【剣の術理】もあるため、中々に上手になってきていた。
とはいえ、利き手である右手は上手に使えるが、左手があまり上手くない。
左で振るうと体幹が大きくブレてしまう。覇王のようにズンと立って二刀を扱うことなどできず、左で振るうたびに慌ただしく腰を捻る感じだ。
筋力値は足りているはずなので、『左腕を使う慣れ』が必要なのだろう。
3メートルほどまで近づくと、フサポヨはビョンピョンとジャンプし始めた。
近づくまで活動しない凄い弱点を持っているが、活動を始めるとG級の割に移動がそこそこ速い。
すぐに攻撃圏内に入ったフサポヨに、命子は十字斬りを喰らわせる。この攻撃ならば身体がブレることはなく、見た目もクールだ。命子の必殺技だった。
大きく弾かれたフサポヨは、ポテンと転がりそのまま光に還った。
「ダメだ。イメトレのほうがまだ手ごたえがある」
命子はドロップした緑の苔を拾って、愚痴った。
「1体なのがいけませんわね。6層以降でないと運動にもならないかもしれませんわ」
「うん、そうかも」
贅沢な悩みではあったが、適正レベルでないダンジョンに入っている以上は仕方がないことだった。
「はぁ、強くなりすぎることがこれほど虚しいとは。強い奴を求めて彷徨うファイターの気持ちがわかるわぁ」
「その考えの行きつく先は、闇ぞ」
「ゾワッ!」
ささらは、こういうごっこ遊びはどこで習うのかしら、と2人のやりとりを見つめた。
「魔導書の扱いって難しいですわね」
ささらが魔導書でヘビを叩いて倒す。
本人の言う通り、ささらは魔導書の扱いが上手くなかった。
命子がすいすい使っているので簡単だと思っていたけれど、そんなことは全くなかった。
動かすことはできるのだが、敵にびっくりするほど当たらないのだ。
今だって4回やってやっと当たったくらいだ。
「使うのにセンスがいるみたいだね。『見習い魔導書士』になれば操作補正が入るからそこそこ上手になるけど」
「命子さんは最初から上手かったんですのよね?」
「うん。ビュンッてやってバシッて叩けたよ」
「空間把握能力が必要なのかしら?」
「教授が言うには、敵と魔導書の位置関係を俯瞰できる人が上手いんだって。ちょっと見てて」
そう言って、命子はペンを持ち、腕を真横に伸ばした。
そうして、視線を真っすぐ向けたまま、握っているペンの先を4メートルほど離れた紫蓮に向ける。
「ささら、ペンの後ろに立って、ペン先が紫蓮ちゃんをちゃんと指せてるか見てみて」
「どれどれ、はい、指せていますわね」
「魔導書で敵を叩けない人はこれができないらしいよ。私クラスになるとどこからでも正確に紫蓮ちゃんを指せちゃう」
命子はそれを証明するように、腕をゆっくりと大きく動かしてペンの先を調整していく。命子は本当に全ての角度で紫蓮へペン先を向けた。
試しに3人がやってみると、ささらとルルは角度がズレ、紫蓮は割と上手だった。
命子と紫蓮ができて、ささらとルルができない理由は、中二病にあった。
命子と紫蓮は、心眼を極めるため、小学校5年生辺りから目隠しして部屋の中を移動する訓練などをしていたのだ。
それが月日を越え、特殊な能力として覚醒していた。
「まあ、あとは慣れだよ慣れ。それより3人ともジョブ出た?」
「あっ、ありマス!」
3人は『見習い魔導書士』が出たようだった。
これで一先ずジョブを変え、【魔導書解放】で水弾や火弾を使って『見習い火・水魔法使い』を出現させておく。
なぜこんなことするかと言えば、冒険者の武器携帯についての法律ができたからだ。
魔導書すら持ち運びに注意が必要になったので、命子たちは武器を常に携帯することがなくなった。
だから、ジョブチェンジすればすぐに使えるようになる『魔法』という敵を倒す手段を作っておくのである。
もちろん、魔法系をスキル化して、魔法剣士みたいな感じになっても良い。
他にも命子たちは色々と考えている。
例えば、徒手空拳で戦って『見習い拳闘士』を出現させ、パンチでも戦えるようにしておくとか。
例えば、さっき拾ったヘビ皮をいつも持ち運べる物に加工して、緊急時の合成強化素材にしたいと思っている。そうしておけば、どんな服を着ていてもすぐにある程度の強さを持った防具ができるからだ。
そんな風にして、命子たちは色々と考えているのである。
その後、早速『見習い魔導書士』にジョブチェンジした3人は、【魔導書解放】で魔法をガンガン使っていく。
これもやはり当てるのが難しいらしく、ささらとルルは専ら自分の視線上に魔導書と敵を配置して魔法を使った。銃みたいに照準を合わせた撃ち方だ。
紫蓮も最初のうちはそうやって魔法を使っていたけれど、慣れてきたら少しずつ視線上から魔導書を離していき、3人の中で一番早く斜めからの射撃を体得した。
「わぁ、紫蓮さんは上手ですわね?」
「え、う、うん。我、ちょっと得意かも」
「ワタシたちは下手っぴデース! シレンは凄いデスね!」
「そ、そうでもないけど。ちょっと得意なだけかも」
ささらとルルに褒められて、もじもじテレテレする紫蓮。
3人のそんなやりとりを見つめ、命子はふふんと得意になった。
やはり紫蓮ちゃんが懐いているのは自分がお姉ちゃん属性だからだろう、と。
そう、ささらとルルは一人っ子であった。
ガチお姉ちゃんなのは命子だけなのである。
だから、紫蓮ちゃんは自分に気安く接することができるのだろうと、そう命子は思ったのだ。
君たちとは滲み出るお姉ちゃん力が違うのだよ。
「ささらさんとルルさんも、きっと練習すれば羊谷命子みたいに上手くなる」
真相を知るのは紫蓮のみである。
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