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3-6 教授とのお話 2

 本日もよろしくお願いします。

 教授の下へ来ていた命子はクッキーをもむもむして、次の話題に移った。


「そうそう、地球儀で新しいダンジョンは見つかりましたか?」


 命子は後日地球儀の寄贈式典に参加する予定だが、その時に渡すのはあくまでレプリカだ。

 しかし、その式典を待つような悠長なことはしていられないので、本物の地球儀はすでに設置して稼働している。


「たくさん見つかったよ。日本ではなんと30件プラスされた」


「よっしゃー、いっぱい冒険できるぜ! ……ありすぎじゃないですか? 大丈夫なんですか」


「まあなるようにしかならないさ。猶予が数年あるなら、そんなこと言ったら怒られちゃうけどね。でね、30件の内、25件は山の中で、5件は建物の中だったよ」


「海にはないんですか?」


「うん、今のところ海にはないね。ただ、母なる海というくらいだからね、生物の成長を促す装置を海に作らないのは不自然だ。きっとこれから増えるんだろうと考えられている」


「ダンジョンは増える……」


「うん。海だけではなく地上も例外ではない可能性が高いね」


 命子は、これはみんな死ぬかもな、と世の無情を嘆いた。

 しかし、まあいざとなれば大切な人だけ連れて風見ダンジョンで暮らせばいいや、とすぐに開き直った。妖精の店もあるので食料確保もできるし、ぶっちゃけ余裕だ。それに割と楽しそう。G級ダンジョンにまで強い魔物が出てきたら、その時はその時だ。


「そうそう、命子君には残念なお知らせがある。どうやら君は世界で初めてダンジョンから帰還した子ではなかったようなんだ」


「え、他に私みたいな奴がいたんですか?」


「建物の中に5件見つかったって言っただろう? その中の4件は色付きで居住者はいなかった。残りの1件はG級ダンジョンだったんだけど、プライベートダンジョンとして使用されていたんだ」


「なにそのスーパー羨ましい施設!」


 目を見開いて驚く命子に、教授はくつくつと笑った。


「ちょっと変わり者の女の子でね。年齢は14歳。自分の家の蔵で読書するのが日課。あまり人が好きじゃないみたいで、自分家の蔵の中でいつも本を読んでいたみたいなんだよ」


「それなんて主人公ですか?」


「で、この子は君みたいに地球さんがレベルアップした直後に、蔵の中にできたダンジョンへ落ちたみたいなんだ。運よく帰ってこられて、そのまま毎日のように潜り続けたそうだよ。で、1日目には戻ってきていたって証言したようだね」


「あの渦の2択トラップをかいくぐるとはやりおるな。けれど、はぁ、私がこんなに苦労してダンジョン開放を促しているってのに、そんな贅沢を……」


「で、ここからが面白いんだけどね。判明しているだけでも、こういう子がね、世界には他に3人いたんだよ。みんな通報せずに、友達やらを誘ってプライベートダンジョンにしていたんだ」


「キレそうなうえに超楽しそう! ひぅううう、私もお家に欲しかったな」


 でも、家にダンジョンができても、結局は通報しそうだなとも思う。

 いやしかし、ダンジョンは楽しいし……どうだろうか。

 命子はプライベートダンジョンという胸熱な施設に想いを馳せた。


「こういう子供に限らず、誰も来ないような場所で秘匿していた者は割といたようでね。無茶して帰らなかった者もいれば、虹色のまま保持して、ウサギ方式を知ってからプライベートダンジョン化させた者もいたようだよ。まあ、全員が地球儀によってバレちゃったわけだけど」


「ありゃ、地球儀を持って帰ったのは悪いことをしたかな?」


「万人に受け入れられる行動なんてありはしないよ。君が気にする必要なんてないさ」


 命子はコクンと頷いた。

 まあ、さらさら気にするつもりはなかったのだけど、教授に優しいことを言ってもらえて嬉しかった。


「それにしても、プライベートダンジョンか。良いな。大告知直後に落ちた子たちはみんな私と同じくらいの歳なんですか?」


「不思議とね、全員が15歳前後の女の子だったんだよ。1人は君並みに弱そうな子だったんだけど、近くにいたお兄さんがすぐに追いかけて、2人でダンジョン2層目から帰ってきたらしいよ」


「あ、その子たちは2択を間違えたんですね」


 命子はうんうんと頷いた。

 やはりアレは引っかかってもらわないとこちらとしても困ってしまう。何が困るのかはわからないが。


「で、プライベートダンジョン化して、何層まで降りたんですか? レベルは?」


「日本の女の子は、5層まで降りたそうだね。レベルは6。他の子は分からないね」


「レベル6ですか。少ないですね」


「G級ダンジョンは、レベル10までしか正常に上がらないんだよ。5まではかなり上がりやすいんだけど、それ以降はがくんとスピードが落ちる。レベル10以降は、恐ろしく効率が悪くなっていると予想されているね」


 へぇと命子はG級ダンジョンの経験値の少なさを初めて知った。

 無限鳥居では、ポンポンレベルが上がったのに。とはいえ、無限鳥居でも敵が3体になってからレベルアップが加速したので、そういうものなのかなと納得する。


「それにしても、そんなことをして、カルマは減らないんですか?」


「さて、それは分からないね。その蔵で読書していた女の子は日本人だし、日本は現状でカルマの開示を強要できるような法律はないからね。少なくとも、いきなりマイナスになるような減算はなかったはずだよ。レベルも正常に上がっているわけだし。他の子どもについては他国だからそこまで多くの情報はないね」


「なるほど」


「情報が回ってこないのは君も原因の一つさ。君はちゃんと情報をくれたのに、自分の国の子供はプライベートダンジョンにしてましたってなると、国としても言いたくないのは明らかだからね。下手をすれば、そういう子供がいたというのを秘匿している国だってあるかもしれないね。それも地球儀が出現するずっと前からね」


 秘匿されていれば、当然、命子のような子供は増える。

 下手をすれば10人、20人と居てもおかしくはない、と教授は続けた。


「私の場合はなりゆきでしたけどね。たぶん、プライベートダンジョンをゲットしていたら選択肢として秘匿もあり得ましたよ。だってダンジョンって楽しいんだもん」


「ダンジョンは楽しい、か……そのセリフ、蔵で落ちた女の子も言っていたそうだよ。他の国の子供たちも秘匿しちゃうくらい、ダンジョンに魅せられてしまったのかもね。普通は怖いって思いそうなものだけど、実に不思議だ」


 教授は、ふふっ、と笑ってお茶を啜った。

 命子はコテンと首を傾げて、そんな教授を見つめた。




 良い時間になったので、命子は教授と一緒にラーメンを食べに外に出た。


 家に、今日ご飯いらない、と電話を入れる。

 言うのが遅いとキレられた。

 だけど、教授とご飯食べたいし……

 中高校生にはよくある話である。


 白衣がやたら目立つ教授と夜道を歩く。

 ガードレールの向こう側で走る車のヘッドライトが、2人の影を壁や歩道に走らせる。


「地球さんの大告知には色々秘密がありそうだよ」


 教授の言葉に、命子は地面に視線を落としてしゃがみ込むと、ペシッとアスファルトをぶっ叩いた。


「やい、秘密があるのか、地球さん!」


 多くの人々が試しても返事がなかったように、命子にもやはり地球さんは何も答えない。


「ふふっ、それで返事をしてくれたら苦労はないさ」


「教授も試したんですか?」


「もちろん。きっと研究者なら誰もが一度はやってるよ」


 命子は自分よりも一回りもお姉さんな教授が、大地にしゃがみこんで語り掛けている姿を想像し、萌えた。

 教授の話が本当なら、きっとお爺さん教授も同じことをしたのだろう。ドリルで穴とか開けたりして。やはり萌える。


「それで、どんな秘密が隠されているんですか?」


「多くを語らないだけで、地球さんは隠しているつもりはないかもしれないけれどね。そうだな、個人的には動物が我々と同じことを言われていたのかが気になるね」


「え、違うことを言われてたんですか?」


「分からないよ。でもね、日本人と外国人は別の言語で説明されていたんだよ、同時にね。そんなことができる以上、動物たちに別の内容を話していても何も不思議じゃないと思わないかい?」


「確かにそうですね」


「実際に、スキルを得たにしては動物たちは凄く大人しい。それに人に近寄ってくるようになった。それが何故かと考えた時、地球さんに別のことを吹き込まれていたから、と思えないかな? そもそも、我々と同じことを言われても動物たちには、きっと分からなかっただろうからね」


「ふむ。もしそうなら、どんなことを言われたんでしょうね」


「さてね。人間と協力してみなさいとか、人間からやり方を学びなさいとか、あるいは防具を作ってもらいなさいかもしれない。銃も無くなって、彼らは人間に近寄りやすくなったからね」


 あのツキノワグマも、もしかしたらそのいずれかを望んでいたのかな、なんて命子は思った。


「最悪、すぐに人間は滅ぶから少し我慢してね、なんて言われているかもしれない」


「黒幕は地球さんってパターンですね。相手がでかすぎて詰みですよ、完全に」


「ふふっ、母なる大地に嫌われていたら、それはもう種としてダメだね」


「でも、ダンジョンの渦で初見殺ししちゃうし、そういう可能性もあるんですね」


「初見殺しについてはどうだろうね。ダンジョンの起動に生物の侵入が不可欠ならば、地球さんに思うところはないだろう。仮に命子君が蟻んこを飼っていたとして、一匹を犠牲にすれば、他の蟻が凄い進化をする不思議なゲートを作成できるとすれば、どうする?」


「もちろんぶっ殺します」


「だろう? とはいえ、この初見殺しにも何か意味があるのかもしれない。何もないのかもしれない。何もかもが未だ想像の話さ」


「なるほどなぁ」


 命子は、自分が人間目線でダンジョンの渦の初見殺しを語っていたことに気づいた。

 人からすれば尊い人命が失われたけれど、地球さんからすれば小さな小さな犠牲だったのかもしれない。


 そんな話をしているとラーメン屋についた。

 命子たちは角の席に座り、2人とも魚介豚骨ラーメンを頼む。教授は麺少なめだ。


「さっきの続きだけど。地球さんの大告知の中でも、『先輩のお星さまたち』という発言は研究者の間でも注目されているんだよ」


「言われてみれば、凄い発言ですね」


「だろう? この宇宙のことなのか、物語で語られるような異世界のことなのか。カルマ式ステータスシステムが採用されているという話だし、それを扱える知的生命体がいる可能性は高い。そんな存在とコンタクトが取れれば、現状を打開する知恵を貸してもらえるかもしれない」


「でもそれじゃあつまらないですよ。自分たちでやりたいな。まあいっぱい死んじゃうなら答えを教えてもらったほうがいいけど」


「ふふっ、君らしいね」


 教授は命子の頭を撫でた。

 命子はにこぉっと笑い、教授を見上げる。

 教授も笑い、問いかける。

 

「先輩方のお星さまたちの世界には、ダンジョンはあるのかな?」


「きっとありますよ。凄くファンタジーな世界なんですよ」


「うん。なら、先輩方はダンジョンをどんな風に運用しているのかな。地球さんはそこからダンジョンの種を貰ったのかもしれない。じゃあダンジョンの中でお店をしている妖精はなんだろう。命子君が持って帰ってきたレシピの製作方法はどこから出てきたのか。いろいろ想像は尽きないね」


「はぁ、いっぱい考えるんですね」


「それが私たちの生態だからね」


「そういうのは全部解けそうですか?」


「これから100年何も分からないままかもしれないし、明日には紅ショウガの研究者がマナの取り扱い方法を発見するかもしれない」


 教授は、カウンターの上に置いてある紅ショウガのケースを見つめて言った。


「いずれにしても、世界の理が大きく変わり、ウキウキしていない研究者はいないだろうね」


「まるでダンジョンが好きな私みたいですね」


「ふふっ、そうかもしれないね」


 話しているうちに、ラーメンが仕上がった。


「へいおまち! 魚介豚骨、麺少なめ!」


 店主は見た目が小食っぽい命子をロックオンしていたが、それは教授のラーメンだ。

 命子が手の平を教授の前のカウンターに向け、店主は、コクンと頷いて静かに配膳する。


 そうして命子のほうには、並盛りだ。

 命子も昔はあまり食べられなかったけれど、修行を始めてからモリモリ食べるようになった。


「アチッアチッ」


 教授がアチアチしながら食べる。

 命子は萌えた。


「教授、これで食べると良いですよ」


「おっきいスプーンか。賢いね、命子君は」


「れんげですけどね」


 この人は、きっと興味がないことは名前すら覚えないタイプなんだろうと命子は思った。

 

 れんげに麺を乗せた教授は、過剰にふぅふぅして食べる。

 命子は凄くお世話したくなってきた。


「教授、美味しいですか?」


「うん。美味しい」


「良かったですね」


「うん」


「髪がラーメンに入っちゃいますよ。ほらこうしないと」


「ありがとう命子君」


 さっきまで色々語ってくれていた人とは思えない子供っぽい姿に、命子は激しく萌えるのだった。


 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想ありがとうございます。

 誤字報告も大変助かっております。

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