3-4 新ジョブ
本日もよろしくお願いします。
命子は机に向かって、いつものように【魔導書作成・入門編】をチマチマとこなしていた。
この修行も、最初のうちは線もよれよれで1ページ写し描くのに時間が掛かっていたけれど、真剣に打ち込めば打ち込むほどに、描写力や描写速度が上がっていった。最近の描写なんてかなりカッコいい。
【魔導書作成・入門編】も一種の成長促進系スキルなのだろうと、命子は考えていた。
本日で修行を始めたあの日から通算して、3冊目のノートを図形や記号で埋めた。
これにより魔導書を1冊まるまる複写したことになる。
パラパラとめくり、我ながらカッコいいノートが出来上がったものだぜ、と命子は思う。
念のために装備する意思を込めるが、魔導書にはなっていなかった。力を宿すには別の要因が必要なのだろう。
さて、寝ようかな、という段になり、命子はこれまたいつものように、ステータスを開く。
「わぁ、やった!」
命子は思わず歓声を漏らした。
【魔導書作成・入門編】がスキル化されていたのだ。
条件はなんだったのかな、と考えた時、3つパッと思いついた。
1つは1冊まるまる描写したこと。
1つは、複写能力が非常に高くなったこと。これが一番関係がありそうに思えた。
最後の1つは、無限鳥居で4日間戦い抜いたこと。あの4日間で魔導書に対する理解がとても深まったように思えるのだ。
なにはともあれ、これにより、命子は『見習い魔導書士』の全てのジョブスキルを取得したのだった。
ステータス画面のスキル欄はこうなっていた。
―――――
・スキル
【合成強化】
【見習い魔導書士セット】
・ジョブスキル
なし
―――――
そう、全てのスキルを取得するとスキルが統合されることを発見した。
そうして、【見習い魔導書士セット】がどういうものかスキルに問いかけてみると、プチピシャゴーンが来た。
・【見習い魔導書士セット】
魔導書を使用して戦う者が修めるスキルのセット。
魔導書での戦闘にプラス補正が掛る。
とあった。
さらに、ボーナスとして【魔導書装備時、魔攻アップ 小】がほんのちょっとだけプラス補正されたと理解する。
「よぉーし、じゃあ次はなんのジョブに就こうかな」
命子は早速ジョブを開いた。
―――――――
《一般系ジョブ》
・女子高校生 ・ロリ高校生 ・修行者
・英雄
《見習い系ジョブ》※頭に『見習い』がつく。
・合成強化士 ・記録士 ・剣士 ・狂戦士
・水魔法使い ・料理人 ・火魔法使い
・指揮官
《派生ジョブ》
・魔導書士 ・魔導書作成士
《特殊ジョブ》
・冒険者
―――――――
「ふむふむ」
結構新しい選択肢が増えている。
命子は冒険手帳に自分が成れるジョブを記載していく。
修行者は、いつも修行しているせいだろう。
英雄は、地球儀の件などがあるからか。
見習い水・火魔法使いは、魔導書で魔法を使っていたからとしか思えない。
見習い料理人は、無限鳥居のセーフティゾーンで何度も料理をしたからか。
見習い指揮官は、無限鳥居で指揮官のまねごとをしていたからだろう。
魔導書士は、見習い魔導書士を終えたからだろう。
魔導書作成士は意外だった。てっきり、魔導書士が次の魔導書作成の修行をするものだと思っていたけれど、どうやらこうやって派生するらしい。
そして、冒険者。
これはダンジョンをクリアした者が就けるジョブだ。
「これは難しいね」
正道は『魔導書士』。
きっと今以上に魔法が強くなるだろう。
『魔導書作成士』も良いと思える。
魔導書が作成できれば、色々な人に魔導書を渡せる。
特にささらやルルが一個持っているだけでも、攻撃の幅が広がってとても良いだろう。
一般ジョブの『修行者』や『英雄』も気になる。
ただ、一般系ジョブはよく分からない。
『見習い剣士』も良いだろう。
命子の戦闘スタイルは、オールラウンド。しかし、接近戦はそこまで強くない。
ささらやルルを見ていると、『術理』系の強さがよく分かる。
『見習い魔法使い』系も良い。
魔導書を2つ装備して、さらに自分も魔法を使うのだ。魔法の超連打戦法。カッコいい。
『見習い合成強化士』だって忘れてはいない。
【合成強化】系は、冒険に必須だ。
コイツがあるとないとでは、リュックの圧迫率が大きく異なる。
命子が陥った2回のダンジョン行のように装備もろくにない状態だったら、生死すら分けてしまう。
「だけどやっぱり、これだね」
冒険者。
ダンジョンクリア者だけが就けるジョブだ。
絶対に良いスキルが揃っているはず。
何よりも、世界で初めて冒険者になるという栄誉がここにある。
「ウォオオオ、私は今日から冒険者になるぞぉー!」
22時10分。
良い時間に命子の宣言が轟いた。
冒険者になった。
――――――
羊谷命子
15歳
ジョブ 冒険者
レベル 15
カルマ +11852《ジョブマスター! +20》
魔力量 119/119
・スキル
【合成強化】
【見習い魔導書士セット】
・ジョブスキル
【武具お手入れ】
【アイテムボックス】
【スタミナアップ 中】
【生存本能】
【〇〇の術理】※選択可
【冒険者の身体つき】
・称号
【地球さんを祝福した者】
【1層踏破者・ソロ】
【修羅級・真なる無限鳥居のダンジョンへの挑戦権】
【冒険者】
【世界初ダンジョンクリア】
―――――――
「ア、アイテムボックスがある!」
命子はチートを手に入れた。
もう寝よっと、というタイミングでのジョブチェンジであったが、こんなことになって眠れるはずもない。
マジかよマジかよ、と命子は慌ててスキルについて己の内面に問いかける。
ピシャゴーン!
久々に強烈な衝撃が命子の身体を駆け巡る。
命子はホケーっとして、ジョブスキルの内容を把握していった。
「くっ、強烈だったな」
命子は頭を振るい、冒険手帳に今得た情報をメモしていく。
――――
・【武具お手入れ】
魔石を使用し、武具の耐久度を回復する。
・【スタミナアップ 中】
スタミナがアップする。持久力が上がる。疲れにくくなる。
・【生存本能】
危険に関わる勘が強くなる。
・【〇〇の術理】※選択可
何かしらの術理を体得できる。選択が可能。
・【冒険者の身体つき】
冒険者に向いた成長補正が加わる。
・【アイテムボックス】
自分の持つ収納用品1つの容量を変質させる。
最大で容積1立方メートルまで収納が可能。
入れ口は広がらないため、入口以上の大きさの物は入らない。
このルールを満たしていれば、なんでも収納可能。
どんなに詰め込んでも、収納用品は過度に膨張することはない。
収納用品に掛かる内部からの負担は、最大で20キログラムを超えることがなくなる。ただし、内部に存在する物はしっかりと重さが加わっている。
中に物が大量に入った状態でアイテムボックスを解除すると、場合によっては収納用品が破裂したり、収納物が破損する。
外部損傷が起こると、物が零れ落ちたり、損傷具合によってはアイテムボックスが破裂する。
―――――
「注目はやっぱりアイテムボックスだね。アイテムボックスっていうか、入れ物を空間拡張するスキルなわけね」
命子は早速実験してみた。
いつも使っているリュックサックをアイテムボックス化すると、魔力が常時10持っていかれた。今の命子にはそこまで痛くないが、重要なことなのでメモだ。
ちなみに、『冒険者』自体は魔力が19持っていかれた。
たぶん、【スタミナアップ 中】がかなり重いのだろう。
アイテムボックス起動でトータル29だ。普通の人なら魔力が枯渇する。
命子はお気に入りのぬいぐるみであるクマーヌ♀を入れてから中を覗くと、いつも通りのリュックサックの空間にクマーヌがちょこんと入っていた。
「ぬぬっ、何も変わってないぞ?」
首を傾げながら、ある程度物を入れてから覗いてみる。
すると明らかに空間が広くなっており、クマーヌはすでに頭しか見えない。
「ほっほう」
気を良くした命子はどんどんものを入れていく。
そうして中身を覗いてみると、ごっちゃごっちゃになって入っていた。
明らかにリュックサックの内容量を超えた品を入れたが、本当に1立方メートルあるか分からない。なにせ、リュックサックの入り口近くまで物が詰まっているからだ。
「ヤバい!」
『凄い』を意味するヤバいではない。文字通りヤバかった。
何がヤバいかと言えば、見える範囲のニギニギボールが潰れているのだ。
つまり下のほうにあるクマーヌや漫画本は……変な痕がついちゃう!
命子は慌てて中身を取り出した。
ここで命子は気づく。
このスキルは、ラノベにあるように念じたら目当ての物が手に収まるスキルではないということに。
詰めた順に物品は下へ行くので、取り出すならば上の物から順に取り出していかなくてはならないのだ。
肝心な時に道具が見つからない青いロボよろしく、詰めた物を上から順番に取り出していく。
物が減れば減っただけ、拡張空間は縮小していき、常に手の届く範囲に物がある。
「す、スベザーンッ!」
『全ては俺の斬撃で無に還る 2巻』が、表紙から数ページに渡って酷く折れてしまっている。表紙に描かれたヒロインの顔面が斬撃を喰らった感じである。作中なら無に還る2秒前だ。
せっかくお小遣いで買ったのに。
命子は、ダンジョンで相当稼いだことを忘れていた。未だ、月4000円のお小遣い制の気分なのだ。
「あ、あ、あわぁ、く、クマーヌ……っ!」
さらに、一番初めに入れたぬいぐるみ・クマーヌ♀に変な痕がついてしまっていた。
中学の頃、アニメ映画を見に行った帰りに立ち寄ったゲーセンのUFOキャッチャーで、半べそをかきながらゲットした宝物なのに。
「こんなのって、こんなのってないよ……!」
命子は涙目になりながら、クマーヌ♀のボディをモニュモニュして綿を均一にした。
普通に復活してくれた。
「確実に使えるスキル……だけど、だけど、これはチートとは言えない!」
確かにリュックの容量が1立方メートルになるのは素晴らしいけれど、異次元空間に隔離するわけでもなし。中に入れた物は普通に潰れ、取り出しも完全に手動。
入口の広さよりも大きな物は入れられないし、最大で20キログラムの重さになる以上は、収納用品の形状も自然と丈夫な物にしなくてはならない。
探索に滅茶苦茶使えるのは間違いではないが、ラノベで謳われているようなチートでは断じてない。
「ふぐぅ……寝よ」
命子は、ふて寝することにした。
読んでくださりありがとうございます。
申し訳ありませんが、明日はお休みさせていただきます。
ちょろちょろ休ませてもらうことがあると思いますが、ご容赦ください。
これに伴い、毎日更新タグは外させていただきます。
どうぞ、今後ともお付き合いのほどよろしくお願いします!