14章閑話 卒業パーティ
本日もよろしくお願いします。
卒業式を終えた修行部部長コンちゃんは、最後の制服姿で関係各所に挨拶回りをした。
風見町の青空修行道場はもちろんのこと、風女が雇っている弁護士や税理士事務所、専属のスタッフがいるビル、地元の修行場など、女子高生が卒業しただけなのに行くところはとても多い。
一大コンテンツを1年間引っ張った経験は、多くの人と関わりを持たせたのだ。
これは全国の高校にある修行部でも同じで、特に風女と関わった六花橋や聖姫森などのお嬢様学校はもっと挨拶回りが多かった。それは修行部が一大コンテンツとなった証明であり、多くの大人が関わって経済を回していることが窺えた。
コンちゃんと付き添いの生徒たちはどこでも大変に労わられ、その卒業を祝福されつつも惜しまれた。
その後に仲間内でお食事会をして、翌日のお昼には卒業式を行なった風女の体育館で卒業パーティが開かれた。さすがに体育館だけでは手狭なので、体育館の外にも席が用意されている。これらの席は、学校の机にテーブルクロスをかけたものだ。
学生の身ながら大変に稼いだ修行部だが、使うべき時にはしっかり使う。この卒業パーティもそうだ。全校生徒分のケータリングを外注した、ビュッフェパーティになっている。
専属の撮影スタッフさんもスタンバイして、卒業パーティを撮影してくれている。
コンちゃんは元生徒会長のチーちゃんと壇上に上がり、チーちゃんのあとにご挨拶。
「えー、卒業しましたね! 昨日は制服でお別れをしましたが、今日はさっそくみんなオシャレして来やがってな!」
コンちゃんの言葉に、生徒たちはドッと沸いた。
本日は卒業生も在校生も、みんな制服ではなくオシャレをしてやってきていた。
ダンジョン、配信、防具販売、グッズ展開と、この2年間で各人が程度の差はあれ荒稼ぎした。そのお金をオシャレに使う子は多かった。
そんな女子たちのオシャレは人それぞれに自分に合ったコーデをしているのだが、共通点が1つだけある。ネイルアートをしている子も多いのだが、ロングネイルをしている子は誰1人いないのだ。旧時代に物凄く流行したロングネイルだが、ダンジョンと修行が流行ったことで、あっという間に廃れてしまったのである。
「今日は素敵なゲストさんが来てくださいました。学園理事長と校長先生、修行部のアネゴ先生や滝沢先生ならびに学校の先生方——そして、先輩からは縁お姉様方が来てくださいました。ありがとうございます。命子ちゃん、来年の卒業パーティには私を呼ぶんだぞ」
笑いが上がる中、命子は了解の意味で笑いながら頷いた。
「また、本日提供される料理に使われている素材の一部は、後輩たちが私たちのために集めてくれたものを、レストランの方々が調理してくれたものです。全部ありがたく食べるように! 席も後ろや体育館の外にも余分に用意してくれているから、今の席以外に使いたい場合は遠慮なく使わせてもらってね」
素材はダンジョン食品衛生法に則ってちゃんとした手続きで提供されたものだ。安心!
「さて、言いたいことは昨日全部言ったから、長い挨拶はなしにしようと思う。みんな、それじゃあ乾杯をするから、グラスを持って」
コンちゃんの音頭で、みんながグラスを持つ。
「それでは高校3年間お疲れさまでした」
元生徒会長のチーちゃんがそう言い、コンちゃんが続ける。
「そして、私たちの今後の躍進を祈願して」
「「乾杯!」」
「「「かんぱぁい!」」」
コンちゃんとチーちゃんが会場に向かってグラスを掲げ、卒業生たちも乾杯する。
それを合図にして、待ってましたとばかりにスタッフさんが料理のフタを開いていく。
「料理を取る時は順路を守ってくださいねー! 逆走しないように!」
司会担当の新生徒会長からそんな注意喚起が飛ぶ中、命子たちは首を伸ばしてどのくらい料理があるのか見てみるが、全校生徒を食べさせるだけあって、相当な量だ。
「あれがタダって本当でゴザル?」
「うん。修行部から費用は出てるんだ。さすが荒稼ぎしただけあるよねー」
「さっそく行くデス!?」
「ルルさん、わたくしたちは脇役なのですから、一番に取りに行くなんてメッですわ」
「にゃー!」
「そうだぞ、ルル!」
「メーコもいま立ち上がろうとしてたデス!」
「座り直しただけだし」
「ウソばっかデス! んーっ!」
先輩に譲ってお行儀良く待っていると、コンちゃんがやってきた。
「ほら、みんな。遠慮しないで一緒に取りに行こう!」
「にゃっふぅ! 行くデス!」
コンちゃんの言葉にルルが率先して立ち上がったことで、クラスメイトたちも立ち上がる。
ビュッフェは料理を取りに行く時も交流が生まれるものだ。卒業生に交じって在校生やOGが料理を取りに行くのは意味がある。
各々が親しい先輩を探して一緒に料理を取りに行き、そのままテラス席や予備の席で一緒に食べる。
それは命子たちも同じだ。卒業生のためのパーティなのだから、これからも一緒のささらたちと楽しんでも仕方ない。
命子はひとまずコンちゃんや石音先輩と一緒に食事をすることになった。
命子たちが席に座る頃にはそこら中で食事が始まっており、ダンジョン食材を使った料理に絶賛の声が上がっていた。
「このお肉うんまー! 縁先輩、この肉めっちゃ美味いですよ」
「んっ、ホントだ! さすがプロね」
「えっ、このお豆腐に乗ってるあんかけのカニって、もしかして平家ガニ?」
「あ、コンちゃん部長、それ、たぶん私たちが取ってきたヤツですよ」
「平家ガニを提供してくれたの? ヤバイな命子ちゃん」
「何を提供するかの会議で、ささらが『カニですわ』つってやる気になったんですよ」
「ささらちゃんってカニが好きなんだっけ?」
「そうです。だから、みんなに食べてもらいたかったんでしょうね」
「可愛いヤツよのう」
命子たちはこの日のために、鎌倉ダンジョンのボス・平家ガニを倒してきた。
その提案者であるささらは、別の先輩や在校生たちと一緒にお話しながら食事を楽しんでいる。
平家ガニは高級食材として極めて人気が高く、現在では冒険者協会でセリに出された時の価格が600万円を下回ることはなかった。それひとつでたくさんの料理が提供できるため、マグロのような値付けになっている。
高値になる理由は他にもあり、ボスドロップの確率が徐々に減っていくため、専属で取ってくる冒険者が存在しない点が挙げられる。ひとつのパーティで精々5回くらいまでしか市場に卸さないのだ。それ以上の提供になると確率が低くて、ワンランク上のダンジョンでザコをたくさん倒した方が長い目で見れば稼げてしまう。
そんなふうに、在校生たちが各地で集めてきたダンジョン素材を使った料理に舌鼓を打っていると、撮影スタッフさんがやってきた。
命子たちは口をもぐもぐしながらピースして、サービスしておく。この映像は公式チャンネルで生放送されており、新旧3代の部長が勢ぞろいした映像に視聴者は大変な盛り上がりを見せた。
そんな撮影も次へと移り、命子は話を変えた。
「縁先輩、最近どうですか? 稼いでます?」
「そりゃもうがっぽがっぽよ」
「それじゃあコンちゃん部長が入っても大丈夫ですね」
「もちろん。みんな早く来ないかって楽しみにしてるわ」
「結構即戦力になると思いますよ。任せてください!」
そう、コンちゃんは自分のパーティメンバーと共に石音縁のクランに入ることになっていた。
「先輩のクランは、何代後輩まで面倒を見るつもりですか?」
「命子ちゃんの代までってみんなで決めたよ。紫蓮ちゃんの代からは、風女の生徒でも普通に面接したり、スカウトしに行ったりして、実力者を入れるような感じになると思うわ」
「まあそうですよね」
「でも、このままいけば風女は女性冒険者の名門校になると思うから、優先的にスカウトするようになるんじゃないかな?」
「私の責任は重大ですね」
「ふっ。私たちがノリで作ったのに、大きくなったものだわ」
縁先輩がしみじみとそう言い、命子とコンちゃんは苦笑いした。
世間から神聖化されている風女の修行部だが、創立から知っている2人はその実態を正確に理解していた。修行部は『みんなで魔法が使えて自衛できるようになろうぜ!』という、女子高生のノリで作られたものなのだ。
それが風見町防衛戦で活躍して世間から褒められたからこそ、今がある。褒められなかったら、たぶん、女子高生たちはここまで頑張っていなかっただろう。褒められるというのは重要なのだ。
「みんなでダンジョンに入った頃が懐かしいですね。縁先輩たちが私の魔導書で魔法を放ってキャッキャして。そういえば、あの晩に縁先輩が大学にいくかどうかを語り合いましたっけ」
「懐かしくて泣きそうになるからやめて。ほらー、コンちゃんが涙目になってる!」
「だって、懐かしくて……」
コンちゃんは命子がキャリーしたダンジョン探索にはいなかった。しかし、縁先輩が次にダンジョンへ入った時のメンバーがコンちゃんで、それ以降にコンちゃんは縁先輩に引っ付いて歩くようになった。
「大丈夫大丈夫! 高校を卒業してからも十分に楽しいから!」
「はい!」
そんなことを話していると、ふいにスピーカーの音。
先ほどコンちゃんたちが挨拶したステージに新生徒会長の子が立って、言う。
『みなさん、これからカラオケ大会を行ないます。我こそはという人はどうぞ、ステージまで上がってきてください』
見れば、ステージにはカラオケセットが用意されていた。
「はぁ、やれやれ」
命子は腕まくりしたが、縁部長とコンちゃんが慌てて止めた。
「待って。命子ちゃんの歌は普通よ」
「命子ちゃんはなんでそんなに自信満々なのさ」
「ふー、あぶねえ。止めてくれなかったら大変な事態になるところだったぜ」
すると、歌うま女子の2人がステージに上がり、歌い始めた。これには女子たちもさっそく大盛り上がり。
風女の女子は配信活動もしているので、その際に歌配信をする子もいた。この歌声をより良くするために、中にはダンジョンジョブの恩恵を受けて練習する子も多かった。
一度誰かが歌えば早いもので、入れ代わり立ち代わりに女子たちが歌っていく。
「あっ、ささらちゃんだ」
「な、なんてことを! しかも、卒業ソング……っ!」
しばらくすると、1人の卒業生がささらとデュエットで歌い始めた。それを見た命子は、これは不味いと思った。
案の定、ささらは途中から泣いてしまい、同じく涙ぐむ先輩に肩を抱かれながら、唇を震わせながら歌った。これには、もらい泣き被害者がそこら中に現れた。
ささら・先輩ペアが終わり、新生徒会長が再びステージに上がった。
『えー、卒業ソングは悲しくなっちゃうからなしでお願いします!』
ドクターストップが入った。
「やれやれ、じゃあ命子ちゃん、行くか!」
「真打登場ですか。コンちゃん部長、行きますよ」
「どぉれ、本物ってヤツを見せてあげましょうかね」
新旧部長3人が、しんみりした空気をぶった切る!
選曲はノリノリのアニソン。時代の最先端を走り抜けた3人の女子の歌声は……普通っ! 決して下手ではないのだ。配信で歌えば、結構ウケるくらいには上手い。だが、時代の麒麟児に期待してしまった人たちには申し訳ないが、普通なのである!
しかし、歴代部長のノリノリな歌唱はバカ受けで、しんみりしていた会場は笑いに溢れた。特に、会場に背中を向けてから3人揃って魔眼を発動しながら振り返った時には、大歓声が巻き起こった。魔眼は宴会芸になるのである!
これが修行部部長。
時にはカッコ良く、しかし、時にはピエロになることも厭わない。
すっかり会場を盛り上げて歌い終わると、縁先輩がそのままマイクを持って、言った。
「みんな、卒業おめでとう! 今日は私たちを招待してくれてありがとうね!」
その求心力は未だ健在で、歓声が上がる。
「今は切なくて悲しいと思うけど、高校を卒業してからも楽しいことはたくさんあるわ。だから、安心して、泣いて、笑って、食べて、騒いで、今日まで育んだものを信じて、明日を迎えよう!」
そんな言葉を贈られて、卒業生たちはジーンとした。
命子は自分が何かを言うのも蛇足だと思い、特にパフォーマンスは行なわずに縁先輩やコンちゃんと一緒に席に戻った。
それから、カラオケ大好きなアネゴ先生が歌唱力を全世界に見せつけたり、ルルとメリスがキスミアの歌をニャーニャーと歌ったり、滝沢先生が昔のロボアニメの挿入歌を熱唱したり。
こうして、卒業生たちは、美味しい物と明るい歌声に彩られたパーティを、最高の仲間たちと共に楽しむのだった。
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