14-26 清水寺
新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
学生にとって毎度おなじみツアーバスに乗り、いざ京都市内へ。
「ふぉおおおお、なんじゃこれぇ」
いつもの窓際を陣取った命子は、窓縁にちょこんと手を添えてバスの外をキラキラした瞳で見つめた。
京都の町には、和服の人が大変に増えていたのだ。
和服を着る人が多くなったのは全国的に言えるのだが、元から和装が身近にあったからか京都は比が違う。
道場着や木綿着物は当たり前、ささらの戦闘服のような海老茶式部スタイルの女性や渋い色合いの着物を着た男性、ギャルやメンズファッションの上に和柄の華やかなロングコートを着た若者、やべえ黒馬で城門をぶち破る傾奇者が着ていそうな陣羽織スタイル——
これらをダンジョンに用事がなさそうな人々が着て、往来を歩いている。
「こんなんもう異国じゃん」
「いや、お前らのせいだろ」
隣に座るヒナタが椅子に膝立ちになり、命子の頭の上から外を見て言った。
「いやいや。私が持ってる和服とかダンジョン装備で5着くらいよ?」
「結構持ってんな……」
ダンジョン素材を現金化する必要があまりない命子は、妖精店でお出かけ用に素敵なダンジョン装備を集めていた。
「お前らはさ、目立ちすぎたんだよ」
「それ、これから潰される人が言われるやつじゃん」
「お前らの装備は世界中でダンジョン装備の原点みたいな立ち位置になってるからな。元から着物を着ている人が多い京都なら、より色が濃くなっても不思議じゃない」
「それじゃあ私がこの町で羊さんパーカーなんて着ようものなら……」
「連行されるな」
「なんて町に来てしまったんだ……」
命子はわなわなした。
「シャーラの真似してる子がいっぱいいるデス!」
「いえ、別にわたくしの真似というわけでは……」
ささらの袴スタイルは大変に人気。ダンジョン装備はもちろんのこと、老舗呉服店で手に入れた素敵な色の物まである。そして、履物はブーツ。
大正時代の女学生がしていた格好なので、自分が始めたスタイルというわけではないため、ささらは申し訳なく思いながら恥ずかしがった。ルルの無邪気さと世間の認識との板挟み。
「ニャーコ! ニンジャがそこら中にいるでゴザル!」
「マジじゃん!」
ニンジャファッションも多い。
シュッと細身の服に地味な色合いの羽織、そして、マフラー。足はゲートルのように機動性と保護性を持っている。まあ、ダンジョンに向かいそうな道具は持ってないのだが。
「拙者もあの長いお着物がほしいでゴザル」
「あれなんだろうね? 浴衣の前を開けているだけなのかな?」
ルルたちみたいなくのいちファッションもいるが、必ず、着物のようなカーディガンのような素敵なロングの上着を羽織っていた。ロングサイズなので露出は低めと思いきや、中身がミニスカートなので、逆に肌色が目を引く。
京都人のファッションを楽しむ女子高生たちを乗せてバスは市内を進み、清水寺へ。
「ちょっと、メリス。なんでキリリってしてんの?」
バスから降りたメリスの様子がおかしいことに気づいた命子が、念のために尋ねた。
「なに言ってるでゴザル、メーコ。キョーミズ寺でゴザルよ。舞台から飛び降りて的に着地すると3つの願いが叶う場所でゴザル」
「いやいや、音羽の滝と謎のなんかが混ざってない!? たしかに清水の舞台から飛び降りるって言うけど、それをやるとお巡りさんがすっ飛んでくるからダメだよ」
「にゃんと! ……えっ、本当でゴザル? 拙者、NINJAでゴザルよ?」
「知らんがな。とにかくダメだからね。そういうことすると、学校ごと出禁になっちゃうんだよ」
「にゃんてこった……」
事件を事前に防ぎ、命子たちは清水寺へ。
「ここ来たなー」
「私もー」
みんな神奈川住みなので、中学の頃の修学旅行は大体が京都辺り。
とはいえ、一緒に来る人が違えば旅行なんてものは見える景色も違う。なによりも、旧時代と新時代では観光客の雰囲気が違った。
「やっぱり外国の人が少ないね」
「飛行機が飛ばなくなっちゃったからな」
人間ウォッチングを始めた命子とヒナタが言うように、最近は飛行機が飛ばなくなったので外国人が少ない。その代わりに、ダンジョン遠征者がついでに観光しているというパターンが多かった。
観光業に若干のダメージを受けると事前に予想していた京都は、ダンジョン街を作り、日本伝統の和グッズを新時代のあれこれとして運用できないかと研究して備えた。この辺りの京都のバランス感覚はさすがと言うべきだろう。
さて、そんな観光者たちだが、すっかり京都グッズに染まっていた。女性は例の着物風カーディガンで着飾ってシャランと歩き、男性は京都の工房で作られた和柄のロングコートや素敵マフラーを巻いている。地元に帰っても着るかは不明。
「やっぱり京都グッズは欲しいなー」
「あたしも買うー」
女子高生は観光よりもファッションだった。自分のダンジョンコーデに取り入れたい。一方で、観光客の方も命子たちに興味津々。風女はどこに行っても目立った。女子高生を覗く時、女子高生もまた見ているのだ。そんな状態。
「おーっ、晴れているから良い景色だね」
「はい。まだ紅葉が残っていますからとても綺麗ですわ」
清水の舞台に立ち、柵から景色を眺める。
京都は建物の高さにとても気を使っているだけあって、街並みが一望できた。
「なーんだ、大した高さじゃないデスな」
「ニャウ。これなら余裕でゴザル」
「ダメだからね!」
一方のネコ共は舞台の下が気になる様子。
「メーコはイケるデス?」
「魔導書があれば飛空艇から落ちても助かる女やぞ。魔導書がなかったら痛いからヤダ」
死ぬとは考えないのが新時代クオリティ。
「ルナ、撮るよー!」
『っ!』
ナナコは柵の上に座った精霊のルナを激写。
観光スポットで人形を撮影する作家もいるが、ナナコも似たようなもの。ダンジョン遠征で行った名所で撮影し、プイッターに投稿していた。これがなかなか好評なのだ。
「アネゴ先生、一緒に撮るでゴザル!」
「ああ、いいぞ」
アネゴ先生がメリスに誘われ、両隣からネココンビに腕を絡まされ、さらに頭の上にミウを乗せて撮影。ボディタッチ具合が最高に女子高しているが、被写体はファンタジーの極み。その中央に立つアネゴ先生はギャルゲーの主人公みたいになっている。
「ささら。いま、国宝の仏像が見られるらしいよ」
「まあっ、前に来た時は見られなかったものですわ!」
「ブツゾーンデス!」
「さては手がたくさんあるヤツでゴザルな」
33年に一度見られるという清水寺の秘仏が、その33年目ではないのに特別解放されていた。理由が書かれており、混迷する世の中を見守ってもらうために御開帳したらしい。
いまはやべえ世の中だけど例外は無理っす、というよりも好感が持てるな、と命子は思った。時代が変わり混沌とした今だからこそ神仏への祈りは必要なのだから。
こういった特別公開は多くの神社仏閣で実施されており、命子が買っている冒険者雑誌にも『ダンジョン遠征のあとはここ!』みたいなコーナーで取り上げられていた。
「「「おーっ!」」」
薄暗い本堂の中でろうそくの光に照らされて十一面千手観音立像が輝いていた。
命子はどちらかというと地球さん信仰者だが、そこは日本人。拝めるものはなんでも拝む。
命子の祈願は『これからもよく努力できますように』と、努力を応援してもらうもの。
参拝ルートに流されて本尊の前から移動すると、なにやらルルが難しい顔。
「どうしたルル」
「千本なかったデス」
「いや、あれは格納式だから。本気を出すと千本どころか無限に出てくるんだよ」
「にゃんと! 俺の考えた最強のブツゾーンデース……」
そんなことを話しながら音羽の滝へ。
3本の筧から水が流れており、それぞれに異なるご利益があり、欲張らずに1つを飲むのがベター。
「2本飲むとご利益は2分の1、3本飲むと3分の1。十分なのでは?」
「またヒナタちゃんが天邪鬼なこと言ってるよ。こういうのはエンターテイメントなの」
命子は延命長寿でいいかなと思ったが、チラッとささらを見ると恋愛成就を飲みたそう。
「うーん、延命長寿と学業成就は自分の力でなんとかなりそうだから、ここは女の子らしく恋愛成就にしておこうかな」
「ま、まあ! さすが命子さんですわ。それではわたくしもそうしますわね」
命子の術中に嵌り、ささらも恋愛成就のお水をゴクゴクと飲んだ。
やはり女子校なので、恋愛成就を飲む子はとても多い。
そんなふうに清水寺を観光していると、命子が唐突にコロンと転がって構えた。
「おい羊谷。お前、変人に磨きがかかってない?」
「違わい! 殺気が飛んできたの!」
ドン引きするヒナタに、命子は警戒を続けながら怒った。
そんな命子は遠くに見たことのある制服を着た集団がおり、その中にこちらへ目を向けている大和撫子然とした女の子がいることに気づいた。
「金剛部長だ」
それは合同体育祭で競った聖姫森女学園の姫武者部部長・金剛だった。
「めっちゃ京都が似合う人だな」
「ニャウ。正座してお茶出してきそうデス」
「なんかあの女、ゲームなら最終的にラスボスになりそうな感じだよな」
ヒナタが言った。
「たしかに、地上の穢れを浄化いたしますとか言いながら刀とファンネルで戦いそうではある。ただ、私の勘によると、あの人は俗物の可能性が高い」
「同族は匂いでわかるってことか」
そんなことを言いながら命子たちは金剛に近寄って、挨拶した。
「凄い偶然ですね、金剛部長」
「はい、ごきげんよう。羊谷さん、みなさん」
「殺気のピンポイント飛ばしを体得したみたいですね」
「ふふふっ、そうなんですよ。ごめんなさいね、突然。羊谷さんを見つけて嬉しくなってしまったんです」
「まあ周りに危険もありませんし。それよりも金剛部長なぜここに? 見たところ学校行事みたいですけど」
「我が校は昨年修学旅行がありませんでしたから、3年生は2年生と一緒に本日からなんですよ」
「へえ、受験なのにですか? ウチの3年生は春に行ってましたよ」
「はい、ですから3年生は任意ですね。とはいえ、あまり受験を心配している生徒もいませんが。それよりも思い出のために参加している子がほとんどです」
「激動の2年でしたからね」
「はい。みんな素敵な思い出ができたようで、卒業を惜しんでいるのでしょうね」
お嬢様高校の生徒とはいえ、人間であり少女である。
金剛の視線を追って命子も見てみれば、聖姫森の生徒たちが友達と楽しそうに清水寺を観光し始めていた。尤も、風女とはお淑やかさレベルが全然違うが。キャーキャー言わず、精々ささらが騒ぐくらいの声量。
「コンゴー殿はダンジョン街に行くデス?」
「はい。2日目に自由行動がありますので、行くつもりです。流さんもですか?」
「ニャウ! そんでああいうカッコイイお着物を買うデス!」
「流さんが羽織ったらさぞかし華やかでしょうね。とても素敵かと思います」
「にゃふぅー! みんな聞いたデス!? 似合うって!」
「良かったですわね、ルルさん」
「さて、それでは私たちも秘仏を参拝に行かせていただきます。次に拝めるのはいつになるかわかりませんから」
「はい。それじゃあまた」
偶然の出会いを交わし、命子たちの学校は観光を続ける。
それは修学旅行の定番ルートではあったが、どこも多かれ少なかれ新時代の影響を受けているようで命子たちは楽しむことができた。
「ふいー、楽しかった」
旅館に着き、部屋に入るなり命子は畳の上にゴロンとした。
部屋割りはグループごとで、命子たちは6人部屋。
「お菓子が置いてあるでゴザル!」
「ヒナタ、なんデスこれ?」
「あーん? へえ、ウェルカム八つ橋じゃん」
「ウェルカム八つ橋とな!?」
そんな面白い物があるとわかれば、グデッとしている暇などない。命子はテーブルの下までゴロゴロと横に転がり、ささらのお尻にぶつかりパイーンとした。
命子はさっそくテーブルに並んでいた八つ橋の包みを破き、食べてみる。
「うまーっ!」
「たまに食べると美味いな」
「キスミアのお婆ちゃんが作る薬の味がするでゴザル」
「ニッキの味じゃない?」
「どいうこと? 思い出の味でゴザル?」
「逆にどいうこと?」
「いまメーコがニッキの味だって言ったでゴザル」
「そいうこと? ニッキっていうのはねぇ……ささら!」
ニッキがなんであるかわからない命子は、変な食い違いが起こってクスクスと笑っているささらに、パスを飛ばした。
「ニッキというのは、日本のシナモンみたいなものですわ。八つ橋によく使われるんですのよ」
「はえー、ニッキ。拙者はまたメーコが適当なことを言ってるのかと思ったでゴザル」
「命子ちゃんはいつだって真剣なことしか言わんがな。うまーっ!」
「メーコ! 一人2つまででゴザルぞ!」
などとやっていると、部屋の端でナナコが下着姿になっていた。
「おいおいおい、ナナコちゃん、いきなり脱いでどした!?」
「痴女を見たみたいに驚かないでよ。浴衣が用意されてるんだって」
「にゃーっ、拙者も着るでゴザル!」
「ワタシもワタシもー!」
というわけで、みんなで浴衣に着替えた。
「で、でけぇ……」
「みんなで写真を撮って投稿しようかと思ったけど、これはやめた方が良いかな」
そして、ささらの浴衣姿を見て、ヒナタとナナコがビビった。
そんなささらはせっせとルルとメリスの着付けを手伝ってあげている。
「うーん、ホテルに着くとダンジョン遠征とか妖精店と変わらんな」
「まあ、友達と泊まりならどこだってあんまり変わらないんじゃない?」
命子の感想に、ナナコが言う。
「それもそうか」
こうして、命子たちの修学旅行の1日目は終わった。
大変遅くなって申し訳ありません!
あと、新年特別版が思いつきませんでした……っ!
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。
また、別投稿している作品の『ミニャのオモチャ箱』のあとがきで、体調不良とお知らせしましたが、別状ありませんでした! ご心配いただきありがとうございました。
先んじてこちらで報告させていただきます。




