14-22 とあるお嬢様学校の振替休日
遅くなってしまって申し訳ありません。
本日もよろしくお願いします。
合同体育祭が終わった翌日は振替休日。
学生たちにとっては遊びのようなものだったので、2倍お得!
ここは聖姫森女学院第二グラウンド。
都心部にある本校舎から車で40分ほど離れたその場所に、武道場や部室棟も併設されている。夏休みが終わってから完成した聖姫森専用の運動場である。
せっかくの振替休日だというに、本日は朝からグラウンドと武道場は女子の頑張る声で賑わっていた。
聖姫森は吹奏楽や茶道花道など文化系は盛んだが、スポーツで有名な女子高などではなかった。大和撫子の嗜みとして護身術やテニスを個人で習っていた生徒こそある程度はいたが、そのくらいなものだ。それなのに1年半でどうしてこうなった。
その理由は彼女たちが真面目だからである。
高校半ばでヤンキーになる子はいないし、家に帰ってゴロゴロしながら夕飯前にポテチをバリバリ食べることもない。己を律し、自他が定めた課題をこなし、現代っ子っぽいことはご褒美タイムに30分くらい嗜む程度。香川県民も裸足で逃げ出す生活だ。
己をコントロールできる真面目っ子がファンタジーと出会い、世界が修行推しに傾いたことで、メキメキと頭角を現し始めたのが聖姫森女学院の生徒たちだった。
……親の敷いたレールから外れ、己を高める快感と刺激的なファンタジーの味を覚えてしまったというのは内緒である。
特に仲間だけでダンジョン遠征に行く時なんかは最高だ。今年の夏休みは別荘を利用しつつ、地方のダンジョンの攻略なんてしちゃったりして。箱入り娘の反逆である。
これは聖姫森に限らず、お嬢様学校の生徒は似たような変遷を辿っている。箱入り娘ゆえに悪い男にコロッと転がされてしまうかのように、箱入り娘ゆえに刺激的なファンタジーにコロコロさせられてしまったのだ。
さて、そんな聖姫森の修行部、姫武者部の部長・金剛さんは、グラウンドの一画の桜の木の下で正座となり、静かに目を閉じていた。
聖姫森は総合順位こそ5位だったが、金剛さん個人の強さは現役高校生トップレベルで、聖姫森最強のサムライガールである。当然、マナ進化も終わっており、袴と姫カットが大変に似合う正統派武者系美少女。
そんな素敵女子なので、みんなチラチラと気になっていた。
何をしていても絵になる人物だが、葉の色も変わり始めた桜の木の下で先ほどから1時間くらい座っているのは奇妙な光景だった。
「さすが、凄い集中力ですわね」
「先輩? 金剛部長は何をなさっておいでなのでしょう?」
「昨日の反省ですわ」
「そんな……金剛部長はあんなに凄かったのに。足を引っ張ってしまったのは私たちです」
「たしかに私たちは足を引っ張りましたわ。ですが、あの子は己にとても厳しいのです。他の高校の方々を見て、自分の至らなかった部分を反省しているのですわ」
「……っっっ!」
訳知り顔の3年生の言葉に、1年生の女子は衝撃を受けた。
同じ高校生なのに、姫武者部部長ともなるとこれほど高潔なのかと。
そんなふうに思われているとは知らず、金剛さんは木の枝から糸で吊るされている5円玉の前で目を閉じていた。
風に5円玉が揺れ、右、正面、左、正面、右と瞼の向こうでその気配を感じ取る。
そして、自分の正面に来た瞬間にギンッと目を開け、カタナで刺突を繰り出す己の魂をイメージして殺気を放出。そうして、また静かに目を閉じる。
目を開けるのも殺気を飛ばすのもほんの一瞬。だから、他の生徒たちからはずっと瞑想しているように見えていた。
そう、金剛さんは昨日の反省なんてこれっぽっちもしていなかった。
命子が使った殺気飛ばしが超絶カッコ良かったので、自分も習得したいと頑張っているだけなのだ。
これは、大会終了後の昨晩からさっそくおウチで始めており、いまは現在のスタイルに落ち着いている。
そんな金剛さんに姫武者部広報担当のスタッフさんが近寄った。金持ち学校なので広報などは普通に人を雇って行なっているのだ。その代わりに、スタッフは全員女性。
「金剛様。天狼戦士団の方々がお見えになられました」
「わかりました。すぐに参ります」
金剛さんが立ち上がるのを背後で待っているスタッフさんは、その時、見た。
金剛さんの前で風に小さく揺れる5円玉が、次の瞬間、不自然に跳ねたのだ。
「……っ!」
ゴクリと喉を鳴らしたスタッフさんは、いったい何をしたのかわからなかった。しかし、気づけば腕に鳥肌が立っていた。
こ、これが強者系お嬢様……っ! マンガやアニメの設定でたまにある、なんか学校よりも権力を持っている生徒会的な何かの頂点!
しかして、その実態は命子と波長が合う隠れ俗物である。
「ふぅ、まだまだのようですね」
金剛さんはそう言って、立ち上がる。
スタッフさんが何かに気づいてしまったのなら、この技は失敗なのだ。
かの羊谷命子は周りに気づかれることなく、ピンポイントで殺気を刺してきた。あれが一つの目標点。その領域に至ったら、とりあえず仲良しな副部長あたりに使ってドヤり、1年生に使って強者ぶるつもりだ。
金剛さんは腕を振るい、枝に結ばれた糸を根元から切って5円玉を回収した。その所作からはすでに強者感がムンムンだ。スタッフさんなどその雰囲気に当てられて、はわはわである。
金剛さんは回収した5円玉を大切に仕舞う。お金を大切にする子だが、それが理由ではない。お金持ちでキャッシュレスな金剛さんにとって、5円玉はむしろレアなのである。
本日の金剛さんは、姫武者部公式チャンネルでコラボ生配信を予定していた。
姫武者部のコラボは例外を除き、鹿威しがカコンとする風景から始まる。和である。外国人視聴者はこの謎の装置が一体何なのかいつも疑問に思っている。日本人だって知らん。
:始まった!
:カッコン来た!
:カッコン!
:めっちゃ和むのにワクワクする不思議な光景。
:あの装置がなんなのか未だによくわからん(英語)。
:あの鹿威しは何を驚かしているだろうか……。
そこから画面は野点の風景へ。
赤い毛氈の上で袴姿の金剛さんが正座をして、カメラに向かってご挨拶。
「皆様、姫武者部公式チャンネルにようこそお越しくださいました。本日、お客様をご案内させていただくのは姫武者部部長の金剛となります。どうぞ本日も楽しんでいってください」
美しく礼をする金剛さんの姿に、視聴者の背筋もピンとするというもの。
なお、公式チャンネルの案内人は日によって変わる。
:金剛様!
:美しすぎる。
:お茶用意した。
:お茶準備完了です。
:お茶点てました。
自前でお茶を用意して雰囲気を味わう視聴者さんがうじゃうじゃと現れ、一体感溢れる配信へ。
「さて、本日お招きさせていただいたのは、新時代を駆ける雄、天狼戦士団の剣崎様と赤井様です」
乙女の園に招待されたのは、まさかの男!
夢見がちな男性視聴者はぐぬぬ。一部のファンは相手がスーパーお嬢様だって夢を見られるのだ。新時代は鍛えれば高みへ行けるので、ぐぬぬしているのなら、頑張ってこの場にお呼ばれされるくらいになってもらいたいものである。
「天狼戦士団をまとめる剣崎です。本日はご招待ありがとうございます」
「赤井です。視聴者さんには赤い槍の方が馴染みがあるかな? 今日はとても楽しみにしていました。よろしくお願いします」
「剣崎様、赤井様。ようこそお越しくださいました。本日はご指導のほどよろしくお願いいたします」
姫武者部はかなり有名なので、生半可な相手とコラボすることはない。本日のコラボ相手である天狼戦士団も、この大冒険者時代の黎明期で名を馳せる有名なクランであった。
リーダーはクール系眼鏡男子の剣崎。マナ進化したことで視力は良くなっているのだが、女性ファンが悲しむので伊達眼鏡をかけている。顎クイをされながら軽めに罵られたい層の女性に人気がある。
切り込み隊長はネットで非常に有名な赤い槍。普段は昼行燈のようにやる気がない顔をしているが、やる気を出すとワイルドな色気を纏う男だ。少女漫画が好きで壁ドンに憧れを持つ層の女子に高い人気がある。
総評すると一部の男性ファンが発狂しそうなコラボ相手だ。
尤も、姫武者部は実力者なら男も女も関係なくコラボするので、ファンの精神は鍛えられていた。たぶん。
挨拶が終わり、姫武者部の接待が始まった。
画面外で点てられたお茶とお菓子が出されたのだ。金剛が点てると茶道を知らないコラボ相手に恥をかかせてしまう恐れがあるため、画面外で点てられて可能な限りラフな接待になっている。
:剣崎、そこ代われ!
:俺の方が絶対に美味しく飲めるのに!
:おのれぇ赤い槍ぃ! やる気がないなら代われ!
:こいつらは前世でどんだけの徳を積んだんだ?
:はい、いまの作法は間違えてますぅ! 出直してこいや!
精神はちゃんと鍛えられているはず、たぶん……っ!
「んっ、これは美味しい!」
赤い槍が美味しそうにお茶を飲み、あまり茶道では言われない快活な感想に、お茶を点てた茶道部員さんは頬を染めてにっこり。箱入り娘にワイルド気味な人物を引き合わせてはいけない例である。視聴者はぐぬぬ。
「あの、おかわりはいかがですか?」
「ぜひいただきます」
赤い槍は堂々とそんなことを言う。茶道部員さんも嬉しそうに微笑んで、おかわりを点て始める。視聴者はぐぬぬ。
「自由なヤツですみません」
「いいえ、美味しそうに頂いてもらえて、みんなとても喜んでいます」
そんなふうに和やかにコラボは始まり、話題は昨日と一昨日の合同体育祭へ。
「金剛さん、合同体育祭はお疲れさまでした。私もクランメンバーと一緒に夢中で視聴させていただきました」
「ありがとうございます。総合点では最下位になってしまいましたが、とても得るものが多い体育祭でした」
「総合点の順位はあってないようなものでしょう。見たところ、順位を度外視したエントリーをしているように見えました」
「お恥ずかしい話ですが、我が校のエースたちは全員が世界最高峰と勝負をしてみたかったようです。とはいえ、それは他の高校も同じだったようですので、結局は地力が一歩劣っていたのでしょう」
話すのは専ら社交的な剣崎で、赤い槍はお茶とお菓子をモグモグしながら頷いている。
:順位は残念だったね。でもめっちゃ頑張ってたよ!
:本気で感動した! ありがとう!
:元気出して。
:ていうか、赤い槍食いすぎじゃね?
:お前も話せや。
:赤い槍の存在意義。
:こういうヤツが変にモテるんだよな。
各人の傍らにはコメント閲覧用のタブレットがあった。それを読んだわけではないのだが、ここで赤い槍が発言した。
「彼女たちに挑みたいというその気持ちはわかりますよ。俺もこの前の大小龍姫祭で笹笠ささらさんに勝負を挑みましたから」
「あ、その動画は拝見しました。笹笠さんはどうでしたか?」
赤い槍は「見られてましたか」と頭をかいて苦笑いすると、続けた。
大小龍姫祭は風女の広報部隊がそこら中で活動していたので、ささらと赤い槍の力試しも配信されていた。
「届きませんでしたね。笹笠さんも頑張っているので、当然と言えば当然ですが。この差を埋めるには、やはり死闘や何らかのイベントを達成する必要があるでしょうね。彼女はこの前、目隠しで魔鼠雪原を踏破したそうですし」
「心眼ですね。私もあのアイテムを手に入れたいと考えているのですが、どうにも反対されがちでして」
「まあ親御さんや学校としては反対でしょう。金剛さんは女子高生としては、もう十分すぎる練度に到達しています。ファンタジー2年生の人類にとって上澄みですよ。だから、心眼をつけてまで修行をする意味はなかなか理解されないでしょう」
「はい、これ以上鍛えるのは、私のわがままと言えるでしょう。ですが、マナ進化したお二方ならこの気持ちがわかるのではないですか?」
「ははっ、そうですね。よくわかります。青臭い話ですが、俺たちくらいの歳になって、未来の自分にワクワクできるとは思ってもみませんでした」
:やっぱりマナ進化をすると至高の美酒なのか……。
:マナ進化した人って絶対に立ち止まらないからな。
:ストイックすぎて眩しい。
:俺もあとちょっとだと思うんだよな。楽しみ。
「時に、赤井様。いまからひと勝負いかがですか?」
ささらとの勝負の話になったからか、金剛さんがそう申し出た。接待の席なのに自由過ぎる。だが、それが良いとばかりに赤い槍はニヤリと笑う。
「女子高生のトップ層の実力はずっと気になっていました。やりましょう」
:え、勝負するの!?
:大丈夫なの!?
:やめた方が良いよ!
:ちょ、剣崎止めて!
姫武者部公式のコラボは視聴者参加型の勉強会みたいなものだ。だから、いつも武術指南や武術の披露が行なわれる。コラボ相手と勝負をするのは初めてのことで、視聴者は大慌て。
視聴者のコメントをスルーして、2人は野点の席から立ち上がり、背景にある芝生へ。
剣崎はやれやれと体の向きを変えて観戦の構えをし、茶道部員や撮影を見学する女子高生たちはあわあわだ。
金剛さんは模造刀を腰に差し、赤い槍は武術指南用の木製の槍。
槍を持った赤い槍は野点に座っていた時とは雰囲気が変わり、不敵なワイルド系男子に変貌した。それを見た女子高生やスタッフさんははわーと顔を赤くする。
そして、そんな女子の様子に天狼戦士団のマネージャーをしている穂崎さんはハラハラだ。穂崎さんは赤い槍を追いかけて会社を辞めた女子である。御令嬢に見初められて縁談とか来ちゃったらどうしようと。
「笹笠さんとやった時と同じ感じでいいですね? スキルは無しの想定で」
「はい。それでお願いします」
視聴者の心配とは裏腹に、勝負の方法はイメージバトルである。それはそう。
金剛さんは唇を薄く開いて深呼吸しながら、抜刀の構え。
対する赤い槍は中段突きの構えを取った。
金剛さんの目が刃のように鋭く細まり、その奥で瞳がギラリと光る。昨今の修羅系女子に見られる男子がヒュンとする眼光である。
赤い槍は楽しそうに口角を上げ、唇の奥で歯列をギラつかせる。
2人を中心に芝生が円形に倒れ、見学の女子たちはゴクリと息を呑み、野点の上に座る剣崎は暢気にお茶を飲んだ。
しばらく睨み合っていたかと思うと、両者は同時に背後へと跳んだ。
金剛さんも赤い槍も額に汗をかき、近づく。
「もう一度お願いします」
「喜んで」
「今度は時折構えを変えるのはどうでしょうか?」
「わかりました。打ち込みはもちろんナシで」
「はい」
金剛さんの申し出を受けた赤い槍。
時折ゆるりと構えを変える2人の額から、汗が芝生に何度も落ちる。
:な、何が起こってるのかわからないけど赤い槍はもげろ!
:これささらちゃんとやってたヤツだ! 赤い槍はもげろ!
:俺の金剛さんと通じ合ってるとか許せん! もげろ!
:どっちが勝ってるかわからないけど赤い槍はもげろ!
:赤い槍が優勢か? もげろ!
:金剛ちゃん頑張れぇ! 赤い槍はもげろ!
達人同士の遊びを見る視聴者は置いてけぼり状態。ひとつ言えるのは、赤い槍にはもげてほしい。それは男性視聴者の総意である。
「……っ!」
「せ、先輩!?」
見学者の3年生が膝をついた。
「見ているこっちの寿命が縮みますわ……」
「そ、そんな凄いやりとりが……っ!?」
そんな感想を言われた1年生のリスペクトは急上昇! こ、これが3年生……っ!
イメージバトルの中で集中力が極限まで高まった金剛さんは、ふわりと背後へと跳んだ。着地した時には抜刀しており、刺突の構えへ。
ゆらりと幻影の5円玉が揺れる。
5円玉の穴が赤い槍の喉と重なった瞬間、金剛さんから鋭い殺気が放たれた。
「うっ!」
これに驚いた赤い槍は高速で体を捻って回避する。赤い槍は首筋を冷たい物が掠ったような気配を感じた。
「やめっ!」
剣崎から放たれた停止の言葉に、2人は残心してからゆっくりと構えを解いた。
いまのやり取りから見るに、勝者は金剛さんか?
否。構えを解いて片膝をついたのは金剛さんだった。
「お見それしました」
「ふぅ。いや、俺の方こそいい勉強をさせてもらいました」
画面外で軽く汗を拭き、再び野点へ。
「全体的に驚くべき練度でしたが、特に最後の一撃は素晴らしかったです。イメージで戦っていたのに、思わず本気で避けてしまいました」
「完成には程遠い技なのですが、意図したように発動して良かったです」
:2人共すげぇ……。
:金剛様でも勝てないって赤い槍ヤバいな。もげろ。
:そんなに強いのにまだ新しい技を開発しているのか……。
:最後は何が起こったの?
:ていうか、本当に同じイメージで戦ってるの?
ふとタブレットに流れたコメントが目に入った剣崎が、提案した。
「視聴者さんに同じイメージで戦っているのかと問われていますね。最後の一撃がどこに向けられたのか、同時に答えてみてはどうですか?」
「それでしたら書く物を用意してありますので、そちらを使って回答しましょう」
金剛さんが視線を向けると、2枚の色紙とペンが2人に渡された。バラエティ番組のように、視聴者さんの質問に答えてもらうために準備されているものである。
2人の回答が書き終わり、同時にドン。2枚のボードには、『喉』と書かれていた。金剛さんの文字はやたらと達筆で、赤い槍は若干右上がり気味の癖がある文字。
:喉を狙うなwww
:赤い槍はさすがにキレていいwww
:これは全力回避不可避www
:お客様の喉を狙う系お嬢様(武)www
:もげろって言ってごめんな。だけどもげろ。
視聴者は驚いて草を生やしまくっているが、2人にとって答えの一致は当然の様子。
「それではこちらの色紙は視聴者の皆様へのプレゼントとさせていただきます。赤井様がお書きになられた方は、このあとでお二人のサインを頂いて姫武者部に飾らせていただきたいのですがよろしいですか?」
「はははっ、なんか恥ずかしいなぁ。まあ構いませんよ」
:見るたびにヒュンとしそうwww
:喉!
:めっちゃほしい!
:字が芸術レベルなのに書かれた理由が物騒すぎるwww
:1枚かぁ。コピーでも良いから複数当選にしてほしいな。
それからも和気藹々と話は弾む。
同じ冒険者だけあって、お嬢様女子高生と社会人男子だが話は合うし、話題も尽きない。
「それでは恒例の女子高生の武術質問コーナーです。これは我が校の生徒への武術のお悩みを解決するコーナーとなっております。それでは本日のお悩みはこちらです」
Q、短槍姫武者 1年生 レベル11
昨日行なわれた合同体育祭の模範演武で、三条が原の鬼槍ギャルピチームが使っていた空中蹴りからの空中攻撃の術理がわかりませんでした。ご指導のほどお願いします。
「とのことです。昨日の今日ですが、とても良い質問なので採用しました」
:あれかー。
:凄く華やかでカッコ良かった記憶。
:模擬演武は何度も見直した。
:おら、赤い槍。出番だぞ!
「あの模擬演武は全体的に学ぶ点が多かったですからね。ウチのクランメンバーも活発に意見を交わしていました」
そう言いながら、剣崎がうむうむと頷く。
「三条が原の上盛様に許可を頂いて映像を流すことができます。まずは視聴してみましょう」
視聴者さんが見ている画面に該当の模範演武の映像が流れる。
「石突で支えながら空中蹴り、そこから身を翻して地上に向けて突きですね。実際にこういった技は戦闘中に使うのでしょうか?」
金剛さんの質問に、赤い槍が答える。
「これをそのまま使う機会は滅多にないですが、似たような技を使う機会はよくあります。短槍と言っても大型ボスの前では短いですし、必然的にインファイト気味になるから蹴り技は重宝します。まあ実際にやりながら説明しましょうか」
槍を持って再びワイルドモードに入り、お嬢様方をドキドキさせながら赤い槍が説明する。
そんなふうに、コラボの勉強会は女子高生と視聴者を楽しませて過ぎていった。
エンディングが近づき、武術から離れて時間調整的なトークが始まった。
やはり切り出すのは社交的な剣崎。
「話は変わりますが、金剛さんは精霊さんの里親の応募をなさいましたか?」
「はい、もちろん応募しました。ウチの生徒もおそらく全員が応募しているかと思います」
金剛さんたちが視線を向けると、話を聞いている女子たちはコクコクと頷く。
「やはりですか。ウチのクランメンバーも全員が応募しています」
内容は精霊さんの里親応募についてだった。
視聴者さんの反応を見ると、自分もしたというコメントが並んでいる。
なぜこんな話題になったかといえば、当選発表が1週間後に迫っているからだ。現在のプイッターは女子高生合同体育祭で盛り上がっているが、1週間後には精霊さんの里親抽選の当否で悲喜交々の混沌が生まれるだろう。
「いやー、宝くじの一等ほどではないですが、それに近い確率になりそうですね」
「はい、そのようです。希少な子たちですから、良い方の下で過ごしてほしいですね」
「となると、俺のところか」
「お前と同じ顔の精霊さんとか嫌だわぁ」
「さすがに俺の顔にはしねえよ!」
そんな男同士のじゃれ合いを見て、お嬢様たちはクスクスと上品に笑う。
しかし、一部のお嬢様は、心の中にキュッとした異変を感じる者が。クール眼鏡男子と柔・暴二面性男子のじゃれ合い。素敵な殿方たちを見ているはずなのに、最適解が喉元まで出てきているようなこの奇妙な気持ちはなにかしら?
「ああ、もう良いお時間になってしまいました」
「もうそんなですか。楽しくてあっという間でした」
「こちらこそ貴重なお話とご指導をいただけて、とても楽しい時間でした」
「そう言っていただけると嬉しいです。それでは、挨拶は姫武者部のいつものでよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします。皆様、本日は天狼戦士団の剣崎様と赤井様にお越しいただきました。概要の方に天狼戦士団の公式チャンネルのURLがございますので、ぜひ登録の方をよろしくお願いします。またプレゼントの応募方法は追ってプイッターにて告知させていただきます。それでは本日も」
「「「おつひめでした~」」」
お嬢様(武)と社会人男性2人が声を揃えてご挨拶。
:おつひめでした~。
:おつひめ~。
:今日も楽しかった!
イヨ:おつひめなのじゃ~!
:おつひめでした~。
:おつひめでした~!
:おつひめ~!
:あれ!? イヨちゃんが見てる!
「はー、面白い配信だったのじゃー」
『なんなん!』
「ねー、面白かったね」
青空修行道場での修行の合間にちょっと閲覧するつもりだったのに、気づけば最初から最後まで見てしまったイヨとイザナミと命子である。
「イヨちゃんはコラボ配信とか見るの?」
「生配信は滅多に見ないのじゃ。切り抜きをよく見るのじゃ」
昨今の古代巫女は切り抜き動画を知っているのである。
「冒険者のコラボはみんな命子様たちの話題をちょいちょい出すのじゃ。凄いのう」
「へえ、私たちも偉くなったもんだな」
冒険者トークで盛り上がる鉄板ネタは、武術、自慢の武器、マナ進化、ダンジョン、妖精店などたくさんあるが、その中には命子たちについても入っていた。最終的に『よくわからん存在』みたいになって、配信者と視聴者の気持ちが一致するのが基本の流れだ。
「命子様、妾もコラボしたいのじゃ。イザナミもそう思うよな?」
『なん~……なん!』
「コラボか。誰としたいの?」
「わからぬのじゃ!」
「うーん、今週の土日はダンジョンだからなー。まあそんなにいきなり組む必要もないのか」
命子がうーむと考えていると、紫蓮がスイッと現れた。
「それなら、来週の精霊さん大抽選で里親になった有名冒険者とコラボしたら?」
「ほう、それは妾がいっぱい教えられて素敵なのじゃ。さすが紫蓮殿なのじゃ!」
「たしかに良いコラボになりそうだね。みんなも見てくれそうだし」
「ささらママに相談してみるのじゃ」
「オッケー」
来週には精霊さん大抽選会。
地球さんがレベルアップしてからというもの、世の中の人の心臓に休まる暇はなし!
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。